各々、動き始める ―迷い人は勧誘する―
今さらですが、誤字脱字ありましたらご連絡ください。
「なるほど、な。」
俺、球磨川四万十は雪風から黒金崩落巻き込まれ事故の話を聞き、理解した。
「高確率で生きてるな、黒金の奴」
「ほんとっ!!」
「へぇ。どういうことかしら、球磨川君?」
俺の言葉に高町は身を乗り出すように俺に近づき、雪風は冷静に、いや、高町が俺に近づいたせいか、すごく睨んできながら尋ねてきた。
俺は話を聞く限り、最も可能性がある推論を述べた。
「その太公望って名乗ったやつが言ったんだろ、『かのうなら任せた』って。
これを『可能なら任せた』と普通に考えた場合だが、任せることができる存在がいるから、発言できることになる。
可能なら、ってことで確率は低いが、助かっているかもしれない。
だが、あまりにも唐突な言葉過ぎる。
だから、この言葉をこう区切ったらどうなると思う?」
俺は生徒手帳に『かのう、なら、任せた』と書いた。
雪風は、なるほど、と声をだし、高町はわかりきってはいない表情だ。
俺は説明する。
「まず『かのう』を、できるとかの意味の『可能』じゃなくて、加えるに納めると書く『加納』や狩野永徳のような『狩野』といった名字や、あるいは『カノウ』という名前だとする。
次に『なら』というのは『〜であるならば』じゃなくて、『それなら』の省略としての『なら』であるとしたら、この文章は、
『カノウ、それじゃあ任せた』
となる。
つまり、どちらにしろ、あいつのことを誰かにしっかり任せているんだよ、その太公望ってやつは。」
「なるほど。確かにその推理ならありえるわね。
ということは、あのダンジョンにもう1人いた、ということでいいのかしら、球磨川君?」
雪風が納得し、理解している。
が、何故か俺にわかりきったことを尋ねてくる。
何かひっかかるが、俺は前もって手にいれていた情報を駆使して考えた推理を披露する。
「お前らも見ただろ、もう1人、黒金と一緒に落ちていった人を。
たぶん、その辺が怪しい。
好き好んで洞窟の地下、しかもこの国だけじゃなく世界基準で大規模と言われている洞窟で待ち受ける協力者がいるとは考えにくいしな」
雪風の説明に出てきた黒金と共に崩落に巻き込まれた1人の遺体について俺は指摘する。
「!!まさか!!アークさん!?」
そう、俺が状況を聞き、最も可能性が高い人物はベビルベリー王国騎士団副団長、アーク・ギルティリアだ。
「そんな目の前で殺されたんだよ!?」
「そもそも、彼は王国の人物だから、『カノウ』という名前ではないわよ?
どういうことか説明してもらえるかしら?」
高町の動揺も、雪風の疑問も正しい。
普通だったら、おかしいことばかりだからな。
しかし、『落ちこぼれグループ』、『チームどん底』、『役立たずの集まり』と評され、国に相手もされず暇だった俺は、国相手にただではやられないよう1ヵ月の間、能力の鍛練だけでなく、それなりに人を調べたり観察したりしていた。
だからわかりえた情報がある。
「どうもそのアークってやつ、怪しいんだよ。
家族はおらず、副団長として慕われてはいるが、親しい人がいない。
しかし、上手く騎士団だけでなく王城の中でも世渡りをしている、いや、し過ぎているんだよ。しかも20年もな。
考えてもみろ。誰からも疎まれず、信頼されているが、よくわからない人物とか、ミステリアスを越えて、ホラーだぞ、ホラー。不気味すぎるだろ?」
「……確かにそれは不気味ね。
ただ、どうしてそこまで知っているのかしら?
それに、わざわざ私達を誘拐した世界の人をそこまで調べあげる必要もわからないわ。」
やっぱり来るよな、そういう疑問と疑惑の眼差し。
いや、怪しむように見せかけて雪風の目の奥には人を試すような光が宿っている。
まぁ、理由なんてひどく単純だ。
さっきも述べたように暇だったし、食い扶持だけ持っていく役立たずが処分されないとは限らないから、警戒して情報集めただけのことだ。
俺は魔術喰らわなければなんとかできるが、黒金や前田とか夢浮橋、橋爪は簡単に死んじ、いや、殺されちまうだろうよ。
だったら、まぁ、そうさせないように足掻くのも当然だろ。
ちなみに鑪に関してだが、あいつには手を出せないこともないが、リスクが高過ぎだから殺される危険性はないだろう。
「そこは弱者の保身、ってやつだ。
めんどくせぇが、世の中、切り捨てられる存在がいて、俺を含め、戦えない6人は切り捨てられやすいポジションだからな。
自衛のためなら情報は多く持っておいた方がいざというときに安全だろ?脅迫したり強請ったりできるかもしれないしな」
「なるほどね。弱者を守るためにだなんて、普通なら思い上がりにも思えるけど、自分自身も弱者であると認識しながら行動をしていることは、素直にすごいと思うわ。
ただ、今の発言であなたが危険人物であることも理解できたわ」
なんか褒められたのか貶されたのかよくわからん言葉を雪風からいただいた。
……ん?俺、自衛としか言ってなかったよな?
他の連中のためにも、って言った記憶ないぞ?
まぁ、いい。
黒金の安否ははっきりわからんが、高確率で生き延びているようなら、本題に入るとしよう。
「さて、高町。
黒金のやつ、生きてる可能性が高いが、どうしたい?」
俺は唐突に高町へ問いかける。
俺達がやろうとしていることは、高町と雪風の協力を得られるかどうかで結構変わるからな。
味方につけるためにはここからの勧誘交渉が山場だ。
俺のその問いかけに高町は即答だった。
「行くよ、奈落に!!黒金君が生きているんだもん!!」
その覚悟を決めた顔を見て、俺は、釣れた、と確信した。
「いい顔だ、高町。
だが、現状、黒金は王国を裏切った存在扱いだ。
そんなやつが生きていると聞いて、国は果たして動くと思うか?」
「だから何?
例えこの王国が文句を言っても私は助けに行くよ」
…お、おぅ。
思った以上に高町の黒金の奴への好感度が高かったんだが……なんか、軽く小突いたら落ちそうなレベルなんだが、何これ怖い。
いや、まぁ、たぶん両想いのすれ違いだったことを知って、なにか、こう、抑えていたものが爆発したんだろう、うん。
「落ち着きなさい、なずな。
貴方がそこまで覚悟があるなら、私もこの王国ぐらい捨てても構わないわ。
だけど、そこの目と性根が腐った男がわざわざ私達に何か話を持ちかけてきているのよ?
聞いて損はないはずよ」
興奮する高町を宥めつつ、雪風は楽しそうに俺へ視線を向けてきた。
……そして、さっき覚えた違和感の正体が掴めてきた。
「目は濁ってたり澱んでたりはするが、腐ってはねーよ。性根も。
つーか、気付いてんじゃねーのか、雪風?
俺はまだ一言も話を持ちかけちゃいないぜ?」
先程から俺の発言にリアクションこそするものの、妙に察しがよく、理解してくる。
俺の情報収集の目的がチームどん底を守るためだという裏の目的に気付いた。
そして、これからある話を提案する前に、俺が話を持ちかけにきたことを見抜いてきた。
これらの違和感を元に露骨な『かま』をかけてみると、雪風はわざとらしくため息をついてから、
「わからないわ。
そんな、貴方が黒金君を見捨てた王国とクラスを見限って出奔しようとしていて、私たちにそれを手伝わせる、いえ、巻き込もうとしているなんて、これっぽっちもわからないわ。」
「ふぇっ!?のわちゃん!?なんでそんなことになるの!?」
………ビンゴ。間違いない。
まだ一言も話していない目的を、ものの見事に当ててきやがった。
「なんでわかった?
心の中でも読めるのか?」
「まさか。
貴方の口ぶりと態度がわかりやすいだけよ、球磨川君」
雪風は当然のように返してくるが、流石に無理があるだろ。
タネは簡単だな。
彼女は無詠唱で氷の魔術が使える役職【雪女】で、異能は熱を操る『絶対温寒』だったか、そんな名前のらしい。
が、調べてわかったが、魔術っていうのは世界の法則に逆らうもので、氷の魔術と言われるものも、『温度を操る魔術』の一種として認識されている。熱を奪い、温度を下げることで氷を生じさせているような感じだな。
つまり、彼女の役職の能力は氷を操るのではなく、魔術として熱を操るものだろう。
故に、彼女の真の異能は、他者の心を読む、ってところか。
何それ、チートじゃね?
「当たらずとも遠からず……あなた、もとの世界で落ちこぼれだったのは演技だったのかしら?
私の記憶だとあなた、テストの成績、ほとんど最下位だったわよね?」
雪風は真顔でそんなことを尋ねてきた。
さて、当たらずとも遠からずらしいが、心を読める可能性が高いなら、試してみようか。
「そりゃ簡単だ。テストでは図れない才能を持っていたからだな。」
もちろん嘘だ。
単純に高校生レベル程度のテストを受けるのが面倒臭くて、ペンを必要最低限しか動かしてないだけだ。
俺の答えを聞いて、彼女は大きくため息をついてから、
「……そう。何にせよ、少しあなたを侮っていたわ。
ペンぐらい動かすの面倒くさがるのはどうかと思うわよ、って言えばいいかしら、球磨川君?」
確定、ってとこか。雪風の異能は心を読めるってやつだな。
最も、それができるなら黒田の策略をどうにかできたはずだし、何か制限があるのだろう。
例えば自分へ交渉をしにきた対象にのみ、とかな。
「そのあたりはあなたの想像に任せるわ。
ただ、少なくとも今、この場では私に対して貴方は嘘も隠し事もできないわ。
……隠し事ができないって言われて、あなたの成人向け雑誌の隠し場所を真っ先に心配しないでちょうだい」
「こっちは隠し事ができないんだ。
見えてしまったなら仕方がないだろ?」
見られてるんだから、これぐらいの意趣返し、というか軽いイタズラぐらい許してもらおう。
「本当にあなたって最低のクズね、クズ川君」
額に手をあて、首を横に振り、処置なし、のようなリアクションをする雪風。
何とでも言えばいいさ。
俺は自分とダチを守れるなら、蔑まれようが媚びへつらおうが苦じゃねーしな。
「えっと、のわちゃん?何の話してるの?
というか、球磨川君は黒金君を助けにいかないの!?」
すっかりおいてけぼりを食らっていた高町の糾弾するような発言に俺は首を縦に振って答える。
「高町。考えてみろ。
任せた、ってことは黒金は向こうの協力者、おそらくアークって名乗っていたやつに助けられるだろうよ。
だったら、俺たちは、1人のために1人を切り捨てるようなクラスから逃げ、そのうち黒金を探せばいい。
おそらく魔族について調べれば見つかるだろうよ。
まぁ一番の理由は、黒金を貶めた連中と一緒にいたくないしな。」
俺のストレートな発言に雪風も頷き、
「あなたのその黒金君への好感度は何なのかしらね、ホモ川君。
まぁ、確かに一緒にいたくないわね、あのバカと腹黒田君とは。」
「だろ?
あとホモじゃねーから。お前の高町への愛情と同じだから」
「つまりホモじゃない」
………え、何、この女帝怖い。
レズなの?クレイジーでサイコなレズなの?
「………訂正。お前の高町への愛情とは違うからな」
というか、よくそれで黒金のやつを認めたな、おい。
「な、な、な、何言ってるの、のわちゃん!?
わ、私達、女同士だよ!?」
高町は首を傾げていたが、理解したらしく、顔を赤らめて慌てている。
……また高町に衝撃的な事実が告げられた瞬間だったな、うん。
何か、こう、可哀想に思えてきたぞ、彼女のSAN値が。
雪風はそこで我に戻ったらしく、そして、顔を真っ赤にしながら、
「そうね、私達は女同士よ、なずな。
でも、愛の感情はそれぐらい気にならないものよ。
それに私、なずなが好きなだけで、あとは至ってノーマルよ?」
と隠すことなくなんかカミングアウトしてきた。
女帝はクレイジーサイコバイだったようだ。いや、クレイジーでサイコなのかは知らんが。
ただ、まぁ、あれだ。
自分が言ったことに照れて真っ赤になっている雪風はちょっとかわいいと思ってしまった。
「おほん。ところで、あなた以外にも逃げようとしている人はいるのかしら?」
何事もなかったように雪風は問いかけて来るが、耳、まだ真っ赤だぞ……
「……わかってんだろ、あいつらだよ。遊戯部メンバー。
あいつらのどさくさに紛れて俺も出るつもりだ。
夢浮橋にも誘ったが、自分だけならまだしも、橋爪を置いていけないらしいからな。鑪に至っては……まぁ、言わなくてもわかるか、あいつだし。
つーわけで、俺・前田・園田・龍造寺の4人だな、今のところ」
だからよ、と俺は逸れに逸れた本題へ戻る。
「お前らもどうだ?俺らと一緒にこないか?」
当初の雪風野分の予定
→クール系美少女
現在の雪風野分
→若干病んでる両刀使い
どうしてこうなった………?




