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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第二章:収束するアンサンブル
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第二十三話

 ラシュミヌットの迎撃体制は万全だった。

 3万人もの兵が城を取り囲み、陣形を作って待機していた。

 各隊の班長から兵士全員に、今回の戦いで必ず死なないことは知られているはずで、全員が全力で迎え撃つであろう。

 夜が来る。

 ブラシィエット軍の攻撃は――まだ来ていない。


「月は、青いんだね」


 隣に居るセラちゃんに向けて、僕はそう呟いた。

 すると彼女はニコリと笑って答える。


「うん。日中は赤く、夜は青く。それが魔界だよ」

「……静かな感じ。荒々しい戦いが起こるとは、思えないぐらいに」


 体全体で感じる静けさを言葉に出す。

 静かなのはきっと、僕らが最後尾に居るからなのだろう。

 沙羅が最前部にいるとはいえ、万一のことを想定して王族をすぐ守るためにセラちゃんは最後部だった。

 僕はどこにいてもいいという、半ば戦力外通告のようなものを受けてしまい、超能力であちこち移動していた。


「静かだから。そう思い込むのは、油断だよ?」

「あはは、手厳しいね。痛いかもだけど、誰も死なない戦いだから問題ないのに」

「最善を尽くす事に全力を尽くす。私の“家族”のために――。私は、それだけだよっ」


 ニコリとセラちゃんが笑う。

 家族のため――それは沙羅とフォシャルさん、または僕も含んでいるかもしれない。

 僕としては、今回のことが家族仲を深めるものになればという思いもあるけど、よかったら僕も仲良くなれればって思えるなぁ。


「……ねぇ、瑞揶くん」

「うん?」

「戦争が終わったら――話したいことがあるの」

「……うん。わかった」


 お互い笑顔で、僕は了承する。

 戦争が終わった後、そこには別れがある。

 話したいことがあるというなら、今聞くようなことはできない。


「じゃあ僕は、沙羅の所に行ってくる。がんばろーね、セラちゃん」

「うんっ。瑞揶くんも、頑張ってね」


 互いを励まし合い、僕は転移をした。

 瞬きをした瞬間、目の前に立っていた相手はセラちゃんから沙羅に変わる。


「あら、来たの?」


 僕に気付いて、沙羅は腰に手を当てながら少し不満げに言う。


「来たよー。僕も戦うって言ったでしょ?」

「そう。まぁ私も言いたいことがあったし、来てくれて良かったわ」

「言いたいこと?」


 なんだろうと僕は首をかしげた。


「瑞揶は、不意打ちしてくる敵に正々堂々戦いを挑むと思うかしら?なんせ、正々堂々行ったら不意打ちに会うのが目に見えてるのよ。それはないわよね?」

「……うーん、そうだねぇ」


 相手が不意打ちしてくるなら、僕だって不意打ちすると思う。

 そうじゃないと、自ら罠にかかりに行くようなものだから。


「じゃあどんな不意打ちが来るか。とりあえず私達はこんなわかりやすく軍を配置している。まぁ雲の上にたくさん伏兵いるんだけど、それは無しにしてどうかしら?」


 ――瑞揶ならどう攻める?



 意地悪な笑みを浮かべて、沙羅はそう問うてきた。

 空の兵を無視し、この地平に並べられた軍隊を見て、どう攻めるか。

 地上にいるなら、空からの集中砲火か、巨大な爆弾でも――。


「――え?」


 そこで僕は空を見上げた。

 こうなることが予測できた沙羅は、同じ空を見て不敵に笑っている。


「瑞揶、アンタが防がないと全滅ね」

「……ひゃ〜」


 空からは、大型の爆弾が降ってくる最中だった。

 風邪を切る音すら聞こえる鉄と火薬の塊は、ブラシィエットからの意趣返し――。


「なんで沙羅が防がないのぉぉおおお!!?」

「魔力温存よ。ほら、早く早く」


 沙羅が僕の背中を叩く。

 あー、あれが落ちたら何千人が戦闘不能になるんだろう――。

 そんな思考を頭の片隅に追いやり、僕は空に手をかざす。


「止まれ」


 ただ呟く。

 爆弾に向けられたその言霊はすぐに効果を発揮し、落下する爆弾は磁力が釣り合ったかのように地表への吸い寄せをやめた。


「あー、ほら。あっちとあっちにも落ちるわよ」

「わわっ、止まって止まって〜っ」

「向こうも」

「沙羅、僕の扱いが雑過ぎるよ」


 そんな軽口を言いながら、空中で停滞する計5つの爆弾を“消す”。

 危ないもんね、あれ。


「危なかったねーっ」

「まぁ私達の頭上5mにつんよい結界張ってあるから心配ないんだけどね」

「……それじゃあ、僕が能力使ったの損だよね」

「魔力の消費コスト抑えてんのよ。アンタの超能力は消費コストとかないでしょうが」

「ま、まぁね……」


 だからってこの扱いの雑さにはショックを受けずにはいられない。

 あーでも、いつものことかぁ……。


「とりあえず、これで敵は爆弾が効かないことを知った。後は強行手段として戦闘になるわ」

「あっ、本当だ」


 上空に次々と人が転移してくる。

 100、200、そんな、数では足りなくて、1万人はゆうにいるんじゃないだろうか。

 月を隠すほど群がる空の軍隊は、地上に向けて無差別に砲撃を放ってきた。

 夜を彩るネオンライトのような魔力光は魔法の結界に阻まれる。


 魔力同士のぶつかり合いは爆発を生み、衝撃音が至るところから発生する。

 それによって否が応でも――戦いが始まったと認識できる。


「瑞揶、どうでる?」


 隣の沙羅が魔然とした様子で僕に尋ねてくる。

 うーん、どうしようかな。


「夏祭りに行けなかったから、“花火”で」

「……敵を打ち上げる的な?」

「ううん、あそこに花火発生させるだけ。結構なダメージになると思うよ?」

「戦時中の発想とは思えないわね。まぁいいわ。アンタが戦うまでもなく、私がアイツら薙ぎ払うから――」

「魔法は予備動作あって遅いよーっ」

「むうっ……」


 不満げな沙羅に足を踏まれる。

 痛い……けど我慢。


 会話を途切らせて、僕は左手の人差し指を、空に向けてかざす。

 沙羅は刀を赤く光る弓へと姿を変化させ、魔力の矢をつがえた。


「それ〜」


 僕のなんてことない言葉で、指差すところに光の花が開く。

 赤と緑の花火、それは多くの敵に直撃したことだろう。


「えいっ、えいっ」


 腕をくるくる回し、花火の発生地点と色、大きさを変えて大量発生させた。

 不意に出現する花火対策に魔法の防護壁が貼られてしまい、1個も当たらなかったけどね。

 痛い思いさせるのは好きじゃないから、これでいいかな。


 そんな僕の攻撃を他所に、ブラシィエットの近接部隊の人だろうか、こちらの結界を破って交戦しては捕まったり、ラシュミヌットの伏兵が上空からブラシィエット軍に集中砲火を浴びせたりと、中々戦いは戦いらしくなっていた。

 まぁみんな明日にはピンピンしてるだろうけどね。

 死なないっていいなっ。


「これで終わりにするわ」

「ん――?」


 隣を見れば、沙羅が赤い矢をつがえ、彼女の周りには野球ボールぐらいのものからバスケットボールぐらいのものまで、いろんな大きさの赤い魔力球が発生していた。

 空に展開しているものも多く、その数は軽く100を超えている。


「瑞揶、知ってた? 力があるものと力なきものの戦いは一瞬で終わるのよ」

「にゃー?」

「……もういいわ。【羽衣天技】――」


 バチバチと魔力球から稲妻が発生する。

 わーっ、なんか強そう。

 ワクワクしながら僕は沙羅を見ていた。


「――【七千穹矢(ななせんきゅうや)】!!!」


 魔法の名前を告げるとともに、彼女は矢を放った。

 空気を切って進む矢を先制に、全ての魔力球が同速で飛翔する。

 空気抵抗がある魔力球は形を変え、全てが細い矢のようになった。


 超速の矢の大群、それを避けることは容易ではないが、敵も高度が結構なために躱すであろう。

 だが、次の瞬間に、


「――()ぜろ」


 矢の飛来した先は、全て爆発した。

 轟音が唸り、爆風が空を埋め尽くす。

 何千、何万、そんな人の数を瞬く間に飲み干す一撃の爆発であった。

 一斉に落ちる敵達を僕は超能力でゆっくりと下ろしながら、思考を巡らせる。

 そして一つの結論にたどり着き、沙羅にこう言った。


「花火じゃない!?」

「誰もそんなこと言ってないでしょうが」


 空に打ったから花火にでも、ということではなかった。

 それが当然と言えばそうなんだけどね。


 こうして夜の襲撃は終わりを告げた。







「流石だなぁ、さーちゃん……」


 空に広がる爆煙を見ながら素直にそう思う。

 自分にも同じことができるスキルがある……というのはそうだけど、同じ威力を出せるかと言われればそうではない。


【七千穹矢】――あの魔法は何百という魔力球を制御し、うまく魔力を圧縮しなければならない。

 性質は火と雷、どちらかというと火よりの魔力を比率よく加えていくのは【羽衣天技】が使えることを前提とした訓練が必要。

 そんな訓練を受ける機会なんてあるわけがなく、あの技術は自主練で鍛え上げたものなのは察せられる。


 そして、昼の戦いでは自分の動きを見切って足を捕まえてきた大将を相手に、剣で負けず、魔法と組み合わせてあっさりと倒してしまった。


【空転移】は自身を数秒間透過する魔法。

 これも使える人が少ないが、魔王の血が混じった王血影隊(ベスギュリオス)であれば使い手も少なくはない。

 だけど、透過がすり抜ける途中に解除されれば即死にも繋がり、使い勝手がいまいちよくない魔法である。

 平然と使うあたり、さーちゃんは見た目以上に度胸と決断力があると言えた。


 自分にはないものを持った妹。

 羨ましさよりも先に、純粋に凄いと思えた。


「出番なし……かな?」


 空にポツポツと残っている敵兵も転移で続々と帰還していて、私の出番はなさそうだ。

 これで1日が終わり……あとは明日、ブラシィエットを降伏させて終わり。

 夏祭りがあるから早く帰りたいんだろうけど、明日にはさーちゃんや瑞揶くんと別れる。

 そう思うと、胸が痛くなる……。


 折角ここまで仲良くなれたのに――。


 そういって離れられなくなりそうな自分が、心に1人点在していた――。

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