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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第二章:収束するアンサンブル
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第二十一話

誤字脱字、その他ご指摘よろしくお願いします。

 場外、平地。

 赤い空が広がる世界のもと、そこでは襲撃地点の書かれたものと帰りの付箋を陣形を整えたまま渡され、3000人あまりの人が集結していた。

 僕がいるのは後方部隊の一番前、沙羅とセラちゃんがいるのは部隊全体の最前部で、沙羅は今、マイクを片手に宙に浮いている。


《あーあー、聴こえるわね?》


 沙羅の声が響き渡り、風の音も聞こえなくなる。

 みんながみんな声の主に目を向けていた。


《私はフォシャルと魔王から生まれ、王血影隊(ベスギュリオス)で生きてきた女、サイファルよ。今回の作戦の指揮と前衛を担当させてもらうわ》


 そこまで言った所で、ざわざわとどよめきが押し寄せた。

 いきなり皇族の隠し子のようなものが現れたら驚くのは当然だろう。


《あー、注目しなさい。今回の作戦はアンタらの大将も承諾済み。とりあえず緊急招集で集まるだけ集めてもらった兵がこれだけいたわけだけど、使えない奴は死ぬだけよ。聞いてると思うけど、作戦は簡単。今回は爆弾落とした敵地から気を失った奴を捕虜として捕まえてくるだけだけど、それでも死ぬ奴がいるかもしれない。やる気がないなら今すぐ去ってもらって結構よ。少し時間を置くわ》


 そう言って沙羅はマイクの電源を切り、目下を見渡した。

 僕が見る限りでも、誰も逃げ出している気配はない。

 3分が経っただろうか、沙羅は再びマイクを口の前に持っていく。


《よろしい。ではこれより、作戦を開始するわ! 爆弾投下部隊が任務を終えたら私に通信が入る。通信が来たら私がまたマイクで言うから、全員付箋を付けて転移! そして敵を見つけ次第拘束よ。国のために奮い立つ、諸君の健闘を祈ってるわ!》


 すると沙羅は自信に付箋を貼り、その姿を消した。

 全体指揮だから、爆弾の方に行ったのかな。

 待機で暇している間、僕は頭上のうささんに牧草を与えるのだった。







 ヘリに積める爆弾の重量は軽度でなければならない。

 でなければそもそも飛ぶことが困難なのだから。

 しかし、魔法が使えるのならばそんな道理は関係ないのだ。


「サイファル様、目標から高度9000mで滞空中です。いつでも投下できます」

「そ、わかったわ」


 軍用ヘリの中で、大将の男からの報告を聞いた沙羅はそっけなく返した。

 ヘリの外には全長約30m、幅15mの大型爆弾が待機してあるのだ。

 重量20トン近くあるこの爆弾を浮遊させているのは大将の魔法の力であり、指示一つで落下させられる。


「……落下は風向きを見て慎重にやりなさい。私は戻るわ。投下したらすぐに通信を。煙が晴れたと思えたら突入させるわ」

「ハッ!!」


 大将の返事を聞くと沙羅は頷き、また転移付箋で城の外、平地に戻っていった。













 同刻、ファユニス軍特設施設。

 表立っては総務省と書かれているその施設だが、その実は国境付近の特設軍施設であり、ブラシィエット国の辺境に位置している。

 ほとんどこの特設施設は使用されず、今回の戦争のような場合に軍の本基地が狙われる時に使用されている。

 とはいえ、まだ本基地が破壊されたわけではない。

 本基地は有事の攻撃に備え、常に防護壁を張り巡らせており、そもそも攻撃すら通らないのだ。

 このような施設、基地は他にもあるのだが、国境付近の施設は特に人が多く配備されていた。

 しかし、この場所は秘密であって国民の殆どにも存在は知られておらず、スパイなどにも気取られないために結界は張っていなかった。


 しかし、今回はそれが仇となる。

 ラシュミヌットには既にこの基地の情報がリークしており、今回狙われる定めとなったのだ。


「いやぁ、午前の訓練も大変だったなぁ」

「ははっ、おかげでこの一服が美味いぜ」


 施設の外4階にあるステンレス製の螺旋階段に、軍服を着込んだ2人の男がいた。

 午前の訓練を終え、タバコを手に談笑しているのだ。


「あー、天気いいなぁ」

「天気予報じゃ、雨は降らねーよ」

「そうだったなぁ」


 空を見上げながら2人で言葉を紡ぐ。

 魔界の赤々とした空は今日も太陽の光が照らされていて――


「……ん? なんだあれ?」

「ああっ?」


 空を見上げながら、一人の男がもう一人の男に尋ねた。

 2人揃って空を眺めると、黒い点があって――それは徐々に大きくなる。

 黒い物体の正体を察した男達は慌てて施設に乗り込み、叫んだ。


『爆弾が降ってくるぞぉぉぉオオおおおお!!!!』



 刹那、轟音が響き渡った――。







《総員、転移開始!!!》


 沙羅がマイクを用いて叫ぶ。

 次々と人が消えていき、僕も自身の胸元に付箋を貼った。

 一気に視界が暗転し、気がつくと総務省と書かれた建物の前に立っていた。

 爆弾を落としたのに建物がそのままなのも僕の能力のせいだったりする。

 建物が木っ端微塵になって、その際に瓦礫が人を押しつぶしたり刺さったりしたら、死人が出るかもしれないからね。

 だけど、内部の人にはしっかり衝撃波が与えられているはず。


 その確証を得るために、僕は外から施設の内部を見た(・・)

 廊下で倒れている人々、訓練場で倒れ伏せ、壁に吹き飛ばされている人たち。

 血を吐いている人は極少数で、これなら死人もいないだろう。

 しかし――


「猛者だなぁ。立ってる人がいるなんて」


 僕は感嘆して呟く。

 十数人ほど爆発に対応したのか、動けている人がいた。

 それぞれが留まったり外に逃げたりと反応を示している。

 留まっている人は戦うつもりなんだろうか。

 だとしても、先陣を切ったのは沙羅だ。

 僕自身が沙羅の力を知らないから何も言えないけど、幾千と人を殺したと彼女は言っていた。

 百戦錬磨の彼女なら、一人二人は物の数ではないだろう。


「とりあえず、1回目はつつがなく終了、かな」


 軍の人々が次々と狭い入り口から侵入していく様を見ながら呟く。

 多分、あの建物に3000人もの人数は入らないだろう。


《施設への突入はもういいわ! 残りは外で待機! 逃げた奴がいるから援軍に備えなさい!》


 と、ちょうど聞こえてきた沙羅の声に、軍の人たちはこの施設を囲うように散り散りとなる。

 結界も張ったようで、もうここは完全に乗っ取った。


「順調だねー、うささん」

「ウブゥ」

「背中もふもふ〜♪」


 一方、僕は施設の物陰でうささんの背中を撫でていた。

 気持ち良いのか、うささんも耳をパタパタさせて反応する。


「順調そうでよかったね、瑞揶くん」

「ん……そうだね、セラちゃん」


 黄緑色の着物と羽衣を纏ったセラちゃんがやってきて、僕の隣に腰を下ろす。


「沙羅もそうだけど、セラちゃんも着物似合うね」

「えっ? あ、う、うん……ありがと」

「僕は制服だからなぁ〜」


 言って、自分の夏服制服を見る。

 普通のワイシャツと、紺のスラックス。

 ……ネクタイでもしようかなぁ〜。


「僕も、日曜日には和服着れるんだけどね〜」

「日曜日……?」

「あはは、仕事でして……」

「……?」


 セラちゃんがはてなを浮かべてるけど、どうせ明日の依頼はこの戦争を終わらせることだから、いいや。

 他国に被害を出し、人間界は貿易で稼いでるとはいえど、そのせいで貿易してない方の国に狙われることもあるとかなんとか。

 そういうニュースも見てるから、明日は間違いないかなぁ〜。


 因みに、服装は魔法を防ぐために和服で、黄緑の袖の長い法被と白い大口袴を裾口の狭くした奴だったりする。

 お腹に巻く帯は紫。

 もちろん全部僕の案で、素顔がバレないようにひょっとこのお面をつけている。

 明日は沙羅にその姿を見られるんだろうけど、ひょっとこの付けてたらバカにされそうだなぁ〜。


「……ねぇ、瑞揶くん?」

「うん? うささん欲しい?」

「ち、違くてっ!そ の……ふ、2人だね?」

「まぁ、そうだね〜」


 周りには辺りを見張るラシュミヌットの人がいるけど、僕たちは2人といえば2人だ。

 膝下にうささんもいるけどね。

 もふもふ〜♪


「み、瑞揶くんはなんとも思わないの?」

「なんとも? う〜ん……こういう時は平常心が大事だから、ある程度は無心だよ?」

「うう、瑞揶くん、朴念仁だ……」

「ああっ、うささん〜っ」


 セラちゃんにうささんを取り上げられ、彼女にうささんは抱きしめられる。

 僕のもふもふするものがなくなってしまった。

 家から何かとってこよーかなー?


「いーなーうささん。私も撫でられたい……」

「そうなの? 撫でる〜♪」

「わ、わーっ……」


 セラちゃんの要望に応えて黄緑色の頭を撫でる。

 アホ毛の上からでも髪の毛サラサラで柔らかい。


「……良い髪だね」

「え、う……も、もっと、頭だけじゃなくて、いろいろ触っても……」

「いろいろ?」

「な、ななななんでもないっ!」

「んー?」


 急に口を閉ざし、顔を赤くさせて湯気を出すセラちゃん。

 いろいろ触る?ぎゅー(ハグ)して良いってこと?

 ぎゅーしても良いけどね、今はさすがにダメかな。


 なんて、そんな、平和なことを考えていて、

 こういうものは急に壊される。


 ――ドォン!!


「ん……」

「なに!?」


 爆発音を聞いて、僕とセラちゃんは上を見上げた。

 ああ、やっぱり来るよね――。




 結界の上、そこには無数の魔人たちが砲撃を浴びせる瞬間だった。

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