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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第二章:収束するアンサンブル
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第十六話

 セラ――姉さんが来て、2日目の夜が訪れた。

 僕自身に何かできるわけでないのなら、僕は2人と一緒にいることにした。

 リビングで3人、ドラマを見ながらしょうゆ味の煎餅を手に持っていた。

 しかし、誰も口を開かず、煎餅も一向に減りようがなかった。


 どことなくギスギスとした空気でも、沙羅だけは何事もないかのように平然としていて、いつものような行儀の悪い座り方。

 姉さんは小動物みたいに縮こまって、ソファーの端に座っている。

 どうしたものかと思いつつも、何もできないのが悔しい。


「んー……チャンネル変えるわね」

「うん」

「いいよ」


 沙羅がリモコンを手にとってテレビの画面を変えてゆく。

 どうせドラマの内容なんて僕らの頭に入っていないから、どの番組でも同じだった。


 お笑い芸人が順にコントを披露していく番組に画面は固定され、沙羅はチャンネルを置く。

 爆笑する観客の声、芸人の甲高い声でさえ、今の僕らにはうるさわしく感じられた。

 リビングで笑いは一切起こらず、無言が続く。


「――ぬぁぁぁぁあああじれったい!!!!」


 突如痺れを切らして立ち上がる沙羅。

 彼女の性格からして、今の状況は喉をかきむしりたくなるほど面倒臭いだろう。

 僕も姉さんも苦笑しかできなかった。


「なんなのよこの空気は!? えぇっ!? ぶっ飛ばすぞゴルァァア!!!」


 おもむろにテーブルを持ち上げて振り回し始める。

 テーブルに乗っていたいろいろなものが撒き散らされ、大変なことになっていた。

 僕と姉さんは台所に退避し、沙羅のフルスイングによってヒットしたお菓子のビンやリモコンを避ける。


「どりゃぁぁああああああ!!!」


 最終的にはテーブルはテレビに振り下ろされ、テレビは一刀両断された。

 深くから息を吐き出し、沙羅の鋭い眼光は僕らに向けられた。

 白い息を吐き出すその口からは一言――


「瑞揶、これ戻しといて」


 とんでもなく軽い調子で僕に命じて、彼女は真っ二つになったソファーの片方を立て直してどっかりと座った。

 僕も姉さんもその場から動けず、顔を見合わせる。


「ど、どうしよう……さーちゃんが怒っちゃった」


 小声で僕に声を掛けてくる姉さん。

 どうしようとは僕が言いたいけど、先に言われてしまっては対策を考えるしかない。


「うーん……僕が1度、沙羅を眠らせようか?」

「う、うん。お願い」

「わかった」


 いくらでも修復可能とはいえ、家を崩壊されれば近所に通報されかねない。

 僕は沙羅が眠るように念じた。

 沙羅が眠ったかどうか、超能力で確認するが、ちゃんと眠ったようだった。


「……ちゃんと効いた。眠ったよ」

「す、凄いわね……。これが瑞揶くんの超能力?」

「まぁそんなところ。リビングも、はいっ」


 手を一振りすると、荒れ果てたリビングがパッと元通りになる。

 いきなり変わった景色に、姉さんはあんぐりと大口を開いた。


「す、凄い……」

「あはは……凄いのは能力で、僕じゃないけどね……」

「でも……そっか、だから私に、僕の家で暮らさないかって言ったんだね」

「うん」


 僕の能力を看破したようで、納得する姉さん。

 なんでもできる。

 そういうことなのだ。


「ごめんね、いろいろ気を使わせて……」

「僕は気にしてないってっ。いい? 僕は姉さんも家族だと思って、姉さんって呼んでるのーっ。遠慮は無用だからねっ」

「っ……。瑞揶くん……」

「えっ……?」


 僕の胸に、人の重さが乗っかる。

 姉さんが、僕に抱きついてきたのだ。


「ね、姉さん?」

「ごめん、瑞揶くん……私、そうなの……。ずっと、お姉ちゃんって、呼んで欲しかったからっ……」

「…………」


 服に掛かる熱さはすぐに冷たさに変わる。

 僕は、残酷なことをしていたんだろうか。

 ただ姉さんって呼んだら良いかなと思っていたけれど、この人にとっては、もっと特別な意味があるものなんだ。


 ずっと妹に呼んで欲しかったんだ。


 それを、僕は血の繋がりもないのに呼んでしまった。


「ごめん――」

「ううん、いいの。焦がれてた妹に突っぱねられて、それでも姉って呼んでくれる。それが、嬉しいって、気付いて――」

「…………」


 彼女の言ったことは、ただの現実逃避だった。

 妹がダメだから、僕に――。

 だけど、その原因を作っていたのも僕自身。

 それでもやっぱり僕は――沙羅にの口から、お姉ちゃんって言ってもらって欲しい。


「セラちゃん、ダメだよ――」

「……瑞揶、くん」


 僕の体からセラを引き剥がし、その目を見つめる。


「姉さんって呼んでたのは、ごめん。僕が軽率だった。だけど、セラちゃんが沙羅の口から、姉さんって呼ばれて欲しいって、僕は思う。だから――」

「……瑞揶くん」

「ごめんね、セラちゃん……」


 沙羅の代わりに呼んであげる事が、本当にいいことじゃないように思える。

 自分から姉さんって呼んでたのに、変えるのは卑怯なんだろうか。

 それがわかっているから、僕はごめんって言ったのだろう。

 だったら、あとで贖罪しないとね――。


 そのとき、僕の頬に、そっとセラちゃんの手が触れた。

 慈しみを籠められたような、優しい触れ方だった。

 目の前にある彼女の口元から淡い声が漏れる。


「ありがとう、瑞揶くん。私……お姉ちゃん、頑張るからね」


 頼りがいのある言葉だった。

 いつもおずおずしてるけど、これなら大丈夫そうだ。


「僕の姉であることは変わらないんだから、しっかりしてよ〜?」

「うんっ」


 冗談めかして言ってみると、姉さんは花の咲いた様な笑みを返した。

 なんだか大丈夫そう。

 安心、かな――。


 時計を見ると、いつの間にか結構時間が経っているもので、きりもいいし話を中断してセラに提案する。


「じゃあ今日はもう寝よっか。あ、沙羅は僕が2階に運ぶから、セラちゃんは客室で――」

「ま、待って!」

「ん?」


 再びセラちゃんが僕にしがみついてきた。

 どうしたんだろう?


「どうしたの?」

「え、えっと……」

「うん」

「……。きょっ、今日、一緒に、寝ない……?」

「……。……?」


 よく意味がわからなかった。

 …………あっ。


「沙羅のこと? 起きたらセラちゃんがいるって言うのは、沙羅にとって怖いと思うけど……」

「そ、そうじゃないっ!瑞揶くんとっ! 瑞揶くんと一緒に寝たいのっ!」

「……んー?」


 首を傾げる。

 どうして僕なんかと、という疑問が頭から離れない。


「えっと、どうして?」

「え、ええっと、それは……お、お姉ちゃん命令! 逆らっちゃダメなの!」

「あはは……それじゃあどっちがお姉ちゃんなんだかわからないよ」

「くっ、口答えしいないのっ!」

「フフ。わかったよ、お姉ちゃんっ」


 セラちゃんがなんだか、わがままを言う妹みたいに見える。

 でも、それもありかもしれない。

 家族は変わらないし、いいかな。


 僕は沙羅を抱え上げ彼女の部屋のベッドまで送り届けた。

 その後、僕の部屋にセラちゃんと入る。


「わ、わぁー……なんか緊張する〜……」

「え? なんで?」

「なっ、なんでもないわ!」

「?」


 部屋に入ってすぐに、ちょっと様子の変なセラちゃんとベッドに潜る。

 2人で寝ても大きさは十分なベッドで、少し動いても当たったりしない。

 これならお互い気にせず寝れるはず――


「ねぇねぇ、瑞揶くん?」

「ん?」


 疑問符を浮かべると同時に、セラちゃんは僕を抱きしめてきた。

 服越しでも、これだけ密着されたら柔らかさと暖かさを感じてしまう。


「痛くない?」


 痛いか確認してきたのは、魔人と人間じゃ力が違うからだろう。


「痛くないけど……どうしたの?」

「ううん、なんでもないの……」

「ふ〜ん……」


 なんだかよくわからないけど、僕は朝食の準備もあるし、眠ることにした。







「抱きつかれたまま寝ちゃうなんて、器用だなぁ……」


 腕に収まった彼の寝顔を見て、私はそう呟いた。

 優しげな口調、冷酷さなど毛ほども感じない温かな眼差し、そして彼自身の優しさ。

 それに触れて、私はとっても嬉しかったから。


「瑞揶くん、私……」


 ぎゅっと彼の服を掴む。

 ダメかな、私じゃ――?

 会うこともきっと、めったに叶わないだろうし、何より私は兵器で――。

 いや、それ以前に、確認しなきゃいけないことがある。


 さーちゃん、貴方は――


 瑞揶くんのことを、どう思ってるんですか――?

セラにだけ“ちゃん”付けについて


作者「なんでセラだけ?」


瑞揶「え? あぁ、うん。沙羅や環奈は似合わないでしょ? 理優には前、りーちゃんって呼んだら、それはやめろってみんなに言われたの。なんでだろうね?」


作者「それでセラに?」


瑞揶「そうだよ〜っ。セラちゃんには似合うでしょ?」


作者「似合うって、どうしてわかるの?」


瑞揶「あはは……目で見て思ったんじゃないよ。性格、可愛いでしょ〜?」


作者「今なら言っても良いかな? 霧代もちゃん付けじゃないよね?」


瑞揶「……霧代は恋人だったし、セラちゃんより、強引な性格だったから……」


作者「なるほど」



ということらしいです。

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