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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第三章:呪詛のパッション
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第十三話

 朝といえば、今の響川家のメンツはこう言うだろう。


「遅刻厳禁」


 これだなと言って瑛彦はうんうん頷く。

 彼は朝8時に起きてから支度(したく)を始め、学校まで全力疾走するのがデフォなのだ。


「朝ごはん……かな?」


 小首を傾げて理優が言う。

 彼女はお菓子も好きだけど、寧ろ食べることが好きらしい。

 瀬羅並みに食べるけど、なんで太らないのか不思議な今日この頃。


「……頭が痛いわ」


 悲鳴を抑えるように頭を抑えるのは沙羅。

 おおよそ週に4回ベッドから落ちる彼女の事だから、その反応は(あなが)ち間違いでもない。


 かくいう僕は、理優と同じ朝ごはんだ。

 料理をするのは僕だし、朝起きたら朝ごはんを作るのです。


 そんなやり取りを朝食の場で行い、僕たちは学校へと向かったのだった。

 今日は高校初の文化祭。

 何が起こるのか楽しみなのだーっ。




 そんな具合で期待に胸を膨らませていたのが3時間前の事。


「う、腕が上がらない……」

「午前中で食材が尽きたものね。お疲れ様」


 僕と沙羅は1組のテーブルに腰を掛けていた。

 とはいえ、僕の方は完全に突っ伏してるんだけど。


 午前が終了と同時に、1組の今日の露店は閉店した。

 まさかの行列で30分待ちになり、急遽使ってない教室を解放して新しく席を作るほどだ。

 当然、内装は1組と全く同じで、午前午後で別れた筈のクラスは全員召集され、作業に取り掛かった。

 その結果が、午前で食材が尽きるというありさま。

 嬉しい反面、疲れた……。


「今日はもうフライパン見たくない〜っ」

「ま、どうせ今日はもうやることないんだから、ゆっくり休みなさいよ」

「うん……」


 メイド服を着た沙羅に励まされ、顔を上げる。

 この後は沙羅と回るから待機してくれているんだ。

 瑛彦は理優の様子を見ると言ってどっか行ってしまい、僕みたいに疲れて倒れてる人しか1組には残っていない。


「……今日はうな重ね」


 沙羅が出前を取ることを前提に夕飯を決める。

 別に出前は良いけど、なんで高い物を取るの……。


「……で、まだ立てないの?」

「立てるよーっ。でも疲れたぁーっ」

「……まぁ、待っててやるからいつでも言いなさいな」

「うん……」


 こうして僕たちは動き出すのにまだまだ時間が掛かるのだった。

 こんな事なら来年はもっと簡単なものが良いと思うも、沙羅と同じクラスになったら不可能だなと落ち込むのだった。







 1組の作業を終え、俺は約束通りに理優と校内を巡回していた。

 人のざわめきやどこからともなく聴こえるスピーカーからの音楽が騒がしく、文化祭は賑やかで楽しい雰囲気を出している。


「楽しいね、瑛彦くんっ」


 隣に立つ理優も嬉しそうにはにかんでいた。

 見慣れた制服姿で、手にはどこかの部活で売っていたりんご飴を持っている。

 彼女の笑みに、俺も笑って返した。


「……おう。やっぱ賑やかなのはいいなぁ。俺はこういうのが好きだぜ」

「フフッ、瑛彦くんが楽しそうで何よりだよっ」

「そうかよっ。俺としては、理優っちが笑顔だから文句なしだけどな」

「え……?」

「最近いろいろあったからさ。俺なんか、笑わせるぐらいしかできない。人の背中を押すのは沙羅っちがするし、サポートはなんでも瑞っち。俺ができるのは、応援とか……そんなだな」


 つい心の内を明かしてしまう。

 隠すなんて器用な事は俺にできたことじゃない。

 本当は俺が励ましていいところ見せたいのに、なかなかそうはいかねぇんだよなぁ……。


「……瑛彦くん、私の役に立ちたいの?」

「あったりめーだろ。あー、俺も電気とかじゃなくて役立つ超能力欲しかったなー」

「……気持ちだけで嬉しいよ。ありがとね。でも、心配かけてごめん」

「女の子の不安を薙ぎ払ったり、ピンチを助けるのが男だ。もっとなんか、俺に解決できる不安はないのか!?」

「無茶振りすぎだよ……」


 理優っちは空笑いをし、りんご飴を舐めた。

 あぁー、可愛いなぁ……。

 なんで俺に解決できるピンチがないんだ……。


「……あ、瑛彦くん! お化け屋敷行こっ!」

「お? ……おー」


 いつの間にやら、目の前にはお化け屋敷があった。

 暗いし、あまり行きたくない。

 というか理優っち、りんご飴持ってたな――と思ったらもう食べ終わってるし。


「いらっしゃいませ〜。2名様ですか?」

「あっ、はいっ」

「いや、実は3人なんだ。俺たちは入らないけど、俺の分身が3人入る予定だから」

「え? えっ?」

「あ、瑛彦くん! テキトー言って困らせないのっ! 2名です!」


 売り子さんに困惑をプレゼントしたら理優っちの少し怒った顔が見られた。

 ついでにビンタもプレゼントして欲しいが、理優っちが暴力を振るうとは難易度が高いのでやめておく。


「じゃ、理優っち先な」

「え? なんで?」

「まぁ行けばわかる」

「?」


 そんなわけで、理優っち先頭で発進する。

 最初こそ歩いて入れるものだったが、じきにダンボールで作られた四つん這いじゃないと通れない道になる。


「うっひよぉぉぉおお!!! なんという絶景!!」

「瑛彦くんが変態過ぎるよぉおお!」


 スカート履いた女子の四つん這いが目の前にあったら、当然見るものは決まっている。

 後でポカポカ殴られて痛かったが、なかなかいいストレス発散になっただろう。

 俺にとっても、理優っちにとっても。







「……ねぇ、キトリュー? なんでウチが受け付けに座ってなきゃならんの?」

「俺が座ってるからだ。どうせ暇なら相手になれ」

「はぁ……」


 飄々と廊下を歩いていたら生徒会室前で彼氏に捕まり、ウチは生徒会室の出し物の受付にいた。

 とはいえ、生徒会の出し物は今までの活動内容を教室で掲示してるだけで楽しいものではなく、客なんていない。

 ここにいる意味はあんまりないけど、運命の人がいるからということにしておこう。


「暇だねぇ」

「そうだな」

「……なんか話すことないの?」

「何も話さなければそれで構わん。俺はお前が居れば落ち着く」

「あははっ、嬉しいこと言ってくれるね」

「ふんっ」


 隣で腕組み座る金髪くんは顔を紅葉のように紅くし、鼻を鳴らした。

 ウチも部活やバイトがあってあまり会えてないのに、好きでいてもらえるのは嬉しいね。

 この高校、かなり可愛い子も多いと思うがキトリューは誠実だしなぁ。


「ねぇキトリュー、手ぇ貸して」

「む?」

「まぁいいからいいから」

「あぁ……」


 腕組みを解いて、片っぽの手をウチに伸ばしてくるキトリュー。

 ウチはそれを掴み、それ以上は何もしなかった。

 キトリューも何も言わない。

 触れ合ったら、胸が幸せでいっぱいになって喋れないもんね。

 恋ってそんなもんだなぁ……なんてね。


 会話もなく、ただ時間と人だけが過ぎていく。

 何もしないままにチャイムが鳴り響き、1日目の文化祭は終わりを告げた。

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