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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第一章:愛惜へのオーバーチュア
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第二十三話

 翌日の部活にも、ナエトくんの姿があった。

 代わりに環奈と理優はバイトで居なくて、男性率が高い。

 瑛彦と僕、沙羅、そしてナエトくん。

 どことなく気まずい気がしないでもないけど、瑛彦がナエトくんと話してて僕と沙羅は話さずにいたから大丈夫。


「……アイツ、部活入んないくせになんで居んのかしら?」

「迷ってるんじゃないかなー? 楽しい部活だもんね〜」

「ただダラダラしてるだけだけどね」


 部長自らが酷評する。

 間違ってないけど、我が部はこれで大丈夫なんだろうか?

 顧問も楽だろうから先生も何も言わないし、僕達もこのほのぼの感が良いんだけど……。


「……なんかのコンクールとか出てみない?」

「無理ね。私はまだ譜面も読めないのよ?」

「……そっかー。そうだね……」


 今更ながら、この部活ではまず、譜面を覚えることからした方が良いようだ。

 多分、読めるのは僕と瑛彦だけ。

 環奈は作詞するみたいだけど、読めるかは不明。

 読めない沙羅と理優に教えるのが優先なんだろう。

 まぁ、本気で演奏頑張ろうという意気込みもないからほどほどに、なんだけど。


「今から教えようか?」

「いや、フルートの練習するわ。まだ上手く音が出せないのよね」

「あはは、了解。僕も向こうでヴァイオリンやってこよーっと」


 沙羅と別れ、僕達は各々練習を始める。

 その様子を、ナエトくんが目を凝らして見ていた――。







 改めて“まったり音楽部”というふざけた部活に来てしまったが、この後サィファルを殺す事は容易そうであった。

 サイファルは、強い。

 その事は護衛を任せた時に知っている。

 僕は魔王の嫡男であり、実践などして居ないから純粋な勝負であれば勝てる見込みはないと言っていいだろう。

 しかし、いつでも不意打ちで殺せる。

 問題はその後だ。

 瑛彦、響川瑞揶に悟られないように暗殺するとなれば、帰り道まで待たなければならない。

 僕個人がサイファルを殺したいわけでもないし、放課後まではゆっくりと構えて待つとし――


「ねぇねぇ、ナエトくん」

「む?」


 瑛彦の話をずっと無視して思慮を巡らせていると、響川瑞揶が話しかけてきた。

 優しく微笑みながら、男にしては少し長めの髪を揺らして安心させるような言葉。

 コイツは本当に男かと疑いなくなる。


「なんだ?」

「今こっち見てたよね?」

「そうだが、それがどうした?」

「もしかして、楽器吹きたくなったのかなぁ〜、っと思ってね。何かやってみる?」

「……ふむ」


 これは中々良い提案だった。

 僕としても放課後までは暇であり、折角高校に通っているのだから学校で出来ることに興じるのもまた一つの手。

 僕は立ち上がり、瑞揶のの提案に乗った。


「いいぞ、なんか演奏しよう」

「わーっ、じゃあ吹くのと弾くの、どっちがいい?」

「僕は初心者だから、簡単なやつで頼む」

「じゃあアレかな。付いてきて」

「ああ」


 瑞揶が先導し、教室を出て音楽準備室へと移動した。

 掃除されているのか、埃が舞うほど汚れてはいない。

 しかし、雑然と放置されている楽器達は進む足を遮り、邪魔くさい。

 とはいえ、程度のやしれたことである。

 瑞揶は慣れた動きでひょいひょいと楽器を避けて、奥にしまってある小太鼓を1つ出した。


「見て見て、小太鼓だよ〜っ」

「見ればわかる。まさか、そんな子供でも出来るものをやらせようと言うのか?」

「へー、小太鼓をバカにするの? 技術によって幾らでも音の強弱が変わるし、テンポの速さを一定に保ちながら叩く。しかも、バチをバウンドさせて叩くのって慣れるの難しいよ?」

「ふんっ、僕をバカにするな。そんな子供騙しの供述などに惑わされたりしない」

「へぇ〜。じゃあ、なんでもいいからやってみて?」

「任せろ。この程度――」


 瑞揶から楽器を受け取り、肩からぶら下げて両手にバチを握る。

 力加減を誤ればバチが面を食い破るだろうが、そんなヘマはしない。

 初めてやるにしても、叩けば音の鳴る太鼓だ、恐れるものは何もない。

 僕は握るバチを握りしめ、太鼓のデカデカと晒された白丸に連続で叩きつける。

 ドンドンドンという大きな音が一定のタイミングで鳴り続ける。


「ダメだよーっ、バチ握るのに力を入れたら」

「文句あるのか?」

「僕に貸して? 手本を見せてあげる」

「手本? あぁ、僕が驚嘆できるほどのものなら見てやらんでもないがな」

「うーん、驚いてもらえるかは微妙かなぁ。僕もあまり太鼓は持たないし……」


 会話をしながら瑞揶に小太鼓とバチを渡す。

 すると瑞揶は慣れた手つきでバチをくるくると手のひらの上で回し、もう一方のバチを顎に当てていた。

「よしっ」と呟いた刹那、彼はドラムの面近くまで手を落とし、バチの先端を落とす。

 ダァァァァっと言う音が、たった一振りのバチで鳴り、バチの振動が小さくなる頃にもう一方のバチで大きく面を叩く。


 カンカン、ドン――。


 それから先は高温のリズムが音としてではなく、しっかりとした、バラード曲の様な音楽として響く。

 瞳を閉じて微笑を浮かべ、素早い手の動きで太鼓を叩き、バチ同士を弾かせたり太鼓の縁を叩き、高温のリズムが延々と続くように感じた。


 カッカッ、タンタンッ――。


 太鼓だというのに、力強さがなくて落ち着きがある。

 手の動きもただ早いだけではなく、美しくて軽快で、微笑むその姿は本当にただ音楽を楽しんでるよう。

 僕の思っていたものとは全然違い、いつの間にか開いていた口は塞がらなかった。


「……うーっ、腕が疲れるよぅ〜」


 突如瑞揶は2つの腕を下ろし、演奏を中断する。

 陽気な音が止み、余韻すら残らなかった。

 僕も咄嗟に我に帰り、感想を口にした。


「壮観だった。子供騙しなどと言って悪かったな」

「でしょ〜? 奥が深いんだよ? ただ叩けばいいんじゃなくて、バウンドさせたり、突いたりして、いろんな音を出すの。いろいろ試してみてね」

「……そうさせてもらおう」


 瑞揶から再び楽器を受け取り、瑞揶はやる事はやったと言わんばかりに視聴覚室へと戻って行った。

 ……暇潰しのつもりだったが、差を見せ付けられると熱くあるというもの。僕はしばらくの間、熱心に小太鼓を叩いた。







 サイファルが気付いていないとはいえ、怒らせたら国一つ滅ぼすのも容易い女である。

 夜が訪れ、なぁなぁで一緒になる帰り道の中で僕は警戒を解かずに投げやりな部活を終えた3人の後ろに付いて歩いていた。


「……私は瑛彦が嫌いよ。だって行動がいちいち気持ち悪いんですもの」

「なんだとぉお!? 俺のどこが気持ち悪いんだ! 全部が全部神々しいだろ!?」

「長い付き合いの僕でも、瑛彦は擁護のしようがないなぁ……。もっとまともになればいいのに」

「瑞っち、俺はまともだ。まともな俺がスケベなんだ」

「アンタ生まれ直した方がいいわね」


 ……前からの会話を聞く限り、僕の事など気にも留めてない。

 いくら部員でないからとはいえ、遠慮がなさすぎるだろ。

 話しかけられたくもないから構わないが、ここまで気を使われないとかえって悲しい。

 悲観すること数分、僕は本来別れる交差点にまでやって来た。

 瑞揶たちは直進だが、僕は右に曲がらないと遠回り。

 今日は当然、遠回りする。


「ん?ナエト、帰らないのか?」


 気になったのか、瑛彦が尋ねてくる。

 一瞬のうちに付いていく建前を考え、口に出す。


「今日はこの先の店で買い物を、な……。欲しい本があるんだ」

「へぇ。どんな本なんだ?」

「……普通の参考書だ。面白いものではない」

「参考書か。俺も保健体育の参考書があれば買うんだがぁ痛たたたたっ!!?」

「それ以上下劣な事を言うと、その頭カチ割るわよ?」


 サイファルが横から出てきて瑛彦の頭を鷲掴みにする。

 瑛彦も、もう少し節操があればいい男なんだがな、どうもこればっかりは治る見込みがない。


「……お前達は元気だな」

「楽しくない生活を送ってないもの。当然でしょ?」

「……なるほど、そうか」


 僕の何気ない呟きをサイファルが拾い、答える。

 今は楽しい生活を送れているようだ。

 命令とはいえ、昔から人を殺し回っていた少女が漸く自由を手に入れて充実した日々を送っている。

 なるほど、美しいストーリーではある。

 だが、それとこれとは話が別。

 魔界の秩序を崩さないため、サイファルの存在は秘匿する。

 殺す、という手段を用いて――。




 程なくして瑛彦とも別れ、瑞揶とサイファルを含む3人になる。

 夜はもう少し長引きそうだ。

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