第三十三話
33話となってますけども、閑話とも言えます。35話までは前作がほんのりと絡んでくる話なのですが、変なカタカナの名前が出てきても、わからなければ無視してくださって結構です……。
原初キャラが懐かしい……。
それは体育祭後の日曜日が過ぎ去り、振り替え休日の月曜日のこと。
「……この家は落ち着くね。まぁ瑞揶の家だから当然か」
「……僕の事をどんな風に思ってるのさ」
突然来訪した環奈がリビングでお茶を啜っている。
私服姿を見るのは2回目だけど、前回の何があったかわからないボロボロな様子ではなく、汚れもなくふわっとした、白と黒の合わさったワンピースを着ている。
色のあるものじゃなくてゴシックな所が大人っぽいと感じた、
「それで、何か用事があるの?」
ソファに膝をつき、背もたれに腕を乗せて携帯を触る沙羅が尋ねる。
……人に何か聞く態度じゃないけど、沙羅だから何も言えない。
環奈も気にしてないようで、普通に答えた。
「特に用事はないよ。振り替え休日にシフト入れてなかったから暇だっただけ」
「……まだ朝の8時だけどね。暇なんだね……」
時刻はまだ朝の8時。
ちょうど僕と沙羅が朝食の食器を片付けた頃にやってきたのだ。
「うちに来てもやる事ないわよ?」
どーでもよさげに沙羅が切り返し、携帯から目を離してソファに座りなおす。
「……そーなの?」
「ええ。私はなんか持ってるわけじゃないし、瑞揶も漫画や小説読まないでしょ?」
「す、推理小説なら何冊か……」
「……それは読まないわ」
ため息まじりに沙羅が拒否する。
……前世では恋愛小説とか読んでたんだけどね。
今世では読まないことに決めたせいでバリエーションが乏しく、悲しい。
「んまぁ、とりあえず瑞揶の部屋入りたいんだけど、いい?」
僕の部屋への入室許可を求める環奈。
「僕の部屋? いいけど、なんで?」
「なんか面白そうじゃない?」
「……なんかってなんだよぅ〜」
両手を上げて怒りをアピールするも、環奈はカラカラと笑うだけだった。
「あっはっは。そう怒らないで案内してよ。それとも、やましい物でもあるの?」
「むーっ、ないよーっ。そんなこと言う環奈の方がやましいよーっ!」
「おー、わかっちゃう? ウチ、実は結構エッチなことが――」
「え、ええっ! ?そうなのっ!?」
「好きじゃないんだなー、これが」
「……そのフリはなんなのさーっ!」
無駄に緊張させられてさらに怒りが増幅し、顔を真っ赤にして問いただす。
僕がこんなに怒っているのに、環奈は全く反省の色も見せずにニヤニヤと笑った。
「ごめんごめん。瑞揶が可愛いからつい、ね」
「僕は男だよぉ……男らしくなるんだもんっ」
「……わかったわかった。そんな涙目されたら、何も言えないわ」
「……むぅ〜」
拗ねたように頬を膨らませると、その膨張部は沙羅に突かれて唇から空気が抜ける。
八つ当たり気味に彼女を睨むと、沙羅はペチペチと僕の頭を叩く。
「瑞揶はいっそ、女の子なら良かったのにね。まぁ女でなくても、今のままで良いと思うわ。男らしかったら私も安心して暮らせないでしょ?」
「あー、それもそうだね。ウチも、瑞揶は今のままが一番いいと思うよ」
「……そんな後付けで言われても、嬉しくないもんっ。いいもんっ、僕はいつか、君らを見返すぐらい男らしく、逞しく、威風堂々としたワイルドな男になるんだかりゃっ……」
「……。……萌えるわね」
「……うん」
「…………」
最後噛んだだけなのに、萌えられても困るのだった。
僕は男としての威厳は取り戻せるんだろうか?
◇
「これは予想以上に――いや、なんでもない」
僕の部屋に着くなり環奈は何か言おうとしてやめる。
言いたいことはわかるけどね?
沙羅にあげたとはいえ、またぬいぐるみも作ったし、部屋も水色とか薄黄色とか、明るいものでカラフルだし……。
……部屋が暗いのが落ち着かないだけだけど、瑛彦の部屋とかは雑然としてるけど、色が濃いしなぁ……。
僕は色の薄いのが似合うと思うのに……うう。
「……環奈、あんまり言うと瑞揶が立ち直れなくなるからやめなさい」
「沙羅〜っ! ナイスフォローだよ〜っ!」
「引っ付くなっ! もう6月で暑いんだからっ!」
「うう〜っ」
半泣きで沙羅に抱きつくと突き飛ばされる。
……いつも通り、僕より沙羅の方が男らしいなぁ。
「どれ、タンスにスケベな物は入っているか否か……」
「環奈、何しに来たの……」
「……瑞揶みたいな子でも性欲があったりするのか、の確認?」
「あはは。環奈、ここでその服ひん剥いて裸で外に晒してあげようか?」
バキンッ、と何かが割れたような音がした。
今の音はなんだろう? よくわからないけど、僕もそろそろ有頂天だという警鐘だろう。
環奈も沙羅も、時が止まったように動かなくなって、この場は僕が完全に支配する形になってしまった。
「……い、いやー、冗談だよ瑞揶。やだなぁ、そんな怖い事言うなんて」
「そうだよねー、冗談だよねー? 本気だったら腕の1本や2本をなくしてもらうかもしれなかったよ」
「腕は2本しかないし、足も同様だから勘弁して……」
「また生えてくるでしょ? 魔族だもんね」
「……そんな特殊能力はないよ。というか、ホント悪かったからそろそろ落ち着いて、お願いだから」
「僕は落ち着いてるよ? あははっ、どうしたの環奈? 魔族は人間なんかより断然強いんだからそんなに怯えなくてもいいのに」
「…………」
環奈は小刻みに震えてもはや口も動かなくなる。
僕が本当に怖いんだろうね、だって彼女を動かなくさせて声も出させなくしたのも僕の能力だもの。
もうちょっと恐怖を植え付けようかな?
僕も週末だけとはいえ、色々としてるから今更小娘1人ぐらいどうしようが問題ないわけだけど――。
「瑞揶」
色々と考えている中、いつもより凛とした沙羅の声が響いた。
僕の集中は途切れ、「あっ」と声を漏らす。
さすがにこれはやり過ぎだし、友達にすることじゃない。
「ごめん環奈! 大丈夫!?」
「……あー、いや、うん。マジで死ぬかと思ったわ」
「そんなことしないよーっ! でも、環奈も自重してね?」
「……うん、ある程度はね」
やつれた環奈は僕のベッドの方へと歩き、倒れるようにベッドに寝転がった。
僕は彼女が無事である事が確認できて安堵の息を吐き出す。
「沙羅、ありがとね。おかげで落ち着いたよ……」
「……いや、いいのよ。それより、アンタって怒ると怖いわね……」
「そう……? とりあえず問答無用で殺さないだけマシじゃないかなぁ……?」
「そもそも殺さないでしょ。どっか基準がズレてるわね……」
「えー……? 僕はこれで普通なんだけどなぁ……」
日曜日、たまに戦争や紛争地帯に行かされる。
そういうところだと、味方でもキレられて殺されそうになる事もあるんだけどね。
……あそこはみんな命懸けだから、当然と言えば当然なのかな?
「……ともかく、あんまり怒って能力使わないでよ? アンタの能力はおっかないんだから」
「う、うん。反省してます……」
「わかればよろしい。って、環奈は寝ちゃったかしら?」
沙羅が環奈の元へ歩み寄り、うつ伏せの彼女の背中をバシンと叩く。
短い「痛っ」という悲鳴と共に、彼女の体がピクリと動いた。
「……起きてるのね」
「そりゃ眠くはないからね。というか何、このベッド? フカフカ度合いが桁違いなんだけど」
環奈が寝転がって上体を起こし、ベッドを押して反作用で優しく押し返されるのを楽しんでいた。
「そこまで言うほどかなぁ……? この前デパートで買ったやつだよ〜」
「へー。ベッド良いなぁ……バイト民のウチは布団から脱却できん……」
「布団は布団で趣があって良さそうだけどね……」
「まぁね〜。落ちる心配もないし、気楽に寝れるかな」
「…………」
環奈の発言を聞いて、沙羅は肩を狭めて小さくなった。
落ちてる事、多いからね……。
「というか、本当に遊ぶものないんだね」
「トランプぐらいならあるよー? やる?」
「いいねー。じゃあ、負けたら秘密を1つ暴露しようか」
『…………』
「……ごめん、やっぱ罰ゲームとか無しにしようか」
『……うん』
僕も沙羅も秘密があるし、できるだけ暴露は避けたい。
結局の所、普通にトランプで遊んで昼まで過ごした。