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真・恋姫†コック  作者: パン粉
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3話目 靭やかに、強かに


 夜は、桃香と魁を強く引き寄せるかのように、速やかに訪れた。星々は相も変わらずシャンデリアのように輝き、二人きりで外の涼しい空気に当たる。


 にこにこと笑っている桃香に、まずは魁は謝った。突然いなくなってしまったこと。それを詫びねば、人として失格だと彼は思ったのだ。


「ごめん、何も言わずに行っちゃって」

「ううん、しょうがないよ。勅令に背くのは死罪だし……。それに、星さんから聞いてたし」

「それでも、俺は桃香さんに直接俺の口から伝えるべきだったと思ってるんだ。それが、礼儀だと思ってるし」

「義理堅いね、ならちょっとわがままになっちゃおっかな」


 小悪魔的な笑みを浮かべる彼女。それを見て、魁は何でも受け入れるつもりであった。静かに首を縦に振ると、桃香は魁に更に近寄った。それも、肌が触れ合うくらいに。


 魁はどきりとした。こんな近くに美少女に詰め寄られた経験などない。初心な彼を誂っているかのように思えたが、果たして桃香にはそういう意図などない。魁の片手を取ると、自分の頭に置いて、上目遣いで魁を見た。


「寂しかったんだよ。でも、魁くんに撫でられたら、もう寂しくなくなるから」

「へ?桃香さん?」

「撫でて?」


 断る理由は見つからない。今の魁には拒否権もない。ただ優しく、そっと、桃色で麗しい髪を撫でてやる。その白く、細長い手指で。


 緩みきった顔をする桃香。こんな顔をされては、話そうとしていたことも話しづらい。これは困った、しかし董卓のことは軍議のときでもいいだろう。


 もしかしたら、桃香に好かれているのかもしれない。そして、自分も桃香に惚れているのかもしれない。こんなにドキドキするのだ、疑わしいはずである。人の色恋沙汰を楽しむ人間はここにそこそこいるから、それが知れたら面倒くさいしこそばゆい。なるべく見つかりたくはないなと魁は思った。


「あったかいなぁ、魁くん。誰よりも暖かだよ」

「そう?」

「うん。ずっと撫でられてたい。けど、大将の私が、ずっと甘えてちゃ致し方ないね」


 強がっているのか。挙兵して戦いに身を投じた少女の根は変わらず優しげだ。そして、強い。しかし、いつも強くいられるわけではない。上に立つ者の責任感は、より彼女にのしかかっているのだ。


 料理が直接功を立てるわけではない。士気は揚がれども、勝利を絶対とするものでもない。平和ボケしてしまった現代人の魁には、学術的知識はあれど、戦の策は思い浮かばない。コペルニクス的転回をした発想に頼れるのは一時だけだ。ならば、こうして桃香を落ち着かせるしか出来ない。まだ劉備軍所属ではないとは思うが。多分、客将でもなく、流浪の料理人として扱われるのだろう。それだったら、桃香の下にはずっとは居れまい。血生臭い地にはなるべく身を投じたくはない。


「弱虫だな、俺って」

「え?」


 ぼそりと自分を責めた。桃香達を取るか、自分の潔癖を取るか。しかし思い出すのは、既に自分は戦のきっかけに首を突っ込んだということ。


 ーーならば、ついていくしかないか?


 腹を割れるかもしれない。潔い人間ではないが、しかし荷担した責任がある以上、付いていくのが義務、なのかもしれない。


「弱虫が人を庇ったりするの?勅令にも恐れず行ったし、孫堅さんにも恐れず物を言ったって聞いたよ?度胸の塊だよ、魁くんは」

「そう言われたら……でも照れるな」


 桃香が誉めてくれた。こっちに来てからは誉められることが多くなった。どんなにいっぱい誉められても、嬉しくないことなんてない。それほど自分を他人に認めてほしかったのだろうか。

少し卑しいかもな、と魁は自己評価した。


 でも、と桃香は付け足す。少しだけ雰囲気が変わった。


「娘さんを娶っていいって言われたのには妬いたけど」

「へっ!?め、娶らないよっ!!恐れ多くて俺には無理だって!!」

「へぇ……」


 恨めしい顔から一転、安堵に満ちた表情になった。恋愛でも結構意識されてるのか。それは魁にとって嬉しいことであった。



 いつの間にか桃香はすやすやと寝ていて、それを魁はおぶり、寝床まで連れていった。自分の寝るところは見つからず、なら寝なければいい、と思った矢先、星が酒を持って近付く。


 彼女なりに気が利いていたのはありがたい。本陣の焚き火に近寄りながら、酒をくいっと飲み干した。甘い米麹の味は日本酒に近いが、薄味なのは変わらない。


「我が大将は余程君に惚れ込んだと見える」

「ありがたいですね。自分、全然女性と関わりがないので」

「なるほど。では正にここは花畑ではないか。君を好く人間は沢山いて、君に惚れた女は二人以上いる」

「星さん?」

「君を貰うといっただろ?」


 本気であったのか。この女の言うことは嘘かまことか非常にわかりづらい。いや、まだからかっているのかもしれない。魁はまだちょっと警戒を解けなかった。


 瓢箪を傾けては、火の揺らぎを見つめ、魁に寄り掛かる星。桃香と違って、心拍数が暴れない。逆に、張られていた心の糸がゆるんだ。ふぅ、と息を吐いてから、魁は後ろにもたれかける。腕をつっかえ棒のようにして。


「つまみや酒くらいなら、喜んで作りますけど。でもね、まだ結婚は考えてないです」

「そうだろうな。そうトントン拍子で行ってしまってはあまり面白くない」

「面白い、ってなんですか……。ま、時期が来たら決めるでしょうね」


 時間はどれ程あるのかわからない。だが短くはない事は確かだ。後ろから声をかけてきた愛紗が、盃を持ってその輪に加わり、三人で酒をちびちびやりながら、またもや恋話になる。


「愛紗は、魁殿を夫にしたくはないか?」

「考えたことないぞ。出会って少ししてから結婚というのもあまりよろしくはないだろ」

「惚れては?」

「料理の腕には惚れてるな」

「だそうだ」

「女の子ですからね、料理上手くなりたいってのはわかります

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