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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第四章:哀婉のセレナーデ
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第九話(※)

最後にカラー挿絵があります。

挿絵……? ……挿絵です。

 翌日になって、僕達は普通に学校に行った。

 瑛彦やクラスの友達には片付けを休んだ事を怒られたりしたけど、沙羅が反発して無理やり沈着。

 クラスでもそれなりに地位のある沙羅は発言力があるようで、彼女に反論できる者は居ないのだ。

 おかげで助かった僕は普通に授業を受け、お昼はみんなと過ごし、午後が終われば放課後は部活に。

 今日は環奈や理優といったバイト組もいるようで、ちょっと賑やかだった。


「……あれ? 沙羅は?」


 そんな中、部活を支配する部長の不在に僕は気付く。

 いつもならこの時間にお茶でも啜っている彼女の所在はナエトくんが教えてくれる。


「ああ、なんでも入部希望が後を絶えないらしくてな。サイファルは瑛彦を連れて全員を面接しに行ったぞ」

「そうなんだ……。でも、なんで今更入部希望が?」

「文化祭の効果だろう。理優も環奈も、昨日は大変だったんだからな」

「……にゃー」


 昨日は大変だったらしい。

 ……んー?

 ……あ、2人は歌ったんだもんね。

 歌に惹かれていろいろ言われたんだろう。


「……悪いこと言われたり?」

「そんなわけないだろう。褒められ続けて大変なんだと。今そこでグミを食べあうのを見ていると、にわかには信じ難いがな」

「あはは……そうだね」


 当の本人である理優と環奈はしれっとグミを食べあっていた。

 緑のラベルが貼られたお茶のペットボトルを2人は机に置いており、机にはグミの入った袋や箱が乱雑している。

 ほのぼのとしているから僕も混ざりたい。


「……で、ナエトくん」

「む?」

「レリは?」

「……おい瑞揶。何故僕に聞くんだ」

「え?」


 訊いてみると、少し怒気のこもった声調で聞き返された。


「いやぁ、もう2人でセットなのが標準形だと思ってたから……」

「言っとくが、僕とアイツはそういう仲じゃない! 犬猿の仲だ! セットなどと次言ったら怒るぞ!」

「もう怒ってるよ……」


 ナエトくんは鼻を鳴らしてドラムを叩きに行ってしまった。

 相変わらず沸点が低いなぁなんて、ちょっと失礼な事を思ってしまう。

 早く沙羅とも仲良くなれればいいんだけど……。


 僕は話し手がいなくなってしまったため、あたりを見渡した。

 そんなことをしても、居るのはあと環奈と理優だけなのは変わらない。

 丁度環奈には話すことがあったけど、理優がいるからどうしよう?


 僕が顎に手を当てて悩んでいると、理優から声が掛かる。


「瑞揶くん、グミ食べよーっ!」

「食べる〜っ」


 理優の一言で悩みは吹き飛び、3人で美味しいね美味しいねとグミを食べるのだった。


 そして気が付けば19時近くになっていて、部活終了時刻。

 沙羅たちも帰ってきて今日は雑談していたら終わった。

 帰り道は環奈と瑛彦、そして沙羅と一緒だ。

 だけど……


「悪いけど、環奈に話があるんだ。沙羅と瑛彦は先に帰っててくれないかな?」

「なっ……」

「おう、いいぜ」


 沙羅が驚嘆するのに対し、瑛彦はすんなりと了承した。

 ……なんで沙羅は驚くの?

 そう不思議がっていると、環奈がニヤニヤとして沙羅に言った。


「何よ沙羅〜?ウチがそんなひょいひょい男を手玉に取るとでも?」

「は!? ん、んなことどうでも良いのよ! ほら! 瑞揶が居ないと夕飯遅くなるし!」

「だってさ。どーするんよ、瑞揶?」

「ごめんね沙羅。今日は遅くなるから外食して。ね?」

「なっ……ななっ……」


 僕の言葉におののいて後ずさる。

 えっ、なんで?


「……瑞揶なんか知らないわ! このバカ! バーカッ!」

「えっ? ……ええ?」


 そして罵倒を残して、沙羅は風の如く走り去って行った。

 ……うーん、何かしたかなぁ?


「おー、沙羅っちも大変なんだなぁ……」


 瑛彦の方は何かを悟ったようで、意味深に頷いている。

 えー……なんなの?


「……まぁまぁ、沙羅はほっときゃいいよ。じゃあ瑞揶、ファミレスでも行こ。ウチも夕飯作るのめんどいから食べて帰る」

「そうだね。僕も食べて帰るかな……」

「じゃ、俺は帰るわ。じゃあな、2人とも。明日も会える事を祈ってるぜ」

「……明日も会えるでしょ。またね〜」


 瑛彦も陽気に歩いて去っていった。

 残された僕たちは学校近くのファミレスを目指して歩く。

 着いたファミレスで席に案内されて環奈と向かい合って座った。


「……ほんで、どうしたんさ? 話があるって言われても、ウチはなんかしたかね?」


 メニューを見ながら環奈が問いかけてくる。

 僕もメニューを開きながら言葉を返した。


「んーっとね、まぁ報告……かな?」

「……報告?」

「環奈にはさ、僕の前世の話してたでしょ? その事が、ようやく決別できたから……」

「……へぇ。そりゃ何よりだね」


 環奈がメニューを置き、水の入ったコップを手に取って口元に持っていった。

 ちょびっと飲んでから、また1つ質問を飛ばしてくる。


「それで、どうやって決別したの? 自分で考え抜いて? それとも本人に会って来た?」

「後者だよ……。会って、話して、自分がバカだったってわかった……。環奈の言う通りだったよ。僕は、不誠実だったのかもしれない……」

「……別に自分を不誠実だと思う必要はないよ。考え方によって誠実も不誠実も変わる。あんときゃウチもああ言ったけど、別にウチはアンタが悪い奴だとか、そんな事は一度も思ったことないしね」

「……。……そっか」

「うん、そうだよ」


 そう言って環奈はコードレスチャイムのボタンを押す。

 ほどなくしてやってきたウェイターさんに注文を付けて、それからまた話をする。


「んじゃあ瑞揶はさ、この世界でも恋愛するの?」

「…………。どうだろう……」


 その問いには答え難かった。

 霧代の事は忘れられないし――というか一昨日会ったんだし、まだしばらくは霧代に心が傾くと思う。

 でも、それだけじゃない。


 恋愛をしたらまた人を傷つけるんじゃないかって、そういう恐怖もある。

 もちろん、何か仲違いするようなことがあっても、霧代みたいに仲直りができるとは思うけど――。


「……あれ? その前世の恋人さんとは上手くいかなかったん?」

「いや……彼女は幽霊で、転生していったよ……」

「……そっか。まぁ彼女なりに考えがあったんだろーね」

「うん……ずっと僕に取り憑いてたんだって。家でずっと沙羅と2人だったから、嫉妬とか、したかなぁ……」

「そりゃするに決まってんでしょ……」


 アホかと付け足して環奈に呆れられる。

 そうだよね、嫉妬するよね……。

 嫉妬してくれるだけ嬉しいけど……。


「ほんっと、瑞揶は鈍感過ぎるよ。いろんな方面でね」

「うぅ……僕だって、僕だって……」

「そんな事言ってても、アンタの事好きな子が近くに居るのも気づいてないでしょ?」

「……え? 沙羅の事?」

「いや、そんなん言わないけどさ。プライバシーだし」

「そう? でも、沙羅には一昨日告白されたよ?それが事の発端だし……」

「ぶっ」


 環奈が吹き出してむせ始めた。

 なんでそこでむせるの……?


「ちょっ、えふぇ! い、いきなりやめんかっ! つーか軽々しくそんな話言うんじゃないよ!」

「だ、だってこれも環奈に相談したかったし……」

「はぁ? なに? まだ返事返してないの? 一昨日から何やって……ああ、元恋人さんか。なんか凄い大変そうだね、瑞揶」

「あ、あははは……」


 言われてみれば、結構大変だった。

 理優の件が終わってすぐだったし、疲れてる。

 もう数日休めたら、いいな……。

 ……家では沙羅の相手もしなくちゃいけなくなったから、そんな余裕はないけど。

 いつもならテレビ見ててくれるのに、今は僕に付いてくるしなぁ……。


「……まぁアレだね。まだまだ人生は長いんだから、ゆっくり決めなよ。瑞揶ならいい答えが出せるって思えるし、頑張って」

「……でも、沙羅だしなぁ」

「別に嫌いじゃないんでしょ?」

「それはもちろんそうだけど……」


 嫌いだったらこんなに悩む必要がない。

 僕にとって沙羅はとても大切だから悩むんだ。

 霧代との件でも、沙羅は僕の自傷行為を見て泣いてくれた。

 どれだけ僕のことを想ってくれてるかだって、あのときにしっかり伝わっているんだ。


 ――嬉しい。


 あれだけ愛してくれてるのは、すごく嬉しい――。


 でも――。


 霧代の事が、脳裏をよぎる――。


 ――僕は、どうしたら……。


「……突然たくさんの事が起きたから、瑞揶はいま硬直状態にあるんだと思うよ。考える時間より、心にゆとりを持たせる時間が必要だと思う。のんびりとしてなよ、瑞揶らしくさ」

「……そうだね。ありがとう、環奈」

「別に、ウチに礼を言わんでもいいって。秋はもう文化祭終わればイベントは何もないし、ゆっくりしてな」

「……うん」


 それからは互いに口数が少なくなった。

 これからの事も今までの事も、やっぱり、環奈に相談しておいて正解だった。

 人生の先輩っていうのは、本当に頼りになる。

 友達に恵まれて今回の人生は良かったなと、ご飯を食べながら思うのだった。







 瑞揶達から逃げた私はスーパーで弁当を買って家で1人寂しく食べていた。

 1人……本当に寂しい。

 いつも瑞揶と一緒なだけあって、相棒がいないとこんなに寂しいもんかと今更ながらに悶絶する。

 リビングで点けているテレビの音声も頭に全然入ってこない。

 なんなのよ、これは。

 好きな人が居ないって、こんなに辛いの……?


「……ありえん」


 一体、私の中でいつの間にアイツはこんなに大きな存在になっていたのか。

 いや、多分出会ってすぐからだろう。

 会ってすぐに瑞揶の事は信用したと思う。

 そして彼は私の信用通りの人物で、とても親切だ。

 私の中で想いが大きくなっていくのも当然のことだろう。


 ……どーしたものか。

 あと10日で姉さんも帰ってくる。

 そしたら、どうなるのかしら?

 姉さんだって、瑞揶が好きなはず……。

 フられたとは言っても、一カ月程度で覚めるものか――。


 そしたら瑞揶の取り合いになるかもしれない。

 瑞揶だってもう、姉さんをフる理由がない。

 好きかどうかだけが問題だ。

 ……まぁ、私の好きって想いが負けるつもりはないけれど、それでも、響川家に居づらくなるはず。

 ……どーしよ。


 なんて、悩むのは私らしくない。

 こういう時は直接訊くもんだと、私は無造作に携帯を取り出した。

 瀬羅に電話を掛け、ワンコール、ツーコール、スリーコールで対話に応じてくれた。


《もしもし?さーちゃん、どーしたの?》

「やほ、姉さん。ちょいと話があるんだけど、いいかしら?」

《うん、大丈夫だよ》


 いつも通り朗らかな声の姉さんに、私は単刀直入に話を切り出した。


「あのね、姉さん」

《うん》

「私もね、瑞揶が好きになっちゃったのよ」

《……。……ひぇ?》


 停滞端末を介してマヌケな反応が返ってくる。

 この反応も(あなが)ち予想ができていた。


《……わーっ。さーちゃんも瑞揶くんを、かぁ……》

「そうなのよ。それでね、ここ数日のことなんだけど――」


 それからは一昨日に起こった出来事について話した。

 前世の因縁だなんてにわかには信じがたい話だけど、瑞揶の事についてだったからか、彼女は真剣に聞いてくれた。


《……そっか。じゃあ、瑞揶くんは完全にフリーなんだね》

「そういう事よ。だから姉さんにもチャンスがある。けど私は譲るつもりはないわ。私だって彼が好きだもの」

《……うーっ。お姉ちゃんはどうしたらいいんだろう。瑞揶くんは取られたくないけど、もう諦めてたし……》

「そのまま諦めてくれれば私は楽なんだけど」

《ええ~っ……》


 いやそうな声が画面から返ってくる。

 諦めてくれないわよねぇ、そうよねぇ……。

 姐さんだって、初恋のはずだものね。


《……さーちゃんはどーするの? 瑞揶くんがどうしたら惚れてくれるかもわからないし……》

「わかんなくても頑張るでしょうが。好きなんだから、絶対諦めたりしないわ」

《そっか……。じゃあ、私は諦めるよ》

「……は?」


 その言葉は少し予想外だった。

 なんだって私のために身を引いてしまうのだろう。


「姉さんが諦める必要はないわよ。私と瑞揶がくっ付いたとしても、奪いに来ればいいし」

《……一度拒絶されたら、私は折れちゃったよ。さーちゃんみたいに、私は強くないもの……》

「…………。そう……」


 まぁ、私みたいにどっしり構えてる人じゃないのはわかる。

 だからって諦めてしまうのか。

 ……いや、私もフられないとわからない、かな……。


《だから、さーちゃんは頑張ってね。きっとさーちゃんなら、折れずに何度でもアタックするって、思ってるから……》

「……ええ、ありがと。そうね、たとえフられようが嫌われようが、好きって言ってくれるまで追い回してやるわ」

《フフッ、その息だよっ。頑張ってね、さーちゃんっ》

「もちろん、頑張るわ……。じゃ、話はそれだけだから……」

《うん。またね、さーちゃん》

「また、ね……」


 ゆっくりと携帯を耳から離し、通話終了の赤いボタンを押す。

 刹那に襲ってきた疲れに、私はソファーにもたれかかる。


 これで、姉さんは大丈夫、か――。


 なら本気で狙って、いいのよね……。


「……どうしたら好きになってくれるかしら」


 ポツリと独り言が出る。

 好きになってほしい、なってもらいたい。

 何か有効な手段はないものだろうか……。


「……体とか」


 使える武器といえば、女としての体だろう。

 しかし、自分で胸を掴んでみても矢張り小さい。

 私は背も低いし、体も丸みがない。

 霧代って子は柔らかそうな体をしてたのに、私は怪力で堅い。

 ……これは。

 ……そう、そうね。

 まずは、性格から変えていきましょう――。




 そうして、ちょっとした計画を立てた私は、胸に期待を膨らませつつ、どきどきと鼓動が脈打つのを感じながら瑞揶の帰りを待った。

 普通の生活を求めるのもいい。

 しかし、私はもうそれだけでは我慢できなくなっていて――。


挿絵(By みてみん)

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