表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真・恋姫†コック  作者: パン粉
9/18

2話目 酒呑め!雪蓮さん

注意:酔っ払いが絡んできます


 すぐに来客用の部屋に魁は通され、バックパックを下ろし、レザージャケットを脱いで寝台に置いて身軽になると、溜息をついて水差しに入っていた水を飲んだ。


「水はこっちの方が美味いんだよなぁ。あのきったない中国の昔の地とは到底思えないぜ」

「入ってもよろしいか?」

「あっ、はい。どうぞ」


 扉をノックする音が聞こえ、魁はその人物を迎えた。小さな丸渕眼鏡に、綺麗な黒髪、豊満な胸、褐色の肌。彼女は魁の元まで歩き、自己紹介をし始めた。


「申し遅れた、私の名は周公瑾」

「ああ、周瑜さんですね。知っていますよ。自分の次元でも、あなたも有名な武将でしたから」

「それを聞くと誇らしく思えるな。で、どうだ?こちらに来てから、なにか感じたことは」


 それは色々ありますよ、と魁は言った。そして、昨日の関羽へ話したことをそっくりリピートして、彼女に興味を抱かせた。やはりというか、彼女も知識欲――それも孔明や士元と同じ理学の――をちらつかせる。だが魁は、今は教える気が全くなかった。車に揺られるのも案外体力がいる。


 魁は体力にそれなり自信はあるものの、この慣れない地で色々と驚きがあり、その所為で疲れも溜まっているのだ。


「ああそうだ、鳳蓮様はお前をかなり気に入っている。よければ、専属の料理人として雇う、と言っているが」

「ああ、さいですか……。すんません、答えは"いいえ"としか出ません」

「ははっ、だろうと思ったよ」


 上品に周瑜が笑った。こんな異次元に飛ばされて、右も左もわからない、この賢い少年を、すぐに雇うというのは無理に決まっている。まだ世界を見てまわり、それから決めても遅くはないのだし、この少年が店を出せば必ず魁の料理を食べれるのだから、焦る必要もないだろう。


 第一、朝廷が引っ張っている人物を横取りしたら、こちらに罰が与えられる。


「友達がいるんです。こっちにきて、すぐに仲良くなった友達が。その子と一緒に商売をしよう、そう決めたんです」

「……ほう?なかなか義理堅いんだな」

「そう言っていただけるとありがたい。その子の名は劉玄徳。俺の次元では、後に蜀と呼ばれる国の王となる存在です」


 しかし、意外なことに、人情で拒んだことを周瑜は悟った。いや、信念というべきか、とも周瑜は思い、ふっと優しく笑う。


「雇えなくても、今日は君に美味しい料理を振る舞ってもらえればいいさ」

「勿論、恩は料理で返します。倍返しでね」

 にかりと笑って魁は返してみせた。非常に期待できる、と周瑜――冥琳は思い、彼に今夜の夕食を安心して任せることにした。


 それで、と魁が口を開く。なにかあるのだろうか、それを聞いてみるが、料理人としては非常に素朴な質問であった。


「なにか、御希望の一品はありますか?」




 中庭にわざわざ台所まで作らせて、目の前で料理を作らざるを選なくなった魁であるが、既に孫家の当主と長女、そしてそのある意味女房役である黄蓋は既に酒を呑んでいた。さらには、孫家の一番下の妹である孫尚香や、猫に気を取られまくっている周泰、非常に寡黙かつポーカーフェイスな甘寧に、ダボ袖の呂蒙とゆったりした空気を出している陸遜が、こちらに一斉に注目していた。


(作りづれぇ!!なんだこの生殺し!?)

「魁殿、どうかしたのか?」

「いいえ、なんでもありません」


 牛肉を一口大より大きめに切り、一旦表面だけ焼いて焦げ目を付けた。寿命で死んだ牛の肉らしいが、意外に柔らかく、脂身はそれほどなく、かといって霜降りがあるわけでもない。だが質は良い肉だと魁は見抜き、無駄なく作ろうと彼は一つの目的を立てた。


(カレー粉まで持ってくるとはねぇ……)


 孫堅――鳳蓮のリクエストは"びいふかれえ"であった。どこでそんな単語を知ったのかは知らないが(恐らく文献ではあると思うが)、魁はきちんとカレー色をしたカレー粉を鳳蓮が用意していた事に驚いた。どうやって材料を知り、集めたかは知らないが、そこは気にしないことにした。大人しくビーフカレーを作ればいいやと早々に割り切った。


 このほのかに暗い夜の外の中、篝火と魁のランタンが非常に明るく中庭を照らす。地面は非常に太った土だ。ここで農耕すれば作物が良く育つだろうなと思いながら、切った玉葱と人参を、牛脂を引き、鍋で炒めた。


「でねー、蓮華がねー」

「ハァハッハッ!!なるほど!!」

「お姉様ったら、もう……」

「我ながら面白い娘だ!!さて、御遣い殿、まだかな?」

「そんなすぐには出来ませんって。楽しみにしていただけるのはありがたいですけど、作り始めたのはついさっきじゃないですか」

「ハッハッハ、そうだったな!!」

「魁、後ろから覗いていい?」

「いいっすよ」

「やーりぃ!」


 酒瓶を持って雪蓮は立ち上がり、魁の背後に回って彼の手際や鍋の中を見た。鍋に水と肉を入れ、グツグツと煮込んでいる最中、彼は他の料理に取り掛かる。


「策さん、おつまみいります?」

「あら、気が利くぅ!」

「同時進行で肴まで作ってくれるんか?手際のいい料理人じゃのう」

「煮込みに時間はかかりますから。お肉が少し余りましたし、それを使いましょう」


 サイコロ上に肉を細かく切っては、すぐに中華鍋に入れて焼く。ただのサイコロステーキだがツマミにはなるだろう。肴は魚ではなく肉だ。


(あつもの)まで作りはじめたわ。凄い速さねぇ」

「牛骨までありますから。いいダシが摂れるんですよ」

「なーるほど!流石魁ちゃん!」

(なんかうぜえなこの姉ちゃん)


 同い年なのに酒に酔って絡むこの美人を、魁は少し鬱陶しく思った。彼女の吐息が非常にアルコール臭い。だが、そこまで濃度は高くなさそうだ。


「見たら結構いい男よね、あなた」

「そんなことないですよ」

「謙遜しないの!敬語も使わなくてよろしい!」

「いいんですかね、文台様」

「ハッハッハ、構わんよ!」


「ついでに真名も預けちゃうわ。雪蓮よ、よろしく!」

(いいのかなぁ……)


 魁は思った。"酔っ払いの絡みは予想より質が悪い"と。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ