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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第六章:相愛のバラード
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第三話

『満たせ!!』


 声を重ねて攻撃をぶつけ合う。

 範囲の指定なき全体攻撃を互いに自分を中心に衝撃波が世界を満たし、あたりのビル群が全て塵へと帰化した。

 空を突き破り、世界を塗り替えるような攻撃にも関わらずお互いにまだ傷ひとつない。

 力は拮抗している。


「塗り替えろ!」


 アキューが叫ぶと共に彼の衝撃波の色が青く変色し威力が増した。

悠由覧乱(ゆうゆうらんらん)】同士での攻撃はただの殴り合いのようなもの、攻撃を上乗せすればそれだけ強くなる。

 だったら僕も――


「塗り替えろ!」

「塗り替えろ!!」

「塗り替えろ!!!」


 捲りめく色を変える衝撃波と衝撃波がぶつかり合う。

 地表はもはや崩壊し、地割れによってあたりから赤々しいマグマが噴射される。

 その赤もが塗り替えられ、一瞬のうちに昇華して(もや)となった。


「しつこいなぁ!!!」

「だったら僕たちを見逃してよ!」

「それは出来ない――ね!!」

「ッ!?」


 突如、頭が割れそうなほど痛くなった。

 なんだ――アキューは何をした?


「アキュー……なにを……!?」

「物理攻撃はもはや無意味だ。力が拮抗しあい、充満したこの空間ではね。だから精神に攻撃をした(・・・・・・・・)。」

「なんだって!?」


 脳にある頭痛は精神攻撃によるものだというのか。

 確かに【悠由覧乱(ゆうゆうらんらん)】同士では攻撃をいくらしても仕方がない。

 だけど、僕の脳……精神に干渉は絶対にさせないようにしてきた。

 それは当然、【絶対の力】を使って……。


 それを今、僕の力をこじ破って心に潜り込もうとしている。

 僕の精神がタフじゃないことは自分でもわかっている、だからなんとしても守りたい。

 だから――!


「グッ!? ク、ハハハハッ!!! 瑞揶、貴様もか!?」

「僕がやられる前に、君の精神を侵す!」

「やってみろ! 僕は君のように精神、心をひた隠しにする気はない!! さぁこい!!!」


 自ら心を開くという彼の心に、僕は無遠慮に僕の精神をダイブさせた。


 彼の精神世界、そこは図書館だった。

 1階、2階だけでは物足りない、天まで伸びた、螺旋階段のある円筒状の建物。


 どういう事だと、超能力で場所の内容を詮索した。


 結果、ここはアキューの記憶の部屋だった。

 無限とも言える、アキューの脳に保存された情報が本に凝縮されている。

 こんなものを、どうやって侵すというのか――。


 天井の先は見えない、この本全てを燃やしたり濡らしたりして、果たしてそれは効果があるのだろうか。

 もっと、アキューの核心を突くような出来事を探り、そこからアキューを狂わせないと――。


「“Compression”――」


 この図書館全ての情報を圧縮化し、アキューの精神を作り上げた情報を得る。

 僕の手元には一冊の本が出来ていた。

 200ページほどの、単行本のようなもの。

 黄緑色の表紙には文字はなく、描かれているものは何もない。


 僕は本を開いた。

 時間がない、超能力で読み通す――。







 そこは半分の世界だった。

 あらゆる物理法則を乗り越え、その星ともう1つ隣接する星がくっつき、2つの星があるその世界は【クオトラーガ】と呼ばれていた。


 生命のオスとメスはもともと1つであったとし、半分に別れてオスとメスになった。

 この世にプラスとマイナスがあるように、S極とN極があるように、2つのものは引き合う。

 これは、そんな美しい世界での、1つの悲しい物語――。


「――痛いっ!?」


 唐突に殴られ、僕は上を見上げた。

 頭頂部に残る鈍痛の正体は幼馴染みの殴打によるもので、僕を見下ろす少女は口をキュッと閉じてあからさまに怒っていた。


「いっ、たいなぁ……。セイ、何をするんだ」

「アキューがまた研究所に篭ってるって聞いて、たまには外に出そうと思っただけよ」

「だからって殴るのは――っておい! 襟を持つな! 引きずるな! 尻が!尻がぁぁあああ!!!?」


 ズザザザと馬鹿力のセイに引きずられ、大量の印刷物とモニターばかりが並ぶ部屋を出される。

 1つ部屋から出れば、そこは赤と青の光が混ざって優しいピンクのような、紫色の陽光が差し込む廊下だった。


 結局立たされ、研究施設の並ぶ道を歩かされた。


「まったく、アキューはいっつも研究所に引きこもってばかりなんだから。16歳で海外の研究所に派遣されるぐらい頭がいいのに、なんでこうなっちゃったのかしら?」


 僕の前で黒髪をなびかせながらズカズカと歩いている少女はセイ・ヌメラナス・フラムナルという名を持つ僕の幼馴染。

 列記とした女であり、そこそこ良い体つきをした16歳の女――ぐらいの印象で、僕はコイツに別段興味をそそられない。

 しかし、コイツは国を超えた僕にわざわざ付いてきて僕の研究の邪魔をするという、大変厄介な女だ。


「僕の心は“自由と自由”だろう? 生まれた頃からこうなのさ」

「あーはいはい、そうだったわねーっ」


 バカにするように彼女は大声を出し、てくてくと歩いていく。

 まだこの国の言語も覚えてないくせに、1人で行動して……。


「心が“愛と世話”の奴のくせに、しっかりしてるのは性格だけで頭はスッカラカンだな」

「な、なんですって〜!?」


 振り返り、顔を真っ赤にしてむくれるセイ。

 はー、まったくめんどくさい。


「僕は研究に戻る。買い物なら1人で行け」

「わーっ! ズルいわよアキュー! 私まだこの国の人と会話できないんだからーっ!」

「…………」


 めんどくさいが、少しぐらい買い物に付き合うことにした。

 やっと隣り合って歩き、セイの言うことを聞き流しながらこの世界のことについて考える。


 この世界の大部分は人間が征服しており、2つの星は人間の手中にあるといっていい。

【クオトラージュ】と呼ばれるこの星、生まれてくる人間の精神、心の半分ともう半分の特性を持って生まれる。

 例えば、セイの場合は愛と世話。

 隣で歩き、僕に何か話している彼女の心、その半分は愛、もう半分は世話。

 僕の場合は特別、自由と自由だった。

 これは生まれた時に病院で検査してわかる。

 変な話だ、人の心がわかる装置があるなんて。

 大変興味がそそられる――。


 この世界の文明は高度といっていい。

 星を滅ぼすほどの兵器も開発されているし、僕がこのまま研究すれば遠くない未来に“不老不死”が誕生すると言っても過言ではない。

 ただ、それはクローンに自分の記憶を引き継がせる、という形なわけだから、実際には体が死ぬんだが――ともかく、文明はかなり高度だ。

 セイは翻訳機すら使えないトンチンカンだが、ボタン1つで翻訳できる機械をそのうち買ってやろうと思う。


 こうして世界はのどかで豊かなわけだが――1つだけ、人間を恐怖させる存在がある。

 2つの星、そこにはそれぞれ男女の神が居る。

 この神々は世界を1年間豊かにする代わり、男女100人ずつを年に1度喰らう。

 それも、場所がわかっているのだから食われる動画がネットに出回るし、それを見て興奮する若者もいるとかどうとか。


 呼び出される100人は人間で指定でき、世界的に発表される。

 まぁ、どうせクズばかり集めるんだが――人が食われる様を動画で見て喜ぶ奴が居ると思うと、ヘドがでる。

 もっとも、僕らが呼び出されない限りはどうでもいいが――



 神様を解剖してみたい。



 神様がどうなってるのか見てみたい。



 そうゆう好奇心を抑えるのが、僕はそろそろ限界だ。

 今は不老不死に興味があるとはいえ――この興味が失せたら、次は神だ。

 僕は賢い、科学の本を貪るように読み尽くし、世界を震撼させる発見をいくつもして、ついには不老不死にまで手を出した。

 あと10年――いや、5年あれば、僕は――。


「――アキュー!」

「ん……? ぐはっ!!?」


 呼ばれたと思えば、頰にビンタをもらった。

 首が90°曲がるぐらい強烈なビンタだった。

 なんだこの女、スタイルが良くて家事が多少できるぐらいしか取り柄のない分際で――


「――僕に何をする!」

「アキューが私の話を全然聞かないからでしょう!? このヘルメットヘア! 研究バカ!」

「僕は欲求に正直なだけだ! 口うるさい女め!」

「きゃーっ!!? 胸掴むんじゃないわよっ!!!」

「がふっ!?」


 ブラウスの下に隠された胸を鷲掴みしたら、グーで顔面を殴られた。

 パンチの勢いに負けて倒れる。

 ……コイツ。


「どうやら躾が必要らしいな。帰ったらちょっと拷問をしよう……な?」

「じゃあアキューの今晩の食事はなしだから。フフフ、これから貴方は何を食べて生きていくのかしら? 自由に生き過ぎて私以外あまり仲良くなれない貴方はこれから1人で寂しく毎日研究し、人生を浪費して一生独り身で生きていく。たった1人の幼馴染にも見限られて終わりね。一生童貞、引きこもり、研究しか取り柄のないちっぽけな男――」

「あーもう、うるさいな!!! よく喋るのはわかってるからご飯の時だけ話せ!!」

「あら、私のご飯を食べると?」

「君のご飯を食べなければ僕は何を食べるんだ」

「ふふっ、そうよね♪」


 手を引かれ、キュッと腕を抱きしめられる。

 あからさまに僕に好意を持っているらしいが、僕なんかを好いてるとは変な奴だ。

 研究成果で得た金が欲しいのか?

 数億程度は渡してやったがなぁ。


「お前は変な奴だ」

「あら、アキューにだけは言われたくないわよ?」

「……違いない」


 僕の性格も人のことは言えないため、僕は口を閉ざすのだった。

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