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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第二章:収束するアンサンブル
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第二十四話

 私たち3人はそれぞれ別の客室にあてがわれた。

 全員一緒でも全然良かったのに、おかげで1人で天蓋付きベッドに座りながらテレビを見るという、まぁ私としてはいつも通りの事態になっていた。

 瑞揶とセラについては、知らん。

 部屋でなんかやってるでしょきっと。


「あー、どのチャンネルも面白くないわねー」


 ポチポチとボタンを押してチャンネルを変えるも、人間界と違う番組しかやっておらず、そしてどれもセンスの欠片もない。

 卵を100m下に落として上手く器に入れる大会ってなによ?

 間違いなく黄身が潰れて不可能じゃないの?


「あー退屈。にしても眠くないし、なんなのよ……」


 ボフンとベッドに体を倒し、愚痴を天井に放つ。

 こんなことをしてもどうにもならない現状に唾ばきしたいものだが、どうしようもなかった。


 城の夕食は豪勢だった。

 でも瑞揶の料理も食べたい。

 帰って人形抱きかかえてゴロゴロしながら気がついたら爆睡とか。

 朝起きたら瑞揶がニコニコ笑って朝食朝食言ってるのを見て、私が眠い頭でうんうん唸るのもいい。

 普段の事を考えてしまうのは、あまりにも現状がつまらないからだろう。


「早く来い明日!!!」


 なんて叫んでしまうこと請け合いなのだった。

 が、その直後にノックがある。

 コンコンコンと3回部屋の扉を叩かれた。

 私の叫びにも物応じせずノックとは、なかなか図太い性格ねと判断しながらテキトーに返事を返す。


「なに?」

「フォシャル様がお呼びです。会議室にお越しください」

「あん? ……わかったわ」


 呼び出しに応じて私は立ち上がり、ドアを出るとそこにいた和服の兵士とともに会議室に向かう。

 暇だったから丁度いいかとも思いながら、話の内容を予想した。


(ま、セラと会った日に考えて、もう検討ついてんだけど――)


 そんなことを考えているうちに会議室に着いた。

 シャンデリアの電光に照らされている金髪の女性、フォシャルが上座に座っているのが見える。

 なんで呼び捨てか?私はアイツの事を尊敬もしてないし、ましてや母親だと思うことなんてありえないから。


「サイファル――いえ、今はサラと呼んだ方が良いのかしら?」

「どちらでも構わないわ。取り敢えず来たけど、用件は何かしら?」


 私が催促すると、彼女は悲しげに笑みを浮かべた。


「サラは言葉に容赦がないわね。親子なのに……」

「誰にでもこうなの。一番身近にいる瑞揶にだって、たまにビンタしたりしてるし。人間だから顔が吹っ飛ばないよう手加減するのも辛いわ」

「ああ、あの少年も苦労してるのね……」


 なんとなく憐れみの対象が瑞揶に移ったかもしれないが、おそらく気のせいだろう。

 逸れるかもしれないので話を戻す。


「瑞揶はいいのよ。それで、何?」

「フフ、サラはせっかちね」

「ゆっくりでもいいけど、雑談するつもりはないわ」

「あらあら、酷い子に育ったものね……」


 そう言いながら彼女は立ち上がり、私の元までやってきた。

 ニコリと笑い、私の頭を撫でてくる。

 触られる前に避けたかったけど、さすがに酷いからしなかった。


(…………)


 昔の自分なら、きっとこれは避けただろうなとも同時に思う。

 夏休み前の私は随分と自己中だった。

 今もそうだけど、こう、何も信用できてない人間に頭を触らせるなんて絶対にしない。

 随分とぬるくなったものだと、軽く自嘲する。


 私の薄い笑みに気づいたかそうでないか知らないが、フォシャルは撫でる手を止め、口を開いた。


「サラ――私は貴女にごめんなさいと言いたかった。王血影隊(ベスギュリオス)なんて苦しい所で生まれ育たせてしまったことを、本当に申し訳ないと思うの。今まで、悪い母親でごめんなさい……」

「悪いのは貴女じゃないわ。魔王からの婦人の招集は絶対で、逆らえないのは知ってるし、謝らなくていい。別に私は怒ってないしね」

「そう……。それと、ありがとうも言わなくちゃいけないわ。今回戦況が一変したのは貴女の力のおかげ。セイファルも働きかけてくれたけど、兵を先導し、率先して戦った貴女に感謝します」

「……まぁ、その気持ちは素直に受け取っておくわ」


 戦ったのは完全に手伝いなので例を受け取る。

 自分の功績の大きさはわかっているつもりだから。


「それで、サラ。貴女にお願いがあるの……」

「……なにかしら?」


 内容についてはわかっているつもりだった。

 だけど、ここは今一度聞いておく。

 フォシャルの懇願の言葉が、艶かしい口から発せられる。


「サラ――一緒に暮らしましょう?」

「――――」


 それは(あなが)ち予想通りだった言葉だった。

 わかっていたはずなのに、なぜだか私は閉口してしまう。

 フォシャルは私が驚いて何も言えないとでも思ったのか、穏やかに、緩やかに、自分の事と私へのメリットを説明し始めた。


「急に悪いと思うわ。けど、貴方が今、どういうわけか自由の身である。それなら、今からでも家族はやり直せると思ったの。自分がお腹を痛めて産んだ、自分から産まれた貴女が、側にいてほしい。ゆくゆくは私の後を継いだり――そうすれば、何一つ不自由しない生活が送れるわ。貴女が望むことはなんでも――」

「悪いけど、その願いはきけないわ」


 言葉を遮り、私は正直に言い放った。

 数秒、互いに沈黙する。

 わざとらしく悲しげな表情を作るフォシャルは私を気にかけるように問う。


「何か気がかりなものがあるの?」

「私は現状、何不自由なく暮らしているのよ。それに――」


 私には、まだ解決できてない問題がある。

 瑞揶の過去について、まだ私は何も知らないんだ。

 そんなまま家を出るなんてありえないし、恩返しも何一つしてない。

 それに、瑞揶は私が出てったら100パー寂しがるし、いじける。

 面倒な居候かもしれないけど、私はそれでも瑞揶の役に立ってるし、何より、


 今までの楽しい人生を共にしたパートナー――家族と別れるなんて選択肢はない。


 これら全てをひっくるめて一言にまとめると、


「――私は瑞揶と一緒にいたいのよ」


 と、なってしまう。

 フォシャルは眉を跳ねさせたが、落ち着いた声で再三問う。


「じゃあ、瑞揶くんも連れて来なさい」

「そうはいかないわ。もう私達には生活があるの。やっと築いた今までを無駄にするなんて嫌だし、私達は納得できない」

「……やっぱり、私に似て強情ね」

「強情なのは認めるわ」


 こうでもないと、組織ではやっていけなかった。

 セラみたいな弱気なのがすぐ死ぬけど、仕事ぶりを見ていたらマトモだからあれは例外ね。


「どうしてもダメ?」

「ダメね」

「なんでも手に入るわよ?」

「もう満たされてるわ」

「……そう」


 フォシャルはため息を吐いた。

 その眉が落ちているのを見て、諦めたのだと理解する。


「――また明日、勧誘するわね」

「いいけど、その前に瑞揶を(そそのか)したりしないでよ? アイツ、見た目ほわほわだけど中身は豆腐より柔らかいから」

「肝に銘じておくわ――」


 唆さないとは言わないのね。

 それがわかってたから釘を刺したんだけど。


 それだけ言い残して私は踵を返し、会議室を後にした。

 カンカンと踏み鳴らす下駄が煩く、大ぶりに手を振って歩く。

 わかっちゃいたが、結構腹立たしい。

 この私を、引き取ろうとか


(どんな権利があってそんなこと言ってんじゃこのヤロォオオオ!!!!!)


 なんてことは言えないけど、私は一先ず報告のために瑞揶のいる部屋に向かった。


「瑞揶!入るわよ!!」


 ノックもなしにドアを開ける。

 しかし、中は電気も付いておらず、ベッドに瑞揶の姿もなかった。


「……あら?」


 どっか出払ってるのかしら?

 そんなことを思いながら中に入って電気をつける。

 すると、机の上に一枚の紙を発見した。

 B5サイズのそれを手に取って書かれている内容を読み上げる。


「なになに? 〈明日は日曜日っ。僕は仕事があるから一旦戻ります。夕方までには戻るか、もしくは仕事の内容が今回の戦争だと思うから、その時にまた会おーねっ。勝手に出て行ったのは、魔界じゃ携帯繋がらないからごめんなさい。お詫びに家の煎餅置いとくね。by瑞揶〉……はぁ、そう」


 釘を刺した意味がなかったようだ。

 もういい、自室に戻るのもめんどいからここで不貞寝しよう。


 そう決めて、私は電気を消してベッドにダイブした。







 一方その頃、城の懲罰房。

 人が今までにない数収容されている中で、4〜5人だけその枠から外れ、(はりつけ)にされていた。


「お髭さん、お髭さん」


 その中の1人に、私は声を掛けた。

 昼頃、私とさーちゃんで戦った男。

 彼は私の声に反応して顔を上げ、私の顔を覗いた。


「……貴女は」

「セイファル……ううん、今はセラと名乗ってます」

「……そうですか。セラ様、セラ様か……。貴女が……」

「…………」


 矢張り、何かある。

 私はこの男の前に来て、改めて思った。

 戦いの最中に謎めいたことを言っていたが、私はそれを確認しに来ていた。


「セラ様、貴女は騙されている。一刻も早くこの国からお逃げください」

「騙されて……」


 お髭さんの言ったことを復唱しようとして、そんな事はないと頭を振るう。

 騙される?何が?

 私はここに依頼で来ただけで、母さんとの親子関係も私が物心つく前からのものでこれも騙されているとは言えない。


「貴方は一体、何を騙されているとは言うのですか?」

「それは――」

「セイファル」


 突然呼ばれた名前に、体がピクリと跳ねる。

 振り返った先には、母さんが立っていた。


「き、貴様! 我が国の――」

「黙りなさい」

「グッ!?」


 男が何かを言おうとして腹部に拳を入れられて失敗する。

 殴ったのは私ではなく、母さんだった。


「下劣な男が。余計な事を言わなくていいの。どうせ明日には終わりそうだしね」


 さーちゃんみたいに言う母さんに、私は驚いた。

 こんな暴力的な事をするなんて思わなかったから。

 けど、さーちゃんを見ていたら納得できてしまう。


「セイファルも、こんな所に来て……こんな男の口に耳を傾けるなんて、どうしたの?私が信用できないの?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「なら、戻りましょう?夜ももう遅い。フフ、ほら?寝ないと美容に悪いわよ?」

「こ、これぐらいの夜更かしは平気だよっ!」


 今の時間はおよそ23時、まだ寝るには早い。

 母さんはにこやかに笑い、私の頭に手を置いた。


「明日もある――眠りましょう?」

「うん……」


 母の力には敵わず、結局聞きたいことは聞けずじまいとなった。

 だけど、少しだけ疑惑ができる。


 母さん――貴方はなんてタイミングで現れるんですか。


 それはまるで、男の言葉を私に聞かせないように――。


(――考え過ぎ、かな)


 深読みといえば単なる深読みだった。

 親として止めてくれた、そういう風に受け止めるのが子供として私のすること。

 そう、単なる懸念だ。


 母さんが、本当の母さんじゃない、なんて――。

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