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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第四章:哀婉のセレナーデ
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第十二話

 お昼休み、僕は神下くんに校内を案内した。

 お昼を食べる前に、彼から僕に案内を頼んできたんだ。

 沙羅がむ〜っと唸ってたけど、あははと笑うしかなかった。


「いやぁしかし、やっぱ都会の学校は広いな。人も多いし、楽しくなりそうだ」


 一通り見て回って教室に戻り、神下くんが感慨深げに呟く。

 楽しそうなのは何よりだけど……


「……ここ、そんなに都会でもないよ?」

「そうか?俺からすれば都会だ。天界から来たんだけど、あそこはスッカスカだからな。建物も点々としてるし……密集地のこの町は新鮮だぞ?」

「あはは……そっか」


 天界から来た――。

 あそこは人間が住むには気圧がとても薄いから、十中八九彼は人間では無いのだろう。

 種族を聞くのは、野暮なのかな?


「なぁ、瑞揶。今日暇だったら、町を案内してくれないか? あぁ、もちろんタダでしてくれとは言わん。何か奢るからさっ」

「……うーん。今日、かぁ」

「ん? 忙しいのか?」

「いや、ちょっとね……」


 多分、今日を終えたら暫く沙羅と一緒に帰ることはないだろう。

 それが寂しくて、今日は一緒に帰りたい……。


「まぁ無理にとは言わないけど……近々頼むよ」

「うん。明後日にでも、かな。行こうねっ」

「おう」


 ニコリと笑顔を返してくれる神下くん。

 話しやすいし、しっかりした人だなぁ……。


「まぁ弁当でも食おうぜ」

「そうだね……」


 そして、遅れながらにお弁当を食べる。

 それから2人で雑談しながらぱくぱく食べて、すると沙羅と瑛彦が教室に入ってきた。

 みんなと屋上で食べてたんだろう。


「おおっす瑞っち、そしてイケメン」

「ん? ああ、お前は確か瑛彦だったな。授業でも騒いでたから覚えてるぞ」

「そうそう、俺は瑛彦。よろしくなー」


 瑛彦と神下くんが握手する。

 がっしりとしていて、男らしい握手だ。

 いいなぁ、いいなぁ。


「みーずーやーっ」

「むぐっ?」


 名前を呼ばれると同時に、沙羅が背中から抱きついてきた。

 頭にあご乗せられて、少し痛い。


「沙羅〜、痛い〜っ」

「ふっふっふ、なんだか瑞揶より大きくなった気分だわ」


 得意げなようで、彼女は僕から離れる様子はなかった。

 僕たちの様子を見て、神下くんが神妙な顔をする。


「……瑞揶、その子はなんなんだ?」

「私は瑞揶の家族よ。よろしく、転校生」

「ああ、よろしく。それと、転校生じゃなくて神下だ。もしくは、聖兎って呼んでくれよ」

「じゃあ、聖兎ね。私と瑞揶はこんな感じだから、気にしないで」

「むーっ、沙羅のあごが頭に刺さるーっ」


 僕がじたばたしても、沙羅にがっしりと抑えられて動けない。

 いつもこんな感じだけど、だけど〜っ。


「……なんだか、瑞揶も大変そうだな。俺は家族とかいないからさ、気楽だぜ?」

「えっ」

「おうっ?」

「にゃーです……?」


 神下くんの言葉に、三者三様驚きを示す。

 家族がいない、の?


「……そんな驚くなよ。天界にいる天使の大半はそうだぜ? というか、自由律司神が生み出してるから、親っていうと、アイツになるのかもなぁ」

「あっ、天使って神様も作れるんだねっ」

「そりゃあ神様だからな。作れるんだろう」


 うんうんと神下くんは頷く。

 天使って、人間や魔人が結婚したとしてもこの世界では普通に生まれてくる。

 だから親が居ないのには驚いちゃったけど、違う理由ならいいんだ……。


「でも神下くんって凄いね? 神様から生まれたんだ〜」

「そうなるけど……別にすごくないぞ? 身体能力的には人間と変わらないし、魔法は魔人のトップレベルと変わらない。神様から生まれたと言っても、大した奴じゃないんだ」

「そうにゃのですか? そうにゃのですか?」

「……お前はなんだかねこっぽいな」

「にゃーですからぁ〜」

「……意味がわかんねぇよ」


 神下くんの呟きに、瑛彦と沙羅も頷く。

 沙羅が頷くと、あごが刺さって痛いです……。

 それよりも、にゃーですはにゃーですだよ?


「瑞揶はねこっぽい声出すけど、うさぎの方が好きなのよね」

「本当はキリンさんを召喚したいんだけど、さすがに大きいからね。ハムスターも召喚したいよーっ」

「……お前たち、楽しそうだな。家族ってのも悪くなさそうだ」


 どこか納得して笑う神下くんに、僕も沙羅も笑顔を返すのだった。

 こうして昼休みの時間は、緩やかに過ぎ去った――。







 午後の授業もつつがなく終了。

 放課後になって、僕は神下くんに声をかけられた。

 帰り支度はもう終わってて僕も彼も学生カバンを持っている。


「瑞揶、ちょっと話があるんだが……」

「うん? なにかな?」

「少しな。ここじゃ言いにくいから、出てくれないか?」

「うん……別にいいけど、沙羅に一言伝えてから行くね?部活遅れるから、って」

「ああ、部活入ってるのか。悪いな」

「いいよいいよ。気にしないでね〜っ」


 そういうわけで、僕はまだクラスにいる沙羅のもとにとてとて歩いて向かった。

 沙羅は僕に気付くと、得意げに笑う。


「あらあら瑞揶、どうしたの?」

「あのね、少し神下くんと話して行くから、少し部活に行くの遅くなるね」

「……そう」


 しかし、彼女の表情は一気に暗くなった。

 な、なんなのさーっ!?

 やっぱり、寂しいのかな?


「ごめんね? 帰ったらいっぱいぎゅーっしてあげるから、ね?」

「……えっ? い、言ったわね!? 約束よ!」

「う、うん……」

「ふふん♪ それならよろしい。私は先に行ってるわ。じゃ」

「うん、また後でね……」


 挨拶して、彼女はスキップして去っていった。

 沙羅、前はあんなに単純な子じゃなかったのになぁ……。


 僕は神下くんの元に戻り、それから彼と一緒に1階の昇降口裏にあるスペースで座る。


「これはにゃーのおごりなのです」

「ハハッ、サンキュ」


 僕は構内の自販機で買ったジュースを神下くんに渡す。

 2人で1缶ずつブルタブを開けた。

 1口飲んで、一息。


「ふぅ……なんか、高校生らしくていいな、こういうの」

「そうです?」

「ああ、そうだよ」


 はにかんで答えてくれる。

 ならきっと、そうなんだろう。


「あはは……それで、話ってなにー?」

「それなんだが……」


 彼らしくなく言いよどむ。

 少し話すのが難しそうだけど、まだ転校初日ですからにゃー。


「僕にはなんでも言っていいよ? 大抵の事は、なんとかするから……」

「……とは言っても、本当にこれをお前に言っていいのかわからないんだ。お前に頼めと言われたんだが……」

「え? 誰に?」

「――自由律司神」

「――――」


 なんでもないように彼の口から出た名前は、とても偉い人のもので、僕は背筋が凍った。

 僕を監視していると言った、この世界の神様であり、僕のオリジナル――。


「……その人が、なんて言ったの?」

「ああ、それがな――」


 僕は生唾を飲む。

 自由律司神は、神下くんから僕に、何を言わせるのか――。






「家は作らないから、響川家に泊まれって」

「…………」





 ……えっ?



「ごめん、なに? もう一回言って?」

「だから、瑞揶の家に泊めてもらえって言われたんだ。ああ、別に、お前んちで悪さしようだなんて思ってない。俺もよくわからないけど……まぁ命令だからな」

「……そっかぁ。うーん……」


 突然の事に、さすがの僕も困った。

 いつもなら快く受け入れたものだけど、家には沙羅がいる。

 まだ僕はこの人を完全に信用したわけじゃないし、女の子の沙羅が居る手前、泊めるわけにはいかない。

 なにより――僕は数日家を出る。

 しばらくのんびりして、過去を埋葬し、そして沙羅に向かい合いたい。

 だとすると、沙羅と神下くんが2人きりになってしまう……。


 耐え難い――。

 そんな状況に、してたまるか……。


「……神下くん、家が無いんだよね?」

「ああ、ない。あの神様さ、ほんとテキトーだよ。家がないってどういうことだか……」

「じゃあ僕が買ってあげる」

「……え?」


 僕の言葉に、神下くんは驚いた。

 それもそうだ、家を買うなんて簡単に言えたことじゃない。

 安くても数百万はするのだから。


「……いいのか? 俺、そんな金返せないぞ……」

「返さなくていい。僕はお金にあまり頓着しないから、気にしないでいい。ただ、うちに泊まるのだけは、絶対ダメッ」

「……そうか。でも、本当にいいんだな? 家だぞ、家。子供のおもちゃを買ってやるのとは、わけが違うぞ……」

「うん。それでも、僕は沙羅と誰かを……っ」

「……ははっ、さっきの家族か。お前にとって大切なんだな」

「……。……うん」


 彼の言葉を素直に肯定する。

 大切、とても大切だ。

 僕がこの世界で一番大切だと、思ってるんだから……。


「ま、俺が信用に置けないのはわかる。だから正直、野宿も考えたんだがな。金も無いし、やめたけど」

「……お金?」

「そうそう。手持ちがあまり無いからな。ここに来る前は、普通に高校生だったんだぞ? 他の命令受けて仕事してたけど、普通の学生だ」

「……そうなんだ」


 ならきっと、隣に座る彼は本当にただの15〜16歳の少年なのだろう。

 事情はわからないけど、天使って理由で自由律司神に拾い上げられたのだろうか。

 そしてここに来た――かな。


 もしそうなら、彼も不憫だ。

 でも人の良い彼の性格なら、この先もうまくやっていくだろう。


「……ごめんね。家族にはできないけど、許して……」

「いいっていいって、家を買ってもらえるってだけで、とてもありがたいんだ。いつか、この恩は返す。返さなくていいって言っても、な」

「あはは……気長に待つよ」


 天真爛漫な笑顔を向けてくる彼に、僕は苦笑して返した。

 明るい、優しい、言葉も頼もしい。

 とても良い人だ。


 自由律司神は、何故この人を僕のもとに送ったのだろう?

 なにか、意味があるのだろうか……?

聖兎「でも、家買うより賃貸契約の方が安いんじゃ……」

瑞揶「それだと、他の友達(環奈)みたいに定期的にお金振り込まなきゃだから、手間だし……最終的には、家売っちゃっていいからね?」

聖兎「お、おう……(俺、コイツに絶対逆らえん……)」

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