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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第一章:愛惜へのオーバーチュア
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第十一話

 お花見って、桜とかの花を見ながら酒宴を催すようなもの。

 僕達は未成年だからお酒なんて飲まないし、食べ物も豪勢なものじゃない。

 けど、ベンチに座ってお話ができるだけでもいいと思うんだ。


「瑞揶はこれから、沙羅と2人で暮らしていくんだな?」


 隣のベンチに座るお義父さんにそう尋ねられる。


「うん……そのつもりだけど、ダメかな?」

「ダメじゃない。だが、沙羅の生活はどうなるんだ? まさかとは思うが、ニートじゃないだろうな?」

「私が家に1日中引きこもると思ってんのかしら? それは絶対無理よ。24時間連続でドラマ放送でもしない限りはね」


 ニート発言を旋弥さんの隣に陣取っている沙羅が強く否定する。

 因みに、僕の隣には瑛彦が座りながらカレーパンを食べていて、4人でベンチを2つ使っていた。


「沙羅も一緒の学校行くんだよ〜? 制服は、明日ぐらいに届くかな?」

「ほう、そうなのか。勉強の方は大丈夫なのか?」

「それなりに。私の専門は工作員並びに先鋒。工作員として人間界の知識はある程度勉強してるわよ」


 お義父さんの問いにしれっと答える辺り、僕が思ってるより沙羅は勉強が出来そうだ。


「え? じゃあなんでドラマ見てるの?」

「実際に人間界に来たことは無かったのよ。だからテレビで勉強してるわけ。もちろん、面白いから見てるってのもあるけどね」

「そ、そっか……」


 いつも、お世辞にも女性らしいとは言えない態度でテレビ見てるけど、本当に面白がってるのかな?

 ソファーの上で足を組み、長い背凭れに片腕を乗せ、足で足首を掻いたりしながらチャンネルを弄る。

 ……なんだかなぁ、さすかに注意した方がいいのかなぁ……?


「沙羅っち、ドラマもいいけどアニメとか見ねぇか?」

「ふん、アニメなんてただの絵じゃない。人が生き生きとしているドラマの方が面白いわ」

「……コイツは相当だな」


 瑛彦は頭を振ってパンを食べ終える。

 ……アニメにドラマ、僕にはどっちも同じ様に思えるなんて、この状況じゃ言えないなぁ。


「好きなものは人それぞれでいいと思うが、あまりテレビばかり見てるなよ?」

「見たいものは見る、俺の信条の1つだ」

「あら、私もよ。気が合うわね、瑛彦」

「……そんな所で気が合わないでくれ」


 悪い意味で健気な2人に、お義父さんが項垂れる。

 テレビって魔性なんだなぁ。

 僕は天気予報と音楽番組ぐらいしか見ないのに……不思議。


「ま、当面の生活は大丈夫そうだな。もう俺は帰るが、何かあったらすぐに連絡してくれよ?」

「えっ? お義父さんもう帰るの?」

「今日は久方ぶりの休みだし、家族サービスして来ないとな。瑞揶にもサービスしたいもんだが……寧ろ俺がサービスされそうだしな、いいか」

「……うーん、確かにそうかもね」


 僕の方が家事は得意だし、お金もあるし、サービスされる事もないだろう。

 ……願わくば車で旅行に連れてってもらいたいけど、言わない方がいいよね。


「じゃ、俺はこれで。今度は何処か、外食でもしよう」

「うん、またね……」


 お義父さんは立ち上がると、手を振りながら去っていった。

 引き止めたい気持ちもあるけれど、迷惑は掛けられない。

 僕は、義理の息子だしね……。


「……んじゃ、俺も帰ろうかねぇ」


 思い付いたように瑛彦が呟く。

 僕よりも早く、沙羅が反応してくれた。


「瑛彦も帰るの?」

「まぁな。本来ならあと2〜3日居てやるつもりだったが、沙羅っちがいれば、瑞っちも寂しくないだろ?」

「寂しいって……むー、余計なお世話だよーっ」

「ははっ。じゃ、またなー」

「またねー、瑛彦ー」


 瑛彦が小走りで駆けていくのを見送ると、沙羅がどうでも良さげに挨拶を返す。


「むーっ。瑛彦、高校まで会ってやらないんだからっ」

「なによ瑞揶、怒ってるの?」

「……沙羅も、僕は別に寂しくないから。もっとしっかり、どっしりした男だからね? 大丈夫だからね?」

「……はぁ、そう」


 胡散臭い事でも聞いたかのように眉をハの字に曲げ、無難な相槌を打つ沙羅。

 これは……信用されてない!?


「沙羅っ!」

「なっ、なによ?」

「僕は男だよ!」

「……いや、知ってるけど?」

「忘れちゃダメだからね!?」

「忘れる忘れないの問題じゃないと思うけど……あれね、瑞揶は疲れてるのね。家事は私がやるから、瑞揶は今日休んでなさい」

「…………」


 なんか変な勘違いをされてしまったが、自分の言動を思い返すと否定もできない。

 ……家事は帰ったら僕がやるけど、休息が必要なのも確かなようだ。

 お花を見たとしても僕は面白くないし、帰路に着くとしよう。







 その日は思ったよりも時間があった。

 朝に掃除も洗濯もして、お昼ご飯は11時半に出来てしまい、洗い物も13時までに終わった。

 勉強もそこそこにやってる、ヴァイオリンも、実はちょくちょく弾いている。

 やる事がない。

 時間があるのにやる事がない。

 だったら――


 ――バタン


 僕はその部屋の戸を静かに閉めた。

 誰にも入れない部屋の戸を――。

 数歩歩いて、携帯電話を拾った。

 二つ折りにされた携帯を開き、データフォルダを開く。

 中には――霧代を主に写した写真がたくさん残っていた。

 風景を見て感動なんてしない。

 だけど写真を見て、そこに映る人を脳が識別すると、とても悲しい気分になる。


 ――ベチャ


「ぐふっ……」


 今更考えても、後悔しても仕方ない。

 頭ではそうわかってるのに、嫌な記憶は呪いの如く人を戒める。

 きっと、耐え切れないほど辛い戒めを受けているんだろう。

 僕は自分で、どうやって心を保っているのかもわからない。


 ーービチャビチャ


「いっ……アァッ……!」


 痛い事は贖罪になるのか、それは自己満足でしかない。

 でも仕方ないでしょう――?

 悪い人は、償わないと――


 ――べチャッ


「アアァッ!!ううっ!痛っ、アアァァァアアアア――!!!!」





 ――優しい人に、なれないもんね?







 目が覚めたのは夕方だった。

 外で響くカラスの鳴き声が目覚まし代わりとなり、ゆっくりと瞳が開いてゆく。


 起き上がった部屋では夕日の光が差し込み、部屋全体を赤く染め上げる。

 日差しにより、床に染み込んだ赤い染みはさらに赤く映った。

 携帯も、血のせいで画面が半分黒くなっていた。

 壁紙だった僕と霧代の映った写真――霧代の部分だけ、黒くなっている。


 でも、大丈夫。

 この部屋の物は――僕が部屋から出ると、元通りになるから。


「……また来るよ、霧代」


 僕の自傷行為は自室とこの部屋、頻度は適当で、場所も気分次第だった。

 だけど、もう今はこの部屋でしかできないだろう。


 ――パタン


「はぁ……」


 部屋から出て、扉に凭れかかる。

 若干貧血だろうか。

 頭が冴えなくて、足もガクガクする。

 こんなのは慣れっこだけど、慣れても動くことはできない。


「……僕は、弱いなぁ。はぁ……」


 体力の無さを恥じ、またため息を漏らす。

 前世も今も、食事は健康なのに病気にかかりやすく、ランニングをしても体力はつかなかった。

 体力、5ヶ月ぐらい毎朝20分走ったのに、それでも増えないんだから増えないよね。

 体質は前世から変わってない。

 能力で補うのは、以ての外だ。

 そんなの、僕が人間じゃなくなるから。

 死んで生き返る時点で人間じゃないって言ったらそうだけど、僕の中にある倫理観は崩さない。

 欠点も、多い方が僕の人生にとってはいいだろう。


「……沙羅、どうしてるかなぁ」


 ぱっと思い浮かんだのは沙羅の事だった。

 今更ながら、長時間部屋に篭ってて、彼女には何も言わなかった。

 用事などがあったなら、短気な彼女の事だ、ぶりぶり怒っているだろう。


「……動けるようになったら、すぐ行かないと……」


 ずるずると重力によって僕の体は沈んでいき、扉に凭れ掛かって座る。

 すると、横の扉が開いた。


「ふ〜っ」


 そんなおっさん臭い声を出して、ピンク色のパジャマを身に纏い、濡れた金髪をバスタオルで拭く沙羅が現れたのだった。

 彼女は座ってる僕に気付き、何でもないように告げた。


「あら瑞揶。見当たらなかったからお風呂沸かしちゃったわよ? 良い湯加減だからアンタも入んなさい」

「え?あぁ、うん……でもまだ早いような……」

「本当に良い湯加減よ? じゃ、私は録画したドラマ見るからまたね」

「う、うん……」


 簡潔に言うことを言い、ペタペタと裸足で廊下を歩いて沙羅はリビングに向かって行った。


「なんだろう、この温度差……」


 それはきっと、彼女が湯上りだから。

 そんなことはないよね、と自分にツッコミを入れて苦笑するのだった。

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