第18話
これは沙羅に似てしまったんでしょうか。
「……ん?」
僕の視線を感じ取ったのか、振り向く沙綾が僕の方を見る。
僕としては、自分の体を見て欲しかった。
湯気の立った白い柔肌が大々的に露になり、パンツとブラジャーで隠れた部分以外は露出されていた。
これが響川沙綾、風呂上りの日常だったりする。
沙羅が未だに下着姿でリビングに来たりするから、こんな事に……。
「おとーさん、どーしたの?」
「どーしたの、じゃないよ……。お風呂行くときは服を持って行ってねって、何度も言ってるのに……」
「お母さんもお風呂上がりは服着てないよ?」
「……お母さんは言っても聞かないんです」
そんな問答をまた行う。
昨日はしなかったけど、一昨日も言いました。
女の子は好きな子の前でしか肌を見せないんだって。
そしたらミニスカとかはどうなの? って返されてとても困りました、うん。
お母さんも足の見える服装するから、何も言い返せなかった。
今日は違う質問にします。
「じゃあもし、お父さんが沙綾のおっぱい触ったらどーするの?」
「お父さんが変態ねこさんに……! でもお父さん、悪意が無いから絶対触らないよねーっ♪」
「……なら、僕の男友達をここに呼んだら、どうする?」
「それはお父さんが悪いので、お母さんに逮捕してもらいますっ」
「そしたら僕死んじゃうよ……」
さすがに殺されかねないからこの質問もこれで終わりにする。
最近はお母さんよりも大きくなったのか、ブラの上からでもその曲線が浮き彫りで目が痛い。
見たら傷つく……お母さんに殴られる的な意味で。
「そもそもさ、お父さん」
「なに……?」
「ねこさんは裸ん坊だよ?」
「…………」
そのうち沙綾が外で脱ぎ出すんじゃないかと頭を抱える。
そんな変態ねこさんになったら、にゃーもお怒りでぷんぷんのお説教なのです。
「ねこさんはいいんだけど、沙綾……家ではまだ許すけど、外では脱がないでよ? 娘が変な男にえっちな視線で見られたら、お父さんその男を殺さなきゃならなく……」
「何物騒な事言ってんのよ」
「ああ、お母さん。お母さんからも沙綾に…………………………あれ?」
ちょうど良く沙羅が来たと思えば、一糸まとわぬ姿で堂々とリビングに入ってきた。
この人もお風呂上りらしく、湯気が立って頬が紅い。
…………ダメだ、沙羅が言っても説得力の欠片もないし、というか何か着てきてよ!
「沙羅っ! 早く何か着てっ!」
「は? 髪で大事な所は隠れてるでしょ?」
「下! 下が隠れてない!」
「お父さんならこの角度だと見えないわ」
何言ってるの、このお母さん。
僕が項垂れていると、沙羅も沙綾も揃ってリビングを出て行った。
それで着替えてリビングに戻って来る。
……2階に着替えに戻るより、着替えを持って浴室に行った方が良いんじゃないのと戦慄するのだった。
もしくは僕に裸を見せたいのか……そんな事は思いたくないけど、うん。
休憩がてらに寄ったり、お風呂出た後は暑いから服着てないだけなら、今度は脱衣所にソファーでも置いとこう。
そう心に誓う今、沙綾は14歳を迎えていた――。
この歳にもなると、沙綾も個室になり、携帯を買い与えるか沙羅と検討して買うことに。
ピンク色の最新機種で、沙羅と沙綾で選んだもの。
携帯事情は僕よりも沙羅の方が詳しいから……。
個室を与えたらリビングの集まり悪くなるかな……と思ったけどそれも杞憂で、にこにこしながら沙綾はよくリビングにやってくる。
部屋は2階にあるから行くのがめんどくさいし、そういうこともあるのだろう。
いつもリビングでにゃーにゃー言い合ってますっ。
性格も全然変わらなくて、朗らかで優しく、クラスでも癒し系として生きているそうな。
たまに友達連れて来たりして、お菓子ご馳走したりテレビゲームやったり。
沙綾自身も遊びに行って8時以降に帰ってくるのも珍しくなくなった。
親離れですなぁ、と思いながらも変な事してないか気にしていたり。
沙綾に限ってそれはないと思うけど、純粋な子だし、表情に影もないから、いいかなぁ……。
しかし、夜できない分朝に座禅を組んだり、真面目な子なんだよなぁ……。
成績もいいし、運動神経もお母さん譲りでとてもいいし……。
「とても僕と沙羅から生まれたとは思えないですにゃー……」
「そうねー……。沙綾の出来が良すぎるから、2人目ができたら不安かも」
「……なかなかできないけどね?」
沙綾と一緒に寝なくなった分、沙羅と夜を共にする機会が増えた。
それでも中々2人目の子供ができなく……まぁできなくても沙羅と2人で過ごせるからいいんだけど、沙羅が欲しそうな目をしてくるから頑張ってる。
まぁそれはさておき、これからどうなるんでしょうか。
こんな楽しい毎日が、これからも続けばいいな。
場所によっては、これをフラグというらしい。
その日の夜、僕は沙綾に呼び出された――。
◇
「……失礼します」
お母さんには内緒でということで、そっと扉を閉めて部屋に入る。
室内は沙綾らしく、ピンク色のカーテンや椅子のクッションもピンク色。
ベッドの上には色々な人形が置いてあり、可愛らしい。
そんな中、しょんぼりとした様子の沙綾が部屋の真ん中にあるテーブルの前に俯いて座っていた。
…………。
「……どうしたの?」
テーブルの反対側に座り、尋ねてみる。
何を言われたって怒るつもりはないし、なんとかしようとは思うけど……。
沙綾は顔を上げ、それからまた下を向いた。
俯きながら、ポツポツと語り出す。
「……私ね、結構モテるんだ」
「……うん」
「それでね……男の人にごめんなさいをすると、嫌われちゃう気がして……。私は何も悪いことをしてないのに、人を傷つけてるような……気がして……」
「…………」
ポロポロとなみだを零しながら話を聞かせてくれた。
結構前から我慢してた事なのか、それはわからないけど、溜めていたものが溢れているような気がした。
……うーん。
「それは男が悪いよ。勝手に告白して来て勝手に傷付いて、アイツは傷つけるから嫌いって……自分勝手だもんね?」
「でも、私がいなければ、何人も嫌な思いしなかったのに……」
「とは言ってもなぁ〜……。むしろ、フラれてももう一回突撃してくるぐらいじゃないと、それは悪いと思うけど……」
「……みんなそんなに強くないよ」
「…………」
沙綾のお母さんは死んでも世界を超えて僕を追いかけてきたんだけど。
そのくらいの愛情もないなら、告白をする事すらいけないと思うし……。
遊び半分で恋愛する人っていうのは、僕達みたいな夫婦の幸せを永遠に得られないしね……。
「沙綾が気にするなら、能力で告白されないように制限をかけるし、その沙綾に告白した男の人にも告白した記憶を抜いてもいいよ」
「……うん。それがいいよ」
「…………」
とてつもない量の愛がない限り告白をできなくする。
それは僕の能力なら可能だし、むしろ気楽に恋愛をされるよりはいい。
僕の周りの人を見ても、深い愛を持ってる人ばかりだし、幸せそうだし。
けど沙綾をそこまで愛してくれる人が現れるとも限らないし……。
「……沙綾、彼氏欲しくないの?」
「……私、まだ初恋もしてないよっ」
「そうなのかぁ……」
じゃあ恋の良さもわからない、か……。
うーん……どうしたものかなぁ。
「とりあえず、能力は掛けてあげる。だけど、男の人に興味出て来たら、解いてあげるからね?」
「うん……。でも、興味持つならお父さんかな。お父さんとだったら結婚してもいーよっ」
「僕は既婚者だし、親だし……」
「お父さんみたいな良い人、滅多に居ないよ? 優しくて家事が出来てお金持ちで……えへへ、大好きっ」
「あはは……」
ひとまず、元気になったと思おう。
はにかんだ沙綾を見て、そんな風に思った。
「ところでお父さん。どうしてお父さんは、お母さんと結婚したの?」
「……いろいろあったからね」
「またそれ〜……。なんでお母さんなの? お母さんなんて私より胸小さいし、まだ学校行っててお金も稼いでないし、家ではゴロゴロしてるだけだし……」
「……そんな事言って、お母さんが怒っても知らないよ?」
「聞いてないから大丈夫だもーんっ」
本当にそうだろうか。
もう遠い昔のことだけど、彼女は軍属だったし勘が鋭かったし……今も聞き耳を立ててそうだけど。
しかし、沙綾もこんなことを言うとは……。
「沙綾はお母さんの事、嫌い?」
「ううん、大好き。だけど……ちょっと怖いかも」
「……そっか」
僕もそうだ。
気を抜くと家に大穴が開いたりしていて、「瑞揶、直しといて」だもん。
怖いけど……優しいし、沙綾も嫌いじゃないようだ。
しかし、沙羅と結婚した理由といえば、僕達が愛し合ってるからに他ならない。
どうして愛が生まれたかといえば、これを話すと3時間ぐらいかかりそうだ。
だから今までは話さなかったけど……今日は沙綾も思い切って話してくれたし、僕も昔の事を語るとしよう。
「……沙綾」
「え、なに?」
「お母さんとお父さんの昔話、聞きたい?」
「もちろんだよーっ! お〜し〜え〜て〜っ」
「あはは……。じゃあちょっと長くなるけどね、まず、僕と沙羅は――」
かつて、沙羅が家のリビングを壊してやってきた時から、昔の事を語った。
僕の前世の事も、後世の事も、そしてこの世界に戻ってきたことも。
こうして親子の垣根をなくしていく。
ただそれだけのつもりだったけど、気が付けば泣いていた。
なんで泣いたのか、自分でもよくわからない。
ただ、とてつもない感謝の気持ちが、沙羅に生まれた。
沙綾は僕の話をずっと聞いてくれて、話を聞き終わった後は心ここに在らずというように口を開けていた。
軽く放心状態というか、呆気に取られたというか。
「……こんな感じだけど、何か聞きたいこととかある?」
「……えーと、その……凄かった」
「……どうも」
それは質問じゃないです……。
「じゃなくて、その……今もお父さんはお母さんの事、好き?」
「……嫌いになると思う?」
「えへへ……。なるわけないよねっ」
そして2人で笑い合う。
沙綾もお母さんの事をもっと好きになれたようだ。
転生というのは途方も無い話だし、どこまで信じてくれたかはわからない。
けど、僕より詳しい話は沙羅に聞いてもらおう。
今度はお母さんに聞いてねと話し、その日は部屋を後にした。
次の日、寝不足な僕と沙綾、そして(やっぱり聞き耳を立ててた)沙羅の寝不足で朝の支度が大変でした。
その日の夜は沙羅と沙綾が一緒に寝るらしく、これは長い話をするなぁと微笑むのだった。
この作品でこういうのはアレだけど、沙綾は美少女ですからね。そんでこの性格。いろいろと男の人に抱きついてたりします。
そういうのがいけないんだけど、まだわからない14歳。
瑞揶自身、恋に翻弄されていろいろあったから恋愛面は慎重にして欲しいと娘に願っていたり。