第5話
デート編が3話ほど続きます。
なぜかギャグ要素が……。
何事もなく月日が過ぎてしまい、2月になる。
この半ばから瀬羅がまた、今度は3ヶ月の間、魔界に帰省する事になっていた。
帰省……なんだよね。
響川家が帰省先じゃあないもの。
でも永遠の別れじゃないし、魔界と行ったり来たりはこれからも続く。
次第に向こうに居着くようになると思うけど、僕らはいつでも瀬羅を受け入れるし、出て行ってしまう覚悟も出来てる。
ただ、縁は切れないからね。
これからも瀬羅は、僕らの家族だ。
と、響川家に一つイベントを迎える前に、学校で環奈に呼び出された。
部活を2人で抜け出し、ちょっと1-1の教室まで向かう。
適当にあいた机をくっつけて、環奈の指示で僕らは対面するように座った。
「……で、急にどうしたの?」
「これあげる」
僕の言葉を無視して、環奈は2枚の紙切れをポケットから出して机の上に投げる。
その紙を覗き込むと、テレビでも見たことのある、テーマパークの招待券だった。
貧乏性の環奈にしては価値のあるものだろう。
「にゃー……これどうしたの?」
「年始に商店街でスタンプラリーあったじゃん? そんで福引やったら出たんよ、1等」
「1等!? 凄いね、何回まわしたの?」
「11回かね? 噂の11連ってやつ?」
「それはちょっと、違うような……」
「違うんか〜」
ほうほうと首を縦に振って納得した様子の環奈。
11連はともかく、1等のこれって、ペアの……だよね?
「これは貰えないよ……。環奈が生徒会長と一緒に行けば良いじゃん」
「前も言ったけど、会長の任期、もう終わってるから。とにかくウチら大丈夫だよ。キトリューが卒業したら2人で旅行行くし」
「……えーっ」
既に環奈は計画があるから行かないらしい。
実際は計画なんて建前で、僕にこのチケットを渡したいだけなのかもしれないけど……。
「なんで僕に渡すのさ……」
「だって瑞揶、絶対沙羅とデート行ってないでしょ。行け、家に篭ってんな」
「えーっ? 家だといつも沙羅と一緒にいれるよ?」
「……まったく、これだから瑞揶は」
やれやれといった風に肩を竦める環奈。
ええー……?
「いい? デートってのは型があんの。まず待ち合わせする、服褒める、そんで目的地に行って仲良くやる。んで、夜はキスする。そのあとはホテルであんな事やこんな事を……あ、ホテル使わんでも家同じか」
「最後の方はよくわからないけど、そう言われてみればデートも魅力的かも」
今までは四六時中一緒だったからすることすら考えなかったけど、環奈の言うようなパターンに沿って、沙羅とデートするのも良いがしれない。
沙羅はドラマが好きだし、ドラマのようなシチュエーションでデートできたら、喜んでくれるはず。
「よっしゃ、じゃあこれ貰って」
「……なら貰うけど、ほんとに良いの?」
「いいよいいよ。正直、瑞揶の財産の1/6を持ってるし、死ぬまでお金に困らんからね。あっはっはっは」
「……まぁ僕もチケット貰わなくても行けるしね」
「いやいや、デートはきっかけあってこそだよ。ただ、問題があるんよね……」
「問題?」
僕が小首を傾げると、環奈がくるくると自分の黒髪を指に巻きながら答える。
「……服さぁ、見慣れてんじゃん? デートだから初めて見る服がいいよね」
「ふむふむ……確かにそうかも」
見慣れた服を着てデートに行っても新鮮味に掛けるだろう。
しかも僕らは同じ家だし、待ち合わせしてもリビングで遭遇したりしたら……うーん?
「だからさ、服は買うでしょ。そんで、沙羅はウチの家に泊まらせよ。前日だけでいいからさ」
「おぉ……。でも、そこまでしてもらうのは……」
「甘えられるときは甘えなよ。つーか親友なんだから頼れ! わかった!?」
「え……じゃ、じゃあ、その……よろしくお願いします……」
「おけー♪ んじゃ、部活戻ろ。どうせ練習しないけどね」
半ば強制的に決められ、環奈が席を立つ。
環奈は勝手に戻って行き、僕も机を戻してから部活に戻るのだった。
「っていう事があってね、僕とデートして欲しいんだ〜っ」
「それ帰り道で話す事?」
「にゃー!?」
「まぁいいけどね。私も、今更アンタとデートってのはおかしな感じだし、軽いノリで構わないわ」
「……ふにゃー」
黒い空の下、2人で歩く帰り道はちょっと寂しくなってしまう。
もっと良いムードでデートに誘えば良かったなぁ……。
「……なに変な顔してんのよ」
「むにゅーっ」
何故かほっぺをつねられた。
変な顔になってるからか、沙羅はフフッと笑う。
「別に、デートが嫌とは言ってないわ。楽しみね」
「うん……。2人で出掛けたのは、街以外だと温泉に行ったぐらいかな?」
「そうね……。あの頃が懐かしいわ。環奈と遭遇して、結局4人になっちゃったけど……ん?」
「……ん?」
沙羅が立ち止まり、僕も立ち止まる。
……ん?
「……ねぇ。チケットくれたのは、環奈よね?」
「そうだけど……」
「…………」
「……ん?」
「……アンタ、何も気付かないのね。まぁいいや、それはそれで見せつけてやるし」
「……にゃー?」
よくわからないけど、沙羅が不敵に笑ってて楽しそうだ。
行くなら今週の土曜日、一緒に行こーっ♪
僕も楽しみで思わず笑い、沙羅の手を取って、家を目指すのだった。
「もちろん、ウチらも当日券買うんだけどね」
そんな環奈の思惑を、僕だけは分かっていなかった。