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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第三章:呪詛のパッション
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第一話

 ――痛い。


 ――痛い。


 いつもいつも、ママは私を殴る。


 それは、私が持ってはいけない力を持っているから。


 いつもいつも、ママは私を罵倒する。


 ママの不幸は、私のせいだから。


 でも、今はちゃんと力をコントロールできるんだよって、そう言って反発したこともある。


 だけど、殴られた。


 バイトで稼いだお金も、半分以上は没取される。


 私の全部が、ママに取られてしまう。


 だけど、ママに内緒で楽器を買った。


 少し高いなと思ったけど、優しくて明るい、大好きな友達が選んでくれたもの。


 だけど、それは壊されて――


 だから――







 夏休み初日の学校といえば、みんなと夏休みの思い出を言い合って盛り上がるもの。

 僕や瑛彦の間柄でもそのことは変わらず、早朝から教室の隅に沙羅と3人で集まって何があったか話す。


「瑛彦は海外行ったんだねーっ」

「まぁなー。南の島のオーシャンはクリアーだったぜ。うちのチビ共がはしゃぎまくって、大変だったわー」

「そういやアンタ、兄弟多いのよね? 1人も会ったことないけど」

「いや、今もお前の後ろに俺の弟が――」

「はいはい」


 瑛彦の悪ふざけを軽くスルーした沙羅。

 海外、海外といえば言葉が違くて大変そうだけど、ヤプタレアにおいては人間界も魔界も天界も、どこも言語は共通なのです。

 それにしても海かぁー。

 僕らは行けなかったから来年に持ち越しだー。


「瑞っちはどこ行ったんだよ?」

「僕達は山と魔界かなぁ……あ、ずっと沙羅と一緒だったね〜っ」

「そう言われると、遠出した時は全部一緒だったわね」

「ほーん。去年は俺と瑞っち2人でキャンプファイアーしに行ったんだが、沙羅っちとはそんな事あったか?」

「キャンプファイアーじゃないけど、花火は昨日いっぱいしたよーっ」

「おお、良い思い出作ってんじゃねーか」

「うん、沙羅のおかげーっ」


 えへへと笑って見せると、沙羅は照れてそっぽを向いた。

 恥ずかしがらなくていいのにーっ。


「瑛彦も、いままで夏休み付き合ってくれてありがとーね」

「良いってことよ。まぁ、来年はみんな揃ってどっか行こうぜ?」

「うん」


 多分だけど、その頃には部活に後輩が入るかもしれない。

 いつもまったり、ほのぼのとした部活だけど、人がもう少し集まって、仲良くなれればいいな。


 そんな事を思って話しているうちにホームルームの時間になり、僕達は席に着く。

 今日は始業式だけで午後はなし。

 帰ってからお昼ご飯作ったんじゃ遅い時間になるからお弁当を持ってきていて、それを食べる予定だったり。


 始業式は体育館に行って1時間ぐらい話を聞いて終わった。

 体育館は暑い……なんてことは、誰か先生の超能力のおかげでなかったし、涼しかったからもうちょっといたかったなぁーと思う学生も周りに居たりした。

 明日は1時間目から復習のテストがあって、瑛彦は絶望していたりする。


 始業式明けのホームルームもつつがなく終了し、僕と瑛彦、沙羅の3人ですみっこの机に集まり、お弁当を食べる。

 あれ?瑛彦もお弁当持ってきてる。


「今日は速攻で帰ると思って瑛彦の分作ってこなかったのに、どうしたの?」

「母ちゃんがなんか焼きそば作りたいらしくて、試作品を無理やりカバンに突っ込まれた」

「……あぁ、うん、そっか」


 結構コメントに困る回答で苦笑しかできない。

 僕の隣では沙羅がパクパクと僕のお弁当を食べているし、僕も食べよう。


「瑞揶はここかぁぁあああああ!!!?」

「ひぇ?」


 教室中に響く声で僕は呼ばれ、端に挟んでたプチトマトを落としてしまう。

 誰が来たのかと思えば、ちょっと幽鬼なオーラを漂わせる環奈だった。

 いつもおとなしい彼女が声を荒げるとは珍しい。

 彼女は僕達を見つけて駆け足でやってくる。


「どうしたのー?」

「お昼(おご)ってくださいお願いします」

「…………」


 目の前でいきなり土下座するのはやめて欲しい。

 とりあえず、床に頭をつける環奈の頭を上げさせ、環奈用に作ってきた弁当箱を渡す。


「おおお……なんという御慈悲」

「というか、どうしてお昼ないの? お金はもうそろそろ余裕ありそうだと思うんだけど」

「いやぁ、なんか携帯にメール来てさ、よくわからないけど10万払えって……」

「……それ、架空請求じゃないかな?」

「えっ? うそ」


 急いで携帯を取り出し、確認する環奈。

 見てもよくわからないのか、僕に画面を見せてくる。

 ……懸賞に当選しました、というメールから始まり、その次に請求メール来てる。

 ……うん。


「架空請求だと思うよ……」

「……ククク、ウチを怒らせるとは、この架空請求業者も命知らずだね」

「とはいっても、もう尻尾巻いて逃げてるでしょ? どうするの?」

「なんとかする。瑞揶が」

「…………」


 僕頼りらしい。

 あぁうん、まぁいいけどね……。

 いくらか彼女の口座にお金を振り込んでおこうと決めるのだった。


 4人になって3人は同じ弁当、1人は焼きそばをズルズルと食べる。

 そんな中、また知り合いがやって来た。


「おーっ! まだいた!」

「痛っ!? おい、引きずるなレリ! 聞いてるのか!?」

「……何よ? 騒がしいわね」


 僕達1組の教室にやって来たレリとナエトくんに、沙羅は鬱陶しそうに悪態をついた。

 まぁまぁ、部活の仲間だし……。


「ねぇねぇ、みんな。お弁当食べてる場合じゃないかもよ?」

「あん?」

「うん?」

「にゃーです?」

「お?」


 レリの発言に、上から沙羅、環奈、僕、瑛彦が疑問符を返す。

 食べてる場合じゃない?何かあったのだろうか?


「どうしたのよ?」


 沙羅がレリに問いかけると、レリの手を払って立ち上がるナエトくんが代わりに答える。


「理優が学校に来ていない。流石に心配だとは思わないか?」

「……んー、あの子ねぇ」

「電話もメールも繋がんねぇよな」


 環奈が唸り、瑛彦が諦めたように言う。

 確かに、部活に来なくなってからというもの、連絡を取れた試しはなかった。


「連絡は取れないし、居場所もわからない。どうするのよ?」

「……それを悩んでるんだ。探すのは良いんだがな、教師陣は教えてくれなかった。僕が頼んでるのにな」

「……そっかー」


 一応ナエトくんは魔王の五男だもんね。

 普通に学校来てるしなんか王子っぽくないから悪いんじゃにゃー。

 なんて、それは違うよね。

 うーん……。


「じゃあねー、僕が場所見つけるよーっ」

「まぁ、そうなるわよね」

「瑞揶が?」


 僕が提案すると沙羅は頷き、ナエトくんは首を傾げた。

 僕の能力、話してなかったね。

 もうみんな信用してるから、話そう。


「僕はねーっ、思ったことを現実にできるの。なんかこの前、自由律司神さんにクローンだって言われたしーっ」

「……急にそんな頭の痛くなるような事を暴露しないでくれ」

「えーっ?」


 何故かナエトくんが頭を抱える。

「そうか、だからサイファルは……」と何かブツブツ言ってたけど、僕は弁当箱をどけて机の上に地図を出す。

 もちろん持ってきてた訳じゃなくて、出したいと思ったら出てきただけ。


「さてさて……」


 みんなが地図に食い入るように見つめる。

 僕は人差し指を地図の上に置き、理優の居場所を知りたいと念じた。

 すると僕の手は無造作に動き、地図上に理優の居場所を指差す。

 その場所は――


「――病院?」


 僕が自分で指差していた所を告げると、みんなの顔は一気に引き締まった。

 穏やかだった空気が一変する。


「理優が怪我を?」

「それは行ってみないとわからないわね」


 瑛彦がした質問を沙羅が即座に答える。

 理優が怪我をしたのか、もしくは理優の知人が怪我をしている。

 どっちかはわからないけど、行かないと――。


 僕はいてもたってもいられなくて立ち上がる。

 同時に瑛彦も立ち、弁当箱を無造作に机に置いて2人で走る。

 しかし、走り出したと思ったら僕等は宙吊りになっていた。

 後ろを見ると、ナエトくんが僕等の襟を掴んで持ち上げていた。


「落ち着け、2人とも。いいか? 今貴様らが行ったとして、病院を騒がしくするだけだ。冷静に理優の話も聞けないし、彼女を驚かせても仕方ないだろう」

「むむーっ!」

「理優っちは俺が助けるんだーっ!」

「……面等だな。サイファル、捕まえとくから眠らせろ」

「瑞揶はそういうの効かないわよ。そのまま持ってなさい」

「使えん奴め……いてっ!? 瑛彦貴様! 僕を蹴っただろう!?」

「俺は行くんだぁああーーっ!」

「僕も行くのーっ!」


 僕たちがジタバタ暴れてもナエトくんはビクともしない。

 やっぱり魔人はこういう時に厄介だ。

 能力で無理やり抜ける……のはしないけど……。


「あれ?」


 その時、環奈が声を上げた。


「レリは?」

「……あら?」

「…………」


 環奈の問いに誰も答えない。

 それで彼女がこの場にいないことが理解できる。


「今だ! 喰らえ!」

「なっ!?」


 これを好機と見たのか、瑛彦がナエトくんにさらに蹴りを叩き込む。

 その反動で僕達は離されて着地する。

 後ろを振り返ると、尻餅をついたナエトくんがいて、僕達は残った3人に言葉を残す。


「悪いなナエト! まぁ許せ!」

「僕たち、いてもたってもいられないよーっ! 先行くからねーっ!」

「きっ、貴様ら……」

「あーあー、行っちゃったよ」

「ま、私達はゆっくり追いましょ」


 後の方の会話がなされる頃には僕等は教室を出ていて、耳の入らない。


「瑛彦! 病院前に転移するよ!」

「おう! 頼む!」


 僕は病院の前に転移することを考える。

 理優――一体きみに、何が――?

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