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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第二章:収束するアンサンブル
80/200

第二十七話

通常の2倍ボリュームがあります。

終わらせるつもりでしたが終わらなかった。

「【第一撃(ネイジェ)】!!!」

「ッ――【魔啓の守護(モヒュード)】!」


 私に突きつけられた槍が抜かれ、フォシャルはさーちゃんの攻撃を受け止めていた。

 赤い障壁を出し、私をも巻き込むであろう爆風は目の前の女性によって受け止められる。


「【第二撃(ヨゥジェ)】――割れろ!」

「グッ!」


 さーちゃんが障壁に槍を突き出し、白い光を放つ。

 バリン!と障壁は割れ、さーちゃんの白い槍はフォシャルの顔の横を通り過ぎた。


 ガンッ!!


 槍が壁に刺さる。

 それは脅しにも近い一撃だった。


「……サラ。どうして私に楯突くの? この子は血が繋がってない、私達の敵の血を持つの。同じ血の通う私と共闘するのが貴女じゃないの?」

「ふざけるのも大概にしなさい。私は血筋なんて気にした事ないわ! 私は私の身内のために戦う。身内に手を出すようなアンタは――」

「そんな事を言っても、この子の血は汚い。貴女は何も知らないのよ」

「…………」


 さーちゃんはフォシャルの言葉を無視して、私の腕を引っ張り、持ち上げた。

 私の腕を彼女の首に回し、抱えられる。


「サラ。少し昔話をしてあげるわ。貴女の出生にも関わる話を」

「…………」

「さー、ちゃん……」

「アイツが無駄話をする。【四千精創(よんせんせいそう)】で回復してあげるわ」

「…………」


 ボソリとそう言い、私の知る限り最強の回復魔法を掛けてくれた。

 そうしてる間にも、フォシャルは語り始める――。






 当時はまだ、ラシュミヌットとブラシィエットは友好な関係だった。

 王族同士も仲が良くて、私と当時同じ年頃の女性がブラシィエットには2人いた。

 リィシャルが姉で、ライシャルが妹

 私は特にその中でも、リィシャルという子と仲が良かった。

 2人とは幼馴染といっても良かったかもしれない。

 20歳になるまで、王族同士で会う時は必ず2人と遊んでいた。


 そんなある時に、リィシャルを魔王の側室に勧誘する便箋が届いた。

 魔王が色魔のように淫乱なのは魔界では有名であり、この便箋が届くと拒否権はない。

 だけど、私達の中で便箋が届いたのはリィシャルだけだった。


 リィシャルはなんで私が、と悲しんでいた。

 ただ子供が生まれるまで魔王と共にいさせられ、子供も没収されて、傷モノになって帰ってくる。

 自分が、ただの道具みたいに扱われるのだと、彼女は泣いていた。

 何回も一緒に来てと言われた。

 幼馴染とはいえ、さすがの私もこの願いは聞けない。

 自分の未来を閉ざすといっても良かったから。


 だけど、私にも便箋が届いてしまった。

 なんの不幸かと思った。

 だけど、もうこれで逃げることはできない、二人で乗り切ろうと、一緒に魔王の所に向かった。


 それから数ヶ月、魔王におもちゃのように扱われた。

 性欲の権化のような大男は毎日私達を弄び、私達は皆、ノイローゼになっていく。


 そんなある日、側室の寮で偶然リィシャルの言葉を聞いてしまった。


「妹のライシャルに頼んで、彼女の推薦状を出して良かった……。私だけじゃ、心が持たなかった……」

「――――」


 推薦状――私はそれによってこの場所に来たのだと知った。

 毎日好きでもない男に抱かれる屈辱を、幼馴染は私にプレゼントした。

 許せなかった。

 だから私は――



 リィシャルが妊娠した際、自分も妊娠したと偽り、リィシャルを監禁した。

 ラシュミヌットから事情を話した部下を呼び、リィシャルを拷問にかけた。

 泣きわめこうがなんだろうが許す事はなく、私は欠かさず毎日彼女を殴った。


 かなり衰弱していたからか、11ヶ月経った頃に彼女の子供が生まれた際、リィシャルは死んでしまった。

 その生まれた子供は私の子とし、王血影隊(ベスギュリオス)に預けて私はラシュミヌットに帰るつもりだった――。


 だけど――私は魔王に気に入られていたようで、もう1年以上従事するよう言い渡された――。


 だから思った。

 末代まで呪ってやろう――と。


 書類上、リィシャルは衰弱死、その子供は死産となったが、セイファルが王血影隊(ベスギュリオス)の活動時、どこかの監視カメラに映ったらしい。

 その情報が出てからブラシィエットは私を疑い始めた。

 私もブラシィエットとは戦いたかった。

 ブラシィエットの疑念には答えてやらなかったが、宣戦布告を仕掛け、両国の仲は切れたのだ。






「そう――やっとブラシィエットを滅せるのに、どうして邪魔をするの、サラ?」

「…………」


 私を支えるさーちゃんは何も言わなかった。

 私は体の痛みも完全に引いて、もう立てるようになっている。


「じゃあ矢張り、あなたが姉さんを――!」


 後方から憎しみ混じりの女性の声がある。

 私に似た容姿を持った、あの女性だった。


「ライシャル……貴女が私を恨むの? 私を側室に推薦した貴女が?」

「ツッ! だけど……!」

「大人の事情はよくわかったわ」


 怒りの声をさーちゃんが沈める。

 さーちゃんは私をしっかりと立たせ、私の手を握り、繋いだ手を振りかざした。


「じゃあここに、子供の都合で戦争の終結を宣言するわ。互いの国の姫として――」

『!!?』


 ねぇセラ?と当たり前のように尋ねてくるさーちゃんに、私は頬を引きつらせる。

 ……本来は依頼で来ただけだし、戦争が終わるのは構わない。

 だけど、今の話を聞いて何も気にせず終戦なんて……。


「私達は互いを姉妹と思うぐらい仲がいいの。そりゃあ今まで突っぱねてたけど、私はセラのこと嫌いじゃなかったし、突っぱねる理由も瑞揶のおかげでなくなった。だから、子供同士仲が良いのを、親の理由で引き裂こうとしないでくれる?」

「……サラ、貴女、その子と?」

「そうよ。悪い?」

「認めないわ……!」

「そう思うなら私を倒しなさい」

「…………」


 さーちゃんがそう言うと、フォシャルは押し黙った。

 どう考えても勝てる相手じゃないのはわかっているようだ。


「でも、さーちゃん……私は、結局血も繋がってなかった……。そんな私を姉だって……認めてくれるの?」

「血なんて気にしてないっつってんでしょうが。アンタは何聞いてたのよ」

「い、痛い痛い……」


 頬をグリグリと指で押される。

 さーちゃんは私の事を見て、それから目を伏せて、ため息を吐いた。


「最初こそ姉だの胡散臭い奴だと思ってたわ。私にかかるリスクとか考えても家族とは認めたくなかった。だけど、数日過ごしてどれだけ本気の想いなのかもわかった。今日まで過ごして、リスクとか考えなしに貴女を家族だと、姉だと認めたいわ」


 一度言葉を切り、私を見つめてさらに言葉を綴る。


「今日までずっとありがとう、姉さん――」

「ッ――さーちゃん……!」


 想いの乗った言葉に、私は泣き崩れた。

 姉さん――かつて瑞揶くんが呼ぶのをやめた言葉。

 さーちゃんに言ってもらえればと思っていた言葉。

 その言葉を――今――。


「……うっ……ひぐっ……」

「……泣くんじゃないわよ。だらしない姉ね」

「だって……さーちゃん……」

「……しょうがない人ね」


 頭を撫でられる。

 あぁ――なんでこんなにも優しい。


「姉なんだから、もっとシャキッとしなさいよ」

「うんっ……うん!」

「じゃー泣かないっ。ほらほら、後処理もするんだから、しっかり」

「……頼りになる妹だなぁ、さーちゃんは」

「ふふん、見習いなさい」

「……うん」


 頷いてばかりの私に、さーちゃんは微笑みかける。

 しっかりした妹だった。

 この子となら、戦争も終結させて、その後は会いにくくなるけど、姉妹としてやっていける。

 そんな希望が、ようやく胸の中に降りる――。


「――ふざけないで」


 唐突に発せられた声は、ライシャルさん――私の叔母にあたる人のものだった。


「この戦争で、何人の人が傷つき、死に、どれだけのお金が無駄になったと思ってるの? こんな白黒つかない終幕は認めない。許さない。だから――」


 刹那、天井に大穴が開き、黒い光がそのまま落ちた。

 誰もがそれを魔力光だと理解できる。

 しかし、圧倒的な量だった。

 この広間を埋め尽くすぐらいの――。

 とんでもない手練れが――もしくは――。


 大穴からは5つの影が現れた。

 その全てが、穴から降りて人の形を現す。

 着物服を着た、私達と同世代の少年少女だった。

 漂ってくる魔力で、その正体はわかる。


王血影隊(ベスギュリオス)――」

「私が秘密裏に手配した5人。王血影隊(ベスギュリオス)の中でもトップクラスの戦力の子達よ」

「…………」


 私とさーちゃんは顔を見合わせた。

 王血影隊(ベスギュリオス)が2対5。

 どう考えても勝ち目は薄い。

 ここにきて、5人も敵に王血影隊(ベスギュリオス)が居るなんて――。

 任務のためなら同じ部隊でも殺すのは厭わないだろう。

 瑞揶くんの力で死ぬことはないけど――この戦争は結局、まだ続く――。


「……サイファル。そうか、貴様か。逃げ出したのを思い出したぞ」

「……あぁ、アンタいたわね。模擬戦、いつも引き分けの――」

「貴様らに勝ち目はない。投降しろ」

「投降しても殺すんだけどね、ヒヒッ」

「貴様らに引導を渡してやる」

「…………」


 敵が皆、己の獲物を取り出した。

 私とさーちゃんも、刀を出す。


「……まったく、私達もツイてないわね」

「うん。でも、最後まで」

「戦うわよ!」


 私とさーちゃんは、刀を構え、地を蹴った。

 やっと家族になれた妹。

 ここに終戦を刻まないと、私達は始まらない――。


「阿呆どもが」

「剣の錆にしてやる!」


 敵の王血影隊(ベスギュリオス)のうち、2人が迎え撃つ。

 勝ち目があるのかわからない。

 だけど、この刀を振るって――。

 私は――。




 その時、音が響いた。

 刀のぶつかる音ではない、私達は音を聞いた途端に動けなくなったから。

 聴こえたのは、そう――。

 弦を震わせる楽器の音色――。


「なんだ、いるんじゃない」


 さーちゃんがポツリと呟く。

 その目には諦め半分だったものから気楽なものへと変わっていた。

 彼女の視線、天井に開いた大穴の先に居たのは――。


「――瑞揶」


 さーちゃんが名前を呼んだ人物、その人だった。







 仕事の服――といっても魔力防護の服だけど――これを着て沙羅に会うのは初めてのことだった。

 黄緑の法被(はっぴ)とそれを巻く紫の帯、裾口の閉じた白の袴。

 こんな姿を見られたら魔人と間違えられるかもしれないけど、沙羅の呟きから察するに、そんなことはなかったようだ。


 できる限り2人だけにして姉妹の中を深めようと思ったのは功を成したようだけど、王血影隊(ベスギュリオス)が5人出たと聞いては参加せざるを得ない。

 僕は全員の動きを止め、落ち着かせるために子守唄を演奏した。


「…………」


 演奏を終えて楽器をしまい、沙羅とセラちゃんだけ動けるようにして穴から降りる。


「よいしょっと」


 重力を薄くして難なく着地し、斜めにズラしてつけていた猫さんのお面をつけて、沙羅の前に立つ。

 そしてとりあえず、両手を上げてこう言ってみた。


「にゃーです!」

「あん?」

「にゃーですぅー!」

「うんうん、とりあえずさっきまでのシリアス返しなさい」

「にゃー?」

「殴るわよ?」

「むぅう、ごめんなさい……」


 にゃーじゃダメだったらしい。

 しゅんとした気持ちになるが、沙羅はさらに追撃してきた。


「つかアンタ、最初っからいたでしょ? 施設襲撃した時は爆発させても建物壊れなかったのに、ここ突入するときは窓割れたし、おかしいと思ったのよね」

「だ、だって沙羅が入ってこれないでしょー!?」

「じゃあさっきここで爆発した時、なんで建物壊さなかったのよ?」

「だってあの火力だと、お城吹き飛んじゃうし……」

「じゃあ大穴は?」

「僕が入ってこれないよ……ここ広くて迷子になるし……」

「…………」

「そ、そんな目で見ないでぇ〜っ」


 冷たい目で見られ、僕はお面で隠れている顔をさらに手で隠す。

 うー、沙羅が冷たいーっ。


「……でも、いるなら早く来れば良かったのに」


 セラちゃんがもっともなことを言い、理由を話す。


「あ、今回は【休日の終止符】として来たから、ちゃんとした仕事なんだ〜っ。見て見てお面だよー!にゃー♪」

「……ああ、やっぱ【休日の終止符】ってアンタだったのね」

「えっ!?」


 納得したように頷く沙羅と違い、セラちゃんは驚いていた。

 にゃーです?


「【休日の終止符】って、あれだよね? 毎週日曜日に、世界のどこかに現れて天災を起こすっていう……」

「えー? 天災なんて起こしてないよーっ」

「べ、王血影隊(ベスギュリオス)でも手に負えないって報告があるんだけど……」

「何回か対立したことはあるよ? 撫で撫でしたら仲間になったけど」

「それはどういう理屈なのよ……」

「僕に理屈は通じないもーん」


 笑ってみせると、2人は頬を引きつらせた。

 悪いことはしてないつもりなんだけど、なんでそんな反応なんだろう?

 ……にゃーがダメなのかな?


「よいしょっと」


 仕方ないからお面をズラして顔を出す。

 視界がはっきりしていい感じだ。

 とは言っても、天井の瓦礫が落ちてるからここら辺は廃墟みたいになってるけど。


 さて――。


「そろそろ、相手してあげようかな」


 僕は、5人の王血影隊(ベスギュリオス)さん達の前に立った。

 いつまでも喋れず動けずというのは可哀想なので、能力を解除する。


「……【休日の終止符】、か」

「なんでも構わない。邪魔をするなら排除する」

「酷いなぁ。今日は休みだよ? しかもお盆だしね。それなのに武器を取って人を傷つけようなんて、メッだよ」

「戯言を――!」


 1人が踏み込んでくる。

 魔人――しかも王血影隊(ベスギュリオス)の一歩は風を切り、一瞬で僕の目の前に飛来する。

 振り上げられた刀身が僕を両断せんと振り下ろされる。

 だけど、僕は一歩も動かなかった。


 想像が現実になる力。

 これを用いれば、全ての攻撃が当たらないようにすることだってできる。

 だから――彼の振った刀は、空振りに終わった。


「なっ!?」


 避けられるはずのない一撃が不発だったことに驚き、斬りかかってきた少年の顔は驚愕に染まる。

 ああ、隙を見せちゃったね――。

 まぁ、隙があろうがなかろうが関係ないけど――。


「――伏せ」


 僕はただ一言、なんでもないように呟く。

 犬や猫に伏せと言うように。

 その一言で、目の前の少年は地面にめり込んだ。


「ッ――ガッ!?」


 床は何でできてるんだろう。

 魔界製の特殊な硬い石だろうか。

 それにヒビが入り、メリメリ音を立てて、少年は動かなくなった。


「……風よ」


 また1人、王血影隊(ベスギュリオス)の少女が呟く。


「――土よ」


 さらにもう1人、少年が両手を合わせ、そこから土の龍を召喚する。

 体長は15mぐらいか、岩の両翼に4本の足もある立派なものだった。


「――フッ」


 龍が出現すると同時に、少女の姿が掻き消えた。

 空気を操り、移動の空気抵抗を0にしたのだろう。

 王血影隊(ベスギュリオス)の身体能力で空気抵抗なしの動き、それは瞬間移動のように早く、


 彼女は僕の真後ろに立っていた。

 風の動きで刀を振りかざしているのがわかる。


 同時に、岩石の塊でできた龍も僕に迫る。

 大口を開け、僕を食らわんとして――。


 あぁ、こんなに頑張って――。


 僕には勝てないのに――。


「落ちて」


 また僕は呟く。

 刹那、後方と前方で強烈な音が鳴った。

 目の前では地面に岩石の塊がめり込み、後方を見れば少女が地に這いつくばっていた。

 僕はそれらを一瞥し、まだ無傷の3人に提案する。


「僕の能力は、思ったことをそのまま叶える力。君達にバツが付かないようにするから、大人しく引いてくれないかな? 勝ち目がないのがわからないなら、僕はこの位置から君達を潰すよ?」

『――――』


 誰も言葉を発しなかった。

 僕が圧倒的なのは見てわかるはず。

 瞬間移動に近い攻撃であろうと僕に届くことはなく、巨大な龍も僕に攻撃することもままならない。

 仮に攻撃が届いた所で、僕には必ず当たらない。


「……バツが付かないというなら、無謀な戦いをしたりはしない。俺は降りるぞ」

「私も、高名な【休日の終止符】に戦いを挑んだりはしない」

「……引くか」

「わかってくれてありがとう。って、ああ……行っちゃったし」


 3人の王血影隊(ベスギュリオス)さん達は上の大穴から撤退していった。

 この地面に這いつくばった2人も連れてって欲しかったけど、気絶してるから後でどこかに放置しておこう。


「アイツら……雇うのに幾らかかったと思って……!」


 その中で、ライシャルさんが1人で憤慨していた。

 ああ、一応は格別の傭兵だもんね?高いはず。

 まぁ、戦後処理もある程度は僕の仕事だから、気にしないで欲しいんだけど。


「ひとまず、【休日の終止符】と沙羅、セラちゃんの名を元に、終戦を宣言します。文句のある人は人間界の魔界連合省に【休日の終止符】宛で書状を送ってください。金銭面では僕が全負担しますし、死んだ人も人間界で協議して、許可があれば蘇生します。建物の修繕も紙に書いて送ってくれれば僕が直すので、国の財政とかに影響は及ばない方向に持って行こうと思ってます。どうかな? フォシャルさんと、ライシャルさん」

「…………」

「…………」


 大人2人に対しての提案だったんだけど、2人とも僕を睨むだけだった。

 …………。


「まぁ拒否権はないけどね。これでもまだ戦争をするっていうなら、僕がどっちかの国を、クジで選んで滅します。そんなことで自国が滅ぶかもしれない。嫌でしょ?」

「アンタ、けっこう鬼ね」

「鬼じゃないよ! ねこさんだよーっ! にゃーっ!」


 失礼なことを言う沙羅に襲いかかってみるも、流し目で避けられて終わる。

 酷いにゃー……。


 そんな遊んでいる空気でもないので、コホンと一つ咳払いをし、話を続ける。


「僕としては数日長引いても構わないよ。夏休みだしね。だけど、ここにこうして、争いの火種になったセラちゃんがいて、壊れた物も死んだ人も僕が全部元に戻せる。そう、セラのお母さんだってね――」

『………!』


 僕の発言に、ライシャルさんとセラちゃんが息を飲んだ。

 本当のセラちゃんのお母さんを生き返らせることだって、僕にはできるだろう。

 ただ、拷問されて死んだらしいから、フォシャルさんのことを恨むかもしれない。

 けど、フォシャルさんだって恨んでるからおあいこ。

 2人で許しあえるなら――それが一番良いよね?


「沙羅も言ってたけど、子供同士で仲が良いのに、親のせいで対立とかしたら、それは悲しいよ。人は仲直りできる。できないなんていうのは諦めてるからできないだけ。だから、」


 僕は再三、この場にいる人たちに尋ね――いや、お願いした。


「どうか、争いをやめてください」


 頭を下げてお願いする。


 誰も言葉を発しない。

 静寂だけがあたりを包み込み、風の音すら感じられない。

 誰もが動かない中、1つのため息の音が木霊(こだま)した。


「……ラシュミヌット軍を撤退させてくるわ」


 そう言ったのは、フォシャルさんだった。

 どこか諦めたような目をして、僕達を見比べていた。


「国王に、【休日の終止符】が終戦を求めてると協議してみるわ。子供が仲良しなら、仕方ない。私はこれでも――1人の子の親だから」

「…………」


 フォシャルさんの言葉を聞いて、沙羅だけが複雑そうな顔をしていた。

 まだ母親とか認めてないみたいだ。

 いろいろと、沙羅も話し合う時間か必要だろう。


「で、こっちは?」

「私は、姉さんが帰ってくるなら……」

「……じゃあ、終わりかなぁ」


 ふうっと息を吐き出す。

 今回は仕事量が少なかったけど、随分と疲れた。

 ともあれ、一件落着できてよかった――。



 そのとき、降ってきた。

 3つの塊が、僕を囲うように落下し、地面にめり込む。


「――――?」


 突然の事に、対応出来なかった。

 何が起きた?

 何が降ってきた?

 僕は3つの落下物を確認する。


 それは、さきほど逃げた王血影隊(ベスギュリオス)の少年達だった。


「まったく――君は詰めが甘いなぁ」


 突如響いたその声は、男性とも女性とも取れる中性的で知的な声。

 音源は、空から――。


 開いた大穴から1つの人影が現れる。

 緑の着物の上に金の肩章をぶら下げ、いくつかの宝玉が衣服に装飾されていた。

 青の羽衣を纏い、腰には盾のような草摺をぶら下げ、下に履いてるのは僕のように裾口の絞られた白い大口袴。

 平たい帽子をかぶったその顔は――


「――僕?」

「やぁ、クローン。僕はアキュー・ガズ・フリースト」


 ――またの名を、自由律司神という。



 クツクツと笑いながら彼は、そう口にした。

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