指導者、襲撃される
初の戦闘シーン
……難しい(目そらし
異世界に呼ばれ、勇者となった、俺、織斑一誠は幼馴染みのなずな、野分、清隆と一緒に来るべき戦いのためにダンジョン『奈落』で戦闘訓練をしていた。
訓練とはいえ、ダンジョンにすむ魔物や魔獣を殺すことに抵抗はあったが、そんなことを言っていれば命がないことを悟って、今では戦うことに躊躇いはなくなっていた。
幼馴染み達も同じようで、なずなは一番抵抗していたが、いつからか槍を使いだした辺りから、躊躇いがなくなった気がする。
何故か俺のことを嫌う野分は最初から容赦無く戦っており、別の意味で心配だ。
しかも、時折、ダンジョン探索中になずなといなくなるし。
清隆に関しては心配はなかった。
ガリ勉のインテリ眼鏡という見た目に反して、柔道空手をたしなみ、喧嘩にも滅法強く、慣れているからだ。
それでもやっぱり、好きな相手であるなずなには手を汚して貰いたくないと思うのは俺の我が儘なのかもしれない。
今日も訓練のため、師範として同行している近衛騎士団副団長のアークさんとダンジョンに潜っていた。
そして奴が現れた。
「やぁ、初めまして、今回の【指導者】君達。」
洞窟の奥から、ローブを纏い、長い棒を肩にかついだ白髪の男性が声をかけてきた。
その一言は俺達を警戒させるには十分だった。
何しろ、俺が伝説の勇者の証である【指導者】ということは極秘扱いだからだ。
アークさんは剣を抜いて構え、俺達の前にでて、相手に尋ねる。
「何者だ!!【指導者】であることは公表されていないのに何故知っている!!」
「…ふーん。当たりだったか。正直2〜3組ぐらいいるだろうと思って最初に声をかけたけど、一発目からとは僕の運も捨てたものじゃないね」
ニヤリと笑みを浮かべる相手の顔に俺は冷や汗をかいた。
やられた。まさかはったりとして言ってきたとは予想外だった。
でも、なんで指導者がいることを知っていたんだろうか?あまり関係ないとは思うけど、不思議だ。
「僕の名前は太公望。ただの仙人さ。聞いたことはないかい?」
相手は芝居ぶったように仰々しく、そして挑発的に自己紹介をしてきた。
「太公望……確か封神演義にでてくる仙人の名前だったかしら?」
「おー、やっぱり知ってたか。黒髪のお嬢ちゃんが言う通り、その太公望だよ」
「ふん、くだらんな。この世界に地球の、ましてや創作の中の存在がいるとは馬鹿げている」
清隆は眼鏡をクイッとあげつつ、反論する。
相手、太公望はその言葉に苦笑いをしながら答える。
「まぁね。君がいうことは間違っていないよ、眼鏡君。
僕は同じ名前ってだけで、ご本家の太公望とは別人だよ」
「えっと、つまり同姓同名の人ってことですか?」
なずなの問いかけに彼は頷き、こう続けた。
「なるほどね。頭の回転は悪くなさそうだ。いや、1人、男子が警戒だけして何も考えていないみたいだけど、まぁいいや。
とりあえず黒髪のお嬢ちゃん、眼鏡君、それから考えていない青年に高町ちゃん、対人試験合格。」
ヘラヘラとしながら、青年は俺達をそう評してきた。
「!?なんで私の名字を!?」
「落ち着きなさい、なずな。
相手の出方からみて、私達を観察していた可能性も十分あるわ。」
そして、なずなだけ名字で呼んだ相手にますます俺達は警戒心を高める。
野分の言う通り、観察されていたとした場合、相手はかなり強敵だ。
何せ、俺達のことを知り、かつ気付かれずに観察していたことになるからだ。
そんな俺達の態度を見て、彼は、やれやれ、といったように肩をすくめてから、
「そんなに警戒しなくてもただ君達を使えるか、僕は斥候に来ただけなんだけどなぁ」
「斥候だと!?」
今にも飛び掛からんとする勢いでアークさんが声を荒げる。
「そ。斥候だよ、僕は。
指導者君達、今回の勇者の力を試しにね。」
「力を試すだと!!貴様、いったい何者だ!!」
「うるさい人だなぁ。君は関係ないんだよ、消えてくれない?」
忌々しそうな顔を相手がした瞬間、アークさんがうめき声をだして、倒れた。
「アークさん!!」
俺達は慌ててアークさんに近付くと、彼は既に事切れていた。
衝撃的過ぎた。
さっきまで話していた騎士団の中でも屈指の実力を持つ恩人が一瞬で殺されたのだ。
「さて、静かになったし、そろそろ本題にいこうか」
「ふざけるな!!アークさんに何をした!!」
何事もなかったように話を続けようとする太公望に俺は剣を抜き、斬りかかったが、彼の持つ棒に受け止められた。
「おいおい。実技試験は僕を倒すことじゃないよ、何も考えていない青年君?」
「試験だか何だか知らないけど、アークさんを殺したのはあんただろ!!」
つばぜり合いをしながら尋ねると彼は笑みを浮かべて答える。
「当然さ。君達に用があるのに邪魔だったからね、彼は。」
「くっ!!許さない!!」
しかし、相手の力にに俺は押し返され、隙が生じてしまった。
が、すかさずナイスタイミングでなずなが爆発の魔法を相手に放ってくれたおかげで相手を牽制し、攻撃を受けずに済んだ。
彼はニヤリと浮かべた笑みを崩さず、
「へぇ、驚いた。魔法がないあっちの世界の人だったのに、無詠唱でこの火力とは。
触媒となる杖、いや、槍がいいものみたいだね。
どこで手に入れたのか教えてくれるかい?」
「お断りします。内緒にする約束なので」
なずなは警戒する声音ではっきりと断る。
いつだったかから、急に槍を使って魔法を使い始めたなずなに、確かにその疑問はあったけど、彼女は断固として教えてくれなかった。
僕が体勢を建て直しているうちに、異能‘裂空の武人’によって戦闘能力が人間離れしている清隆の追撃と、氷の魔術を自在に操る野分の援護が相手に向かうが、それを全て避けながら彼は楽しそうに言う。
「よし、いい感じに戦ってくれそうだね。
じゃ、実技試験始めよう。こいつを倒したら合格。死んだら不合格。
頑張ってくれよ?期待してるし」
そして少し距離を置いてから、彼は地面に手を置き、何か呪文を唱え始める。
「『我、世の理に逆らい異形なるものを呼び寄せん』」
どんな呪文かわからないが、危険なものであるのはわかる。
幸い、長そうに唱えているので、詠唱を妨害しようとなずなと野分は魔法と魔術を、俺と清隆は攻撃を仕掛けようとする。
が、どこからともなく現れた骸骨達が行く手を阻み、魔法魔術攻撃を受ける盾となり、妨害できない。
「くそっ!!邪魔だ!!」
「『煉獄の迷宮に閉じ込められし牛魔よ。我が呼び掛けにより、現世へ自由を与えん。
来たれ、艮の魔獣・タウロスオーガ』」
彼の詠唱が終わった瞬間、訓練を積んだことで得た魔力関知によって気付いた。
空気中に漂う魔力が彼と俺達の間に収束し、そして気付いたときには、
「GYAAAAAAAAAAA」
大斧を持ち、巨大な牛頭の魔物が現れていた。
――――――――――――
戦いは絶望的だった。
野分の氷の魔術を喰らっても、
なずなの様々な魔法を浴びても、
清隆のとんでもない破壊力を込めた拳を受けても、
俺の邪を打ち払う力をのせた斬撃を与えても、
タウロスオーガと呼ばれた牛頭の巨人は怯むことなく大斧を振るい、俺達へ攻撃を仕掛けてきた。
これを呼び出した太公望はといえば、少し離れたところで残念そうな顔でこちらを見てきている。
「まったく。僕の方を見る余裕があるなら、艮を倒しなよ。それか殺されなよ」
彼の冷めた口調はもう俺達に興味がないようだった。
「くそが!!倒れろ!!」
攻撃自体は受けていないものの、奴の攻撃をギリギリでかわしながらカウンターを放つ清隆は既に消耗しきっていた。
それでも彼は諦めずに攻撃を続ける。
「目に見えないだけで、ダメージがないわけではないわ。根比べというところね。なずな、大丈夫?」
奴の攻撃で飛び散る石を氷の盾で防ぎつつ、氷の魔術を放ち続ける野分。
「流石に…ここまで耐えられると…ちょっときついかな?」
肩で息をしつつ、それでも気丈に魔法を繰り出すなずな。
そうだ。まだ俺達は折れてない。まだ戦える!!
「うおおおおおおお!!!!」
俺は渾身の力を込めて奴へ切り込みかかる。
が、奴の腕に防がれ、そして弾き飛ばされてしまった。
しかも運悪く受け身がとれず、壁に叩きつけられた。
「一誠君!!」
「ちっ。この状況で飛び出てダメージ喰らうとか足手まとい過ぎるわよ。」
なずなは攻撃の手を休め、俺の方へ回復のために近づこうとした。
しかし―――
「ダメよ、なずな!!」
「――えっ?」
野分が大声で彼女に注意を呼び掛けたとき、既に奴の斧の一撃がなずなに降り下ろされんとしていた。
「なずな、逃げろ!!」
咄嗟に動こうにも、ダメージが大きすぎて体が言うことを効かない。
「くそっ!!動け!!動け!!」
大切な、惚れた幼馴染みをこんなところで失いたくない。
しかし、俺の体はいうことを聞いてくれない。
そして、なずなにその斧が降り下ろされ――
「エクスカリバァァァァァァァァ!!!!」
―――なかった。




