表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

番外編 どこでどう?

 スイカが久遠の住んでいるアパートに初めて来た日。

「まずまずだな…」

 久遠の部屋を見て、スイカは言った。

 玄関を入ると、すぐ正面に二口コンロ付きのキッチンがあり、左手側にはトイレと風呂が別々である。玄関を上がって短い廊下を数歩 歩くと、六畳一間の空間が広がっていた。シングルサイズのベッドはあるが、部屋のほぼ中央にある長方形の座卓が学生机の役割も果たしてくれている為に、間取りをとる家具も少なく、それほど窮屈感はない。

 そして、背が高く何段にも仕切られている本棚を、なによりもスイカは気に入った。

 大学生らしく教科書や参考書、辞書の類も置かれてあるが、大半のスペースがマンガ雑誌やコミックスで占められてある。マンガ本と一緒にしょうがなく勉強の本も置いてある、という感じだ。

 どのマンガ本から読もうか、目移りしてしまうスイカ。

 そんなマンガ本に目を引かれているスイカに、「おい」と久遠は声をかけた。

「ん?」

「お前…着の身着のまま、身一つで人間界こっちに来たのか?」久遠は、スイカがキャリーバックの様な物を何も持っていない事が気になっていた。「生活用品とか、どうする気だ?」

「ああ」スイカは答えた。「色々あると邪魔だから、とりあえず留学先が決まってから、送ってもらうことになってる」

「じゃあ何も…?」

「もち」

 と、スイカはマントを広げ、何も持っていない事をアピールした。

 マジかよ、と久遠は驚愕した。が、そういえば出会った時も無一文だったし、魚を獲って生活していたとか言っていたな、と思い出した。その約一週間のサバイバル生活を想像すると、信じられないという思いを通り越して、「生命力たくましいな」という呆れの感情が湧いてきた。

 しかし、誇らしげなスイカを見ていて、思い出した。自分が出会った時、スイカが行き倒れていたことを。その行き倒れも、自分と会う前まではただの演技だったのが、いよいよ冗談ではなくなってしまっていた所だったことを。そして、行き倒れを演じるきっかけが、「生魚に飽きたから」だったことを。

――たくましい、のか…?

 疑問に感じた久遠だった。



「そうだ」

 本棚のマンガ本のどれを読もうか選んでいる最中に、思い出したようにスイカは言った。

「生活費、いくらか払うから」

「……は?」

 無一文のヤツが何を言っているのだ、と久遠は苦い顔になる。

 だが、生活用品を送ってもらうような事を言っていたなと思い出すと、無視することはなく、視線をテレビ画面からスイカに移した。

「親父がさ、『世話になる人間によっては迷惑をかけるのが申し訳なくなるというか、可哀想っていうか、憐れだろ』って」

 と、スイカは、父親である魔王の言葉を伝えた。

「ぐっ…」たしかに金銭的にも安易に留学先となることを引き受け過ぎたと思う所ではあったのだが、その感じていた所をズバリつかれ、久遠は言葉を呑む。

 そして、『屈辱』という感情を一旦忘れることにし、「いくら?」と訊いた。

 訊きながら、久遠は思った。

――仮にも魔王だろ、ケチケチするなよ…。いや、どうだろ…?

 魔王という存在の大きさを考えれば期待も出来る。だが、これまで聞いたスイカの父親の印象からは、その期待も裏切られる可能性の方が大きいというのが、久遠の予想だ。

 どうだ、と答えを待つ久遠に、スイカは言った。

「月二万」

「っお…おぅ…」

 それは、「さすが魔王 太っ腹」と喜べるような金額ではなく、また、だからといって「少な過ぎるわ!」と怒れるような額でもなかった。

 この微妙な気持ちをどうすればいい、久遠が戸惑っている所に、

「俺の小遣いとしても、月一万出るぜ」

 と嬉しそうに、スイカが言った。

――高校生か…

 久遠は、無言でつっこんだ。



「よし、じゃあ早速」

 マンガを一冊読み終えたところで自分を律し、スイカが動き出した。

 そんなスイカを、「何する気だ?」と久遠は冷めた目で見ている。

「いや、俺の生活スペース作り」言いながらも、着々とスイカは動く。「主に寝床だな」

「……そこなんだ…」

「いいだろ?」

 笑みを浮かべて訊ねてくるスイカに、相変わらず冷めた表情で「いや…いいけど…」と応える久遠。

「どんな家に厄介になろうと、最初から決めてたんだ。居候の生活スペースと言ったら、やっぱここだろ」

 何故かウキウキしているスイカは、押入れの方を向いていた。

「そこなんだ…」静かに、久遠は呟いた。

 二段に仕切られた押入れの上の方をスイカはお望みのようだ。

 下段は、久遠の衣服を収納する為のボックスが置かれてあったり、買い置きのシャンプー等が置かれてあったりする程度なので、特に手をくわえることはしない。上段に関しても、布団や毛布がある以外には、家電製品を買った時の箱が捨てきれずにあるような状態なので、それをどうにかすればよい。上段にも下段にも、スペースの余裕はあるようだ。

――とりあえず、布団を敷いてだな…

 スイカは、イメージを固め始めていた。

 押入れの中は幸い物が少なく、「面倒だから明日やる」などと諦める心配はとりあえずなさそうだ。

「少し中のモノ整理させてもらうぜ」

「どうぞ…」

――なんか悪魔に逢っちゃうと、細かいことはどうでもよくなるな

 久遠は、アレコレ言うと自分が疲れるし、テキトーにどうにでもなれ、そんな感じで成り行きを見守っていた。そんな久遠が思うのは、『ポケットも無い無能のくせに、寝床だけは夢のネコ型ロボットと一緒かよ』という皮肉だった。

 そうこうしているうちに、スイカの作業が完了したようだ。

「おお!イイ感じ!」

 姿は見えないが、押入れの戸、あちらとこちらを遮る戸の向こうから、スイカの嬉しそうな声が聞こえる。

 スイカが喜ぶことは、悪いことではない。

 だが、面白くはない。

 面白くないので、「魔界の次期王が、人間の押し入れで御就寝ですか?」と久遠は皮肉った。

 怒るかな、とも思われた久遠の挑発的発言だが、スイカは意外にも無反応だった。

 おかしいな…?

 そう思い、久遠は押入れの戸を開けた。

 そこには、ちょっとやそっとじゃ起きなそうな深い眠りにつくスイカがいた。

 その寝静まるスイカの顔を見て、久遠は「はぁ~」と肩から力が抜けた。

「寝るのはやっ…」

 久遠は、寝ているスイカにタオルケットを一枚掛けた。

 押入れの上段、そこがスイカの生活スペースと決まるまでの出来事であった。 


さっさと第二話を書けばいいのに、番外編に逃げてしまいました…。


この妙なタイミングで、こんな話です。

金銭的なことに関しては、これ以上触れません。あと、スイカの寝床が押入れに決まりました。


時間的には第一話の直後なので、スイカも疲れが溜まっていたのでしょう。最後、力尽きました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ