第六話
この物語ではこれ以上の転生者は増えません。3人だけです。
(番外編で召喚とかするかもですけど)
注意;話をするだけの回ですが、残酷な表現(?)がちょびっとあります。気持ち悪くなるかもしれません。
トランプの後は旅館の夕食を食べ、また温泉に入ってから沙羅と2人でごろごろ過ごしていた。
「花火でもしたいわねー」
「この奥は森だから火は危ないって、花火は全面禁止されてるらしいよ?」
「帰ったらやりましょ」
「いいよ〜」
そんな会話をしていると、勝手に部屋の扉が開いた。
鍵をかけてなかったからだけど、環奈が無言でスリッパをぬいているのが見えて安心する。
「ビックリするじゃない。無言で入ってこないでよ」
「いいじゃん。どうせイヤらしい事とかしてないでしょ?」
「そういう問題じゃないことがなんでわかんないのかしら……」
環奈を諌めようにも頭を抱え出す沙羅。
別に変なことをしてなくても、人の家に勝手に入らないとかそういう常識の問題だよね……。
「んで、沙羅。ちょっと瑞揶借りてくね」
「え? 僕?」
「うちの家主に何する気よ?」
「イヤらしい事」
「はあっ!!?」
「ええっ!!?」
「うそうそ。キトリューとちょっと話してもらうだけ。というか2人とも反応し過ぎ。若いっていいねぇ〜」
「アンタも若いでしょうがっ!!」
「あっはっはっは。そうだねー」
僕の手を引きながら陽気に環奈が笑う。
なんだかなー……この人には勝てる気がしない。
色んな意味で。
「んじゃ瑞揶借りてくねー」
「10時には戻しなさいよー」
「……本当に物扱いする沙羅も沙羅だよーっ」
そんなこんなで廊下に連れ出され、ついでに外まで出される。
夜になっても幾つもの店がやっていて、街は明るさを保ち、空は地方が違っても同じ星空だった。
旅館の入り口の側にキトリューさんが浴衣姿で仁王立ちしており、星を眺めていた。
「む、来たか。夜分に呼び出して悪いな」
「いえ、それは良いんですけど……何か用事ですか?」
「まぁ少し話をな」
「はぁ、話……」
話と言われても、あまりピンとこなかった。
何も言わずにキトリューさんは歩き出し、僕もそれに倣って彼の横を歩く。
足の方向は森の方角であり、人の居ない所で立ち止まり、キトリューさんは木にもたれかかった。
あまり明かりがなくて月明かりが綺麗に見える静かな場所。
閑静はあっさりとキトリューさんによって打ち砕かれる。
「君も、前世の記憶を持っているそうだな。環奈から聞いているぞ」
「はぁ……環奈から……」
前世の記憶を持つ人間、という事は伝わっているらしい。
だけど、僕の前世の世界と環奈の前世の世界は違うから、話すこともない気がする……。
なんなのだろう……?
「罪の意識がお前を蝕んでいるとな」
「……そう、ですね」
あまり、聞きたくない類の話だった。
そう、僕をずっと蝕んでいるのは罪の意識だ。
この世界に来てから、ずっと……。
「俺も、罪の意識が残る死に方をした」
「……え?」
突如、爆弾のごときその言葉をキトリューさんは放った。
同じような経験があるというのだろうか。
「環奈はどうだか知らないが、多分、死ぬまで罪の意識があったと思う」
「……何故?」
「環奈が俺を殺したからだ」
「!!?」
どういうことなのかわからなかった。
2人は恋人同士で、殺し合う中ではないはず。
どうして殺されなければいけなかったのか――。
「そう驚いた顔をするな。俺たちの生まれた国は戦争をしてな、そして負けた。俺たちはそれなりに地位のある家柄でな。戦勝国に捕まり、いろいろと拷問させられた」
「それで……なんで、環奈が貴方を?」
「ある日から、俺は何人かの女を抱かせられた。何事かと思っていたが、3日後に斧を持った環奈に殺された。『お前はが尋問を受けてるのに恋人のアイツは良い思いしてる』、とでも唆されたんだろう」
「そんな……」
「もちろん、環奈は敵の思惑を理解していた。アイツは賢いからな。だが、敵国の男に体を操られ、俺を斧で殺した。俺が覚えてるのはそこまでだが、環奈は俺の体を料理したものを食わされたそうだぞ?」
「…………」
「ああ、失敬。自分で言うのもなんだが、気持ち悪い話をしてしまったな」
気持ち悪い、どころの話じゃない。
酷い顛末だった。
この人も環奈も、そんな過去があったなんて……。
「俺はな、環奈にはすまないと思っているんだ。環奈に俺を殺させてしまったことを。恋人を斬るなど、それより辛い事はないからな」
「……でも、斬った環奈も、申し訳なく思ってるはずですよね……」
「そうだな。だが、俺たちは謝らなかった」
「え――?」
また口から疑問符が飛び出る。
謝っていないって、自分で申し訳なく思ってるって言っているのに。
「どうして、ですか?」
「許してもらえている確信があったんだ。惚気で悪いが俺たちは見た目によらず、心から愛し合っている。許してもらえるのがわかっているし、そうでなくても俺が好きなんだから許してもらえるまで謝る覚悟があった。それで実際、環奈は俺を許していた。『そんなことで気に病んで人生損するぐらいなら、他に女作って幸せになってもらいたいね』とまで言われたぞ」
「…………」
その言葉は環奈らしいと思う反面、この人達の心の強さを尊敬する。
どこまでもパートナーを信じれる心があるんだから。
「お前はどうだ、響川瑞揶? お前の恋人を心から愛していたと本気で言えるのか?」
「言えます」
「即答か。当然だろうな、お前は生まれ変わってからずっと気に病んでいるように見えるから」
キトリューさんが静かに近付いてくる。
手を伸ばせば触れられる距離で止まり、僕の肩に手を置いてきた。
「ならば、今後の身の振り方を自分なりに考えて行動しろ。だが、決して女を泣かせるような答えを出して行動するな。それだけは覚えておけ」
真摯な瞳で僕を射抜き、忠告を与えてくる。
身の振り方、それは僕の“償い方”についてだろう。
それをするのか否か、霧代が泣かないような選択を――。
「……はい」
了承以外に返事が見当たらず、少し遅れながらもキチンとした返事を返す。
するとキトリューさんは頷き、踵を返した。
「話は終わりだ。夏でも夜は冷える、戻ろう」
「あっ、はい……」
「それと――」
歩き出すキトリューさんは一度だけ止まり、振り返って笑った。
「先程の貴様の顔、立派な男の顔であったぞ」
「……え?」
「もっと自信を持て、少年」
それだけ言って、またキトリューさんは歩き出した。
自分が女々しいのをなんとかしたい事も、お見通しらしい。
「……はいっ」
少しでも男である自覚を持って、僕は頷いたのだった。
◇
キトリューからの連絡がケータイにあり、ウチは自分の泊まる部屋に戻っていた。
キトリューもすぐに戻り、少し疲れた様子を見せて座椅子に座る彼氏にお茶を出す。
「ああ、ありがとう……」
「熱いから気を付けてね、キトリュー様」
「様付けはやめろ……」
「あっはっは。まだ慣れないから、自然と出ちゃうんだよねー」
あまり言い訳にならない弁明をしながら自分の分のお茶も淹れる。
かつて、キトリューは前世の国の王子であり、自分は貴族だった。
これでもウチは仕える立場なんだよねー、そんな風に思えねーと自問自答してお茶を口に含む。
熱い、渋い、でもこの苦味は嫌いじゃないね。
「それはそうと環奈。瑞揶くんはお前の言った人物像より、よっぽど根が深くたくましい少年だったぞ」
「えー、うそ〜? ずっとおどおどしてたでしょ?」
「少しはな。しかし、愛の深さゆえに人生を蝕まれるという彼の性格には眼を見張るものがある」
「メチャクチャ優しいからね、あの子」
「そうだな。多分、ノールとしてのお前の人生を知ったら泣くぞ?」
「だねぇ〜」
ウチの前世の名前を持ち出し、いたずらっぽく笑うキトリュー。
ウチとしては、昔は昔、今は今、なんだけどね。
そりゃあ敗戦してから苦しい目にあって、それからは【あの世界】の支えとしていつも人を恨んでたし、殺人鬼として生きてたし、いろいろあるけど。
まぁそんな話をしたところで誰も知らない事だし、仕方ないんだけど――。
「で、その彼氏のキトリューはウチの事について何にも思わないわけ?」
「怒ったところでどうにもならないだろう?」
「うわぁー、薄情者だよ。傷付くよー、傷心だよー」
「バカなことを言ってないで、この世界で幸せになるんだな。まぁ、俺が幸せにしてやるから気楽にしていろ」
「……うん」
こうまで明言されると気恥ずかしさがある。
嬉しくて今すぐ抱きつきたいけど、今日は密室で2人。
意外と誠実なキトリューでも、抱きついたりしたらどうだかわからないし、我慢する。
我慢したって仕方ないんだけどね、どうせ結婚するし。
「世界が変わろうと、キトリューはキトリューだね。相変わらず真っ直ぐハートを撃ち抜くような台詞に環奈さんはメロメロだよ」
「だとするなら、環奈も環奈だろう?相変わらずガサツで不器用でやる気なさげだが、だが……」
「……なんで言葉に詰まらせるよ?」
「いや、ここまで変わらなさすぎると逆に安心してな……」
「ウチの良いところを1箇所もあげなかったあたり、中々良い度胸してるよね」
とか言いつつ、自分の良いところなんて歌ぐらいしかないかと自己完結する。
前世と今、まったく自分は変わってない。
そこでふと思ったのが瑞揶の事。
彼は前世であっても、今と変わらなかったのだろうか。
他人を不幸にしてしまったから優しくなったのだろうか。
今の彼がするいつもの笑顔は作り笑顔なのかと、気にかかる。
きっと、瑞揶は前世の事を話したがらないから、聞いても答えてくれないだろう。
だけど――
「変な顔をするな」
「ん……」
キトリューに言われて、ウチは思考から現実に戻る。
変な顔とは失礼な。
「考え事してたのに……そんなにウチに構って欲しいの?」
「いや、お前が気難しそうな顔をしているのは作詞している時以外見なかったから、不思議に思ってな」
「まーねー……」
作詞は自分の趣味で、よくわけわからんリズムや自分の思い立った造語で歌を作ったものだった。
造語に関しては「幼児の喚き声か」とキトリューに謎のツッコミを食らうという。
不服でならない。
「それにしても、意外とウチも、瑞揶の事はあまり知らないんだって、ちょっと思い知らされてさ」
自嘲するように話す。
友人なのに、あの子の昔については良く知らない。
知ってるのは前世で恋人を殺し、傷ついている事、それから好きな食べ物とか普通の友人としてのこと。
「瑞揶は深いなぁ……」
「俺たちも十分深い人間だろうに」
「あっはっはっは、そうだね〜」
空笑いして相槌を打つ。
だけど実は、ウチにはもう1人深い人がいると思っている。
響川沙羅――ナエトにはサイファルと呼ばれる彼女。
一体、何者なのだろうか……?