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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第四章:哀婉のセレナーデ
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第十六話

後半ゆるほわ。

 午前の授業が終わって、僕は荷物をまとめた。

 授業の合間にルーズリーフで神下くんとやり取りし、どんな家がいいかは調査した。

 後は超能力で物件を探して買いに行くだけなんだけど……


「あの、僕は帰るんだ、けど……」

「逃がさない! 地の果てまで追いかけるし! ふっふふーん♪」

「……どうしよう」


 昇降口で、僕はレリに捕まっていた。

 ガシッと抱きつかれて彼女は僕から離れようとしない。

 この前言われた「好き」という言葉、今日になったら変わってればいいなと思ってたけど、そんなことはなかった。


「……あのさ、レリ」

「んー? なにー?」

「急にどうしちゃったの……?」


 疑問をそのまま彼女に投げつける。

 レリの豹変ぶりは普通じゃないと思える。

 何があったのか突き止めたい。


「別に、何もないよ。好きだからこうしてるだけ」

「……それがおかしいんだよ、レリ。この前まで僕のことなんて部員の1人ぐらいにしか思ってなかったはずなのに、突然過ぎる」

「恋ってのはそういうもんじゃないの? 知らんけどね、あははははっ」

「…………」


 ケラケラ笑う少女が僕は不審で仕方なかった。

 なんだってこんな急に――絶対におかしい。

 からかってるだけなんじゃないかと思えるけど、もし本気だったら――。

 そう考えると、強くは言えなかった。

 けれど、確実な事は1つある。


「……レリ、あのね……僕には好きな人がいるんだ」

「うん、だから?」

「……だから、やめてほしいんだけど」


 頼んでみるも、レリは離れなかった。

 むしろクスクスと笑いだし、こう口にする。


「あのさ、瑞揶。あんたが誰かを好きな気持ちと、あたしがあんたを好きな気持ちは関係なくない?あんたが誰を好きであれ、あたしはあんたが好きなんだよ? ね?」

「…………」


 確かに、そういう風に捉えることもできるだろう。

 僕は、「僕の気持ちの邪魔をしないで」と言うつもりで言ったのに、彼女はそう解釈してくれなかった。


 ……そう。

 ……君が自分の意地を通すなら、僕も自分の意地を通す。


「……あれ?」


 僕から手を離し、宙に浮かぶ自分にレリは驚いた。

 僕は超能力で、彼女を引き剥がしたのだ。


「……レリ、君は僕の気を害している。だからって君を傷つけたりはしないけれど――もう少し考えてから行動してよ」

「……むぅっ。沙羅は良いんでしょ!? なんであたしだけダメなのよ!!」

「沙羅の事が好きだから」


 即答できた。

 一分の隙もなく言えたと思う。

 僕の言葉にレリは反応を見せず、口を噤んで押し黙った。


 彼女の水色の瞳は感情の無い虚空の瞳をしていた。

 冷たく、無心で、ただ僕を見つめている。


 なんなんだ、一体……。

 彼女が何を考えているのか、僕にはまるでわからなかった。

 僕に理解できない彼女はニコリと笑う。


「仕方ないなぁ。今日はこれで勘弁してあげる。行っていいよ、瑞揶」

「……。……そう。じゃあね、レリ」


 僕はレリを飛ばしたまま上履きを履き替え、走って昇降口を出た。

 超能力は距離が離れれば解けるようにし、不気味な気持ちを胸に抱えて僕は不動産屋に向かったのだった。







 無事に物件を購入した。

 どういう物件にするかは超能力で決めていたから、6購入手続きは難なく済んで、表札も超能力でささっと作り、不動産屋さんの超能力も合わせてもう住める形にしておいた。

 日用品や家具、家電製品も超能力で生み出して住めるようにした。

 あと他に何かする事がないか、する事は。

 気持ち悪さを忘れるために忙しくなりたい。

 レリの変化、あの瞳。

 気味が悪い……。

 僕は――


「――あれ?」


 気が付くと、僕は白い空間にいた。

 色も大きさも違うハートがたくさん浮かんだ空間に。

 どこか暖かくて、優しくて、落ち着くこの空間。

 ここは確か――


「……ごめんなさい。発狂レベルの感情を検知したから呼び寄せちゃった」

「……愛ちゃん」


 振り返ると、そこには僕に似た、けれど桃色の長い髪を持った少女がいた。

 数日ぶりに会った彼女は眉を潜め、どこか悲しげな顔つきを見せている。


「……瑞揶くん。君が落ち着きたい、休みたいというならこの場所は貸すよ。きゅーくんでも入れない複雑なプログラムを何重にも張ったから侵入者は居ないし、出入りは自由にするから何時間ここに居ても構わない。……現実では寝てるから、あまり多くの時間をここで過ごすとみんな心配するけどね」

「え、と……うん、そう?」


 キョトンとして、僕は愛ちゃんに曖昧な返事を返す。

 急な事過ぎてまたもや状況が飲み込めない。


「……断片的にだけど、何が起きてるのか聞きたい?」

「え……?」

「私は全部わかってるよ。瑞揶くんに、これから何が起こるのか」

「…………」


 さすがは元律司神様ということか、彼女はなんでもお見通しのようだった。

 いや、僕の中から全てを見ていたから、なのだろうか。

 わからない……ただ、今レリやナエトくんに何が起きているのかは、僕の知りたいところだ。


「教えて。僕の周りで、何が起きてるの?」

「…………」


 愛ちゃんは1度目を伏せた。

 そのまま、彼女の小さな口が開く。


「きゅーくんが……シナリオを考えた」

「……確か、自由律司神様、だよね?」

「……そうだよ。酷いシナリオ。私ならクズかごに入れる内容。そして彼は、それを実行している」

「…………」


 ぷーっと膨れたような愛ちゃんは、くるりと回って後ろを向いた。


「……私はそれをも愛すし、彼を止める権利なんて無い。したい事は全て行われるべきだと思うから……。だけど、嫌そうな顔をする人は見たくないから、君にはアドバイスだけ」

「……そっ、か……」

「瑞揶くん。貴方はこの半年で大きく成長した。それでも、君の心はまだ幼い。困ったことがあれば誰でもいい、相談して。無論、私にも。貴方が望むなら、私は君の望むものを与えるよ」

「……あはは。世話好きだなぁ、愛ちゃんは」

「むくーっ……」


 僕の言葉に思うところがあるのか、愛ちゃんはほっぺたをぷくぷく膨らませた。

 さっき、狂気レベルの感情がどうのって言ってたっけ。

 もう落ち着いたから、大丈夫だ。


「愛ちゃん。僕はみんながどうであっても、みんな仲良しになれる形で終わりたいと思ってるよ。それは……僕には、不可能かな?」

「可能と言いたいけど、可能な確率は6%かな。ただ、君が能力を使えば100%になる。そこは任せるけど……」

「僕は能力で人をどうこうしたりはしないよ。6%といっても、シナリオを作るのは僕たちだろうし、自由律司神のシナリオは成り立たないようにしてみせるさ」

「…………」


 僕が言い切ると彼女は目を丸くした。

 そして嬉しそうに、ふふっと笑う。


「男らしくなったね、瑞揶くん」

「……そう?」

「うん。これも君の恋の力かな。そんな力強い言葉を言うなんてね。男らしくなれないなんて言ってごめん。君は立派な男の子だよ」

「……あはは、それはどうも」


 なんだかよくわからないけど、誉められちゃった。

 男の子、か……難しいな……。


「……まぁ、君はここでしばらくゆっくりしてて。霧代ちゃんの事も君の中で歴史となり、新たな土台になっていく。吸収するものは何もかも降り積もるってね、中々面白い事だよ」

「むむっ、また愛ちゃんが哲学してる!」

「これでもおばあちゃんだからね。いろいろな徳を持ってるのです! でも、瑞揶くんに負けないぐらいうささんが好きーー!!」

「うささんは渡さないよーっ!!!」


 唐突に変わった話題から、僕も愛ちゃんも白いモフモフうさぎさんを召喚してそれぞれ召喚したうささんをすりすりする。

 毛並みふわふわ……うぅーっ!


「瑞揶くんっ! ここをうささんでいっぱいにしよう! そしてもふもふぎゅっぎゅの楽園を!」

「うんっ! わかったよ!!」


 そして僕はしばらく愛ちゃんと、召喚したたくさんのうささんたちと戯れ、本来の目的を忘れたのでした。


「くらえ愛ちゃん! うささんのゆるほわびーむっ!!」

「いやぁあああ!!! か、可愛すぎて死んじゃうううう!!!」


 超能力で作ったうさぎの形をしたピンクのビームを撃つと、悶絶してうささんたちを抱きしめる愛ちゃん。

 楽しいし、凄いまったりするし、ここは素敵なところですにゃ……。


 そんな風にして戯れる事しばし、愛ちゃんがハッとしたように刮目した。


「大変にゃーです!! 瑞揶くん、現実だともう3時間経つよ!」

「にゃんす!? む、むーっ……起きないと、いろいろまずいよね?」

「そうなのですそうなのです。そろそろ帰らないといろんな人に怒られちゃうし、このままだと神下くんが野宿なのです」

「え……ど、どうしよう!? 僕、神下くんの連絡先知らないよ!?」

「……瑞揶くん、そこは能力使いなよ」

「あっ、そうだね……」


 まだ前世の名残で、連絡がつかないとどうしようか悩んじゃう。

 普段から能力に頼ってない分、肝心な時に使えないんだから。

 ……今日は使ったんだけどね。


「ぷはー、今日は楽しかったぁあ。瑞揶くん、またおいでね〜!」

「うん、また来るね。ありがとう、愛ちゃん」

「いえいえ、瑞揶くんの前世ですから。今度はきりんさん召喚するからね」

「……すぐ来るからねっ!」

「ふふふっ、は〜いっ」


 きりんさんのためなら絶対来るのです。

 でも一旦ここから出ないとだから出たいけど、どうすればいいのかわからない。

 超能力でうささん召喚できたから、超能力で出れるかな?


 そして、僕は超能力を使った。

 今日は使用頻度が高いなぁと思いつつ、意識が落ちるのを感じるのだった――。





「……ん、むぅ?」


 意識が浮上する。

 なんだか冷たいなぁと感じたけど、それは先ほどの空間との対比から来るものだろう。

 僕は買ったばかりの物件で寝ていて、ゆっくりと起き上がる。

 電気が付いてなかったからパチンとスイッチを押して付けると蛍光灯が光った。

 フローリングと木製のテーブルセットが目に入り、キッチンが見える。

 どこにでもあるような、見てくれは普通の家でこだわりも感じない物件。

 神下くんは「住めば都」と言ってたから、普通かつ安めのものになったんだ。


「これはこれでにゃーです。それより、どうやって呼ぼうかな……」


 携帯で時間を確認すると、既に8時を回っていた。

 どこにいるとも知れない彼にいきなり会いに行くのは悪いかな?

 ……んー。


「もしかしたら瑛彦の所か響川家(うち)にいるかもしれない」


 僕を頼りにしたなら、どっちかにいるだろう。

 僕はこの家の鍵をしっかりと締め、落ち着いた心で瑛彦の家に向かった。

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