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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第二章:収束するアンサンブル
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第十三話

 魔界に行くことを決定した後も、僕たち3人はリビングで話し合いを続けていた。


「召集は3日後なんだ……」


 実際に行く日を聞いた僕は感心するようにそう呟く。


「えと……もともと、依頼の期間は2週間だったの。どこにサイファル……あ、沙羅がいるか、わからなかったから……」

「……別に言い直さなくてもいいわよ」

「あ、でも今は沙羅って名前なんだよね?だったら、沙羅だよ。そしたら私はセラだっ。セラお姉ちゃんって呼んでね」

「私はアンタが姉だって認めてないわ。信用もしてない。とりあえず呼び方はセラにするけど、今後の呼び方をどうするかはこの先次第よ」

「……うん」


 弱い返事を返すセラ。

 沙羅は何か落ち着かない様子で立ち上がり、台所に引っ込んでしまう。

 その後姿を見送り、僕は口を開いた。


「……ごめんね。普段は優しい子なんだけど……」

「お、お構いなくっ……自分でも歓迎されるとは、思ってなかったから……」

「だけど……姉妹、なんですよね?」

「そうだけど、本当に会った事もなかったし、仕方ないのよ……」

「…………」


 寂しそうなセラの物言いに、僕は閉口する。

 どう慰めればいいか、事態が大きすぎて定まりがつかない。

 ただ、僕が確かに言えることは――


「沙羅のお姉さんなら、僕のお姉さんでもありますよね?」

「え……?」


 僕の言葉に、少し戸惑うセラ。

 いや、間違ったことは言ってないはず。

 沙羅とは従兄弟(いとこ)関係って言うのが名目ではあるけれど、僕にとっては家族。

 その家族の姉なら、僕の姉でもあるよね?


「これから3日、滞在するでしょ? よろしくね、姉さん」

「そ、そっか。沙羅の家族なら弟……。よ、よろしくね、瑞揶……」


 頬を緩ませ、嬉しそうに笑ってくれた。

 姉さんと仲良くするのは沙羅にとっては面白くないかもしれない。

 だけど、沙羅もきっと仲良くなれる。

 そう信じて、セラお姉さんと仲良くなりたい――。







 夕飯を食べ終えた後、僕は一度自室に篭った。

 多分、姉さんも1階の客室に篭っているだろう。


 昼からずっと、沙羅の姉さんに対する態度は冷たかった。

 仕方ないのはわかる。

 いきなり現れた姉に、どう接していいのかわからないだろうし、それともまだ姉と認められてないのかどうか。

 僕の能力を乗り越えて沙羅のことを覚えていた彼女。

 魔人がどれだけ抗力を持っているか定かではないにしても、概念を乗り越えるなんてことは並大抵の意思じゃできない。

 本当に、沙羅に会いたいって思ってないと――。


 だから仲良くして欲しいのに――。


「上手くいかないかなぁ……」


 ベッドの上に転がり、いろいろ考える。

 なかなか2人の仲を取り持つ作戦は思い浮かばず、ぐだっとうつ伏せで枕に抱きついた。


「ここは一つ、僕がまた女装して、2人目の新しい姉として現れるしかない……」

「なに恐ろしいこと言ってんのよ……」

「え……?」


 不意に聞こえた声に僕は体を起こした。

 部屋を見渡すと、机とセットの椅子に座る沙羅を発見する。


「沙羅……ノックしてよ〜」

「したわよ。勝手に入ったらいたから、気付くまで待ってたの」

「え? そうなの……ごめんね?」

「いいわよ、別に」

「うぅ……」


 なんだか素っ気無い態度の沙羅に僕まで心が痛くなる。

 なんよかならないかなぁ……。


「……ねぇ、瑞揶?」

「ん〜? どうしたの……?」

「私、やっぱり迷惑かしら?」

「…………。……ん?」


 質問の意図が全然わからなかった。

 迷惑?なんで?


「どうしてそんなこと思うの?」

「だって、私のせいでアンタも命狙われるかもしれないのよ? それにセラも来て……瑞揶は普通に接してるけど、私には急に姉面されて対応に困るというか……家の雰囲気もこんなにしちゃって、迷惑よね?」

「……うーん」


 この質問、3回目ぐらいな気がする。

 ちゃんと言わないとダメなのかなぁ。


「例えばだけどさ」

「ええ……」

「僕が"迷惑だ、出て行け"って言ったとしたら、沙羅はどうするの?」

「……そりゃ、野宿かしらね? どっか戦争の地に行ってその日暮らしとか――」

「沙羅はそんな生活送りたいの?」

「そんなの……今の生活の方が良いに決まってるわよ……」

「でしょ? だったら僕は迷惑かけられても何も言わないし、そもそも迷惑だなんて微塵も思ってないし、むしろたくさん甘えてくれていいんだよ」


 言って僕はうんうんと頷く。

 確かに家事は全部僕がやってるし甘えられてる部分もあると思うけど、いらないところで僕に気を使って意気消沈とされるのはいただけない。


「あのね〜、沙羅? 僕のことは気にしないで、自分の思うとおりにすればいいの。それと、お姉さんとの向き合い方がわからないなら僕でよければいつでも相談にのるし、一緒に考えることはできるからね」

「……ありがと。じゃあ、もう少し考えてみるわ」

「うん……」


 沙羅は立ち上がって、そのまま退室していった。

 これで解決してくれればいいけどなって思いつつ、僕も部屋を出る。

 1階に降りてリビングに行くと、沙羅の姿はなかった。

 テレビを見てないなんて珍しいけど、今日は仕方ないだろう。

 となると、姉さんの部屋に?

 沙羅は堂々としてるから、直接語り合ってる可能性は高い。


「うーん……邪魔しない方がいいよね……」


 姉妹水入らずで話をしてもらおう。

 そう思い、僕は自室に引っ込んだ。







 私は迷うことなく客室の扉をノックした。

 どうぞと言う短い返事と共に中に入る。

 中にはベッドに腰掛けた、私の私服を着ているセラだった。

 彼女は着替えを持っておらず、私の服を貸しているのだ。

 少し驚いたようにしたセラを見て口を開く。


「こんばんは。入ってもいいかしら?」

「も、もちろん。沙羅の家だもん……」

「そう」


 許可を得ると扉を閉め、セラの前まで歩いた。

 彼女の前で立ち止まり、また口を開く。


「ちょっと話があって来たの」

「は、話……?」

「そ。まぁちょっと聞きなさいよ」


 まだ私はこの人に向き合えない。

 裂けど私は、瑞揶に支えられている。

 さっきの励ましもある。

 だから、遠慮なく自分の言葉を言える。


「まだ私は貴方のこと、姉だって認められないわ。私より身長やら胸やらいろいろデカいし、私と違って小心だし、似てるのなんてアホ毛ぐらいじゃない」

「え……た、確かに……」

「そう、アンタと私は生活環境も別で、こんなに似てないのよ」

「…………」


 ぴしゃりと言い放つと、セラは小さくなった。

 ずっと会いたがってた妹に、姉じゃないとはっきり言いつけられるのは、自分でもひどいと思う。

 でも、これが私の本心。


「だけど、そんなのは当たり前。私たちは会ったこともなかった」

「うん……」

「だけど、今私たちはこうして会って、話をしている」

「…………」


 セラが顔を上げる。

 私の顔を見ている。

 私は多分、笑えているだろう。


「私を妹にしたければ、今日から私の姉として頑張りなさい。私が姉として認められるぐらいにね」

「……うん! 私頑張る!」

「オッケー。じゃ、親睦を深めるためにドラマでも見ましょうか」

「……さーちゃん、ドラマって何?」

「まぁとりあえず、リビングに行くわよ」

「うん!」


 急に元気になられると対応に困るけど、いつも見ていたドラマをセラと2人で観賞した。


「さーちゃん! ドラマって面白いね!! もっと見よ!!」

「わかったからその呼び方は何とかしなさい」


 小一時間程度でセラもドラマに魅了された。

 同じ血だからかと、少し戦慄する私だった。


 何回かドラマを見ると、時計の針は11時を回っていた。

 夏休みだからとはいえ、私にとってはもう遅い時間で、寝なくちゃいけないと体が勝手に動く。

 きりのいいところでセラに切り出した。


「そろそろ寝るわ」

「え? じゃあ、私と一緒に寝よ?」

「……一緒に寝るとか、マジで言ってるの? アンタ何歳よ?」

「う……」

「って、そういう意味で提案したわけじゃないわよね。でも、生憎まだ信用が足りないわ。今日明日は諦めなさい」

「うん。でも、明後日(あさって)からは一緒に寝てもらうからね?」

「……信用が足りてればね」


 そっと微笑むセラを尻目に立ち上がる。


「じゃ、おやすみなさい、セラ」

「うん。おやすみ、さーちゃん」

「その呼び方……まぁいいわ」


 こうして一日目が過ぎ去る。

 あと2日で魔界に行く、とはいえ瑞揶も来てくれればなんとかなるだろう。

 そんな気楽な心のまま、私は自室で眠りについた。

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