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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第二章:収束するアンサンブル
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第二十九話

久しぶりにいろんな人が出てきます。

ちょこっとですけどね。

 その日の処理は終わり、また後ほど僕にあれこれ指示が来るそうな。

 書類が届いても【書類の内容を全部完遂した】と僕が思えばそうなるわけで、指示があったらそれで終わりだからいいんだけど。


 沙羅とセラちゃん――瀬羅は、近日中にそれぞれの国に顔を出すらしい。

 瀬羅に至っては自分の国の復興を助けたいと言い出し、8月は僕の家に居るけど、9月からは1ヶ月の間、ブラシィエットに滞在するらしい。

 家族になってすぐ離れるのは嫌だったけど、1ヶ月したら戻ってくるから待つことにする。


「それで、瀬羅も戦いの後にお話あるって言ってたよね?なんなのー?」

「あっ、えっ、延長! まだ話さなくても良くなったし! 延長!」

「そう? わかった〜」


 瀬羅も話があるらしかったけど、またの機会になる。

 まぁ、これからいくらでも話せるからね、よしとしよう。


 因みに、お姉ちゃん権限でちゃん付けはやめさせられた。

 ちゃん付けの方がしっくり来るんだけどな〜っ。


 そんな風にほのぼのとしていたら沙羅に殴られ「もう7時よ瑞揶ぁぁあーーーー!」と絶叫された。

 そういうわけで、僕達は直接祭りのやっている神社に転移することに。


「にゃーです〜っ」

「なんでお面つけてんのよ?」

「お祭りだからいいの〜っ」


 転移してくると、人間界の空はすっかり真っ暗で、三日月の黄色いお月様が出ていた。

 お祭りらしい笛や太鼓の音があたりから聴こえ、通路は人ゆく人で溢れていた。

 夜店もいっぱいで、見て歩くだけでも楽しい。

 因みに、この区画にはあらゆる能力が使えないようになる結界が張ってある。

 とは言っても、僕には関係ないんだけどね。


「2人とも、浴衣着ないで済むから良いよね〜」

「まぁ、そうね」

「この効果だけは反映されるなんて、どういう魔法なんだろうね〜」


 後ろを歩く着物っぽい姿の家族2人は魔界からそのままの姿。

 僕も今は仕事で使う、着物に近い服装のままだ。


「おーっす、瑞っち!」

「にゃ?」


 呼ばれた方を振り返ると、Tシャツにジーンズというラフな格好の瑛彦がいた。

 お面付けてるのに僕だってわかるなんて……さすがは幼馴染み。


 無理やり肩を組んでくる瑛彦は、僕の耳元でこう囁いた。


「金貸してくれ」

「瑛彦なんて、ずっと型抜きでもやってればいいよ」

「ひでぇ!」

「友達にたかる方が酷いーっ!」


 それからやんややんやと瑛彦と言い合いになるも、沙羅が瑛彦を蹴り上げてそれも終わる。

 軽く2〜3m浮いた瑛彦は受身も取れずに背中から落下して倒れる。

 でもなんでもないように起き上がった。

 もはや人間じゃないね、瑛彦。


「おお、沙羅っちもおひさ。ここ数日何してたんだ?」

「私の姉の件で、いろいろね。あぁ、これがその姉よ」

「あっ……えと、響川瀬羅、です……。よろしくね?」

「おおー! 沙羅っちより胸でけ――」

「死ねぇえ!!!」

「ギャアアア!!?」


 沙羅に蹴られ、星のように空の彼方へ消えていく瑛彦。

 ……今のは自業自得としか言いようがない。


「くっ! 私もあと2年経てば……!」


 沙羅が拳を握りしめてそんなことを言っていたけど、聞かなかったことにしよう。

 そうして立ち止まっていると、また友達に見つかった。


「おー、瑞揶に沙羅じゃん」


 あっけらかんとして僕らの名前を口にしたのは環奈だった。

 どこに買うお金があったのか知らないけど、黒を基調に白いラインの入った着物を着ている。


「あ、環奈。こんばんは〜」

「やほ、環奈。この子、私の姉ね」

「響川瀬羅です……」

「ほーん……」


 環奈は僕に手招きし、とてとてと僕は彼女の口に耳を寄せる。


「上手く行ったんだね」


 小声でそう伝えてきた。

 環奈には相談していたからね。

 僕は彼女に向き直り、Vサインをして笑う。

 環奈も微笑み、瀬羅に歩み寄った。


「瀬羅さんね? 2人にはよくしてもらってるから、ウチとも仲良くしてね」

「う、うん。よろしく」

「……なんか沙羅と性格違うね。ガツガツしてないし」

「環奈、私はガツガツしてないわ」

「しおらしくもないけどね。じゃ、ウチはキトリュー探してるからこれで。あんにゃろう、どこ行ったんだか……」

「あはは……気をつけてね」

「うん。じゃねー」


 スタスタ歩いて環奈が雑踏に混じって行った。

 今日も彼女はいつも通り、マイペースに歩いているようで何より。

 僕らもまた夜店を回り出す。

 綿あめ買ったりりんご飴買ったり、射的やったり輪投げやったり。

 いろと景品を持ちながら回ってると、ナンパにあったり。

 でも沙羅が吹き飛ばしたり。


「楽しいね〜っ」

「コイツ、自分含めてナンパにあったの分かってないのかしら?」

「さーちゃん! それはしーっ!」

「にゃー?」


 ナンパ?そんなのは知らないです。

 もう知り合いに会わないな〜、と思っていると、レリとナエトくんがフランクフルト店の前でなにやら揉めていた。


「結局君は僕にたかってるじゃないか! 金銭面だけの人付き合いなら僕は辞めるからな!」

「こんなにか弱い女子に怒るなんて、ああ、この男はなんて悪い奴。神もきっと天罰を与えてくれる!」

「天罰を食らうのは貴様だけでいい! そして早くくたばれ!」

「そしてナエトと共倒れ……って、何言わせんの!」

「貴様が勝手に言っているだけだろうが!! ええい、めんど――あ、おい瑞揶! たすけ――」

「はいはいナエトくん、次のお店行きましょーねー」

「おい、コラ、離せぇえええ!!!!」

『…………』


 レリに連れてかれたナエトくんを無言で見送り、僕たちはまた雑踏の中に混じる。

 あれこれ欲しいと2人が言えば僕が買い、僕も中学の同級生とばったり会ってお話ししたりと、それなりに良い時間を過ごした。


「花火は?」


 沙羅にそんなことを聞かれたけど、そこまで大規模なお祭りでもないため、花火は上がったりしない。

 その旨を伝えると、「腹いせにクジ引き引くだけ引いてくるわ」と言い残して僕の財布とともに去っていった。

 財布ごと持って行くのはさすがにどうかと思ったけど、瀬羅もお祭りを堪能し尽くしたからもう夜店はいいということで、2人で近くを歩こうということになった。


「人間界、悪くないでしょ?」

「うん。凄く楽しいね……」


 神社から少し離れたものの、騒がしい音楽はまだ後ろから聞こえてくる。

 高らかな笛の音、ドンドンと叩く太鼓の音。

 楽しい音を聴いているだけで、僕も幸せな気持ちになれた。


「だけど、この先はどうしようか?瀬羅ちゃんも高校生として、僕たちの高校に来る?」

「どうしよう……。ほら、何も考えずに来ちゃったから……まだ、よくわからなくて……」

「あはは……ゆっくり決めようね。時間はたっぷりあるから……」

「うん……」


 瀬羅は深く頷いた。

 もう瀬羅を縛るものはないし、これからはゆっくりと過ごせると思う。

 けど、やっぱり気後れしちゃってるんだろう。

 こんな良い所に、私はいて良いんだろうか、って。


 けど、沙羅に言われたはずだから。


 自由に生きて、って。


「……そっか」


 思わず声に出して呟いてしまう。

 ここは、自由の第二世界。

 自由律司神が作った世界。


「だからなの、かなぁ……」

「……どうしたの?」

「……ううん、なんでもないっ」


 自由世界だから自由に生きてもいい、なんて事はない。

 だってこの世界には、法律だってちゃんとあるし、みんなルールを守って生きてるんだから。


 僕だって罪人だ。

 思わせられる事は、ある。


 沙羅が言った言葉は、僕にも当てはまるんだから――。


(何をバカなことを言ってるの。死んだ人間に対する贖罪? 笑わせないで。死んだ奴は確かに恨むかもしれない。恨んでるかもしれない。だけど、そんな見えもしないしがらみに囚われて何になるというの? くだらない。本当にくだらないわ――!)



「…………」

「……瑞揶くん?」

「……ううん。なんでもない」

「そう? なにかあったら、お姉ちゃんに言ってね?」

「あはは、大丈夫だよ……」


 大丈夫、大丈夫。

 まだ考える時間は大いにあるから。


「……お祭り、戻ろっか」

「うんっ」


 僕が促すと、瀬羅は笑顔で頷いた。

 今日の所はとりあえず、英気を養うとしよう。

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