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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第一章:愛惜へのオーバーチュア
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第三十一話

 部室の空気は大荒れだった。

 嵐吹き荒れる大海にて二体の龍が対立するかのごとく、凄まじい剣幕が続いている。

 二体の龍――それは、沙羅とナエトくんだった。


「勝つのは1・2組よ。我らが団結力の前には他のクラスなんて蹴散らしてくれるわ」

「はっ! 勝つのは3・4組だ。君のような女子が何を言おうと、運動能力で男子に勝ると思うなよ」

「ふんっ、そんなの一般論でしょ? 私は500m走学年最速よ? 環奈だって速いわ。常識だけで勝とうだなんて、知能がないんじゃない?」

「僕は計測の時に手を抜いたのさ。あの頃はサイファル、貴様の存在を知らなかったからな。だが、今回は本気を出させてもらうぞ。僕の方が貴様より速い!」

「発想が軽率ね。結局はチームワークなのよ。私1人に勝利宣言してる時点でお話にならないわね」

「ぐぬぬ……ああ言えばこう言いやがって……!」


 ……この2人の(いが)み合いはいつものことだけど、今日は一段と激しい。

 何と言っても、今日は体育祭前日だから。

 瑛彦は兎も角、僕はそこまで熱が入ってないし、環奈も理優ものんびりしてお茶を飲んでいる。

 瑛彦は応援団の練習行っちゃったし、この空気を収集できる人が居ない。


「いいかサイファル!? 僕はこの催しで貴様を下し、魔界の恥を払拭する! 僕は負けないぞ! 断じて負けん!」

「勝てるもんなら勝ってみなさい。明日、良い勝負ができることを楽しみにしてるわ。……ああ、アンタ達が惨敗しないでって言ってるのよ?」

「ふんっ! 貴様らこそ、我が3・4組に惨敗してその顔を涙で大洪水にならないようにな」

「はいはい。わかったから自主練でも行ってきなさい」

「言われるまでもない。今日はこのなんの意味もない部活をサボらせてもらう。じゃあな、皆の者」


 肩を震わせながら、そうしてナエトくんは退室していった。

 対立する龍が居なくなり、もう一体の金髪の龍も落ち着く。


「はー、アイツの相手するのめんどくさいわね……瑞揶、人間の方はどうなのよ?」


 唐突に話し相手に選定され、僕はちょっと戸惑いながらも的確に答える。


「え? こっちはみんな、楽しむ事を趣旨にやってるよー。そもそも人間部門と魔界部門は個別だし、こっちの心配はいらないよ〜」

「瑞揶のせいでみんなのほほんとしてるわけね」

「……別にそういうわけじゃないんだけど」


 僕が原因でやる気出してないわけではない。

 元より、人間は魔人より血気盛んじゃないしね。

 人によりけりだけど、楽しめるのが一番かな。


「とにかく、人間の方も頑張りなさい。良いわね?」

「ほどほどに頑張る……というか、僕は運動能力高くないからなぁ〜……」

「……そこはアンタの能力で補助しなさいよ」

「卑怯なのはダメだよーっ。僕は正々堂々戦うよ?」

「……あっそ。ま、私のやる気を人間の方にまで持ち出しちゃ悪いわね。つーか、私は自主練したいし、向こうはお茶飲んでるだけだから今日は解散しましょ」

「……はーい」


 とりあえずの解散となり、沙羅や理優達とも別れる事になった。

 特に用事もない僕はスーパーに買い出しに行き、明日のためにスタミナをつける料理を考案しながら買い物を済ませ、家に着くと家事を始める。

 沙羅は練習頑張って帰ってくるだろうから、彼女の分もやるために少し、超能力に頼った。

 家に帰ったのが17時半、お風呂も沸かして夕飯まで作り終えて今が19時。

 5月終わりの空はまだ完全な黒じゃないけど、そろそろ不安になる時間帯。

 沙羅は強い子みたいだから万が一なんてないだろうけど、一応けいたに連絡を入れてみた。

 3回のコールで彼女は応じる。


「もしもし、沙羅?」

《なによ瑞揶? どうしたの?》

「もう遅いから帰ってこないかなって……まだ練習してるの?」

《……ああ、もうこんな時間なのね。明日の600mロッククライミングを周回してたのよ。最高18秒ね》

「……人間だと、そんなタイムは不可能だね」

《そりゃあ魔人だもの。あ、ダッシュで帰るわ。3分で帰るから、私の着替え出しといてくれない? 先にお風呂入るわ》

「わかったよー。でも、疲れてるならゆっくり走ってもいいからね〜?」

《善処するわ。じゃ、心配させて悪かったわね。また家でね》

「うん、また〜」


 電話を切って沙羅の着替えを取りに行く。

 あんまりこう言うと良くないんだろうけど、家事全般やってるから沙羅の下着の位置とかも勿論知っている。

 僕がそういうの気にしてないから沙羅も気にしてないし、何も言われないうちは大丈夫なはず……。

 彼女の部屋に行き、タンスの中から適当に衣類を出して浴室の方へ向かう。

 家の中なら沙羅はなんでも着るから、適当に出したものでも怒らないのだ。

 そうしているうちに、玄関のドアが開いた。


「……ただいま〜。あー疲れた……」

「おかえり〜。お風呂沸いてるよー? あんまり疲れてるなら背中流してあげようか?」

「……いや、流石にそれはやめましょ。1人で入るから心配しないで」

「そう? ゆっくりしてきていいからね〜」

「ええ、そうさせてもらうわ……」


 沙羅は疲れ切った様子で浴場の方に入っていった。

 あんな様子で明日頑張れるのか気になるところだけど、沙羅の事だから大丈夫であろう。

 運動に関してなら、僕が彼女にしてあげれる事もないし、明日の結果を期待して待つとしよう。







 体育祭当日、ヤプレータ高校にて3種族は校庭別となり、沙羅とはすぐに別れる事になる。

 人間部門だけで大体200人、2クラス併合×3を3学年だから、1クラス11人前後居るみたい。

 200人で済むし、校庭はそんなに広くない。

 1週300mあるらしいトラックを囲うように、生徒が座るような感じになっている。

 これが魔人とかだと1kmトラックとかになるんだけど、人間が1km走るとどんなに速くても1分半はかかるんじゃなかろうか。

 魔人はその半分のタイムで走るから、本当に人間と生活を共にしてるのが不思議である。

 ともあれ、僕たちは人間だし、ロッククライミングとか日が暮れそうな競技はない。

 人間は人間として競技は決まってるし、安心して取り組むことができる。


 本番開始前、各クラス各学年が整列させられ、開会式が行われる。瑛彦は体育祭実行委員だから最前列に居て、話し相手が居ない状況になっている。

 クラスメイトとも面識は当然あるけど、気の強い瑛彦や沙羅といつも一緒に居るからか、少し僕の印象も見た目と違うらしい。

 だから話しにくい……のかな?

 そもそも僕がこういう感じだから話しにくいのかは定かではないけど、滅多じゃないと声はかけられない。

 細々と1人で開会宣言まで聞き、退場ものほほんと行った。


(なんだか、みんなが居ないともどかしいなぁ……)


 いつも誰かしらが周りにいる分、静かなのがどうにも落ち着かない。

 僕は自分の出場する競技が始まるまで理優の所に行く事にした。

 5組の方で彼女の姿を探すと、案外早く見つかる。

 彼女も1人でしょんぼりと座っていたから。


「理優〜」


 声を掛けると、ビクビクして恐る恐る僕の方を見た。

 僕の顔を見てなぜか胸をなでおろす。


「瑞揶くんかぁ……びっくりしたぁ……」

「……なんでびっくりするの?」

「だって私、基本的には声掛けられないから……」

「そうなんだ……理優、おとなしいもんね〜」

「むぅ……瑞揶くんには言われたくないよーっ」

「じゃあ似たり寄ったりだね〜」

「フフッ、そうだね〜」


 お互いににこやかに笑う。

 僕とどことなく似ていて、理優とは本当に気が合いそうだ。


「あっ、私グミ持ってるよ。食べる?」

「わーっ、少し貰おうかな……。代わりに、僕もドーナツあげるねっ」

「やった〜! 食べるなら校内がいいよね?校舎の中入ろっか」

「うんっ」


 トントン拍子に話が進み、僕達はお互いに持つものを持って校舎の中へと入っていった。

 体育祭で周りが燃え上がってるけど、僕達はいつも通りまったりとしているのだった。







雌雄(しゆう)を決する時が来たわね」

「ふんっ、結果は言うまでもなく僕らの勝利だがな」


 魔人用校庭の真ん中、私とナエトはお互いに仁王立ちで睨み合っていた。

 これから行うはリレー、5・6組は目の敵ではなく、打ち倒すべき敵は3・4組。

 体操服姿でお互いに華奢ではあるが、そんなの見掛け倒しでしかない。

 1人1周200m、我が合同クラスのタイムは24人で3分半前後。

 アンカーは当然私、この時点で負けるつもりは毛頭ない。


「長らく因縁つけられたけど、それもこれまでよ。この戦いが終われば、アンタは私を勝者だと認め、監視云々も言わなくなって私の下僕になるはずだわ」

「それは僕のセリフだ。貴様はこの戦いが終われば、自ら僕の靴を舐めようとする筈だ」

「なにおぉ!? そんな真似するわけないでしょうが!」

「さっさと僕の下僕になってしまうんだな!」

「なるかっ! アンタが私の下僕になれ!」

「ふざけるなっ!」

「……そこのアンカー2人、試合始められないからとっとと座ってくれ」


 先生によって咎められ、空論は止む無く中断となる。

 渋々と列の最後尾に並ぶ。

 まぁ、いくら口で言おうが結果はすぐに出る。

 練習の成果を出すべく、今は集中するのみ。

 勝つのは――私よっ!!







 一方


「瑞揶くんの能力凄い!! このうさぎさん可愛すぎるよぅ〜っ」

「撫で撫ですると気持ちいいよ〜っ」


 瑞揶の能力により、校内でうさぎを発生させて理優と2人戯れているなど、誰も知る由はなかった。

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