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真・恋姫†コック  作者: パン粉
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第2節 1話目 ラ○ウ?いいえ、孫堅です

 車に乗って、4時間程であろうか。スピードはあまり速くなく、そしてあろうことに、木製の車輪が壊れてしまい、進行が不可となってしまった。中で正座をして縮こまっていた魁がそれに気付き、役人に促されて車を降りる。


「どうにかならないでしょうか?知恵をお貸しください」

「そう言われても……。付近の県に頼るしかないんじゃないですか?」

「ここからだと、長沙の孫堅殿が一番近いです。そこで手助けしてもらいましょう」

(本当に、俺を洛陽に連れてく気だよ……。ふざけんなバカが)


 魁は、この荒野の地にて、心の中で悪態をついた。暑く、日差しも強いし、昨日出会えて仲良くなった人間達と無理矢理引き剥がす政府に怒りを感じたのだ。桃香と仲良くなって、しかもあの人と商売をしたかったのに、それをも台なしにされた。


 学生であったからこそ、こんな意識が自分に芽生えたのだろう。荒れ地の中で華々しい衣装をして、こちらの機嫌を伺いへこへこしてくる役人達を魁は嫌いになった。


「片輪にはなりますが、少しご辛抱くだされ」

「はい」


 無関心そうに返事をする。いいから、早く帰してくれ。それが魁の本音であった。





「父様、聞いた?味の御遣いがこっちに来るって話」

「ああ。すぐさま迎えに行かせた。何と言う幸運であろうな」

「げへへ……。これで美味しい料理は保証されるわね。でも、引っ張ってきたのが袁術でなくて、帝とはねぇ。やっぱり、帝も気になっちゃうかしら」

「ならん方がおかしいだろうさ」


 城の書斎で、政務を執り行いながら、愛娘の雪蓮と会話を交わす孫堅。やらねばならぬことはきちんとやり、やりたいこともやる、というスタンスの彼であるが、孫堅も雪蓮自身も、どうも雪蓮は政事は向いていないように感じていた。武官――というよりかは、先陣に立つ切り込み隊長と言った方が的確だろう。自分の武は雪蓮に強く受け継がれているな、と誰もが感じていた。


 仕事が終わり、筆を置いて椅子から堅が立ち上がる。雪蓮が横に添い、そのまま馬舎の方に向かい、彼等は馬に跨がって御遣いの下にゆっくりと移動した。


「わざわざ父様がお出迎えとはねぇ、珍しい」

「なるべく早く顔を見たいからな。我慢弱い性格なのは知ってるだろう?」

「私はそれも似たのよねぇ。更に悪化させた感じで」

「俺は、仲間の個性にケチは付けんがな。寧ろ、それがあった方が人間味があるというものよ」

「ただし袁術を除く、でしょ。あっ、あの小娘は仲間じゃないか」

「ハッ、よく言う。首を刎ねられても知らんぞ」

「だったら、父様は何回首が無くなってるかしらね?」


 豪快に笑い飛ばす孫堅の先に、使いに出した使者と、御遣い――魁を乗せた車がやってきた。彼等は馬を小走りにさせ、その車に近付く。役人にご苦労と声をかけて、車の中に覗くと、スマートフォンにイヤホンを繋いで音楽を聞いている魁を見つけた。


「御主が、味の御遣い殿か?」

「あ……はい、そうらしいですね」


 孫堅が魁に問うと、魁はイヤホンを外し、音楽を止めて彼に向き直る。座り直して、しっかりと孫堅とその隣にいる雪蓮を見た。


「"らしい"?」

「あまり、よくわからんのです。この世界にいきなり飛ばされて、味の御遣いだとかなんとか呼ばれて……。実感すら湧きません。目の前の事が現実だとしかわかりません」

「ふむ。御若いのに、中々の苦労をなさっていると見える。して、名はなんと?」

「姓は新城。名が魁です。あなたたちの言う真名とか字はありません。世界が違いますから」

「真名も字もない、ねぇ。面白い世界ね、あなたのいた世界って」

 雪蓮が、魁に笑みながらそう言った。魁にとっては、こっちの世界こそ、色々と不自由ではあるが面白い世界だと思う。生き慣れた世界からの変化だから、そう感じるのは当たり前かもしれない。


 壊れた車から、雪蓮が乗っている馬の後ろに乗るよう、孫堅が促した。こんな美人の背中に掴まることは流石に気が引けたが、掴まないと落ちて、怪我では済まなくなることは予想出来たので仕方ない。


「申し遅れたな、俺は孫文台。君の前にいるのが、俺の娘の孫伯符だ」

「よろしくね、魁」

「こちらこそ、よろしくお願いします、孫策さん」

「さん付けなんて、そんなヘコヘコしなくていいのに~。どうせ歳も変わらないのに」

「失礼ですが、おいくつで?」

「俺は30過ぎ、雪蓮は17、8くらいか」

(マジでラオウじゃねぇかよ、この人……。怖すぎるぜ)

「ああ、確かに自分と同い年くらいですね。自分は18ですんで」

「あら、じゃあ話は合いそうね」

(合うはずねえだろ、生きてる次元がちげえんだからよ……)


 そうですねと建前上は言うものの、魁は心の中で雪蓮にそう言った。流石に厳つい父親の前でそんなことは言えない。


 パカパカと馬の蹄の音と砂埃が舞い、色々と孫堅達と話している最中にも、風景はより色鮮やかに、人工物も立ち並び、活気溢れる街中へと変わっていった。孫堅を見る度、民は彼にお辞儀をしたり、声をかけたりし、孫堅自身も適当に対応するのではなく、一人一人誠意を持って応対し、そのまま城へと入っていった。


「お帰りなさいませ、父様、姉様。そちらが、御遣い殿ですか」

「おう、蓮華。魁殿だ」

「そうですか。孫仲謀、孫文台が次女でございます」

「お世話になります。新城魁です」

(外見は策さんに似てるけど、性格はこちらの方がやたらとお淑やかだな)


 城の壁内に入って、馬から降り、魁は蓮華にお辞儀し、挨拶した。これが、この次元での江東の虎と虎児たちか。なるほど、覇気が見える、と魁が自分でそう感じた。

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