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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第一章:愛惜へのオーバーチュア
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第十七話

 入学してから2週間が過ぎた。

 僕達もそれぞれ高校で新しく出会った友人も出来て、話したり、一緒に遊んだりする機会は少しだけ減る。

 といっても、本当に少しだけ。

 大体僕と沙羅、瑛彦に環奈が集まってお昼休みとかは過ごしている。


 近況だけど、まず、環奈はバイト先が決まったようだ。

 近所にあるコンビニで働いているらしく、僕はまだ行ってないけど、瑛彦が行ったら環奈に通報されて一悶着あったようだ。

 それと沙羅の部活だけど、まだ決まっていない。

 沙羅は焦点を絞ってテニス部、吹奏楽部、帰宅部の3つまで絞ったらしい。

 帰宅部に至っては部活ではないけど、「家事をやって家でゴロゴロするのもありね」とのことらしい。

 何をするかは沙羅次第だけど、沙羅が入ってくれないと僕も入部しずらいのだ。

 因みに瑛彦は今、無所属だ。

 学校が終わったら僕達に付いてくるか速攻帰宅の2択である。

 そして今日――


「……テニス部はやめるわ」


 放課後、沙羅がテニス部への入部を選択肢から外した事を屋上で告げる。

 フェンスに寄り掛かる僕と瑛彦は顔を合わせ、どうしたのかとはてな顏を浮かべた。

 因みに、環奈はバイトですっ。


「どうしたよ、沙羅っち? テニスしてるの似合うと思うぜ? 青春だしよ」

「……上級生に交際を持ち掛けられたわ。もう行きにくいし、女子の先輩にも目付けられそうだし、やめるわ」

「……それは御愁傷様だな」

「あはは、沙羅はモテるね〜……」


 げんなりとする沙羅だけど、これで交際を持ち掛けられるのは高校に入ってから6回目だ。

 高飛車な性格だけど、凛とした立ち振る舞いであり スポーツも勉強も右に出るものは居ない事から高嶺の花として見る男子が多いようだ。

 その事で僕も他の男子生徒から沙羅について聞かれることもあるぐらいに。

 可愛いし、明るいし、堂々としてるし……僕も姐さんと呼ぼうかなぁ。

 なんて、そんな事をしたらぶっ飛ばされるだろうけど。


「あのねぇ、笑い事じゃないのよ? 私の青春ドラマを邪魔しようとするミジンコのようなクソガキ共をどうにかして! アンタ達も奴らの邪魔しなさいよ!」

「ものスゲェ言い様だな……」

「沙羅、あんまり汚い言葉使っちゃダメだよっ?というか、モテたいんじゃなかったの?」

「うっさいわよっ! 程度のしれた輩にモテても嬉しくないわっ!! あーもー! 私にはこれからイケメンで家庭的不幸にみまわれた、しかしどこか優しい主人公が現れるはずなのに……!」

「おっ、ここにイケメンがいるぞー? どうだよ、沙羅っち?」

「アンタなんかを彼氏にするぐらいなら、学校全体を舌で掃除した方がマシよ!」

「……以外と俺って嫌われてるよな」


 ガッカリした様子も見せず、冷静に判断する瑛彦。

 でも、沙羅のヒロイニズムは酔っぱらいレベルじゃないよね……。


「というか瑞揶! アンタは恋愛関連の話ダメなんじゃないの!? なんで普通にしてるのよ!?」

「え? 確かに、僕本人に告白とかされたら気持ち悪くなるけど、他の人のコイバナは大好きだよ?」

「舐めとんのかぁああああ!!!!」

「いたたたたっ……」


 沙羅に襟首掴まれて背中をバシバシ叩かれる。

 力加減はしてるんだろうけど、やっぱり痛いよ……。


「……はぁ。こうなったら部活を作りましょ」

『……え?』


 沙羅の突然の提案に、僕も瑛彦も間抜けな声を出す。

 部活を作る?

 どうして突然そんな話になるんだろ……。


「放課後をこうして使うのは勿体無いわ。部活を作り、私の受け入れられる人間を部活に勧誘していく。どうよ! 部員1号2号!?」

「……もう俺たち、既に部員確定かよ」

「あはは。でも、一緒の部活だったら楽しいよね」


 僕としては賛成だった。

 仲の良いメンツで集まれて、一緒に放課後を過ごす。

 それっていつもと変わらない気もするけど、部活なら何か目的を持ってやるし、メンバーも増えるなら楽しそうだ。


「……まぁ、楽しそうだから俺も構わねぇけど、どんな部活をやるんだ?」

「ふん、私達の共通点は音楽よ」

「沙羅っち、フルートもまともに吹けなかったじゃねーかよ……?」

「黙りなさい。あれはこれから上手くなるのよ!」

「強引だな……」


 瑛彦が茶々を入れたりしているけど、確かに沙羅のフルートはまともな旋律じゃなかった。

 それはもう、騒音とか雑音のレベルで、霧代の事が考えられないくらいで、それで病まずに済んだのはまた別なんだけど。


「とにかく、音楽関係で人を集めるわよ!顧問は担任にアタックしまくって問答無用で通すわ!」

「……(たくま)しいよなぁ」

「僕の5倍くらいは男らしいよね……」

「何言ってんのよ。暇なら校内行って勧誘でもして来なさい!」

『……はーい』


 こうして僕達下僕1号2号兼、部員1号2号は校内を散策し始めるのだった。







 勧誘に駆り出された僕と瑛彦は黙々と校内を散策していた。

 時々出会う先生にあいさつをし、出会った生徒にはとりあえず勧誘を持ち掛けてるけど、成果は中々出ない。


「あー、ダメだなぁ……勧誘という名目でナンパしてぇのに女の子いねーし」

「放課後だし、普通の生徒はとっくに帰ってるよね。男女問わず、残ってる学生さんは少ないよ」

「だよな〜……」


 今日のところは諦めた方が良いんじゃないかと思いながら、1-7のクラスを覗くと、中には1人の生徒が残っていた。

 一番の後ろの席に座って電気も付けず、慎重な様子でペンを握り、何かを書いている。

 僕と瑛彦は顔を見合わせて頷き合い、教室の中に入った。


「あーあー、ちょっといいか?」

「…………」

「……聞いてないね」

「つーか聞こえてねーな……」


 近くまで寄って声を掛けるも、顔を上げることはない。

 姿をよく見るとスカートを履いていて、女の子のようだ。

 凄く集中して書いているけど、その紙を覗くとアルバイト許可証の申請用紙だった。


「……なんでこんなもん必死になって書いてるんだ?」

「いや、僕に訊かれても――」

「できたぁあ!!!」

『うわっ!?』


 突然少女が顔を上げ、用紙を掲げる。

 用紙には埋めるべき項目が埋められていて、どうやら書き終えたらしい。

 名前の欄には工藤理優(くどうりゆ)という文字が書かれていて、それが彼女の名前なんだろう。


「……って、あれ?」


 なんの気配を察知したのか、彼女は振り返って僕達の顔を交互に見比べた。

 クリクリとした瞳を持ち、童顔でショートヘアの黒髪を揺らす少女はやがて震えだし、僕の顔を見ながら震えた声で尋ねる。


「あっ、ああっ、あの……な、何の用……でしょうか?」


 しどろもどろでおぼつかなくて、今すぐにでも泣きそうな声。

 少しその様子に驚愕しながらも、できるだけ優しめに、笑って答える。


「勧誘だよ〜。音楽系の部活を作るから、校内に残ってる生徒に入らないか聞いて回ってるんだ〜」

「えっ、えええっ、ああ、あう、そ、そうですすすか……」

「……今のはどういう発音なんだ」


 戸惑う少女に瑛彦がツッコミを入れる。

 確かに、すを3連続で言うのは凄いよね。


「別に、怖がらせるつもりはないんだよ?嫌だったらもう出て行くから、ね?」

「えっ、そのっ……いっ、嫌では……ない、ですが……」

「……うん、ゆっくりでいいから、入るか聞かせて?」

「……ごっ、ごめんなさいっ。私、その……貴方達とは仲良くなれないですっ!!!!!」

「…………」


 勧誘をしただけなのに、鬼気迫る形相で仲良くなれないと言われた。

 ……えー、なんでだろ?


「……スゲェ大胆な断り方だな」


 瑛彦が呆れ半分にそう言うけど、正論過ぎて僕も感心してしまう。


「……そっかそっか、急に話し掛けてごめんね?あ、これ怖がらせたお詫びに……」


 ブレザーのポケットからイチゴミルク味の飴を1つ取り出す。

 それを机の上に置いて、僕は踵を返した。


「じゃ、またどこかで。行くよ、瑛彦」

「へいへーい……」


 僕が先行して廊下に出て、その後からは瑛彦も続いた。

 勧誘したのに失敗したし、やっぱり上手くいかないなぁ……。


「あーあっ、今の奴酷過ぎるだろ。いきなり仲良くできない! だぜ?」

「人見知りなんでしょ? 誰しも瑛彦みたいに堂々としてないから」

「……それでもなー。仲良くできないとか言われて引き下がれねぇなぁ」

「……え?」


 引き下がれない、っていうことは――?


「俺、あの子と仲良くなるわ」


 と、いうことらしい。


「……嫌がらせはしないでよ?」

「わーってる。ま、今は勧誘だ。明日から行くぞ」

「……って、僕も強制なんだね」


 セットで僕もあの工藤という子と仲良くするよう頑張るらしい。

 ……これだけ怖がられたのに、果たして仲良くできるんだろうか?

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