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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第二章:収束するアンサンブル
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第五話

なんか書いてて、自分の文にしては変だなぁと思いました。

成長?退化?よくわかりません……(笑)

「いや〜、案外楽だったわね。ちっとも疲れなかったわ」

「それは沙羅が魔人だからだよぅ……疲れた〜」


 山頂には景色を眺めるために用意されたベンチが整然と並んでおり、売店と飲食店があった。

 (さく)の先の光景は緑の木々と麓から続く村、地平線から上は青空が広がっていて、普段見られない広大な光景があった。


「…………」


 残念ながら、僕はこの景色を見ても高い所にいる、ぐらいにしか思えない。

 しかし、隣の沙羅は身を乗り出して感心したように口を開いていた。


「ほーほー、これは中々良い景色ね〜」

「……来て、良かったでしょ?」

「えぇ。暑さは耐えかねたけど、高い所から見る景色は気持ち良いわ」

「そうだねー……」


 沙羅の気持ちは分からなくとも同意する。

 けど、この場所の空気は、いつもより美味しいのは確かだった。

 隣の女の子も楽しげで、来れて良かったと思えた。




 昼食は山頂の飲食店で蕎麦を食べて過ごし、ゆっくりと下山した。

 電車に乗って旅館のある駅まで向かい、寄り道を重ねながら漸く旅館に辿り着く。

 大きな木造で、全体からこれぞ旅館!って雰囲気が出ている。

 数十部屋はあるんだろーなーと思えるぐらいの奥行きだし、この辺りも人通りが多くて流石は名所だと思った。


「ここ、予約取れて良かったね〜」

「予約が殺到してたから今日になったんだけどね。ほら、行きましょ」

「うん」


 館内に入り、チェックインを済ませて部屋に向かう。

 2人で過ごすなら広くなくてもいいねーと話し合っていたため、8畳程の和室だった。

 因みに、今日は初めて同室で寝るみたい。

 僕は男だけど抵抗ないのー?と訊いたけど、「同じ屋根の下で暮らしていて今更何言ってんの」とだけ言われてしまった。

 男として、ダメなんだろうか。

 まだちょっとよくわかってない。


「普段に比べたら歩いたし、少しは疲れたわね」


 荷物を適当に置きながら、沙羅が独り言のように呟いた。

 いつものように2本のアホ毛は元気だし、声からも疲れた様子は感じられないんだけどね。


「僕はくたくただよ〜……。けど、まだ昼過ぎなんだよね……」

「そうね〜」


 部屋にかけられた時計を見やると、大体午後の3時ぐらいで、宿に来たはいいものの、することがなかった。


「1回温泉行ってみる?」

「ま、まだ早いんじゃないかな……」

「夜また行けば良いでしょ」

「そ、そうかなぁ……? じゃあ、行ってみる?」

「ええ、行きましょ」

「はーいっ」


 沙羅に誘われて早速温泉に行くことに。

 部屋を散策すると浴衣を発見したため、2人でそれを着替えに持って各浴場に向かった。

 男湯に入る直前、知らないおばちゃんに「アンタは女湯じゃないの?」と言われ、ちょっと凹んだのは沙羅だけが知っている。


 流石に昼間だからか、置いてある着替えの数は2つしか見つからず、この時間に来て正解だったかもと思ったり。

 脱衣所で服を脱ぎ、部屋にあった白い垢擦りを持っていざ浴場へ。

 扉の向こうはまだ室内で、誰もいなかった。

 着替えのあった人達は温泉の中だろう。

 僕も手早く体と頭を洗い、腰に垢擦りを巻いて外の温泉へと向かった。


 外は湯気が立ち込めていて、バスケットボールぐらいの岩に囲まれた温泉があり、隣の温泉との間に高い敷居があった。

 ザァァとお湯の流れる音が聴こえる。


 ヒタヒタと濡れた黒石の床を歩き、湯銭までやってきた。

 そこで、先客であろう人の顔が目に入る。


「む?」

「あ、どうも……って、あれ?」


 湯銭に浸かり、細いのに逞しい両腕を湯銭を囲う岩に載せた男の人。

 白いタオルを乗せた金髪とその顔には見覚えがあった。

 どうやら彼の方も覚えているようで、立ち上がる。


「君は瑞揶くんだったな? こんな所で会うとは、中々どうして面白い」

「は、はぁ……。生徒会長さんも、この温泉に来てたんですね……」

「うむ」


 そこに居たのは環奈の恋人であるキトリューさん、もとい生徒会長だった。

 ふ、腹筋が6つに割れてる……。


「まぁ君も湯に入れ。よくわからんが、運気が良くなるそうだぞ」

「はぁ、恐縮です……」

「おどおどするな。別に俺は君に危害を加えたりしない。それに、環奈の友人なのだろう? いろいろ話は聞いている。俺の女が随分迷惑掛けたそうだな」

「迷惑だなんて、そんなこと思った事ないですよ……」

「君は優しいと聞いていたから、そう返してくるとは思っていたよ」

「あはは……」


 話しながら僕も湯銭に浸かる。

 キトリューさんはなんか、気迫というか、荘厳な雰囲気が出てて緊張する……。


「因みに、女湯の方には環奈が居るぞ。宝くじを買うと言い出してな、それで今日は運気を頂戴しに、この宿に来た次第だ」

「そうなんですか……。僕も家族……といっても、2人で暮らしてる従兄弟が一緒です」

「沙羅、だったか。その子の話も聞いている。すぐ燃え尽きる花火みたいな子なんだとな」

「え……なんですか、その比喩?」

「青春青春騒いで、結局萎えたのだろう?」

「ああ、そうですね……」


 言われてみると確かに、学園生活を楽しみにしていた沙羅は現実を知って萎えてたし……。

 けどまぁ、のんびりしてるのが本当の彼女なんじゃないかって、僕は思ってる。


「君達は面白そうだな。いつか、環奈と家に遊びに行かせてくれ」

「歓迎しますっ。美味しいもの作って待ってますよ」

「それは楽しみだ」


 歓迎しない理由がなく、家に誘った。

 その日が来れば、環奈から電話が貰えるだろう。

 環奈の恋人だし、悪い人じゃないはずだし、いいよね。


「よし、俺はもう出る。そこの爺さんにも挨拶しておけ」

「え? あっ、はい」

「ではな」


 ザパァと音を立ててキトリューさんが立ち上がり、温泉から出て行った。

 なんだったんだろうなぁ……。


「き、君ぃ……こ、ここ、こんにちはぁあ……」

「え? あ、こ、こんにちはぁ〜」


 そしてその後は、舌が上手く回らないお爺さんと、ほのぼの雑談していましたとさ。







「あったまるーっ……」

「なに情けない声出してんのよ」


 所変わって女湯。

 沙羅は早々に環奈を発見し、2人でまったりと湯に浸かっていた。

 いつも雑然と伸びていた沙羅の髪も二本の触角|(と言う名のアホ毛)を残してまとめ上げられ、環奈の黒髪も同様であった。


「そんでさー、沙羅? うちの彼氏が居候(いそうろう)しないか?って話持ちかけてくれたんだけど、受けるべきかねー?」

「知らないわよ。自分で決めなさい」

「瑞揶の施し的な意味で。居候するなら施しなくせとのことでして」

「施しが無いと困るんなら、居候しなきゃいいんじゃないの?」

「だよねー」


 そんな感じで話がまとまる。

 環奈は気持ちよさげに「ふぃー」とどこかおっさん臭く息を吐き、そんな中沙羅は環奈の胸部を凝視していた。

 部の中でも一番胸が小さいのが密かなコンプレックスだったりするのだ。


 そんな視線も長時間続けば環奈も気付き、にやりと笑って沙羅に問いかける。


「あれ〜? 沙羅、どうしたの? そんなにウチの胸が気になる?」

「なっ!?べ、別に! 胸なんて気にしてないわ! ただの脂肪じゃない! 脂肪!」

「まぁまぁまぁまぁ。ここはお姉さんが一つ、大きくしてあげようではないか。どれどれ」

「やーめーなーさーいー!!」


 手をわきわき動かす環奈の手を叩き落とす沙羅。

 少し残念そうに環奈は顔を(しか)め、暫くするとまた「ふぃー」と呟く。


「極楽だねぇ〜」

「アンタってほんと、マイペースよね……」

「そう? 案外周りの事気にしてるんだけどなー」

「私にセクハラして来た時点でそんな事思えないわ!」


 どこまでも続く女子の会話であった。








 温泉から出たのは僕が先らしく、部屋に戻ると誰も居なかった。

 とりあえずエアコンとテレビ付けて、座椅子に座って団扇(うちわ)を仰いで待機する。

 別の地方のテレビってなんだか変な感じするー、なんて思っていると沙羅が帰ってきた。

 環奈もひょっこり付いてきてて、2人とも浴衣だった。


「戻ったわよー」

「やーほ〜、瑞揶」

「おかえり、沙羅。環奈も」

「あれ? ウチが居るのに驚かないの?」

「さっきキトリューさんと会ったから……」

「そっかそっか」


 納得したようで、環奈は僕の横から座椅子を1脚持って座り、「ふぃー」と息づいた。

 沙羅はテーブルに頬杖をついて座り、ぼけっとテレビを眺めている。


「瑞揶も2人で旅行?」

「そうだよ〜。初めての家族旅行〜」

「家族旅行とな。ウチお邪魔な感じ?」

「そんなことないよー。たくさんいた方が楽しいもの。ねー、沙羅?」

「え?あ、うん、そうね」


 藪から棒に沙羅に振ってみたけど、ちょっとは聞いてたのか肯定してくれた。


「あ。お2人さん、暇なら4人でトランプやんない?」


 思いついたかのように環奈が提案する。

 僕達も実際暇で、環奈が携帯でキトリューさんを呼び出し、トランプ大会が勃発するのであった。


 惨敗して罰ゲームをたくさんさせられたのは、きっと部活への土産話になるんだろう。

 みんなの引き運、強くなり過ぎ……。

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