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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第四章:哀婉のセレナーデ
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第二話

まだ――?


まだ、起爆しないの――?


沙羅という火によって起こる、瑞揶という大きな爆弾は――。


もう、彼は十分に成長したはず――。


さぁ、早く――。


早くおいで――。











振り替え休日の2日目になって、ようやく僕は完全復活を遂げた。

そういえばクラスの打ち上げは行けなかったなーなんて思いつつも、深夜帯まで付き合わされる可能性を考えたら行かなくて正解だった。

僕はともかく沙羅や瑛彦は行った方が良いとも思ったけど、あんなことがあった日にはちょっと辛いかも、なんて。

前の事を掘り返してても進まないから、頭を振って思考を切り替える。


キュイイイイイイイイイン……!


「きゅいーんっ♪」


リビングで掃除機を掛けながら小刻みに体を揺らす。

きゅいきゅいと独り言を言ってると、ソファーでチラシを見ていた沙羅が一言。


「……なんて幼いのかしら」

「グッ……!?」


掃除機の取っ手を落とし、僕は挫折した。

これでも、もう16歳なんです……。

そう、こんなんでもね……。


「……可愛い」


沙羅がさらなる追撃を加えてきて、僕は倒れる。

そして掃除機の先にちょっと吸い込まれそうになって、なんとか沙羅に助けてもらった。


というわけで汚れたからシャワーを浴び、ちょっとほっこりしながら僕は沙羅と一緒に縁側に座っていた。

一口お茶をすすり、一息吐く。


「ふぅ〜……しみじみ〜……」

「落ち着くわね。やっぱり、静かなのがいいわ……」


風に連れられて落ち行く紅葉を見ながら、僕達は2人で外の景色を見ていた。

いつもと変わらぬ景色だろうに、なぜこんなにも嬉しいのだろうか。

1人じゃなく、2人で見てるからなのかな……。

胸が、なんだかあったかい……。


「……沙羅、今どんな気持ち?」

「……どんな?そう言われたら……そうね……」


空を見て、沙羅は考え出した。

答えが出たのか、チラチラと僕を見て、そして頬を朱に染めて俯いた。


「…………ん?」

「……えと……その、普通に聞いて欲しいけど……」

「うん……」

「……夫婦みたいな、感じよ……」

「……そっかぁ」


夫婦といえば、確かにそう思えなくもない環境だ。

僕と沙羅は異性で、2人きりだし、家族だ。

兄弟、夫婦、見方はいろいろだけど、兄弟よりは夫婦の方がしっくりくるだろう。


「……あれ?暗く、ならないわね?」

「えっ?」

「いや、てっきりまた鬱々とするかと思ったわ……」

「うーん……僕もいろいろ考えてるからね。少なくとも、沙羅とはいつも一緒だから夫婦という見解はわからなくないし……大丈夫だよ?」

「そ、そう……」

「…………」


だんだん萎縮する彼女が可愛く思える。

こんなことでいいのかなぁと思って頬を掻くも、どうすることもできないからのほほんとしてるのだった。


「いい天気……いい天気〜」

「もー……隣で寝ないでよ……」

「ぶーっ……」


木製の縁側にピトピトと肌を付けてうつ伏せになる。

掃除はしてあるから汚くないし、日の光が当たってこれが気持ちいいのです。


「そんな格好してたら、また乗るわよ?」

「……沙羅にいじめられるーっ」

「いじめじゃないわよ……」

「にゅー……」


抵抗できない僕の背中を沙羅が叩いてくる。

地味に痛いからやーめーてーっ。


「沙羅も寝よーよーっ」

「そんなスペースないでしょうが……」

「……じゃあこっち側にしよー」


僕は体を起こし、上体だけをリピングに傾けた。

枕がなくて硬いフローリングはひんやりして気持ちいい。


「……まぁ、それなら……」


沙羅もそれでいいようで、僕の隣に寝転んだ。

すぐそばにある彼女の顔を見ると、彼女も僕を見上げていた。

なんだかこそばゆいな――そんな気持ちを隠すために、僕は沙羅の頬を撫でる。


「ん……」


沙羅は気持ちよさそうに目を細めて僕に顔を近付けた。

すべすべな頬から首元をくすぐると、気持ちよさそうに伸びをして抱きついてくる。

なんだか、本当に猫みたいだなぁと思いながら、そのまま寝入ってしまう沙羅に抱きつかれながら、僕も眠った。


平和で、ほのぼのとしていて、優しい日々。

こんな日が続けばいいのに――。

そう願うことは、きっと悪くないはず――。













遅過ぎる――。


別に、待つのは吝かではない。


もう11年待った、今更数日待つのは構わない。


だけど――今の貴方を見てるのは、霧代ちゃんにとって苦しみと変わらない。


貴方はまだ、彼女と別れたわけじゃないでしょうに――。


なのに、その子と戯れないで――。




だから私は干渉する――。


ごめんね――私の後世の子よ――。












気が付くと僕は、雨の中を立っていた。

立ち並ぶビルの林が目の前にあって、灰色の空からどしゃ降りの雨が降り注いでいる。

有名な高速道路、大きな都市のタワー。

ピチャリ、ピチャリと足音を立てながら、僕は傘もささずに進んでいた。


どうしてだろう。

なんでこんなことをしているのだろう――?


まともになった思考回路が(ようや)く回り出そうとして――ドシャリ、という音が聞こえた。

振り返ると――ビルの上から、人型の何かが落ちていくのが見えた。


「ッ――!?」


僕は慌てて超能力を行使しようとした。

だけど、発動する兆しはない。

なんで!どうして!

そんな事を思ってる暇はない、僕はすぐにビルの元へと走って行った。


僕の足は速くない。

そんなのは昔からわかってたことで、その人が落ちる前には間に合わなかった――。


荒い息を休めるでもなく、僕はその落ちた人を確認してしまった――。


「――――」


落ちていたのは、霧代だった。

黒髪にはベットリと血が付着し、体の一部があらぬ方向に曲がっている。

彼女の儚い瞳孔とぽっかりと空いた口が、僕に向いていた。


雨が降り注ぐ。

止む気配のない激しい雨が。

この世界には僕と霧代しか居ないのか、こんなにも寂しい。


目の前にある霧代の死体――。

彼女の瞳を見ていると、自然と呼吸が荒くなる。

彼女はこんなにも酷い結末を迎えた。

未来のある少女が、こんな――!

僕があんな事を願わなければ――。

願わなければ――!






「――はぁ……はぁ……」


唐突に意識が変わると、次の瞬間には、沙羅の顔が目の前にあった。

自分の荒い呼吸と、何かを言っている沙羅の声が頭に響く。

なん……だっけ?

僕は、そう……ここで、縁側の近くで寝てたんだ……。


「瑞揶っ……!」

「……さ……ら……?」


彼女の小さい体躯に抱き寄せられる。

肩のあたりに、暖かい水滴が落ちる。

どうやら泣いているようだった。


「瑞揶……どうしたのよ……!そんな苦しそうに……!」

「……なんでも、ないよ。夢を見ていただけだから……」

「……大丈夫なの?」

「うん……」

「本当?」

「大丈夫……」

「…………」


なんども確認して、それからまた僕をギュッと抱きしめてくる。

優しいなって、素直にそう思う。

この優しさに包まれていられれば、どれほどいいだろう。

だけど――


「――ごめん、沙羅」

「……え?」

「僕にはやらなきゃいけないことができた。少し、出るよ」

「あっ、待って……!」


沙羅の手を振りほどいて立ち上がるも、彼女は僕の服の裾を掴んできた。

僕は1つ微笑んで彼女の頭を撫でる。


「大丈夫、別に大したことじゃないから。すぐにまた戻ってくるよ」

「……何をするの?」

「……。……そうだなぁ」


どういえばいいのかわからなかった。

あまりにも表現しがたい事だろう。

しかも、彼女とは前に、心配をかけないという約束をしている。

となれば、


「罪を償う、かな……」

「……え?」

「……。……じゃあね」


僕は彼女の手を振りほどき、リビングから姿を消す。

もう長らく来てなかった1階奥の部屋に、僕は静かに入って気配を感じ取られぬよう結界を張った。


「――ふぅ。……よし」


慣れ親しんだ超能力で、空中に剣を5本浮かべる。

長さはそれぞれ違って、短いのも長いのもある。

イメージして、剣の切っ先を全て自分に向け――その剣は僕に飛んできた。


悲鳴をあげる間もない。

剣は全て僕の胴体を貫き、血を噴出させる。

薄れる意識の中、ビチャビチャと跳んだ血を見て僕は笑った。


ああ、これが普通だ。

僕は、夢でも見ていたんだろうか?

なにを怠けていたんだろう。

僕は悪い奴だ――。

悪い奴だ――。

悪い――。


…………。


………。




続く

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