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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
沙羅の章:双曲のパストラル
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第10話

 部活は廃部。

 それに依存のある人間はいないだろう。

 だって、もうみんな卒業するのだから。


 ピンクの花びらが舞っている。

 まだ3月だというのに、桜は早く咲いたようだ。

 全ての事が終わり、クラスメイトとも別れを告げ、いつものメンバーをかき集めて、僕らは学校にある桜の下に集まっていた。


「――終わり、ね……」


 ポツリと呟いたのは沙羅だった。

 送辞の言葉を言っても泣かなかった彼女は、今になって目に涙を溜めている。


「終わりだね。僕は、寂しいな……」


 僕は泣こうにも泣けなかった。

 いろいろな思いが胸に詰まっていて、今自分の感じている感情が、わからなくて……。


「ウチも、別れは慣れてるはずなんだけどなー……」


 環奈も笑いながら頬に伝う涙を掬っている。

 その声はやや(かす)れていて、姉御肌の彼女らしくない。


「うおおおぉぉぉおおおぉぉ瑞っちぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃ!!!」

「瑛彦、大声で名前叫ばないでよーっ!」


 そして僕に泣きついてるのは瑛彦だった。

 沙羅とは違って硬い腕が僕に巻きつき、なんだかなぁーと思う。

 これが今生の別れというわけでもないのに……。


 瑛彦は大学進学、理優も専門学校に行くらしい。

 僕は就職もしないけど、週1の警察へのお呼ばれが2回に増えるらしい。

 その分、給金も増えるけど、もう預金がとんでもない額になってたりする。

 沙羅と環奈、そして聖兎くんは進学だし、同じ学校に行くようだった。

 そこには環奈の彼氏さん……キトリューさんもいるから、心配はない。

 だから、人間組だけはお別れなんだ。


「環奈ちゃぁあん……またお茶会したいよぅう……」

「あーあー、泣くんじゃないよ……。同じ町に住んでんだから、いつでも会えるって……」


 理優は瑛彦ではなく、環奈に泣きついた。

 いつもお茶を啜りあってた2人だから、思うことがあるのだろう……。


「……お別れだな、瑞揶」

「聖兎くん……。まぁ、これも仕方ないことだよ」


 桜の影からひょっこり金髪の少年が顔を覗かせる。

 彼ともこの2年間で随分仲良くなった。

 主に、環奈のいじられ役とかで……。


「いろいろありがとうな。家の税金払ってくれてるだろ?」

「うん。これからも払い続けるし、お金は9桁持ってるから気にしないでね?」

「……相変わらず、お前はスゲェ奴だな」

「そうかなぁ……」


 瑛彦をあやしながら聖兎くんに微笑む。

 彼は泣いていなかった。

 むしろ、笑顔を僕に向けてくる。


「何かあったら連絡くれよ? いつでも助けになるからな」

「うんっ。聖兎くんも、困ったことがあったら僕に言ってねっ」

「おうよっ。じゃ、ちょっと環奈からかってくる」

「からかい返されるだけだと思うけど……」

「うるせー……」


 聖兎くんは行ってしまった。

 環奈をからかうのはいいけど、10倍返しされないといいね……。


 何て思っていると、ギュッと後ろからも抱きしめられる。

 誰かと思えば、胸に回された手の形で誰かわかった。

 その白く細い手には、何度も抱きしめられたから。


「……どうしたの、沙羅?」

「……泣き顔見られたくないわ。背中貸しなさい」

「…………」


 背中から震える沙羅の感触が伝う。

 とことん弱さを見せない彼女に微笑みたくなる。


「まったく……これじゃあ動けないじゃないか」


 2人から挟み撃ちにされ、僕はクスリと笑いながら瑛彦の頭を撫で、環奈達の方を眺めていた。


 春の薫風が頬をくすぐり、いつか沙羅が求めていた青春を感じるのだった――。







 瀬羅たちの結婚式や僕らの結婚式も終わり、新婚旅行も終えて、それからの生活は安定していた。

 朝は朝食を作ったり洗濯をしたりと忙しく、お昼から夕方はヴァイオリンを弾いたり、能力を使って他の楽器を出してみたり、夜は沙羅と一緒に穏やかに過ごす。

 たまに瑛彦や環奈達から連絡があって一緒に遊び、まったりと過ごしていた。


「はぁ〜……ただいまー」

「おかえり〜っ」


 学校から帰った沙羅を玄関で迎え入れる。

 青い色の新しい制服も、これで2年目だったり。

 つまり、僕達は戸籍上19歳になっていた。


「あー、今日も疲れたわ……」

「お疲れ様。お風呂湧いてるけど、ご飯とどっちがいい?」

「んー……ご飯にするわ。お腹すいたし」

「じゃあすぐ準備するね〜っ♪」


 そんなわけで、僕はリビングに駆けていく。

 その後ろ姿に、沙羅が言葉を投げかける。


「……立場が男女逆よね、これ」


 細かいことは気にしないでください……。






 沙羅の帰宅直後はそんな感じだけど、20時ぐらいになって落ち着いたら2人でソファーに座って過ごす。

 もちろん、手を繋いで。

 今でもこの手を繋ぐと胸が熱くなって、ドキドキが止まらない。

 沙羅はすっかり冷めただろうか、なんて気にするのは失礼だし、ふと目が合うと、お互い目線を逸らしてしまうぐらいだから心配ないとも思う。

 この世界に帰ってきて3年、沙羅と付き合い始めても3年、まだ僕達は熱愛……と言えるはず。


 そんな中、沙羅が思わぬ提案をしてきた。


「……赤ちゃん、欲しいな」


 ソファーに座りながら、僕の手を軽く握りしめて呟かれた言葉。

 なんの前触れもなく言われた言葉に、僕は首をかしげる。


「最近はこれといったこともなかったし、僕は育てる時間があるから赤ちゃんを作るのもいいけど……できるかなぁ?」

「異種族同士だとできにくいわ。けど……その、何回もすれば……」

「…………」


 赤面して言われると、心が燃え上がるのですが。

 次の日は愛し合いすぎてお互い立てなかったけど、それも仕方ないよね。







 というわけで、1ヶ月後。


「な、なんかすごく気持ち悪いんだけど……」

「え〜っ? なんか変なもの食べたの?」


 朝から沙羅が痛みを訴え、お腹を抑えながらリビングにやってきた。

 風邪も引かないのになーっ……?


「今までにない気持ち悪さなのよ……。瑞揶、ちょっと体診てくれない?」

「えっ? じゃあ脱いで――」

「いやいや。そうじゃなくて、能力で頼むわ……」

「あ、うん」


 というわけで、沙羅の体に異常がないか調べる。

 調べるというか、何が起こったのか沙羅の体に語りかけて返事を聞くという、人間的じゃない手法だけど。


「……できたって」

「……なにが?」

「赤ちゃん」

「…………」


 沙羅は口を閉ざし、僕は目を丸くして彼女を見る。

 ついに子供ができた。


 これから先、何かと忙しくなりそうだ。

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