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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第一章:愛惜へのオーバーチュア
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第五話

お買い物の話です。

キャラの性格が顕著に出てる回になります。

 図書館で色々調べたりした結果、あまり必要なものはなくて本当に必須なのは戸籍と住民票ぐらいだった。

 取り敢えず、保険証や通帳、それから学歴をでっち上げてザッと作り、それは手提げカバンに入れて2人でデパートへと向かう。


「おおおぉ。ひ、人がたくさんいるわ……」

「そんなに怯えなくても……」


 11階建ての街で一番大きなデパートに来店すると、中は放送や人の話す声が騒音となり、どこを見ても人が居る。

 今更何が怖いのか、ガタガタ震えて沙羅が腕に引っ付いてくる。


 戸籍上、名前は響川沙羅となり、これは沙羅からも了承を得ている。

 僕はそもそも孤児で響川家と直接血は繋がってないが、沙羅は遠くにいる僕の戸籍上の親、つまりはお義父さんの弟の娘という事にしておいた。

 これは後で税金関係でお義父さんが気づき、電話が来そうだけど、来たら来たで普通に沙羅を紹介すればいいと思う。

 お義父さんも優しいから承諾してくれるだろうしね。

 後のことは考えず、買うものを揃えよう。


 上の階にいくほど娯楽物があり、下に降りる際に家具や服を見るような構造になっているデパートだったが、遊びに来たわけじゃないので一部日用品や家電製品の売ってる5階に訪れた。

 この辺りは思っていたよりも人が少なく、沙羅も安堵の息を漏らしていた。


「色々売ってるのね。明るいし、魔界より全然いいわ」

「魔界って、デパートとかあるの?」

「そりゃ、人間と同じぐらいの技術はあるし、あるわよ。ただね、照明が赤くて空気も重いし、耳障りな音楽がずっと鳴ってるわけだけど」

「……とても行きたくないなぁ」

「私はもう慣れてるけどね。でも、やっぱりこういう店の方がいいわ」


 言いながら、僕のお古の靴を前へと進めて家電コーナーに向かう沙羅。

 僕も後を追って行き、洗濯機やテレビが立ち並ぶコーナーに入った。

 正直、テレビはリビングにあるからここに来る必要はなかったなぁと思いながら、練り歩く沙羅の後を追う。

 その中で春の季節にはいらぬ販売物を見つけた。


「あ。沙羅、エアコン買わない?」

「……ふむ。ま、買ってくれるならそうしてもらおうかしら」

「ここらの気候は季節によって変化するから、エアコンが無いと体調崩しそうだしね。買おっか」

「私は気温や気候でどうこうなるほどヤワじゃないわよ」

「……お、男らしいね」

「……私は女よ」

「す、すみません……」


 素直な感想を言い続けると適度にツッコミが入る。

 なんか勇ましい子だなぁと思いつつ、宅配サービスを用いてエアコンを購入する。

 家電はもう見るものもなく、バスルームで使う日用品のコーナーへ移った。


「……なんでシャンプーだけでこんな種類あんのよ?」


 棚にびっしりと並んだシャンプーを見ての沙羅の感想はこうだった。


「人には人のこだわりがあるからね〜」

「こだわりすぎでしょうよ……」

「沙羅も女の子だし、こういうのこだわった方がいいよ?」

「余計なお世話よ。安いのでいいわ」


 そう言って彼女は量が多くて安いものを選んだ。

 まぁ、魔界がどんなのかわからないから彼女のことをなんとも言えないけど、きっと人間界で生活する中でこだわりもできると思ってここは暖かく見送った。


 日用品も幾つか買い揃え、1つ下の階に降りて家具売り場に移る。

 ここではたくさん買うものがあるけど、とりあえず小さい物から見ていくことにした。


「……小さいものでこれだものね」


 沙羅がペチペチと3段引き出しのある収納ラックを叩きながら言う。

 まぁ、家具は基本的に大きいものばかりだからね……。


「収納を幾つか欲しいね〜。一応、部屋にクローゼットはあるからそれはいいとして、机とかベッドとか欲しいね」

「……その言い方だと、アンタが欲しいみたいに聞こえるんだけど?」

「あ、わかる? えへへ、僕も新調しちゃおうかな〜……」

「……なんだかんだでアンタも楽しんでるわけね。ま、買い物に付き合わせてしまってるわけじゃないなら、私も心が軽いわ」

「そう? なら良かった〜」

「……いい事だとは思わないけどね」

「ぐっ……」


 沙羅の余計な一言が心に刺さる。

 そうだね、僕が楽しんでも仕方ないもの……。

 深呼吸して、今一度身を引き締めて机やテーブルのコーナーを通り越し、ベッドの所に移った。

 ふむ、視覚の感性がないから見てくれではなんとも言えないけど、やっぱりベッドといえばふかふかである。

 とりあえず値段があるもので一番高い18万円のものに目を付けた。

 頭部の方に茶焦げた木の引き出しやラックがセットになっている。

 機能性はある、あとは柔らかさ。

 僕はゆっくりと、汚れのないシーツに触れた。


 ポヨン。


 …………。


「ねぇねぇ見て沙羅!これすごいふかふかしてるよっ!? ええっ!? どうしよう!?」

「……アンタは子供かっ」


 速攻突っ込まれながらも、僕は自分用にそのベッドを購入したのだった。

 沙羅も(ふち)がピンク色のベッドを購入していて、やっぱり女の子だなぁと思いつつ、他にも家具を注文してまた下の階に降り、ついに婦人服コーナーにやってきました。


「さすがに、ここはちょっとなぁ……」


 エスカレーターの前で僕は怯んだ。

 僕だって1人の男なわけで、居心地が悪……いや、そんなに悪くはないんだけど、変態とか勘違いされて通報みたいなのはされたくないし……。


「……沙羅、お金だけ渡すから自分で買ってきてくれないかなぁ〜……なんて、ダメ?」

「私がお金の使い方を知ってると思うの?」

「……じゃ、じゃあ、選んだら僕のところに来てよっ。そしたら、レジだけ一緒に行こうっ」

「……別に、それならいいけどね」

「う、うん……」


 沙羅は身を翻してそのまま衣類の中に紛れ込んでいく。

 僕は1つ息を吐いて落ち着き、エスカレーターの前で狼狽しながら思う。

 きっと沙羅も女の子だから、洋服選びは長いだろうな、と。

 それなら付いて行ったほうがよかったのかもしれないけど、自分の着る服を今日会ったばかりの僕に見られるのも嫌だろう。

 大人しく待つことにし、エスカレーターの前にもじもじしながら立っていた。


 本当はちょっとだけ、男らしい部分もあるから短いと思ったりした。

 けれどその些細な期待は裏切られ、並ぶエレベーター2つの中間に吊るされた時計は40分も進んでいた。


「……さすがに待てないなぁ」


 僕も立ってるだけで疲れてしまった。

 実は今、春休みだから夜遅くになっても僕は構わない。

 けれど体力的に保ちそうになかった。

 結構、足が辛い……。


「お待たせ〜。あら、ずっと立ってたのね?」


 そこに漸く沙羅の声がかかる。

 その両手には買い物かごがあり、中から衣類がはみ出ていた。

 ……いや、お金は気にしなくていいと言ったけども。


「……たくさん買うね」

「人間界ってオシャレでしょ? 私も自分を着飾ろうと思ってね。お金ならあるんでしょ?」

「……そうだけど、これからは少し節約してね?」

「……なに?家計苦しくなるのかしら?」

「そうじゃないけど、無駄遣いしてたらダメだよっ?」

「はいはい……わかったわ。じゃあレジ行きましょ?」


 生返事だけしてレジの方へかごを向ける沙羅。


「むぅ……」

「なによ?」

「……なんでもないっ」


 文句の1つでも言いたかったけど、なんか逆ギレされそうだからやめてしまう。

 うう、なんか怖いなぁ。

 沙羅って少し目付きも悪いし、その顔で「なによ?」なんてビクビクしちゃうよ……。


 そんなことで、僕は10万を超える服代を持つことになった。

 まぁ億単位でお金持ってるからいいんだけど、やっぱり、次大人買いするやうなら無駄遣いは控えるように言おう。

 そう心に決めたとさ。







 携帯端末を契約する頃には空は黒く染まり、淡い黄色の光が三日月状に輝いていた。

 デパートの近くということもあってここらの通りは人通りが多いけど、夜にもなれば2人並んで歩いても問題ないスペースが取れた。


「もう夜になっちゃったね〜っ」

「……私のせい?」

「そんなことないよっ。僕も楽しかったから、またこようね〜っ」


 にこにこ笑って楽しそうに言ってみる。

 まぁ確かにね、僕がなんか両手に10以上の袋を持ってて沙羅は手ぶらだけど、沙羅も今日を楽しんでたからこんなに服を買ったわけだし、そう思えればこの量も軽い。


「……なによ、やっぱり楽しんでるんじゃない」

「あはは……でも、こうして長い時間外出できたのも沙羅のおかげだよ。ありがとうね〜っ」


 朗らかに笑って見せ、感謝を告げる。

 するとなぜか、沙羅はゲンナリしたように眉を寄せ、額に手をやってため息を吐いた。


「……アンタのそのニコ〜って笑うの見ると、何も言えなくなるわ」

「えっ、それってどういうこと?」

「なんでもない……。ま、貴方の優しさだと思っておくわ」

「……優しさ、かぁ……」


 笑顔が優しさ?

 それはちょっと変かもしれない。

 いや、だってそうだよね。

 僕は、優しくなんか……。


「ま、いきなり家ぶっ壊して色々厄介そうな私を居候させ、生活用品まで買うんだから、裏ぐらいありそうなものだけど、アンタは絶対そういう奴じゃないわよね? もう顔見りゃわかるわ」

「それは……うん。迷惑の分とか言って僕は沙羅に何か強要させたりしないよ……」

「でしょ? なら、アンタは優しいのね――」


 優しい。

 その言葉を聞いて、僕は立ち止まった。

 違う、僕は優しくなんかない。

 優しかったら大切な人が死んだり、しないでしょ――?


 1人で歩くことになる沙羅は、僕が立ち止まったのに気付いて振り返る。


「……どうしたのよ?」

「沙羅。1つだけ、履き違えないで欲しいことがあるんだ」


 僕の声のトーンが下がったからか、彼女は一瞬ビクリとしたが、恐る恐る尋ねた。


「……なに?」

「僕は優しくなんかない。優しくなりたい人間なんだ」

「……はぁ、そうなの?」

「……ごめん。それだけは頭の中に入れておいて」

「……アンタが言うならそうするけど、どうしたのよ?」

「……。とにかく、僕は優しくないから……あまり、信用しないで……」

「…………」


 返答はなかった。

 お互いに黙したまま動じることもない。

 通行人の人がこちらを見てそのまま通り過ぎる。

 なんとなく居心地の悪いながらも、どうしてもこの返事は待たないとという気持ちが勝る。

 これを解決しとかないと、この先の生活で相違があるだろうから。

 信用されて大して困ることはないと思うけど、それでも僕は、心が耐えられない……。


「――私は……」


 沙羅が口を開いた。

 僕は生唾を飲み込み、返事を待つ。

 その刹那の間だった。




 ――ぐるるるるるぅ〜。




 そんな間抜けな音が、僕のお腹から奏でられる。

 お互いに口を噤み、目を大きく開いて見合わせる。

 …………。


「……お腹すいたねぇ〜? 今日は外食しよっか」

「アンタ、気持ちの切り替えはやっ……」


 なんのことやら。

 とにかく、僕らは近くのファミレスに寄りましたとさ。

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