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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第三章:呪詛のパッション
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第三話

「うぅ……ごめんなさい……」


 そう言ったのはフォークをパスタに絡ませる理優だった。

 病室で彼女が腹の虫を鳴かせたため、僕達は今、全員でファミレスに来ている。

 僕と瑛彦は食べてる途中だったし、ナエトくんとレリも昼食はまだとのことだった。

 7人もいるとさすがにテーブルに料理がいっぱいで席もキツい。

 男子3人と女子4人に分かれて座ってるから、向かいの方がキツそうだけど。


「僕もレリも空腹だったんだ。理優も気にせず食べてくれ。代金は全員分僕が持つから気にすることはないぞ」


 男子の真ん中に座ったナエトくんがコーヒーカップを片手に、優しく理優に言った。

 そっか、金銭面で苦労してるんだもんね。

 全員分出すなら遠慮がちな人でも奢らせてくれるだろう。

 ナエトくん、さすが魔王の息子。

 しっかり者だなぁー。


「じゃあ遠慮なく。沙羅、こっからここまで注文しよ」

「わかったわ」

「おいちょっと待て貴様ら。遠慮する気持ちはないのか」


 環奈と沙羅がメニューの見開き3ページ分ぐらいを注文しようとして、それはさすがにないとナエトくんが止めに掛かる。

 ていうかそんなに食べれないよね? ……あれ? 食べれないよね?

 今度お弁当の配分を2人に相談しよう。


 女子はあとレリがずっと爆食していて、その隣で理優は細々とパスタを食べていた。

 男子の方はそこまでお腹が空いてなかったし、ナエトくんは元から少食でグラタンを一つ頼んだだけ。

 僕はずっとドリンクバーで取ってきたものをストローでチューチュー飲んでたりっ。

 まったりして飲んでいると、正面に座る沙羅が僕を見て口を歪めた。


「瑞揶、お腹壊すわよ?」

「壊さないよーっ。壊してもいいよーっ」

「どっちなのよ……」

「にゃーです」

「それじゃわからないわ……」


 沙羅に呆れられて話は切れ、理優も食べ終わった所でファミレスを出た。


(そういえば――瑛彦、あまり喋ってなかったなぁ)


 いつも(うるさ)い親友が口を噤んでいたのに、外に出て漸く気付く。

 理優は無事だったし、とりあえずは安心できたはずなのに――。


「理優の無事も確認できたし、僕は帰るぞ」

「ナエトは薄情だかんねー」

「黙れレリ。それから理優、携帯は持っていろ。ちゃんと充電してな。じゃあ、また学校で」

「あ、うん……」


 そうしてナエトくんは去り、レリも後を追って居なくなった。


「理優はどうするのん?」


 あっけらかんとした態度で環奈が尋ねる。

 どうするか決めていたようで、理優は言葉を返す。

 しかし、また声のトーンは下がっていた。


「私は……ママの所に戻るよ。それで、どうするか考える……」

「……そう。ま、ウチが何か出来たわけじゃないし、夕方からバイトだから帰るわ。じゃね」

「うん。またね、環奈ちゃん」

「またね、環奈」


 環奈も歩道の端に消えていき、残ったのは4人となる。

 僕と沙羅は残っててもいい、けど……僕達も、何もできないだろう。

 悩むのは理優だから。


 でも、もし何か相談があるなら、乗ってあげたいとは思う。

 いや、その気持ちはみんな同じはず。

 そして多分だけど、その適任者は間違いなく沙羅で――。


「――私は理優と一緒にいるわ」


 沙羅自身それに気付いていたのか、理優の背中をポンっと叩いて僕達に告げる。

 あとどうするかは、僕と瑛彦か……。


「……瑛彦はどうする?」

「……あ? ああ、そうだな……」


 僕に呼ばれて瑛彦は急遽考え出す。

 何か、別の事を考えていたようだ。


「……瑞っち、ちょっと付き合ってくれねぇか?」

「ん? 別にいいけど……」

「じゃあ私たちとは別行動ね。行きましょ、理優」

「え? う、うん……またね、瑞揶くん、瑛彦くん」

「またね〜っ」


 沙羅に手を引かれて理優も昼下がりの街中に消えて行った。

 残された僕と瑛彦はまだファミレスの前に居る。


 僕を少し借りたいという瑛彦は彼らしくない難しい顔を浮かべていた。

 なんだか話しかけにくいなと僕は頬を掻くも、ここにいても始まらないからどこか行くのか尋ねてみる。


「瑛彦、どこか行く?」

「……そうだな。公園にしよう」

「はーいっ」


 行き先は公園と聞いて、僕らもいよいよ歩き出す。

 地元ということもあって、今いる場所から一番近い公園はすぐに行けた。

 砂場と滑り台、それから鉄棒と、ベンチが幾つかあるだけの簡素な公園。

 園内に入って、2人でベンチに座る。

 その途端、瑛彦が大きくため息を吐き出した。


「はぁ〜〜〜〜っ……」

「うわっ、瑛彦がため息吐いてる」

「驚くなよ……俺だってため息ぐらい吐くわ」


 ジト目で瑛彦に睨まれる。

 瑛彦っていつもバカな事して笑ってるから、こんなため息を吐くなんて珍しい。

 なんか変なことあったかな?


「どうしちゃったの瑛彦?」

「……俺、情けねぇなぁって思ってよ……」

「……情けない?」


 彼の発言に僕は小首を傾げる。

 瑛彦が情けなかったら、僕はなんなんだろう。

 きっと表現する言葉がないぐらい情けないに違いない。


 しかし、自分を責めているのには何か理由があるはずだ。


「なんでそう思うの?」

「……俺、一番に飛び出したのに、理優っちに何もできてねぇし。良い所は全部沙羅っちに持ってかれちまったし、呪いも治せねぇし、カッコ悪りぃって思ってよぉ……」

「……あー。呪いの事はともかくとして、沙羅はなぁ……」


 家族の少女を頭の中で思い浮かべる。

 言いたい事は大抵ハッキリと言い、しっかり者で頼り甲斐があって……。

 頭も良いし、発言にも説得力がある。

 そんな彼女を引き合いに出すこと自体が間違いだと思うけどなぁ……。


「男なのに、俺は情けねぇ……」

「あはは、そしたら僕も情けないよ……」

「ちげーだろ。瑞っちはまだ理優っちの助けになれるだろ?ナエトも金銭面では助けられる。けど俺にはなんにもねぇ。友達の力になりてぇのになぁ……」

「…………」


 思い悩む瑛彦は背中を丸めて膝元に腕を置き、また大きくため息を吐く。

 瑛彦も、良い子だなぁ……。

 そんな悩める瑛彦に、幼馴染みとして助言してあげよう。


「瑛彦にもね、できることあるよ?」

「……本当かよ? 俺みたいなアホが、なんの役に立つんだ?」

「あのねーっ、沙羅は人を勇気付けたり、励ますことが得意なの。だけど、沙羅がやるには難しいけど、瑛彦ならできることがある」

「……なんだよ、それは?」

「人を元気にすること、だよ」


 僕が微笑んで告げると、瑛彦は驚いて僕を見た。

 ポカンと開いた彼の口と少し見開いた瞳は、これまた彼の印象には新しい。


「瑛彦はね、部活のメンバーでもしない悪ふざけを平気でするでしょ?それはちょっと怒ることがあるかもしれないけどね、みんな楽しいと思ってるはずだよ。だから、理優を元気にしてあげてほしいな」

「……俺が、元気に?」

「うん。理優は今、心が曇ってるように見えるでしょ?だから、瑛彦が雲を払っちゃって。ね?」

「……俺にできるか?」

「できるよーっ。瑛彦がいつものようにしてくれてれば、それでいいの」


 ねっ?と付け加えて言ってみる。

 瑛彦は少し僕の事を見ていたけど、やがて目を閉じ、フッと笑う。


「うっし……行くぞ! 瑞っち!」


 彼は立ち上がり、僕の手を引いた。

 元気に還る彼を見て僕は微笑み、繋いだ手を握り返した――。







 再び僕達は病室に戻ってきた。

 室内では理優がベッドを前に座り、沙羅が壁に寄りかかっていて2人とも無言、重苦しい雰囲気だった。


「沙羅っちー!」


 そんな中、瑛彦がいつもの声調で沙羅を呼ぶ。

 名前を呼ばれた金髪の彼女は瑛彦を見てはてなを浮かべる。

 瑛彦は笑顔で言った。


「パンツ見せてくれ!」

「ほぅ? 死ぬ覚悟は出来てるわね?」

「いやいやいや、俺はパンツを見に来たのであって血を吐きに来たんじゃねーよ。ほら、制服のスカートをこうっ――ガハッ!?」


 無言で沙羅が瑛彦の鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ。

 ものの一撃で瑛彦は倒れ伏してしまう。


「まったく、ほんっとコイツは……」


 呆れて言いながら沙羅は瑛彦の襟首掴んで壁沿いまで引きずる。

 なんだか瑛彦の顔が幸せそうだったのは見なかった事にしよう。


「……あははっ」


 その時――理優が笑ったのを僕は見逃さなかった。

 ほら、やっぱり――。


「……そんで瑞揶、瑛彦と何話してたのよ?」

「ん? んー……」


 沙羅の問いに少々言い淀む。

 正直に言ったら恥ずかしいし、そうだなぁ、僕らは男の子だし……


「女の子を笑顔にする方法について、考えてただけだよっ」


 はにかんで2人に向けて告げる。

 なんとなく意図を察したのか、沙羅は安心したように息を吐き出し、理優も笑っていた。

 瑛彦、大丈夫。

 君の優しさも明るさも、皆に伝わってるから――。

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