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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第二章:収束するアンサンブル
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第三話

 夏休みから10日経ったが、暑さは収まることを知らずに今日も要項を降り注いでいる。

 そんな中、ナエトの愛称で呼ばれる僕は今日、魔王の息子として知見を広めるべく図書館に来ていた。

 元々読書好きというのもあるが、この夏休みは一度魔界に帰省する他に部活、王子としての活動以外は図書館で過ごそうと考えていた。


「よっ、と……」


 面白そうなタイトルを見つけたらすべからく掌の上に乗せて本を積み重ねる。

 もうこれで10冊ほどだろうか。

 まだ朝ということで人も少なく、席が空いているうちに確保しよう。

 僕は本棚から幾つも机の設置された読書スペースに移動した。


 静かで冷房が効いていて快適、しかも本まで読める。

 これほど嬉しい設備が充実しているのに、来客が少ないのは若者の読書離れというやつだろうか。

 まぁ、ぐうたらする奴はぐうたらしていればいいし、こんにちも働いている者は労働に励むべき。

 人間、みな規律さえ守れば自由にすればいいだろう。


 最近そう思えてきたのも、サイファルという厄介な存在がためだろう。

 アイツにはなかなか手を焼かされるが、ああして戯れるのも悪くない。

 無論、僕としてはもっと優雅な日々を過ごしたいものだがね。


 本を手に取り、パラパラと開く。

 物語も読むが、新書なんかも僕はよく読むし、雑誌の記事をまとめた物なんかも手に取ったり、本当に何も考えず読みたいものを読んでは吸収。

 この夏もそうして静かに過ごそうと思っていた――。


「ナエトじゃん! なにしてんの!?」


 うるさわしい少女の声がかかるまでは。


 顔を上げると、そこに居たのは情熱の文字が刻まれた青いシャツを着ている水色の髪をした天使、レリが立っていた。

 元気だが言葉に余計なものが多いコイツ、図書館などに来るとは思えないが、目的はどうせ避暑だろう。


 厄介な奴に絡まれてしまった。

 しかし、なまじ声をかけられた後では対応せざるを得ない。


「読書しているんだ。レリ、ここは図書館だから大声を出すな」

「ん? あぁ、ごめんごめん。つい情熱が……」


 意味のわからない弁明をし、何故か僕の隣の席に腰掛けてくる。

 情熱、お前のその青い服を見るからに()めてそうなんだがな。


「暑いね〜」


 声のボリュームを小さくして話しかけてくる。

 僕は読書しているのであり、ここは会話を続ける必要もないであろう。

 あえて無視し、本の文面に目を通した。


「へー、無視? 無視するの? ここでアタシが痴漢されたって(わめ)いたら、どうなるかわかる?」

「……。お前は本当に面倒な奴だな」

「面倒? 褒め言葉だね」

「…………」


 呆れかえって最早声も出なかった。

 本を読もうにも、これでは内容が頭に入ってこない。

 渋々本を閉じると同時に、一枚の紙が机を滑って僕のもとに流れてくる。

 その紙を手に取ると、そこには下手くそな、幼児が描く怪獣のようなものが描かれていた。


 隣の少女を見る。

 彼女は僕の視線に気付くと、シャーペンを僕の前に置き、満足そうに「フッ……」と笑った。


 なんだ、この絵は。

 シャーペンを差し出されて、この絵を見て僕にどうしろというのだ。


 〔僕にどうしろと言うのだ?〕


 よくわからない気持ちを字にし、紙に書いて横に流す。

 ペンも渡してないのに、すぐに紙は帰ってきた。


 〔ペンギン。感想書いて〕


 返信を見て頭が痛くなり、頭に手を当てる。

 一体何なのだろう、ペンギンというよりはカエルに近い生き物なのに、これを見てどう彼女の機嫌をとる言葉を書けばいいのだ。

 ええい、面倒くさい、適当に書いて返そう。


 〔よく描けてるな〕


 それだけ書いて返す。

 が、返信もまた早く、紙は返ってきた。


 〔それだけ?〕


 それだけってなんだ。

 怪獣以外のなにものでもない絵にどう回答すればいいんだ。

 よくわからんが、兎に角何か書かなくちゃいけない。


 〔か、可愛いな〕


 なんかもう、これさえ書いておけば大丈夫な気がする。

 その紙をスライドさせ、隣に渡した。

 しかし、一向に紙は返ってこない。

 なんだ?適当がバレて怒っているのか?

 そう思って隣を見るが、


 そこには誰も座っていなかった。


 要するに、書かせるだけ書かせて帰りやがっ――


 ずしっ


「ねぇナエト、もう筆談飽きたよ。ファミレスいこ? ファミレス」

「…………」


 消えたと思ったら僕の後ろから声がし、しかも僕の頭の上に頭を乗せてくる。

 僕に気取られず背後を取ったのは意外だが、それ以上に、必要以上にわざわざ密着してくる能天気さとフランクさに何も言うことができなかった。


 結論として僕は再度本を開いたのだが、レリが頭をかじってきたがために中断。

 渋々ファミレスに行った挙句、全て奢らされるのであった。







 同日、昼間の事。


「なんでアンタと会わなきゃいけないのよ!」

「言い草がひでぇ!?」


 ドラマのDVDを買いに出かけた沙羅は、偶然にも瑛彦に遭遇してしまっていた。

 夏は肌の露出が多い季節、そうでなくても沙羅は普段露出度の高い服装だが、兎に角身の危険を感じた沙羅は瑛彦から距離を取っていた。


「つーかよ、近くに住んでんだからそりゃ会うだろ」

「それでもアンタなんかと会いたくはなかったわ」

「なんだとー!?」

「瑛彦は暑苦しいのよ。ただでさえ暑いのに勘弁しなさい」

「へーへー、どうせ俺は暑苦しいですよ……」


 少しいじける瑛彦だったが、すぐに質問を思いついて沙羅に尋ねた。


「ところで、瑞っちは?」

「家でお風呂掃除。終わったら裁縫でなんか作るって言ってたわ」

「はーん……瑞っちと沙羅っちっていつも一緒だと思ってたから、別行動って意外だな」

「何でそう思ってたのか知んないけど、瑞揶は兎も角、私は結構家を出てプラプラしてるわよ」


 的確に沙羅は答える。

 確かに、家族であり親友ともいえるほど沙羅と瑞揶は仲が良いが、家事をしてない分、余力のある沙羅は外に出かけていた。

 その際、必ず瑞揶が日焼け止めを強要するのは余談である。


「へー……沙羅っち、瑞っちに家事を押し付けてんだろ」

「うっ……」


 瑞揶が風呂掃除をしているのにほっつき歩いてる沙羅から瑛彦は推測を口にした。

 その推測も正しいので沙羅は押し黙る。


「おいおい、沙羅っちは居候だろ? 瑞っちの分もやるべきなんじゃないのか〜?」


 ニヤニヤと笑いながら、さらに畳み掛ける。

 しかし沙羅も対抗し、半ば怒声で反論した。


「瑞揶は家事が好きなのよ! 私だって手伝う時は手伝ってるわ! 掃除も洗濯も炊事も、私だって完璧なんだからね!」

「だったら尚のこと手伝ってやるべきじゃねぇの〜?瑞揶も内心、何思ってるかわからないぜ〜?」

「瑞揶が内心私を悪く思ってるって? 瑞揶はいつもあんなよ? 私を悪く思ってるなんてあり得ないわ」

「まぁ、そりゃそうだな」


 自分で言いだしたことなのに納得してしまう瑛彦。

 そんな彼を内心バカにしながら、沙羅はこの会話を終わらせに掛かる。


「兎に角、私も何か手伝いしろってことでしょ? 瑞揶に相談してみるわ」

「おうおう、それでこそ沙羅っちだ。つーかよ、家事は瑞っちがやって、外ほっつき歩くのが沙羅っちって、なんか性別間違えてね?」

「……やめなさい。それこそ私が思ってることなんだから」

「お、おう……」


 沙羅が眉間(みけん)を摘むとさすがに瑛彦も追求はやめた。

 それでも2人が合わさっていい感じだと瑛彦は思っているのであるが。


「じゃ、また学校でな〜」

「ええ、次会った時は覚えときなさいよ」

「そう言ったって、沙羅っちの方が忘れてる事多いじゃん。覚えてねーよ」

「うっさいわっ。早く行きなさい!」

「へーへー、またな〜」

「ええ……またね……」


 また瑛彦にいろいろ言われるのが嫌で少し引け目な沙羅なのであった。


 DVDを買ってすぐさま帰宅した沙羅は瑞揶にもっと家事をさせてと懇願するが、笑ってやらなくていいと言われてしまい、悶々としているのであった。

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