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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第一章:愛惜へのオーバーチュア
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第六話

 生活は順調といっても良かった。

 あれから沙羅に街の案内をしたり、家具等が届いて設置したり、のんびりと生活していた。


 基本的に、沙羅はテレビを見ている。

 リビングにある白いソファーに座り、ソファーの長い背凭れに片腕を乗せ、もう1つの腕にはお菓子。

 たまに寝転んでいるぐらいで態度が悪いけど、ガサツそうに見えて意外と家事もしてくれるし、特に文句は言っていない。

 態度が悪いからって、人柄も悪いわけじゃないしね……。


 一方、僕は家事全般をして、暇な時間は防音効果抜群の自室でヴァイオリンを演奏したり、勉強して過ごしていた。

 昨日から4月に突入し、高校生の勉強も先取りしていたりする。


 今年から、また高校生になる。

 この春休みが終われば、高校1年生の勉強をまたするんだ。

 と言っても、ヤプタレアでは文明が元の世界より進んでるから、勉強の内容が込み込みだったり、長寿な魔族や天族の人は小学校から天上園と呼ばれる学校に50歳までの義務教育が決まっていたり、いろいろと大変。

 人間も18歳までは義務教育だから、なんとも言えないんだけども。


 義務教育だから勉強しなくていい、というわけにもいかない。

 この世界では体罰なんて日常茶飯事で、教師が暴力を振るうのは当然だ。

 とはいえ、不当な体罰やセクハラで摘発(てきはつ)される教師も多いんだけどね。

 超能力とかで返り討ちにあうし。

 でも、そもそも体罰されないように良い評価を持ってればそもそも体罰なんてないから、勉強しとくことは大事なんだ。


 と、色々勉強の事を考えていて思った事がある。

 同い年である沙羅も、本来は高校入学が義務付けられているけれど、制服とか通学許可とかなんにも申請してないし、どうしよう?

 もちろん、彼女が行きたいと言えば僕の超能力でなんとかしちゃうから、聞いてみるのが手っ取り早い。

 僕は自室から出てリビングに居るだろう沙羅の方へ向かった。


「沙羅〜? いる〜?」

「今いいところなの。後にして」

「え? あっ、うん……」


 相も変わらず、沙羅はテレビを見ていた。

 ソファーに深く腰掛け、片手には焦げ茶の煎餅を持っている。

 テレビに映るのは何かの青春ドラマか、学ランを着た若い俳優が女性の名を呼び、セーラー服を着た女優が振り返る。


《……なに?》

《俺は人間で君は天使……だけど、俺は絶対に君を諦めたりしない!》《でも、私は天界に帰らないと……》

《だったら俺は追いかける!銀河の果てだろうと、君の事を迎えにくよ!》

《ううっ……うっ、ごめんなさいっ!》

《待って!》


 画面内の天使が走り去り、人間の男の人が寂しげな表情を作って画面にアップで映し出される。


「青春……いいわねぇ……」


 沙羅がニヤけながらポツリと漏らす。

 青春といえば青春だけど、なんか殺伐としているような……。

 けど、丁度よく沙羅が学校を悪く思ってない事が知れて良かった。

 テレビのシーンも主人公らしき男の帰宅途中に移り、僕もソファーに座って沙羅に尋ねてみる。


「沙羅、高校行きたい?」

「……えっ?」


 疑問を短い疑問符で返される。

 あれ?変なこと聞いてないよね?

 もう一度……。


「高校だよ。行きたい?」

「行くに決まってんでしょうがぁぁぁあああああ!!!!」

「痛いっ!?」


 何故か一直線に撃ち抜かれるようにビンタを食らう。

 な、なんでこんな目に……。


 沙羅はソファーからシュタッと立ち上がり、仁王立ちして笑い出す。


「ふっふっふっふ。高校……それは涙あり感動あり恋あり、思い出を刻むのに必要な掛け替えのない楽園」

「な、何を言ってるの……?」

「黙りなさいっ! いいことっ!? 私が行くと言ってるの! 早く手続きして!」

「あ、じゃあ僕と同じ高校でいい?」

「アンタが居なかったらいろいろと不都合でしょうが! 私はまだこの世界について無知なんだから、教えなさいよっ」

「……了解です」


 ビシッと僕を指差し、注文を押し付けてくる。

 まぁ僕としても、こんなにやんちゃな沙羅を1人で別の高校に行かせるわけにもいかないし、同じ高校というのは賛成だった。


「一緒に勉強しようね〜」

「もちろん、勉強も青春の1つよ。みっちり勉強するわ」

「た、頼もしい……」


 沙羅の学力については何も知らないけれど、この物言いならきっと教えたり予習をする必要もないだろう。


 沙羅はまたテレビを見始めたため、僕も頑張らないと〜、と勉強するために自室に戻った。







 翌朝、まだ太陽が出て間もない時間帯。

 僕がリビングで朝食を作っていると、1本の電話があった。

 朝から何だろうと思いながらも、コンロの火を止めて電話のある廊下に出る。

 受話器を握り、耳に当てる。


「もしもし?」

《瑞揶か!?おい、なんか従兄弟(いとこ)が1人増えてるぞ!》


 電話から聴こえたのは響川警部――僕のお義父さんの声だった。

 もう事が知れてるらしい。

 しかも、僕に電話するって事は、もう僕が犯人だってわかってるね。

 さすがはお義父さん。


「ごめんね?なんか魔人で孤児の子が居て、戸籍もないから登録させてもらっちゃった」

《俺の弟が慌てて電話掛けてきたよ。なんにも事情を知らないのに娘が居るってさ。……事情は少しわかったが、これからは電話一本ぐらい寄越せ。俺の携帯番号も知ってるだろう?》

「あはは……ごめんなさい。叔父(おじ)さんには今度、沙羅の分増えた住民税をまとめて払いに行くよ」

《所得控除もあるから、別に払わんでいいと思うが……まぁ、その子を弟に顔合わせぐらいさせとけよ?俺は今夜見に行くから》

「あ、うん。わかったよ」


 いきなりの訪問を告げられるが、特に驚く事はない。

 普段は前もった連絡もなく、合鍵で勝手に入ってくるからなぁ……。


《お前の事だからこの春休みも家に閉じこもりっぱなしなんだろ?今夜泊まるから、明日には花見でも行こう》

「もーっ、閉じこもりっぱなしじゃないよーっ!」

《はっはっは。ま、とりあえず今夜な》

「あ、うん。じゃあまたね」

《おう》


 それだけ言い残して電話を切る。

 晩御飯は頑張らないとなぁ〜と呟きながら手と手と歩いていると、2階から沙羅が降りてきた。

 僕や沙羅の個室は上の階にあるんだ。


「沙羅、おはよ〜」

「……おはよ〜」


 声を掛けると、小さな声で挨拶を返してくる。

 寝ぼけ目だし、夜更かしでもしてたんだろう。


「先に言っとくけど、今日は夜にお義父さんがくるからね」

「……お義父さん?」

「僕の義父で、警部さん」

「警部!!?」


 警部という単語に食いつき、手摺(てすり)から身を乗り出してくる。

 そっか、追われの身だったもんね。


「もちろん沙羅の事を捕まえに来るとか、そういうことじゃないからね?戸籍が増えてて驚いたみたいで……ついでに明日はお花見するって」

「花見? あぁ、なるほど。義父って言っても、アンタみたいな奴なのね」

「え? それってどういう意味?」

「……わからないならそういうことなんじゃない?」

「?」

「それより、朝ごはんは? できてないなら手伝うわ」

「え? じゃあ一緒に作ろっか」


 話題を逸らされた気もするけど、一緒に作れるならいいだろう。

 沙羅はその秘密な軍で個室だったらしく、家事は自分で全部できるらしい。

 実力もここ数日で分かってるし、一緒に作る方が手早いだろう。

 僕と沙羅はリビングに向かい、僕の作り途中だった鮭の塩焼きとかサラダを見て沙羅がため息を吐く。


「放置していいものなの?」

「だ、だって電話が来たんだもの……」

「……。ま、いいわ」

「うぅ、ごめんなさい……」


 僕の謝罪を無視して沙羅が手を洗う。

 僕も洗い直さなくてはと横に並んだ。


「……そういえば、瑞揶は1人暮らしなのね」


 まるで思い出したかのような言い回しで沙羅が呟く。


「え?」

「私は1人暮らしが普通だったからわからなかったけど、ドラマを見てたら知ったわ。それって普通じゃないのね。大抵の場合は親と同居してるでしょ?」

「そうだね……。まぁちょっといろいろありまして……僕も拾われ子だし……」

「はぁ? アンタみたいなヘンテコ超能力持ってる奴を捨てた奴がいるの?」

「うーん……。僕も普通の子じゃないから、出生とか、よくわからないんだ。でも、体は人間のものだっていうのはわかってるよ」

「そりゃあねぇ……」


 羽も無いし、僕はどう見ても人間だ。

 とはいえ、羽の出し入れは自由みたいなんだけど。

 出したい人は出すし、出さない人は出してない。

 事実、僕は沙羅の羽を見たことがない。

 人間のかどうかの判断は人柄じゃ判断できないはずだけど、沙羅が僕を人間だと思う理由はなんだろうか?


「どうして沙羅は、僕が人間だってわかったの?」

「見てりゃわかるわよ。人間は自分の力でなんでもするじゃない。私達みたいに魔法でなんでもしたりしないでしょ?」

「……うーん、人間ってそーいうものなのかなぁ?」

「訓練所で習ったのよ。でも、私は好きよ。自分でなんでもしようとするの」

「……自分で、かぁ」


 自分でなんでもする。

 確かに、誰かに何かしてもらうよりはいいのかな。

 甘やかされないっていうのは確かだよね。


「まっ」


 水道の蛇口が自然と閉まる。

 それは沙羅の力によるものだろう。


「……たまには息抜きして超能力使って楽しなさいよ」

「……楽、かぁ……」


 そのオススメには応じ難かった。

 僕が超能力を使うのは、仕事の時と、自傷行為の時かほとんど。

 それ以外だと人助け。


 自分の力でなんでもする。

 それは甘えないってことだよね。

 当然だよ、僕は甘えていい人間じゃない。


「……その目、やめなさい」

「え?」

「水も出しっ放しよ。ボサッとしないで、私の前にいるんだから元気出しなさいよ」

「……。あはは、ごめん」


 謝って、それから蛇口を手で締める。

 ――そうだね。

 ガサツだけど優しい、そんな沙羅が居る。

 彼女の前でぐらい、暗い表情を作るのはやめよう。


「よしっ! じゃ、やるわよ〜っ」


 気合いを入れて沙羅が包丁を握る。

 何を切るつもりかは知らないけど、それは彼女に任せよう。

 沙羅は僕と違って元気だ。

 そんな彼女に元気を分けてもらいながら、僕も料理をするとしよう。

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