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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第二章:収束するアンサンブル
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第二十話

 フォシャルさんの言葉を聞いた瞬間、沙羅の顔は「それ見たことか」と言いたげな表情でガックリ肩を落とした。


「今ならニュースでもやっていると思うけど、それよりずっと前から小さな抗争があって、近年漸く戦争に発展したの。力の差は殆どなくて、まさしくジリ貧戦。こんな時代だから、軍隊も人が少ないし仕方ないのもあるけど、民間人に迷惑が掛かるのが、皇族として申し訳なくて……」

「それで短期決戦、ね。昔がどうかは知らないけど、今の時代なら魔人だろうが人間だろうが、1万人も死にゃ恐怖で降伏するでしょ」


 母の言葉を聞いて、とてつもない事を平然と言ってのける沙羅。

 人死に自体が悪であり、身近に感じない現代において、1万人も殺戮するならそれは確かな恐怖になるだろう。

 でもそんなの、僕は許せない。

 むふぅーと頬を膨らませてみても、セラちゃんに指で突かれて萎んでしまった。

 なにするのさーっ。


「瑞揶くん、そう膨れないで。でも、確かに殺す必要はないよ。私もさーちゃんも、【晴天意(せいてんい)】で光の当たる範囲に【魅了】で眠らせればいいもの」

「そうね。自由の身である今の私に人を殺す理由もないし、戦争だからって殺すつもりもない。それに――」


 言葉の途中、ちらりと僕を見る沙羅。

 その目はどこか冷めていて、口元もへの字になっていた。

 知らない魔法を言われてもわからないし、僕は疑問符浮かべてるだけなんだけど……。


「……コイツの目の前でだけは殺したくないわね」


 悲しい音程でそう口にした。

 いろいろな思いを込めてそう言ったのだろうけど、それは勘違いだ。

 僕はできるだけ明るい口調で否定した。


「何言ってるの沙羅。僕がいる以上、どんな理由でも誰も殺させはしないよ?」

「ま、そーなるわよね」


 僕の言葉を聞いた途端、ケロリとして沙羅はまた深く椅子に座りなおし、みんな口を閉ざす。

 フォシャルさんは僕の能力を知らないからはてなを浮かべ、セラちゃんは何か考えるように口元に手を当てていた。

 沙羅だけは平常運転で、また口を開く。


「で、殺させないって、具体的にどーすんのよ?」

「僕はどうやってもいいんだけどね……。沙羅達が戦えないのもかえって危険だから、魔法で外傷が付かないようにしようかな。それなら誰も死なないしね」

「むしろもう戦わないで降伏させちゃえば良いんじゃないの?」

「相手にも戦う理由があるはずだし、無条件で降伏させるのはよくないよ……。仕事ならそうするんだけど、今回は私事だしね。相手の思いを知らないと……」

「……そう。使えないわね」

「うぐっ」


 沙羅の言葉が胸に刺さる。

 ああ、僕って今回全く関係ないし、使われるのが間違いのはずなのに……。


「そんじゃあ結局、戦えばいいのね」

「そうみたいだね……。でも、死ぬっていうリスクがないし、安心して戦えるよっ」


 沙羅の言葉にセラちゃんが頷き、なんとなく状況を察したフォシャルさんは話を聞き入っている。


「何か他に要望があったら、いくらでも僕がきくよ?」

「じゃあ私には敵の攻撃の命中率を0にして」

「え、えと、私は広域範囲の魔法を、通常の範囲の100倍に……」

「……さすがに許容できないんだけど」


 2人の要望は断ることにした。

 無双されるのは結構だけど、それで絶望する人もいるからね……。


「とにかく! 短期決戦よ!! ……そうじゃないと夏祭り間に合わないし」


 沙羅が意気込んで言う。

 後半は小声だったけど、僕は普通に聞こえてしまって頰が緩みそうになった。


「フォシャルさん! 軍の指揮をとらせてもらうわ! いいわね!?」

「ええ。指揮できるのであれば、あなた方に任せたいわ」

「ありがと。とにかく、敵の戦法を聞きに行きたい。参謀はどこにいるのかしら?」

「城内に大将の男が数人いるわ。参謀含め召集をかけましょう」

「お願い」


 自分の血の繋がった母親に指示を出していく沙羅。

 こうして見ると、優れた指揮官のように思える。


 全員を部屋に入れるには狭いということで、僕達も部屋を移動することになる。

 国王も含め、会議室で行われる事になった。

 お城で会議室?とも思ったけど、現代だから仕方ないよね。

 ともあれ、内部は中世にありそうなもので、赤一色の床にロウソク立ての置かれた長テーブルに20席ばかりある木製の椅子。

 僕は特に何も思わなかったけど、沙羅なんかは「おー、テレビで見るような感じねー」と感嘆していた。


 お髭を生やした皇帝様やムキムキの大将さん達も揃ったようで、会議開始となった。

 沙羅達は王血影隊(ベスギュリオス)で戦の兵法を習ってるから話せるらしいけど、僕はそんなものなくて、多少戦争に赴いてるといっても1日ずつだから戦い方なんて知らないに等しい。

 つまり、すっかり蚊帳の外だった。


「うささ〜ん♪」

「ムゥッ」


 超能力で召喚したうさぎさん(常連)を膝の上に置き、頭を撫でて安らぐばかり。

「其処の男はほっといていいのか?」と言われてた気がするけど、沙羅が「秘密兵器」と言ったら黙ってた。

 うささんの首を撫でてたら会議も終わり……終わる? ずっとうささんもふもふしててもいい?


「ダメだから。つーかこれから攻めに行くから、アンタも来なさいっ」

「あいたっ」


 考えが読まれたのか、沙羅に頭を小突かれる。

 ああ、まだお昼にもなってないものね。

 攻めに行くのは道理だよね。


 気がつくと周りには沙羅とセラちゃんしかおらず、会議は終わったようだった。


「作戦はどうなったの?」

「魔法を使っても傷つかない、ただ痛みはあるなら気絶させまくればいいってことになったわ。当然だけど、銃や爆弾だってあるのよ」

「それも含めて痛みだけにするけどね」

「そうだと思ってたわ。だったら広域攻撃できるものを使っても全然問題ない訳で、巨大爆弾を落とす事にしたわ。街一つ、軽く吹き飛ばすぐらいのね」

「……うわぁ〜」


 結構杜撰だけど、わかりやすい作戦だと思った。


「そしたら転移付箋を使って、着弾地点に戦闘員を向かわせて敵を捕まえ、捕虜にする。そうすれば、何千人か集まるわ」

「2〜3回それをする、と?」

「ええ。どうせ敵の軍隊なんて数万から多くて数十万人しかいない。1万人を1日で捕虜にされたら、どうなるでしょうね?」

「…………」


 圧倒的な実力差を前にひれ伏すだろう。

 うわぁ、えげつない……。


「もちろん、敵の軍隊駐屯地に落とせば敵戦力の殆どを確保できる可能性もある。不意打ちだから気づかれることもなく、ね。けど、運やカンの強い奴なら防ぐわ。そういう奴の相手を、私とセラがしておしまい。どうせ今までジリ貧戦で人数も減ってる。今回で根刮(ねこそ)ぎ減らせれば目出度く終戦よ」

「……決着、着くといいね」

「そうね」


 つまんなさそうに沙羅は目を伏せ、項垂れた。

 んん?


「どうしたの?」

「どうしたの、じゃないわよ。もう戦いとかごめんなのに……。しかも、今回の事でマークされたらたまったもんじゃないわよ……」


 はぁ……とため息を吐く沙羅。

 僕はそんな彼女の頭の上に、うささんを乗せる。


「……?」

「僕だってマークされたくないから沙羅の気持ちもわかるけど、こんな時にしょぼくれてたら大変なことになるよ?」

「ならないわよ。たとえ私が死にそうになっても、どうせ助けてくれるんでしょ?」

「えー、どうしようかな〜?」

「アンタが薄情なことしないのは知ってるから、そんな風に意地悪しても無駄よ」

「あはは、ごめん〜」


 信用されてるのかされてないのかわからないけど、助けることは間違いないから沙羅もその辺は気楽なのだろう。

 沙羅の情報が漏れることを懸念されても、僕がそんなことはさせないのに。


「2人とも、そろそろ行くよ? さーちゃんは指揮担当なんだから、早めにね」

「わーってるわよ。これ、セラにあげるわ」

「……なに、これ?」


 頭の上に置かれたうささんをセラに渡し、沙羅は部屋を後にした。

 僕も移動?

 どこに行けばいいかわからないし、セラちゃんについて行けばいっか。


「可愛い〜っ」

「ムウッ」

「ヒャッ!? ゆ、指噛まれた……」

「セラちゃん、うささん返して〜」

「えっ? あ、うんっ」


 セラちゃんからうささんを返される。

 白いそれを優しく抱きとめて頭を撫でると、セラちゃんがクスリと笑った。


「瑞揶くんは、こんな時でもいつも通りだね」

「あはは、僕は現場に慣れてるから……」

「……瑞揶くんといると、私も落ち着くかも」

「……今回、平和的に解決できるといいね」

「うんっ……」


 2人揃って微笑む。

 できるならば、何事も無く終わることを願って――。

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