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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第六章:相愛のバラード
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第一話

 わかっていたことだ、自由律司神が僕らを待ち構えていることは。

 これだけの事を起こして僕らが逃げれば、全てが無駄になるんだから。


「……きゅーくん」


 緊張感が走る中、目前の男のあだ名を呼ぶ。

 刹那、僕の左頬を何かが(かす)った。

 頰に手を当てると、ヌメリと血が垂れてくる。


「貴様風情が、そのあだ名で呼ぶな。次呼べば即、殺す」

「…………」


 射抜くような視線が僕に向けられる。

 殺そうと思えばすぐに殺せるという警告にも聞こえた。

 ……怖い、な。


「……自由律司神様が、僕達に何か用ですか?」

「……そう畏まって呼ばれるのも腹が立つ。アキューと呼べ。さんも様もいらぬ」

「……。……アキューは、僕達に何の用なの?」


 わざわざ言い直して尋ねると、彼は腰に手を当ててこう答えた。


「ふむ……君は、君をその体に入れた女、セイを知っているかな?」

「……死神?」


 僕の魂をどうこうしたのはあの死神に他ならないだろう。

 僕の呟きに、彼は頷く。


「君の言うところでは死神だろうな。僕は彼女に用がある。あの女は各世界で問題を起こし、こちらとしては早く捕らえて殺したいんだ……。しかし、尻尾を出さないもんでね。そこで、君を殺してみようというわけさ、響川瑞揶くん?」


 アキューの言うことはよくわかる。

 僕を不幸な目に合わせた死神の事だ、いろんな世界で僕のようなことをしているのはわかる。

 しかし、それで僕を殺すというのはまた別の話じゃないのか?

 それに……


「なんで今になって……もっと早く、僕を始末できたんじゃないの?」

「別にすぐセイを捕まえる必要もないんだ。君の事を監視しているだろうからね。それと、正当な理由もなく殺すのはよろしくないだろう? 君が僕の気分を害した……自由を冠むるこの僕の気をね」

「君の気を害した覚えなんてない!」

「君がそう思っているだけで、僕にはあるんだよ。自分と同じ体を持つ生き物が、恋愛なんていううつつを抜かしたママゴトをしているのがね」

「…………」


 直感的に感じ取った。

 コイツは狂っている。

 僕が恋愛をして、嫉妬しているだけなのか?

 だとしたら、そんなの八つ当たりだ。

 神様がすることじゃない。


「自由、長い……」


 突如、儚い声が響いた。

 どこから――そう思って探すと、白髪の少女が1人、アキューの隣に立っていた。

 いつの間に――いや、ずっと居たのだろうか?


「虚無、君は下がっててくれ。響川瑞揶とは一騎打ちがしたい」

「……自分から……呼んだくせに……」

「そうだが、本丸はセイだろう? 前哨戦が必要なほど君の腕は鈍ってないはずだが?」

「……めんどくさい男。……勝手にして……」


 フィンと高い音と共に虚無と呼ばれた少女が消える。

 なんだったのだろう……?


「……さて。覚悟はいいな、響川瑞揶? 君はここで討つ」

「……僕の何が君の気を害したのかは知らないし、戦うつもりもない少なくとも事情を聞かないと、僕は何もしないよ」

「ならさっさと死ぬんだなぁ!!!」

「ッ――」


 アキューはその手に刀を顕現させ、目にも留まらぬ速さで迫ってきた。

 速い、しかし手に負えないほどではない。

 僕も手に刀を生み出し、構える。


「待って」


 しかし、沙羅の制止の声が耳に入り、後ろに下がる。

 直後に落ちてきたアキューの斬撃は、沙羅の刀が受け止めた。

 彼女も制服姿からピンクの着物姿に変わり、羽衣を身に纏っている。


 力は互角と言えた。

 ギリリと刀の擦れる音が耳に痛い。


「なによ神様、アンタの力はこんなもん?」

「まさか。君たちに合わせてあげないと、久々の戦闘も……楽しめないだろう!!」

「グッ――!?」


 刀を振り切られ、沙羅が宙に飛ぶ。

 くるくると回って衝撃を流し、上空に停滞した。


 目前にいる少年はニタニタと笑い、片手で刀を持って空いた手を肩の高さに持ち上げた。


「いいかい、響川瑞揶? 君が戦わなければあの女も殺すんだ。ほら、君に戦う理由がないなら作ればいいだろう? なぁ、どうするんだい?」

「殺させないよ……。僕も死なない。僕達は新しい世界で、2人で暮らすんだから」


 言いながら刀を構える。

 重たい、こんなものを振るえるのかと疑念が(よぎ)る。

 しかし、そんなものは能力でなんとでもなる。

 体と刀を紙のように軽くし、どんな動きも目で捉えられるように身体能力をいじる。


 おそらく、この人からは逃げられない。

 戦わないと……いけない……。


「……沙羅、逃げてて。僕がこの人を倒す」

「ハッ! 口は達者だなぁ……少年!!!」

「やぁっ!!」


 刀がぶつかり合う。

 激しい鉄の唸りは腕を震わせ、全身の毛が逆立つ。


「貴様、刀を振るうのは初めてだったか?」

「ッ……」

「図星か。そんなことで僕に勝とうなんて――」


 拮抗する刀の力が緩み、前のめりに倒れそうになる。

 彼は刀を引いたのだ。

 そんなことをすれば切られてしまうだろうに――などという心配は杞憂だ。

 刀で切れる範囲など1人分に過ぎない、彼は1歩横に飛んだのだ。


 引かれた刀が槍のごとく突きを放ってくる。

 当たれば腹部を貫くだろう。

 しかし、目で追えればその攻撃は避けれる。


(飛べ!!)


 自身にそう命ずると、僕の体は後方に吹き飛んだ。


(身体能力強化、筋力増強――)


 さらに体への命令を追加する。

 身体能力を底上げし、転げる体を着地させて後ずさりする。


「そらっ!!」

「わっ!?」


 しかし、前を見れば既にアキューが斬りかかっている体勢。

 咄嗟に刀を振るって弾き、重ねて攻撃してくる連撃を身を引き、バックステップ、弾いて凌ぐ。


「どうした! 防戦一方か!?」

「……変だ」

「む?」


 ギンッ!!

 鋭い音を立てて互いの刀が弾き合い、僕は改まって距離を取る。


「変? 何が変だと言うんだ?」

「アキュー。なんで【確立結果】を使わないの?」

「……むぅ?」


 彼は笑ったまま首を傾げる。

 どういうことだ、何を企んでいる……?


「律司神の持つ最強の力を使えば、そのうち決着は着くはずだ。それに、僕達の体だけが持つ、自由律司神固有の能力も……」


 そう、最強の力があるんだ。

 その能力を彼は使っていない。


「お互い無事では済まないかもしれない。けど君には予備の体が……クローンが幾らでもいる。永久に治らない傷を負っても構わないはずだ。なのに、何故……?」

「……君はつまらないな」


 彼の音程からは不愉快の文字が感じ取れた。

 遊びの笑みは消え、彼の口はへの字に歪む。


「君は僕の言葉を聞いていたかい? 戦いを楽しもうと言ったんだ。なのにそんなに先急いで……。君はそんなに急ぐのかい? 寿命のない体を持ち、これ以上何を求める? この先にある退屈を癒す娯楽を、すぐに終わらせてどうするというんだ? ……といっても、今のは生きた者が語れる言葉だ。君が本気を出して欲しいと言うならば、少し本気になろう……」


 彼は言い終えると同時に両手を広げた。

 別に僕は急いでいないし、沙羅と永遠に生きれば退屈だってない。

 だが、この人が退屈に飽きていることはわかった。

 だとしても――ここで僕は勝つ。

 勝たなくてはならない――沙羅のために――。


「044527……7551269……」

「……? 一体何を……ッ!?」


 数字を紡ぎ出す彼の口。

 気がつくと、白い空間だった場所は摩天楼立ち並ぶ夜の街に変化していた。


「……何をするつもりさ?」

「9713448……なに、すぐにわかる」


 唱え終えたのだろうか、彼はふうっと息を吐く。

 刹那――


 ボゴンッ!!!


 ゴゴゴゴゴゴッ!!!


「……なっ!?」


 ビルの群れが宙に浮いた。

 大きく鋭い杭を持ったまま、土塊を纏いながらビル達が空を浮遊する。


「――【絶対の1/確立結果】」


 アキューの呟く言葉とともに、ビルは雨となって僕に降り注いだ。

一章一話にあるように、瑞揶を殺せばアキューに少しばかりの罰則はあります。しかし、愛の関わりもあるため、理由をこじつけることも出来るし、何よりアキューが瑞揶を許せないため、戦いが始まります。

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