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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第四章:哀婉のセレナーデ
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第十八話

のほほん。

 僕は瑛彦の家に帰り、家事を片付けて瑛彦の弟達と遊び、妹達と雑談して床に着いた。

 寝て眼が覚めると、そこはきりんさんの楽園だった!


「きりんさん……う、後ろ乗せてぇえ!!」

「超能力で脚力鍛えといたから、乗っても崩れないよ。瑞揶くん、遊ぶのだー!」

「ありがと愛ちゃんー!!」


 きりんさんの後ろに(またが)って長い首に頬を付ける。

 きりんさんだきりんさん……わーっ。


「瑞揶くんって、きりんさん好きだね?なんでなのかな?」

「大きいからだよ〜っ。よしよしっ、このきりんさんはいい子だな〜っ」

「……そっか〜」


 愛ちゃんがどこか遠い目をしているのも気にせず、僕はきりんさんの首を撫でる。

 ちょっと硬質だけど、きりんさんはいいな〜。

 大きいなぁ、大きいなぁ。


「……幸せそうだね、瑞揶くん」

「幸せだよ〜っ。わーい! きりんさんきりんさん〜!」


 のっそのっそときりんさんが歩く。

 揺れる揺れる、きゃー! なのです!


 子供のようにはしゃぎ、きりんさんに乗って撫でて、抱きしめて、いっぱい遊んだ。

 癒され過ぎてほっこりする……。


「僕、きりんさんだーい好き。きりんさんは? きりんさんは?」


 きりんさんに正面から問いかけると、首を下ろして僕の顔を舐めてくれた。

 感激のあまり、失神しそう……。


「きりんさん、今日から僕たちは友達だよっ。場所が取れれば、いっぱい召喚するからね!」


 というわけで、きりんさんとも仲良くなった。

 僕が笑っているのを愛ちゃんが微笑んで見ていて、それを発見した僕はあいと一緒にきりんさんに乗ったのだった。







「……休めてる、かな?」


 瑞揶くんがこの空間から去った後、私はきりんさん達ともお別れして1人になる。

 ハートばかり浮かんだこの空間で1人呟くと、その言葉は瞬く間に霧散した。


 瑞揶くんは現実だと忙し過ぎる。

 彼を癒してあげられるものは沙羅ちゃんなのに、彼女は今のままだと瑞揶くんを疲れさせてしまう。

 他に癒せるもの、か……。

 瑞揶くんを、癒せるもの――。


「……あ、そっか」


 癒せるものがわかると、私は間抜けな声を出した。

 とっても簡単なことだ、彼を癒すなんて。

 彼が最も好きだったものはアレじゃないか、なんで忘れていたんだろう。


「瑞揶くん……貴方最近、聴いてないものね」


 演奏はしているけど、それは違う。

 聴いて、耳から脳を、体を癒す。

 だったら――そうね。


「一回、沙羅ちゃんを呼ぼうかな」


 あの子が奏でるものを聴いたら、きっと瑞揶くんは喜ぶだろう。

 ……私としては、霧代ちゃんに任せたかったけどね。

 彼女はもう、輪廻の輪の中だ。

 瑞揶くんが力を掛けたおかげで転生までまだ時間がかかるけど、どうなるだろう。


 閑話休題、とにかく沙羅ちゃんを呼ぼう。

 私は心に1つ決め、また瑞揶くんの心から彼の見る世界の観測を再開するのだった。







 土曜の朝、響川家には2人の人間がいた。

 いや、魔人というのが正しいのだけれども、ソファーに座ってテレビを見ている。


「……ちょっと、いつまで居座るつもりよ?」


 私は隣にいる環奈に尋ねた。

 別にいつまでいようが構わないけど、いつも私の家で隣を陣取るのは瑞揶だ。

 環奈が隣に居るのは違和感があるし、落ち着かない。


「まぁまぁ、連れないこと言わないでよ。ウチと沙羅の仲じゃん。つーわけで、どっか出掛けよ?」

「……なんでよ?」

「別に深い意味はないよ。気分転換、それだけ」

「はーん……私と出掛けたって面白くないと思うけどね」

「んなこと言ったらウチだって面白くないし。別にいいっしょ? 今日暇でしょ? 家にこもっててどーすんの?」

「あーもう、うっさいわね……。わかったわよ、行きゃあいいんしょ……」


 重たい腰を上げ、私は立ち上がってそのままシャツを脱ぐ。

 すると、後ろから環奈のげんなりした声が聞こえてきた。


「? なによ?」

「うわー、なんで普通にリビングで脱いでんの……?」

「こっから洗濯カゴ行くのが近いでしょうが。わざわざ2階の部屋まで上がるのも億劫だしね」

「……ひょっとして、瑞揶がいても普通に……」

「脱いでるわね。最近はあまり注意されなくなったけど、夏も下着でリビング来てたりしたし」

「……いやぁ、大物だわ」

「居るのが瑞揶じゃなきゃ、脱いだりしないって」


 家主のアイツが私の裸を見ようが平然としてるのだから、今更気にしたことじゃあない。

 実際に裸を見られたことは、まだ、無いけどね。


「着替えてくるわ。テキトーに待ってなさい」

「はいよーっ」


 あっけらかんとした環奈の返事を背に、私はリビングを後にした。







「ここはこの街、河岸楽(かがんらく)で1番大きなスーパーだよー。僕も沙羅もよく来るから、ここに来たら会うかもね?」

「へぇー……」

「瑞っち、ちょっとお菓子買ってくっからよろしく!」

「え……えぇ〜」


 神下くんに案内される中、瑛彦が1人でスーパーの中へ消えていった。

 入り口にいる僕らは外に出て待つ事になる。


「ごめんね、瑛彦連れて来ちゃって。(うるさ)いし、邪魔じゃない?」

「大丈夫だよ。今日は1日暇だし……俺は煩いのも好きだぜ?」

「あはは……。そう言ってくれると、助かるよ……」


 神下くんは困ってなさそうで、僕は安心する。

 今日は神下くんに街を案内する日だけど、何故か瑛彦も付いてきた。

 その結果、瑛彦が1人で暴走してるからなかなか進まない。


「それにしても、神下くんはやっぱりカッコいいねぇ〜っ」


 改めて彼を見ると、顔はもとより服のセンスもいい。

 ベージュ色のロングパンツに無地のシャツ、その上からデニムの長袖シャツを袖を折って着ている。

 銀色の腕時計も大人っぽいですにゃ、シャツもVネックですにゃ。

 瑛彦は半袖半ズボンだから除外するとして、僕は白いもこもこなパーカーと市販の短パンですよーっ。

 道中女の子に間違えられてたぐらいなんですよーっ。


「そうか? ハハッ、サンキュ」

「僕も男らしくなりたいよぅ……」

「……それは性格から変えていかないと無理じゃないか? それに、ファッション雑誌読んだりな。俺も本当は帽子が欲しいんだが、髪がこれだからなぁ」

「トゲトゲだねっ」


 彼のツンツンとんがった髪の先に指を当てると、チクチクした。

 凄いなぁ、僕はサラサラだから真逆だよね?

 沙羅の髪もアホ毛が神秘的だけど、これはこれで……むむっ。


「……俺の髪を見るのは結構だが、瑛彦が出てきたぞ。行こうぜ?」

「う、うん……」


 瑛彦が買い物袋を提げて出てきたため、僕達はスーパーを後にするのでした。


 お昼頃になると、大体の所は見終わる。

 必要な所は全部見たつもりだし、後は……


「瑛彦さ、久し振りに行ってみない?」

「おぉ?行くのか?」

「……おい。行くって、どこにだ?」


 神下くんの問いに、僕達は声を揃えて答える。


『秘密基地!』

「……秘密、基地?」

「昔作ったんだよねーっ。もう行かなくなっちゃったけど、今では他の子達が遊んでたりしてるよーっ」

「ほんと、懐かしいぜ。俺の持ち込んだエロ本を瑞揶が全部燃やしたのは良い思い出だ」

「悪い思い出だよーっ! もーっ!」


 ガーッと瑛彦に食ってかかるも、ガハハと笑って誤魔化される。


「瑛彦はいっつも嫌なことがあると秘密基地で泣いて、僕が励ましてたのに。どうしてこんな子に育っちゃったんだろう?」

「恥ずかしい過去を言うなよ。まぁ昔は良かったよなぁ。何も考えずに遊べてさ、今は周りの目が怖くて鬼ごっこなんてできねぇよ」

「瑛彦ならしそうだけどね……」


 僕はどっちかというと、鬼ごっこよりおままごとよりだしね。

 走って騒ぐのは瑛彦が似合う。


「……お前ら、仲良いんだな」


 僕たちを見て神下くんはフッと笑う。

 なんて言ったって、瑛彦は幼馴染み、僕の竹馬の友だもの。


「さっ、行こうかっ」

「ああっ」

「俺も行くぜ」


 僕の合図にみんなで昔に作った秘密基地へ向かう。

 こうして男の子同士で過ごすのも、たまには悪くない。

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