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連奏恋歌〜愛惜のレクイエム〜  作者: 川島 晴斗
第三章:呪詛のパッション
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第十七話

三章の終了です。

 それは夕食の席でのこと。


「にゃーです……」

「おお、良かったじゃない」


 僕は驚きつつ、沙羅は称賛する。

 何をかといえば、理優と瑛彦が付き合いだしたということなのだ。


「基本的には今までと変わんねぇよ。少しいちゃいちゃするかもしんねぇけどな」

「いちゃいちゃしても、瑛彦くんが節操ない事してくるからしないもんっ」

「連れないこと言うなよ〜。俺たち付き合ってんだろ?」

「なんかウザいわね、コイツら……」


 2人が仲良くしているのを見て、沙羅が箸をバキリと折った。

 それ魔界製で1トンにも耐えるはずの物なんだけど、おかしいなぁ……。


 嬉しい報告もありつつ、響川家の家系は今日も回って夜になる。

 そしたら瑛彦も理優も、荷物をまとめていた。

 リビングや割り当てた部屋を右往左往するのを見て、僕はほけーっと眺めていた。


「帰っちゃうんだね〜……」

「そりゃあな。まぁ毎日会えるし、良いだろ?」

「うん。ちょっと寂しくなるけどね……」


 瑛彦達が泊まりに来てから、毎日4人も居て寂しさなんてかけらもなかった。

 もちろん、沙羅さえ居てくれれば僕は寂しくなんてないし、中学までは誰もいなかったわけだから、元々寂しさにも慣れてる。


「……またいつでも泊まりに来てね」

「おう。明後日にはまた来るかな」

「それは期間あけなさすぎだよ……」


 そんな感じで、瑛彦との会話は終わり。

 明後日にくるというのはジョークだろうけど、また近いうちに来るのは確かだろう。


 次は理優を捕まえて話をしてみる。


「帰っちゃうんだね?」

「え? ……うん。やっぱり、帰る家はここじゃないからね」


 にこやかに笑って彼女は言う。

 憂いがなさそうで、僕も嬉しくなって笑った。


「……また、いつでも来てね」

「フフフッ、ありがと。うちにも来てね」

「うん。葉優さんに、よろしくね」

「うん……」


 そうして彼女はまた帰る準備を進めていった。

 明日は文化祭後の休みで、朝には2人とも帰るだろう。

 そしたら、沙羅とまた2人になる。

 でもあと2週間で瀬羅も帰ってくるし、元通りになるだろう。

 僕は既に沙羅が座っていたソファーに腰掛け、お茶を啜った。


「……落ち着く〜っ」

「いつも落ち着いてるじゃない」

「あはは、そうだね……」


 的確な突っ込み過ぎて返す言葉もなかった。

 沙羅はデニムで太ももの見える格好で足組みをし、ため息を吐き出す。


「……明日からは2人ね」


 独り言のように沙羅が呟く。

 僕と同じ事を考えていたようだ。


「2人だね。また、いつもの日常に戻るかな?」

「……戻りそうね」

「……なんだか、2人だった頃が、遠い昔みたいだね」

「そうね……」


 最近は、人の流入が多い。

 8月は中頃から瀬羅もいて、9月の初めも沙羅と2人だったけど、それからすぐに2人がやってきた。

 そして2人も明日には居なくなる。

 流入したのは、たった1ヶ月。

 だというのに、いろいろあったせいか、昔のほのぼのとした日常が遠く感じられた。


「静かになるね……」

「……私はその方がいいわ」

「あはは、そう?」

「……アンタとこうしている時が、1番安心するのよ」


 そう言って、沙羅は僕にもたれかかってきた。

 最近だと、こうして甘えてくることも多い気がする。

 前から膝枕をさせられたりはしたんだけどね……。


「安心する?」

「安心するわ……」

「……そっか。たぶん、愛の力かな……」

「ブッ!?」


 僕の言葉を聞いて、沙羅が跳ね起きた。

 ……ああ、うん。変な事言ったね。


「……ちょっと、どういう事よ?」


 赤面させた沙羅が睨みながら聞いてくる。

 どう答えようものかとも思ったけど、素直に答えることにした。


「なんかねーっ? 時々夢に僕の前世の、さらに前世の人が出てくるの。それが愛ちゃんって子なんだけど――」

「……は? ちょっと待って。なによそれ」

「え、だから前世のそのまた前世の人。なんかね、僕の体に本当は転生するつもりだったんだけど、男だったからやめたんだってっ」

「……ほ、ほう?」

「その人が、僕が愛されやすいのは私のせいだって言ってたから……愛の力?」

「…………」

「……どうしたの?」

「なんでもないわ……」


 どこか疲れた様子の沙羅は、また僕の隣に腰を下ろした。

 信じられた話でもないから、聞き流してもらって良いのに。


 そうしてのんびりしているうちに時間は過ぎ去り、僕たちはまた眠りにつくのでした。





 次の日、朝食の後にはもう2人はまとめた荷物を持って外に出ていた。


「お世話になりましたっ」

「また来るぜー、瑞っち」

「いつでも来てね〜っ」

「また学校で会いましょ」


 理優は綺麗に頭を下げ、瑛彦はニカっと笑う。

 僕と沙羅は送り出すようにして、しかし玄関からは出なかった。


「……あっ。ちょっと理優、いい?」

「え?」


 僕は理優を呼び、彼女のおでこに人差し指を当てる。

 そして超能力を発動し、指を離した。


「……何したの?」

「秘密〜っ。後でわかるよっ」

「むっ……でも、いい事なんだよね?」

「もちろんだよ〜っ」


 悪い事などするわけがない。

 また振り替え休日後の明後日には会えるし2人とは、こうしてわかれた。

 家はちょっと寂しくなった気がするけど、心は寂しくない。

 隣には、沙羅も居ることだし……。


「……で、理優に何したの?」

「あ、やっぱり聞いてきちゃう〜?」

「そりゃ聞くわよ」


 まったくもうと言わんばかりに腰を手を当てる沙羅。

 僕はクスクスと笑って答えた。


「理優にね、超能力を追加したの」

「……追加?」

「うん。超能力を奪うことはしなかったけど、追加はいいでしょ?」

「……ほう。なるほどね」


 納得したように沙羅が頷く。


「それで、どんな能力なのよ?」

「うん。それはね――」



 人を幸せにする能力だよ――。




 にこやかに笑いながら、優しい口調で沙羅に話した。

 それは呪いとは相反するもの。

 聞いた沙羅は驚いたように目を丸くしたけど、ニヤニヤ笑いながら肘で僕をつついてくる。


「いいことするじゃない」

「あははっ、でしょーっ?」

「ええ。優しさを感じるわ」

「にゃ、にゃーです……」

「照れるなっ」

「うーっ……」


 そうは言われても、褒められ慣れてないものだから、顔が熱くなるのは仕方ないのです。


「さ、家に戻ろーっ?」

「そうねっ……」


 こうして僕らは家に戻った。

 今日もまた、穏やかな日々が始まる。

 この予感を1つ、胸に残して――。







「時が来た、かな……」


 瑞揶くんの精神世界、私が支配するこの空間で呟いた。

 見た目が幼女の私がこんな事を言うのは変だろうが、実際そうなのだから仕方がない。


「ハートを集めとかないと……」


 私は人差し指を天に向ける。

 すると、どこそこから浮かぶ赤のハートが次々と人差し指に集積し、1つの大きなハートになる。

 これならビルになるなぁと思いながらも、そのハートは次の瞬間に姿を消した。


 これから先、この赤のハートはだいぶ必要になるだろう。

 彼にとって、(しがらみ)を掛けた最後の戦いが、すぐそこにあるのだ。


「沙羅ちゃんなら、すぐに告白するはず。彼の中に居て私が集められたこの愛で、どれぐらい持つかわからないけど――」


 きっと、上手く行くはず。

 大丈夫、背中を押すことができるあの少女なら、あるいは――。


「――赤のハートが集まったと思ったら、ここに居たんですか?」


 と、その時私に声がかかった。

 その声の持ち主は黒髪の長い子で、淡い瞳をしている。

 豊満な体躯の上からはこの世界にはない制服を着ていて、清楚な彼女らしい、規則に見合った着こなしをしていた。

 私が唯一、ここに入る事を許した精神体――否、幽霊がそこに居た。


「どうしたの?」

「いえ……なんでもないけど、もうそろそろかなって」

「うん、もうすぐ。まったくもう、もとは自分とはいえ、強くなるのに時間かかり過ぎっ! 待たせてごめんね?」

「フフッ。いいんです。これが瑞揶くんらしいから、ね……」


 少女は艶やかに笑い、髪をなびかせた。

 この子がいいと言うのなら、私も特に異存はない。


「じゃ、最終調整に入っとくよ。どれだけの“悪霊”が干渉してくるかわからないからね」

「お願いね、愛ちゃん。瑞揶くんを救うために……」

「任せなさいっ。私が居れば、だいたいなんとかなる」



 ――だからもう泣かないでね――



 ――霧代ちゃん――




 私がその子の名を告げると、満足そうに笑って姿を消した。

 さぁ、もうすぐ始まる。

 私たち、4人の戦いが――。

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