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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
最終章:愛惜のレクイエム
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最終話:愛惜を超えし少女

愛惜のレクイエム、最終話です。

 自由世界の神別小隔研究中界――アキューの研究室とも言える、神の世界にある部屋。

 そこは機器が立ち並び、幾多の空間モニターが立ち並んでいた。


「再会したばかりで悪いが、少しここに居てくれ。30分もすれば戻る」


 アキューは黒髪の少女にそう告げ、右手で彼女の左胸に育ったそれをむんずと掴む。

 もちろんその手はすぐに振り払われ、ため息混じりにセイは言葉を返した。


「悪いわね。私が響川瑞揶を転生させなければ、こんなことにならなかったのに……」

「別に、僕は構わんさ。響川瑞揶は辛いだろうが、あの2人の愛は強力だからすぐに見つかるだろう」

「……だといいわね」


 2人の姿に希望を乗せる。

 響川瑞揶は愛の後世、響川沙羅は人の背中を押す少女。

 優しい2人が次の世界で、巡り合うことを祈る――。


「行ってくる」

「気を付けてね……」


 アキューは転移で自由世界の次元の狭間に移動する。

 その後ろ姿を、セイは見送ったのだった。







 眠りから覚めるように、私の意識は唐突に目覚めた。

 薄眼を開けて、瞳に映ったのは愛しい人の顔――だが、その姿は彼のものではない。


 世界は一面白く、瑞揶と飛び回った次元の間みたいなもの。

 ここはどこで、どうして私はアキューの前に……?


「やぁ、目覚めはいかがかね?」

「ふんっ!!」

「ぐはっ!!?」


 とりあえず腹に一発、膝を叩き込んでやった。

 コイツのせいで散々な目にあわされたし、というか死んだし。

 どのツラ下げて私に顔見せてんだって感じ。


「こっ……これは酷い挨拶だな」


 膝を曲げてうずくまる律司神。

 この世の最上位存在にも、膝蹴りが効くなんて変な話ね。


「ほら、立ちなさい。もう何発かかましてやりたいけど、勘弁してやるから」

「君なぁ……僕の方が強いんだぞ? よく迷いなく攻撃できるもんだね」

「私は感情に素直なのよ。ったく……それより、瑞揶はどこなの? 答えによってはもう1発……」

「あーうん、その件で君に会いに来たんだ」

「…………」


 なんだかめんどくさそうな展開っぽい。

 これはもう1発殴るのは確定として、話を聞くことにする。


「用件があるなら早く言いなさい」

「ああ……。まず、響川瑞揶だが……セイによって転生させられた」

「…………」


 転生させられた。

 その言葉を聞いても私はピンとこなかった。

 しかし、アキューの真摯な目を見たら事の重大さはなんとなくわかった。


「それはどこなの?」

「善悪の第二世界【サウドラシア】。僕も少し知っているが、なかなか面白い世界だよ。善と悪……それが世界全体で半分ずつ存在するんだ。馬鹿な話だよな、善悪なんてただの妄想を、妄執として世界に蔓延させてるんだから」

「御託はいいわ。瑞揶が転生したなら私も転生する。できるわよね?」

「もちろんできる……が、転生する場所によっては生まれて3日で死ぬぞ? それでもいいか?」

「…………」


 心配するような声を出す自由律司神に、私は呆れた。

 生まれ変わってまた死ぬかもしれない、苦しいかもしれない。

 それがなに?

 瑞揶と会えるなら、私はなんでもいいのよ――。


「構わないわ! さっさと転生させなさい!!」

「……。迷いもなしか。わかった、すぐに手配しよう」

「頼むわね」


 アキューはこくりと頷くと、空間モニターをいくつか呼び寄せて見る。

 押すこともなく、触れることもなく、ただ見ていた。


「――響川瑞揶は、フラクリスラルという国の、シュテルロードという貴族の家に生まれたらしい。ミズヤ・シュテルロード。その名を聞いたら、そこに向かえ」

「ええ、わかったわ」


 話を聞いて薄く微笑む。

 貴族……あの瑞揶が貴族。

 きっと、いろんな人を困らせて、ねこさんねこさん言ってる可愛いお坊ちゃまになるに違いない。

 家名はシュテルロード、覚えたわ。


「君の転移先は……その容姿を保つには……ここしかないな……」

「私はどこでもいいわ。早くしなさい」

「はいはい、わかったよ。じゃあ決めたからな」


 ブゥンと音を立ててモニターが全て消える。

 すると、私の足が(いわ)れのない浮遊感を覚えた。

 すぐに足元を見ると、足首から先が透けていて、転生が始まるんだとわかった。


「君の記憶は維持されるが、響川瑞揶の記憶は維持されていない。ヤプタレアでの記憶は完全に抜け落ちている」

「……は?」


 急にまた話し出したと思ったら、めっちゃ重要なことだった。


「なんでそんなことになってんのよ!」

「それはセイがやったことだ。僕に言われても困る」

「はぁっ……? ……萎えるわ」

「代わりに君にはこれを持たせる。胸に押し込んどくから、来るときにはこれを渡せ」


 そう言って彼は光の玉を手のひらに出し、私の胸に投げ入れる。

 入ってきたものが何かはわからないけれど、温かいものだった。


「……今のはなに?」

「響川瑞揶の、ヤプタレアでの記憶だ。僕の世界からバックアップを取って作ったものだが、君への愛も変わらない記憶だ。向こうで“響川瑞揶”と言うと、胸から出てくる。ミズヤに会ったら、どこでもいいからぶつけろ」

「……はーいっ」


 面倒だけど、やるしかなさそう。

 私の記憶がない瑞揶と会っても、虚しいだけだもの。

 それでももちろん、私は彼を振り向かせるけど。


 もう下半身は透けきり、胴から上が残っている。

 もう少し時間がかかりそうね。


「最後に、君の能力は魔人のそれと同じにしておく。向こうは世界も小さく、魔人も居ない。だから、なるべく力は隠せ」

「はー、そう。【確立結果】とかくれないの?」

「……そんなにほいほい渡せる能力だと思うか?」

「ま、そうよね」


 そしたら一瞬で瑞揶も見つけられるのに、と思ったけどダメっぽい。

 ま、運命の赤い糸を信じて、のんびり構えてるとしましょう。


「じゃあな。いろいろ迷惑をかけたのを、今一度詫びる」

「過ぎたことはいいわよ。でも今度アンタに会ったら、グーで殴ってやるわ。膝よりいいでしょ?」

「どっちも勘弁してほしいものだな……」


 そう言って自由律司神も踵を返した。

 あとは私が消えるのを待つだけのよう。


 私は目を閉じ、愛した少年の姿を思い浮かべる。

 出会ったときから、ずっと情けない男だった。

 それでいていつも優しくて、自分をないがしろにしていて。


 姉さんの事や、理優の事があって、それでも貴方は私と一緒になんとかしようと頑張った。

 そして貴方の笑顔を好きに思った。


 言われてなかった前世の事、聞かされたときはびっくりしたけれど、過去の清算ができたこと、2人で一緒になれたこと、私はここまでの道のりが間違いじゃないと思った。


 だって私は貴方を、こんなに愛してるんですもの。


 1人で転生?

 ふざけんじゃないわ、私も行くわよ。

 貴方を失うなんて、私には考えられないんだから!








 こうして、響川沙羅は転生した。

 再び少年と出会う希望を胸に、愛する彼のいる世界へと旅立つ――。













「――様」


 うるさわしい声がする。

 男の声だ、中年に差し掛かる男の声。


「――ラ様」


 二度目、私はようやく薄眼を開いた。

 目に映ったのは、全身に銀色の鎧をまとった甲冑姿の男。

 鼻下に髭を生やし、むさ苦しさが滲み出ている。


「――サラ様!!」


 顔をズイッと押し寄せられ、私は気持ち悪さから目を見開いて男を片手で吹っ飛ばす!


「顔近づけんなぁあああ!!!」

「なぁぁああ!!?」


 吹っ飛ばされた騎士の男は赤い絨毯の上を転げ回り、倒れる。

 しかし、さすがは騎士というところか頑丈で、すぐに立ち上がる。


「サラ様! 本日は貴女様が5歳の生誕式ですぞ! 早く宮にお戻りになってお着替えを――!!」


 おっさんは懲りずに何か話しかけているけれど、私は無視した。

 そう――もう5年も経つのね。

 体が幼いせいか、体感はそんなに時間が経ってないように思える。

 だけど、まぁうん、私も忙しいもの。

 上を見れば高い高い天井があり、横を見れば長いガラス窓から陽光が注いでいる。

 目の前にあるのは赤い絨毯で、私は黄金の椅子に座っていて……。


 また私は寝落ちしたらしい。

 よく、前世(・・)の夢を見るけれど……


「ほんっと、あり得ないわ……」


 思わずごちる。

 小さなか弱い手が震えた。

 自分の身につけているドレス、そして頭につけた宝石のついた輪っか。

 なんだか王家に代々伝わるだかよくわからないけどねぇ――!





「なんっで私が、王女なのよぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!」


 アルトリーユ王国王女、サラ・ユイス・アルトリーユの絶叫は城全体に響き渡るのだった。



「うがぁぁあああああああああ!!!!!」












 next.連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

……はい、終わりました。

愛惜のレクイエムはここで終幕となります。

サウドラシアの世界は、前作の【歌われぬ原初のバラード】での世界でしたが、ようやく世界が繋がります。


この先はオマケと沙羅エンド(?)を書いて愛惜のレクイエムは閉めます。

結構書きました、こんなに書くヒロインは沙羅だけでしょう。


では、今後ともよろしくお願いします。

そしてここまでのご愛読、本当にありがとうございました。




以下、予告的なもの





【サウドラシア】――そこは善意と悪意が魔法となる世界、良い人と悪しき人が戦う世界。

かの世界の戦争の一つを、今、語ろう――。


シュテルロード家は破綻した――


それは誰かが悪いわけではない、しかし少年は俯いた――


かの少年、救う囁きを紡ぐはバスレノスの皇女――クオン。

雪の降る北の国、バスレノスで物語は大きく動く。


「人はなぜ死ぬのですか――」

「きっとそれは、繋ぐからだよ――」


バスレノスの内戦、そこに“神楽器”を持ったミズヤが参入する――。


「お前、瑞っちだろ!!」

「何故その名を知っている!?」


旧友の名も忘れ――


「ミズヤは瑞揶じゃない。ウチらのこと、覚えてないし」


物語は拍車をかける。




そして、横槍を入れてくる魔王の存在――


『貴様に神楽器を託したのは間違いだった!!』

「こっ――のぉっ!!!」


(負けられない――クオンのため、バスレノスのため!)

(負けられない――ヤラランのため、世界のため!)





戦争の終結と共に、少年はまた傷を背負う――。



「……どうして僕だけが――」






バスレノス、そこは雪の降る戦の国。

冬の森で1人、贖罪者は愛を求めて彷徨い続ける――。




沙羅と瑞揶は再び巡り会えるのか、


記憶は取り戻せるのか、


そして、





「――瑞揶くん?」

「…… 霧代?」


運命の星は再び彼らを巡り合わせる――


連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

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