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錬金術師(アルケミスト)の世界革命  作者: 悠々自適
プロローグ いざ、異世界に
14/92

各々、動き始める ―雪女は真実を語る―

しばらく王国側が続きます

『奈落』で(うしとら)やタウロスオーガと呼ばれた牛頭の巨人と戦闘後、絶体絶命の窮地を救ってくれた黒金君が崩落に巻き込まれてしまった。

その後、黒金君を追って飛び込みそうなほど泣いているなずなを引きずって、私、雪風野分は洞窟の外へと出た。


太公望と名乗った男性は気付けばいなくなっており、今の私たちの空気はただただ重かった。



なずなは泣き続けており、

黒田君はあの魔物の首を地面に置いて無言で考え込んでおり、

一誠(バカ)がなずなを慰めようとしていたので、睨んで牽制した。


おそらく、この愚物のことだ。なずなが何故泣いているかわかっておらず、自分がなずなの『彼氏ポジション』と思い込んでいるから、慰める必要がある、と思っているのでしょうね。

本当にこの男はデリカシーも考えも事実認識力もないカカシ頭だ。

オズの魔法にでてくるカカシの方がまだ賢いわ。



思えば昔からそうだった。

まだ愚かにもこの男に好意を抱いていた小学生時代という黒歴史の頃。

私やなずなに必要以上に絡んできた見た目だけはいいこの男は、私たちがそれによる他の女子の嫉妬によって嫌がらせを受けていたことに最初は気付かなかった。

そして気付いたら気付いたで、嫌がらせをしていた女子に真正面から注意した。

その後、その女子たちも彼の前で嫌がらせをしなくなり、彼はそれを見て解決したと思っていたようだった。


アホとしか言いようがない。

その程度で嫉妬にトチ狂った女子が行う嫌がらせが済むわけがない。

むしろ彼にバレないようにより悪質なものになってしまった。


具体的に例をあげるとキリがないのだけれど、なずなが一時期精神的に病むレベルまで追い詰められたぐらいだったわ。

私?親戚から「人が変わった」と言われるぐらいだったわね。

最終的に、私は彼女達を誘導する形で教師や保護者、他学年の生徒の前で法に触れかねない嫌がらせをさせ、社会的に抹殺してようやく解決したのが小学校6年生の時ね。


そもそも、この空っぽ男、自分のせいで私やなずなに嫌がらせが起きていたと認識すらしていなかった、いえ、認識すらしていない。現在進行形で。

あの時はただ、理由はわからないけど幼馴染みが嫌がらせされてるから助けるのが当然、といういつもの偽善だったのでしょうね。

物事の表面だけを鵜呑みして、その平和が乱れないようにしているだけの男だから気付くわけがない。

他者も自分と同じ考えだと思っているのだから。



話を戻しましょう。


この一連の出来事の頃から、私はこの男を見限り、なずなをこの救いようがない愚者から守ることを決心した。

それが彼女への嫌がらせを阻止することをできなかったせめてもの罪滅ぼしからだ。

例えそれが自己満足と言われようと、二度とそんなことは起こさせないためにはこうするしかないのよ。

それからずっと、私はなずなをあの塵カスから守り続け、高校生になった。

上辺だけの和を唱えるアホは何を勘違いしているのか、なずなは自分に惚れていると思っているらしく、言葉として言ってはいないものの、態度でなずなは自分の彼女も同然である、としている。

またそのバカを何故か小学生の頃から支える黒田君は、なずなが脳無しに惚れていないことを知りながら、事実認識できない男の妄言を事実化させようとしていたため、幾度となく妨害をして、計画を阻止してみせた。

おかげで、クラスの中では女帝と呼ばれるほど恐れられてしまったが、なずなさえいれば私は構わないから、まったく気にならない。



そんなある日、なずなが私にあることを教えてくれた。

好きな人ができた、と。

最初は思わず、あの考え無しに堕ちたのかと絶望しかけたが、話を聞けば小学生の時に嫌がらせを受けていたときに、なずなに変わって嫌がらせの矛先を自分に向けさせる方法で助けてくれた男子らしい。

誰かまでは恥ずかしがって教えてくれなかったが、その後の彼女の言動から誰なのかはわかりやすかった。


そう、崩落に巻き込まれた黒金剣太だ。


だからこそ、なずなは今、泣き壊れてしまっているのだ。



彼のことは調べあげた。


黒金剣太

現在まで彼女無し。なずなの言うとおり、私達の通っていた小学校で4年生の夏前までおり、夏前に隣県へ引っ越していた。

友人関係は前田慶一とその繋がりの女子2名、それから球磨川四万十の4名しかおらず、そのメンバー以外とは付き合いが薄い。

性格は筋が通っていないことを好まず、それが勢い余ってやや頑固になってしまい、他者との折り合いをつけるのを苦手としているところがある。それによって友人2名を含め、クラスでも疎まれ見下されているのに近い存在だ。

しかし、根は優しく、気配りができるうえ、私の汚点である幼馴染みと違い、表面上の解決を良しとせず、足掻く潔い青年。


私が調査していると同時期に、なずなを脅し、尋問していた目付き同様性格が悪い彼の友人とは大違いである。

私はあの男は許さない。



………黒金君が崩落に巻き込まれた後に話を戻しましょう。


実は私自身も現状に結構参っている。

生きるためとはいえ、この手で他の命を奪っていることを、ふとした瞬間に思うと、吐き気を催してしまう。

実際、『奈落』の探索中もなずなちゃんに介抱してもらったことが何度もある。

そんな豆腐メンタルでか弱いため、教官となっていたアークさんの死と親友の想い人の絶望的な状況を見てしまえば、耐えられるわけがない。

今でも少し吐きそうだけど、なずなちゃんが苦しんでいる手前、気力で耐えている。

とはいえ、耐えるので精一杯で、どうしようもない。

どれほど弱っているかというと……


「王国へ帰り、報告するのが先決だな。

一誠、雪風、なずな。貴様らはかなり精神的に参っているだろう。

俺がこの魔物の首を持って報告してくる。」


耐えるので精一杯だったことで、黒田君の提案を考え無しに呑んでしまうぐらい私はやつれていた。


――――――――――――



私が王城にある、なずなとの共同部屋で正気に戻ったとき、すでに事は手遅れになっていた。


・牛頭の巨人を倒したのはあのピーマン

・黒金剣太は魔族と結託して勇者達を暗殺しようとした因果応報で死んだ


そういうことになっていた。

黒田君が何をし、何を狙ったのか、とてもよくわかる状態だった。


「痛恨の致命的ミスね。

黒田君の策略はこうでしょう。

まずは頭が飾りのあの男の評価を上げることで、王国内やクラス内での地位や力関係を上にあげさせ、様々な自由という名の権力を得ようとしているんでしょう。

例えば法律に反しても許されるようなぐらいに。

あるいは裁判沙汰になったときなどに優遇されるように。


そして、黒金君を貶めることで、なずなが表立って黒金君を庇えば愚かにもあの玉無しを崇拝するクラスメイトや王国に属する者に批難され、そこへ優しくすれば、心が弱ったなずなを考え無しは手にいれさせることができる。

表立って庇わなければ、黒金君を理由になずなはあの虫けらと交際しているデマを否定できない状態であるから、ハリボテはなずなを手にいれることができる。

こんなところね。あの織斑一誠第一主義者のことだもの。

これぐらいのことは考えているのは間違いないわ。」


まぁ、情をわかっていないわね。

なずながその程度で屈するわけがない。

クラスの中で意思の強さなら黒金君やその友人である遊戯部の3人、それからなずなを脅迫尋問した憎き球磨川君ぐらいね。


「えっと……のわちゃん?そうなの?」


私が考えていると、泣き止み、今は間違った事実が広まっていることに困惑しているであろうなずなが声をかけてきた。


「そうなの、って何がかしら?」


私が首をかしげて尋ねると、なずなは苦笑いをしながら言ってきた。


「口に出てたよ。一誠君が私を手に入れれるように黒田君君が動いている、って」

「なっ!?」


嘘でしょ!?口に出ていただなんて!?

驚愕にうちひしがれている私をなずなは撫でながら、昔からのわちゃんは考えこむと回りが見えなくなるねー、と慰めてくれた。


「失礼なことを言わないでちょうだい。

私は昔からずっと貴女を守るために、あの腹黒田君と渡り合ってきたのよ?

回りが見えなくなっていたら太刀打ちできないじゃない」

「いや、事実見えてないじゃねーかよ、女帝さんよ」


突然の男性の声に私は出入口に注目した。

そこにはアホ毛がトレードマークで、目付きが悪いうえに生気がないほど澱んだ瞳を持った、性格も悪い黒金君の友人がいた。

とりあえず認識してすぐに氷の矢を放った。


「危なっ!?なんで攻撃された!?やめろ、雪風!!その術は俺に効く。」


忌々しい男、球磨川四万十はあっさり私の攻撃を回避してきた。


「あら?女性の部屋にやってくる危険人物に正当防衛をしただけよ、野獣川君。」

「高町から入室許可はもらっているから、今はただの客人だ。

あと俺は球磨川だ。『熊』じゃなくて『球磨』だから野獣じゃない」

「知ってる?野獣先ぱ「おいばかやめろ、やめてください。俺は無実だ」…そう。そういうことにしておいてあげるわ」

「なんつー上から目線だよ……」

「ご褒美なんでしょ、貴方にとっては、エム川君」

「いや、Mじゃないから。」

「仲いいねぇ、2人とも。」


球磨川君を言い負かしていると、なずながとんでもない一言を発した。


「なずな。貴女、やっぱり精神的ショックを受けているのね。

私が貴女を尋問するような人と仲がいいはずないでしょ?」


やっぱりなずな、ショックのあまり、現実認識能力が低下して、あの脳が蟹ミソ男と同じになり始めているわね。

早急に処置する必要があるわ。

球磨川君は球磨川君で呪いを撒き散らしていそうな死んだ目でなずなを睨み、


「高町。いくら寛容な俺に対してでも言っていいことと悪いことがあるぞ」


とほざいていた。

・・・・・・はっ!!なずながおかしくなったのはこの男の死んだ目による呪いせいね!!

そうとわかれば、やはり殺めるしかないわね。


「というわけで死になさい、病原菌君」

「うおっ!!バカ、やめろ!!

名前が原型保ってないし、球磨川菌とか言われたトラウマほじくり返した上に、氷の魔術はマジやめろ、死んでしまうから!!


というか、何が『というわけ』だ!?」

私と球磨川君との攻防になずなはただ苦笑していた。


――――――――――――


「それで、改めて何の用かしら、球磨川君?」


討伐は諦め、私たちに用があるというこの男に尋ねる。

彼は真面目な顔になり、


「まぁ、察しているとは思うが、黒金の奴のことだ。

真実を教えてくれ。」


と尋ねてきた。

思った通り、この男は腹黒田君の虚報に惑わされていなかった。

ならば私の答えは決まっている。


「球磨川君、その―「真実だなんて、今言われている通りよ?」のわちゃん!?」


なずなの言葉を遮って、彼を試してみる。

何をもってそう判断したのか気になるもの。


彼は非常に嫌そうな顔をして、


「めんどくせぇ……あの織斑一誠第一主義者の説明だぞ?明らかに嘘だろ。

どうせ、織斑をより優遇させ、かつ高町を手に入れさせるための策だろうよ。

これぐらい、考えればすぐわかる。


ただ、破綻しまくりだろ。


そもそも黒金のやつが魔族と結託できるほど、コミュ能力ねーよ、前田じゃあるまいし。

それに織斑達を暗殺したところで、あいつにメリットが見当たらん。

さらにいえば、黒金と魔族が結託した証拠がない。証拠不十分で無罪判決だろ。


あとあれだ。あいつ、高町に惚れてるし、その高町を巻き込むようなことはしねーだろ」


と説明してくれた。

なるほど。ちゃんとあの男の策を理解しているようね。

ただ友人がするわけない、とか言っていたら話す気にならなかったけど、話すことにしましょう。


「ま、ま、ま、待って!?

く、く、黒金君が私に惚れてるって本当!?」


……そういえば、なずなが横にいたわね。


「あぁ、間違いない。本人は無意識のうちに否定しているが、高町に話しかけられるたびに、『気にしちゃダメだ』『僕が好きになる人じゃない』とか言ってたからな。

ついでに言えば、その辺の言動から考えて、無意識のうちにお前の好意も気付いていると思うぞ」

「そんな……そんなことってないよ……」


なずなは衝撃の事実に落ち込んで、というより先程までと同じように泣き始めてしまった。

やはりこの男、殺めるべきよね?なずなを脅迫・尋問した上に、泣かせる大罪まで起こすだなんて。

再びこの男へ氷の魔術を放とうと思ったが、彼は気まずそうな表情をして尋ねてきた。


「あー、高町。

聞いた話によると黒金は崩落した穴に落ちたんだろ?

斬られて即死、とかいうわけじゃないんなら、まだ生存の可能性、あるんじゃねーの?」

「球磨川君、その慰めの言葉は気休めにしかならないわよ」

「待て、落ち着け、雪風。お前の術は効くからやめてください。

で、黒金の生存が見込める可能性だが、状況ははっきりわからんが、おそらくその魔物の胴体部分も巻き込まれたともなれば、それをクッションにできるだろうよ。」


彼の考える可能性の低さに私は思わず失望した。

思ったより頭が回ると思ったけれど、そんな僅かな確率に賭けるだなんて愚かだわ。


「それは憶測に過ぎなさすぎじゃないかしら?」

私のストレートな批判に、彼はひきつった苦笑いを浮かべ、

「……まぁな。確かに確率的に考えりゃ都合がよすぎる。

だが、ありえないわけでもない。

だから生存の可能性を高めるために間近で崩落を見ており、かつ黒田のやつの息がかかっていない情報が欲しいんだよ」


力強く言われ、私はふと彼の顔を見た。

よく見ればハイライトの消えた澱んだ彼の目が少しだけ綺麗になり、光が宿っている。

……本気、と考えてよさそうね。


「いいわ。真実を話しましょう。」



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