2話目 華麗なる炊き出し
お久しぶりです。
リハビリ感覚で、短いですが1話投稿しますね。
この陣営の厨房は、確かにお粗末な造りではあったが、使用にはなんら問題のないものであった。兵糧の心配は今のところはないようで、だったら、桃香が募った義勇兵達のための食事も作ってやろう、と魁は考え、料理人3人ほどを手伝いとして呼び出した。
彼等に、きちんと料理の心得等を教えると、一緒にチャーハンを作り出す。何の変哲もない、具もオーソドックスなチャーハン。だが、魁は、それとは別進行として、餡も作っていた。フレンチにはソースが必需品。そして、魁はソースを作ることを得意としていた。限られた素材から、餡を作り出す。洛す陽や長沙の時みたいに、自由は効かないが、仕方ない。
「御遣い様、味を見てほしいです」
「はい、わかりました」
にこっと笑いながら、味を確かめる。改めて再確認したのは、炒め物の味は魁に負けず劣らずなのである。グッと親指を立て、OKを出した。
この味はやはり火力の違いから来るのか。ガスコンロと同じ火力、いやそれよりも強いかもしれない。見た目的にも素敵な竃だ。
「しかし、キャンプにしては、かなり充実してる設備だよな」
「きゃんぷ?」
「野宿する旅行ですよ。自然の綺麗な地は、自分の世界には中々ないですからね」
手を動かしながら、料理班に話す魁。米粒をひとつもこぼさずに、しかし丁寧にチャーハンを仕上げていく。
盛り付けさえもこだわるのは、やはりフレンチが専門だからだろう。西洋の美術感がこの時代の中国人に受けるかどうかは別として。そういう所でも個性を見せたいのが魁だ。
「足りますかね?」
「余裕ですねぇ」
兵の数の分も確保できているなら、気にすることは無い。鈴々と馬超はおそらく大量に食べるだろうが、それも恐らく考慮には入れているだろう。黄巾党も勢力は落ち目であるというから、食糧の心配はあまり無い。
寧ろ料理で士気を上げれば、更にこの後が楽になる。被害最小、戦果膨大ならば、おつりが多過ぎるだろう。
「はい、出来上がりました」
餡をかけて艷やかな完成形とする。見た目はやはり胃を挑発している。食い気の張った将や兵が虫の声を抑えきれないのがわかる。早く盛り付けて、兵に配る料理班。それとは別に、魁は羹ーーといっても、卵とじスープではあるが、パッと作ったもののこだわりの味付けをしてある。ここも魁の腕だろう。
◆
「うん……」
「やっぱり魁くんが一番だね!」
久しぶりに魁の料理を口にした桃香が絶賛する。魁は少しだけ手伝っただけなのであるが。桃香の器によそってあるのは確かに魁の鍋からのものである。他の者のより遥かにパラパラで、油っ気も少ない。この芸当は魁だからこそ為せるのであろう。
桃香の久々の笑顔に魁もつられて笑った。自分の料理はまた笑顔を作り出せたのだ。その嬉しさもあるし、桃香の純真無垢な笑顔もまた嬉しい。疲れがまた取れた気がした。
大将が元気を出せば、その将兵たちもまた熱り立つ。これだけの兵、といっても寡兵ではあるが、しかし全て桃香の下に募った義勇兵なのだ。彼女の仁徳の体現であろう。流石は大徳を成する者。カリスマ性に満ち溢れている。
「姉上も魁に会えて嬉しいのだよ」
「愛紗もなのだ」
「勿論だ鈴々。この姉上の下に募った将、皆が歓迎している」
「そりゃ嬉しいです。自分も、皆さんとまたお会いできて、本当に嬉しいですよ」
爽やかに笑みながら、本心を明け透けと漏らす。勿論、ここに戻ってくるまでの道中で、魅力的な人に会えたことはかなりの収穫であるが。だが、自分は桃香に惚れているのであろうか、彼女の下が一番落ち着くのだ。
「今夜、二人で過ごしたらどうだ?」
「んー、皆さんに話したいこともありますが……そうですね、桃香さんとまずお話させてもらいます」
団欒の時間は僅かである。が、融通は周りが効かせてくれる。そこに甘えてみよう。その話の為に、まずは食事を取って、体力をつけねば。魁のレンゲがチャーハンを掬いだした。