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真・恋姫†コック  作者: パン粉
13/18

6話目 嫌でもこれはアガるわ

大分遅くなってしまいすいません!

それと申し訳ないですが、やはりこれからしばらくは更新がゆるやかになるかと思われますので、お許しいただきたいです。


期待している方がどれほどいるのかわかりませんがw

 朝廷の厨房はやはりイメージ通り大きなものであった。設備云々は当たり前の様に現代には及ばずながら、清潔感はこちらの方が上かもしれない。食材も豊富にあり、腕のよさ気な料理人も多数いる。魁に気付いた時、料理人皆が魁に向き直り、一斉に彼にお辞儀をした。その光景に圧倒され、魁が後ずさる。後ろは閉ざされた扉で完全に退路が無いのだが。


「御遣い様!ようこそいらっしゃいました!!」

「あ、あははは……。ありがとうございます……」

「料理長です。よろしくお願いします」


 なぜ、自分よりも遥かに美味い料理を作りそうな人達が自分をここまで崇拝するのか、魁には理解出来なかった。厨房の一画だけ借りて勝手に料理をさせて貰えれば別にいいのだが、彼等はそんな気は全くなく、厨房全体を使わせて料理の腕を盗もうとし始めた。


 非常にやりづらい、たくさんの視線が一点集中するこの場で、魁はなんとか平常心を保ちながら料理を作り始める。食材が豊富といっても、ある程度使える量は限られるだろう。

 素早く野菜を切り始め、一口より少し大きめなサイズにして、手抜きともいわんばかりに火にかけて炒め始めた。大量に食べるのなら野菜炒めが一番手頃だ。豚肉の細切れを一緒に中華鍋にぶち込んで、少しオリジナリティを出したいが為に、生姜を入れる。ついでにもう一品、と魁は卵を割って溶き始め、水を張った鍋に鳥ガラを入れてダシを取る。この間にもまだ何か作れるだろう。豚ロースを焼き、自前のデミグラスソースをかけ、ポークステーキっぽいものを作る。ちょうど鍋の水の色が変わった時点で、溶き卵と、余った生姜を入れてグツグツと煮る。味はしっかりついているはずだ。魁は小皿を借りて、それにスープを少し取り、自分で味見をした。


「胡椒か山椒欲しいな……」

「山椒ならあります」

「では山椒ください」


 山椒を振って、少し辛味を演出させる。いいアクセントになるだろうと予想した魁の思惑が、果たして美味く現れるのか。


 再度、小皿にスープを取る。今度は、料理長にそれを飲ませてみた。彼の反応は、この洛陽の人間のおおよその味覚だと判断してよいだろう。


「……とても美味しいです」

「おっ、それならよかったです

「山椒が味を少し強めて、鳥ガラのダシと卵のほのかな甘さを際立たせています。なるほど、これは……」

「料理長を唸らせた!やはりただ者ではないな!!」

(誰でも思いつくようなことだとは思うがな……)


 味に問題が無いことに魁はほっとした。だが、この歓声は、何故か自分を馬鹿にしているとしか思えなかった。◆


 魁の料理が、腹を空かせた恋たちの前にずらりと出される。匂いを嗅いで更に空腹を煽られ、恋は我慢出来ずに、箸を握り、料理に突き刺して食べていく。汗を自前のタオルで拭いながら、彼女らの様子を見に行った魁は、当然恋の食べ方に驚いた。


「すげえ箸使いだな……」


 皮肉っぽく魁が言う。とても華やかな部屋なのに、野蛮な食べ方をする恋は、現代ならつまみ出されているだろう。魁も少し不快感を感じたが、そこはぐっと堪えて、味の感想を聞いた。


「魁はん、ごっつええ仕事しとるの?こないな美味いモン、ウチは食ったことないで」

「……」

「ねねも初体験です!なんとも摩訶不思議な事ですな、人間はこんな美味しい料理を作れるとは!」

「……」

「恋は食うことに必死だな。美味いか?」


 魁の問い掛けに、恋が微笑みながら首を縦に振った。ハムスターの様に頬張るその姿はどこか愛らしい。くすりと魁は笑い、恋の真っ正面に座り、水差しの水で喉を潤した。


 最近、彼はコーヒーとかコーラが恋しくなってきた。もちろん、そんなものはこの世界のこの地には存在するはずがない。お茶でさえ高級品なのだから、そんな贅沢は許されないと割り切れるのだが、やはり現代人としては、味のついた飲み物が飲みたくなる。だからといって、今目の前にあるしょうがのスープを飲もうとも思わなかった。

 恋が魁に、肉を突き刺した箸を出す。『なんだろう?』、と魁が考えると、恋は微笑みながら魁に言った。


「魁も食べて」

「いいの?」

「もちろん」


 彼女の箸の豚肉に、遠慮気味に(かぶ)りついた。柔らかめに焼いたので、簡単に千切れてしまう。またもや自画自賛で美味いと言ってしまった。


 暖めたソースに非常にコクがあり、マッシュルームとワインの風味が頭に飛び込んでいく。


「でも、ソースはもうちょっと熱を入れてもよかったかも知れない」

「ソースって、この肉にかかっとるやつか?はぁー、一切妥協を許さんやっちゃなー。そういう男は嫌いやないで」

「突き詰める姿勢はねねも尊敬するところですな!」

「魁の気持ち、熱い」


 色々褒めちぎられていることに恥ずかしさを感じるが、嫌な気分では決してなかった。目の前が可愛い女の子だと尚更その効果は倍増する。


 料理を食べて笑ってもらうことに加え、褒められることが、魁の最近の喜びであった。いい顔をしながら食べる3人を見ると、また喜びが顔の赤みと共に倍増する。酒を呑みながら食べる張遼が、自身の酒を器に入れて魁に差し出し、魁はそれを一気に飲み干す。顔の赤みが冷酒で引いたのがよくわかった。


「ああそや、上の方から、あんさん連れてきぃとか言われてたわ」

「あ、そう」

「"カク"っちゅう奴がおんねん。そいつんとこ行けばわかるで」

「後ろにいるけど……?いつまで経っても来ないと思ったら、伝えてなかったのね」


 振り向けば、呆れた顔をした、眼鏡をかけた少女がいた。魁は椅子から立ち上がって頭を垂れるが、その少女――賈クは手を出してそれを止める。


「そんなことはいいのよ。こっちは、キレ者の貴方の手を借りたいんだから」

「キレ者?俺が?」

「そう。私は賈ク、字は文和。董仲頴の幼馴染みであり、軍師」


 なんだか神妙な顔付きになったので、魁は賈クと一緒に外に出た。


 彼女の手を引き、どこか人が来ないようなエリアに行って、自分よりかなり小さな賈クの身体に目線を合わせるべく、しゃがんで彼女と顔を合わせた。

真剣な彼女の目線が、魁には眩しすぎた。


「なんでこっちに連れてきたの?」

「あそこじゃ、あの3人以外に聞かれる可能性が出て来るでしょう。それに、あなたの顔は、あそこで話すのに相応しくない話をしようとする顔でした」

「雰囲気を守りたかった訳ね。まあいいわ。手を貸してくれるなら」

「董卓さんに、ですか。俺の世界では、董卓は悪逆非道の賊と伝えられていましたが」

「こちらでも、"表向きは"そう。だけどね、宦官――特に十常侍の一人、張讓が、董卓の名を借りて悪政を敷いている」


 パラレル・ワールドでは人格や役が変わるということを、最近、魁が身をもって知ることになった。これもまたそうなのだろう。宦官大虐殺が起こらず、太平道の反乱も起こらず、色々とおかしなことばかりだ。だが、賈クは重要な事を話している。


 張角を長女とする三姉妹の巨大なファンクラブ・黄巾党が、何物かによって暴徒化したらしい。その身元や原因が割れているらしく、張譲が怪しげな歌い方のマニュアル本を張三姉妹に送り付け、そのマニュアル通りに歌ったら暴徒化したのだという。


「騙される方も馬鹿ばっかですね……」

「それは言わないであげて。それで、その罪で張譲を捕まえたいんだけど、どうも上手い案が出なくて」

「そりゃ、相手も馬鹿じゃない。コロッと弱みは出しませんでしょうね」

「それで、何か良い策がないか、一緒に練って欲しくて」

「策、ねぇ……。酔わせて声を録音してしまえばいいのでは?俺にはその機械がありますし」


 スマートホンの電池が切れない限り、動画も温泉も保存できる。だが、それもバレれば危険が賈クや董卓に危険が生じる。あまり上手い案は取れはしないが、リスク承知で行うならこれがベストだと魁は思った。


「近々、孫堅や曹操、そして朝廷がが軍を上げて暴徒を鎮圧するでしょう。その隙に、張譲は確実に朝廷を支配する」

「……なるほど」


 賈クの話で、魁の頭には更にいい案が浮かんだ。にやりと口角を少し上げ、その策を丁寧にアレンジしていく。


「伏兵を用意しましょう。敢えて張讓に朝廷を盗らせる。その隙にあなたたちは逃げ、録音・録画したものを地方豪族らに見せるのです。その時、天子を奪還せんと連合軍を組んで洛陽を攻めるでしょう」

「上手くいくかしら」

「やってみないとわからないですよ。失敗したら、その時はその時です」


 戦略や政治はあまり得意分野ではない魁にとって、これが最善と呼べる策であった。魁の頭のキレは褒めるべきなのかはわからないが、味方にはしておきたいと賈クは思う。初対面で、こんなに親身になって考えてくれた人はいない。それも賈クにとっては嬉しかった。


 魁は他にも策を巡らす。なるべく血の出ない策の方がよかった。料理だけではない、別方面での才能も開花させたように。数学的な思考を頼りに、それを突き詰めていく。だが、その思考プロセスの最中、腹の虫の大きな声が聞こえた。賈クからだ。


「ふふっ……」

「ち、ちがっ、これは!!」

「人間の本能ですから、隠さなくていいんですよ。"腹が減っては戦は出来ぬ"、ですよ。恋達と一緒に食べてはいかがです?」

「……しょ、しょうがないわねっ」

(かわええ……)


 意地を張ろうとする賈クの態度に、母性のような心で彼女を可愛いと感じた魁。恐らくこれを見ていた人間がいれば、全員魁の気持ちに納得するだろう。

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