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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第四章:哀婉のセレナーデ
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第十四話

この先は悩める少年少女が描ければなぁと思います。


「ねぇねぇ瑞揶、あたしとかどうなのよ?ねぇ?」

「えーっと……その、なんでしょう……」

「…………」


 視聴覚室に戻ってからというもの、レリは僕にベタベタして来て沙羅はずっと僕たちを監視している。

 戸惑いもなく腕に抱きつくレリには違和感を覚えるし、ちょっと勘弁してほしいところなんだけど……。


「というかレリ、君はいつもナエトくんにくっついてたでしょ? 標的を僕に変えないで欲しいんだけど……」

「……瑞揶は私の事嫌い?」

「いや、そうじゃないけど……」

「なら……いいでしょ?」

「……うーん」


 この教室にいるナエトくん以外のみんなが怪訝そうに僕たちを見ている。

 こういう状態はよろしくないんだよなぁ……。


「レリ、部活なんだから練習しよう? ね?」

「む……瑞揶が言うならしよっか。合わせよ♪」

「う、うん……」


 なんとか話の方向を練習に変え、僕たちは各々楽器を持つことになる。


 今日の部活では、他に瑛彦や理優が演奏に参加し、事なきを得た。

 今日みたいなごまかしが今後通用するかわからないけど、今日のところは良しとしよう。


「…………」


 ナエトくんは今日1日、何も喋らなかった。

 彼と別れるときも、無言で去っていった。

 これはどうなってるんだろう……直接話あった方がいいのかな……。


「じゃあね、瑞揶! また明日!」

「あ、うん……また明日」


 レリの方は元気に帰って行った。

 なんだか変な感じだなぁと思いつつ、瑛彦、理優、環奈と、それから沙羅に僕を合わせた5人で家路に着く。


「……で、瑞っち。どういうことなんだ?」

「あははは……どういうことなんでしょう?」


 帰り道、瑛彦に尋ねられても僕はうまく答えられなかった。

 沙羅のことはともかくとして、レリについてはわからないんだから。


「レリについてはナエトに聞いた方が良さそうだね」


 僕の様子を見て環奈が呟く。

 うん、僕はレリがどうしてああなったのか知らないし、ナエトくんなら何か知ってるかもしれないからね。


「でも沙羅はほら、そこに本人いるから聞けるよね」

「……あん?」


 環奈がニタニタ笑いながら言うと、沙羅は悪態ついて返した。

 でも、瑛彦も理優もこのことは聞きたいのか、視線が沙羅に集中する。

 視線の先にいる沙羅は狼狽もせず、むしろため息を吐き出して何かを諦めた様子だった。

 彼女はムスッとした様子で口を開く。


「……私は、瑞揶が好きなの。なんか文句ある?」

「……おぉ、やっぱそうか」

「同じ家に住んでて、好きになるって良いなぁ〜」


 沙羅の告白に、瑛彦と理優が各々感想を漏らす。

 沙羅は2人の様子にはてなを浮かべた。


「……なんで驚かないのよ」

『雰囲気でわかってたから』

「…………」


 沙羅は頭を抑えてしゃがみ込んでしまった。

 みんなわかってるようで……。


「……それで、瑞揶はどうなんだよ?」

「ま、待ってよ瑞揶くん! 従兄弟同士でそれは……!」

「理優、ぶっちゃけ私と瑞揶は全然血とか繋がってないから……」

「……えぇ?」


 きょとんとする理優に、僕も沙羅も苦笑した。

 瑛彦は多分、沙羅と僕が元は他人だったことに気付いてるだろうし、環奈には教えてある。

 思ってみれば、僕は拾われ子で、その僕が沙羅を拾ったんだから、変な話だ。


「……長くなるんなら、どっかで話さない?」

「じゃあ……ファミレスにしよっか」


 沙羅の提案に僕が乗り、みんな付いてきた。

 最近ファミレス多用するなぁと思いつつ、5人で行って僕と沙羅の関係について、そして、僕の前世の事も話した。

 突拍子も無い話だとは思ったけど、環奈も自分に前世があると話し、


「ひゃー……」


 理優はひたすら驚いて、


「よくわかんね」


 瑛彦は頭を(ひね)っていた。

 ……うん、うちのメンツだと、こうなるよね……。

 ここは僕が、一言で簡潔に説明しよう。


「……犯人はにゃーです」

「つまり沙羅ね」

「なんでよ!?」


 僕の言葉を環奈が拾い、沙羅がテーブルを叩く。

 それからはなんだかんだで雑談に発展し、前世なんかの暴露話は流されていくのだった。


 昔にどんなことがあろうと、僕がみんなとこうして笑い合えるのは変わらない。

 だからあまり気にしてないのだろう。

 僕と環奈は何年か歳上だったと言っても高校生にしか見えないはずで、大人なんかじゃないから。


「大人になりたいですにゃー」

「瑞揶が大人になるなんて、想像できないわね」

「今のまま、愛玩動物的な感じがウチは好きだよ?」

「俺は立派な大人の瑞揶も見たいけどなぁ……」

「私は……うう、選べない……」


 僕の一言に沙羅、環奈、瑛彦、理優の順に各々感想を述べてくれる。

 僕の一言ぐらいでそんな……僕が大人になるのってタブー?


「そりゃそうでしょ」


 僕の表情を読んで沙羅がツッコんできた。

 僕に成長という言葉は当てはまらないのか……。


 雑談もほどほどに、気付けばだいぶ時間が経っていたために僕達はファミレスを後にした。


「ほんでさほんでさ」

「?」


 環奈が僕の隣を陣取り、ニヤニヤしながら尋ねてくる。

 こういうあくどい顔した彼女の言葉はあまり聞きたくない……。


「……なに?」

「沙羅はどーすんの?」

「……話が流れたから言わなくていいと思ったのに」


 やっぱり来た。

 環奈はこういう所はキッチリしてるよね、ほんと。


「……まだ答えてないよ」

「へぇ? で、瑞揶的にはどうなん?」

「……好きだけど、気持ちの整理付けてから答えるよ」

「おぉ? ……そっか。へぇ、いいじゃんいいじゃん。やるねぇ瑞揶。青春だねぇ」

「い、痛いからっ……」


 バンバンと背中を叩いてくる。

 なんで僕よりも嬉しそうなんだろう、この人は……。


「ちょっと環奈! なに瑞揶にくっついてんのよ!」

「んん? うわぁ、沙羅が嫉妬してる。あっはっは、いやぁ、お熱いじゃん」

「なっ!? いや、私は!!」

「あははははっ、狼狽えてる沙羅なんて珍しいからねぇ。ここらでしっかり目に焼き付けとかないと」

「かーんーな〜!!! 許さないわよぉおおお!!」

「あはははは! ごめんなさーいっ!」

「…………」


 女子2人で追いかけっこを始めだし、僕はおいてきぼりを食らう。

 瑛彦と理優も何か2人で話してたし、なんだかなぁ……。


 でもきっと、これからの日常はこうなると思う。

 レリは僕にもわからないけど、それが終わったら、今日みたいにみんなと、ナエトくんもレリも一緒になれるかな……。

 そうなったら、僕はすごく嬉しいのに……。

 …………。


「……あーもう、逃げられたわ」

「……ん、おかえり」


 暫く経って、沙羅が戻って来た。

 顔が赤かったのは走り疲れたからなのか、それとも照れてるのかはわからない。

 ただ、悔しそうな彼女の顔を見ると、なぜか僕は元気が出てくる。

 どんな顔でも、そうだけど――。


「明日にはとっちめてやるんだから……」

「あはは……ほどほどにね」

「わかってるわよ」


 そこまで本気にしてないわと呆れ混じりに言ってくる。

 そっかそっかと僕は返して、沙羅の手を取り、瑛彦達の元に。


「瑛彦、帰るよ」

「……ん? おう、帰るか」


 瑛彦に言うとすぐに返事を返し、歩き出す。

 理優もつられて歩いて、僕と沙羅も後に続いた。


 瑛彦と別れる交差点まで来て、僕たちは立ち止まる。


「瑞っち、今夜くるのか?」

「うん。決心が鈍らないうちに……ね」

「……よくわからんが、歓迎するぜ」

「ありがとう……待っててね」

「おう」


 僕の返事に、瑛彦は笑みで返してくれる。

 数日泊まるのに、さして気にしてない様子。

 瑛彦も妹と弟が2人ずついるし、1人増えても変わらないって事かなぁ、なんて。


「じゃあ、瑛彦はまた後で。理優は、また明日」

「おう。沙羅っち、また明日な〜。瑞っちは任せとけ!」

「私はここでお別れかぁ……。じゃあね、みんな」

「また明日、ね。ああほら、瑞揶は一旦帰るんでしょう。こっち来なさい」

「うんっ……」


 瑛彦たちと別れ、僕と沙羅の2人になる。

 途端に周りのものが気にならなくなって、近くの沙羅と2人で立ち尽くした。

 声はない、ただ風の音だけが聴こえる。

 ドクンドクンと振動する胸は、良く感じられた。


「……歩こう、か」

「……ええ」


 僕が言うと、ゆっくりと2人で歩き出す。

 それから僕たちは無言で、一歩一歩歩みを進めた。

 動きはいつもより断然遅く、ゆっくりとしている。


 帰ったら家に着いて、僕は荷物を持って沙羅と別れるだろう。

 こんなに、帰るのにまで戸惑うなんて、僕はどうしてしまったんだ。


 ……霧代。

 僕の中で最も大きな存在。

 僕の幸せを最後まで願ってくれた彼女。

 まだ彼女と別れて数日だというのに、僕はなんで……こんなに、沙羅を。

 それは不誠実で、ダメなことなのだろうか。

 沙羅と共にいた時間だって長いから好きになるのは当然だと、こう言うのは言い逃れだろうか――。


 もし僕が、本当は恋をしやすい不誠実な奴なら……。


「……瑞揶、待ちなさいよっ」

「……え?」


 気付けば僕は、沙羅よりだいぶリードして歩いていた。

 自分でも歩いてて気付かなかったとは、情けない……。


「……ごめん、沙羅」

「いいけど……考え事?」

「…………」

「……はぁ」


 沙羅はため息を吐き、僕に近付いてきてコツンとおでことおでこをぶつけてきた。

 少し、痛い。

 しかし、不安や悩みを吹き飛ばすには十分だった。


「……あのね、瑞揶。私は――いや、私達は何か隠すような間柄じゃあないでしょ? 悩みがあるなら相談すればいいのよ」

「…………」

「あ、もしかして子作りの相談? 私はいつでも歓迎よ?」

「ち、違うよっ! もーっ!」


 折角いい事言ってくれたのに台無しにする沙羅。

 子作りって……まったくもう……。


「……まぁほら、私は男勝りなところがあるでしょ?」

「……うん」

「だから、瑞揶が女々しい分は私が雄々しくなる。逆に瑞揶は私の女々しさが足りないところを補うの。私は堂々とアンタになんでも聞く。そしたら女々しくてもいい、なんでも答えなさい。別に私は何をアンタが口にしようと、嫌いになったりはしないんだから……」


 おでこを再度コツンとつけてきて、そのまま彼女は離れない。

 ザラザラとおでこて前髪同士がこすれ合う。

 目の前にある少女の顔は屈託のない笑顔で、色んな不安をかき消してくれる。


 でもやっぱり、霧代を思い出したら、僕は――。


 くっついたおでこを離し、僕は沙羅から1歩引いた。


「……ごめん、沙羅。それは僕が帰ってきてからにして、ね?」

「……わかったわ。帰ってきたらたくさん甘えてやるから、覚悟しなさい!」

「うん……」


 甘えられる、それもいいだろう。

 霧代、僕は君の笑顔を忘れはしないし君に恋をした事はこの身が果てるまで僕の中に残るだろう。

 でも沙羅のために、少しだけ気持ちを変える事を、僕に許してね――。

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