番外編 悪魔の子
「久遠ぉ!」
六畳一間のアパートに、スイカの怒鳴り声が響いた。
「うるせぇよ」嫌そうな顔をして、平静に言う久遠。「お隣さんから壁ドンされたらどうする気だ、お前」
しかし、冷静に文句を言う久遠とは対照的に、スイカは熱い。
「久遠!俺は今、怒っている!」
「あ?」
「このゲーム!」スイカの手には、携帯ゲーム機が握られていた。「これ、クソだ!」スイカが問題視しているのは、久遠から勝手に借りている あるゲームソフトだった。「知っているか知らないが、このゲームは設定すれば現実と同じ速さで時が流れる」
「知っているよ。つーか、俺のだし」
「時間をピタリ同じくすれば、現実が朝ならばゲームの中も朝、日が沈み夜を迎えた頃に起動させれば、ちゃんとゲーム内も夜となっている」
「だから知ってるって。てか、勝手に使うな」
「だからな、久遠!」
と、久遠の声を遮るようにスイカが大きな声を出した時、お隣さんが壁をドンドンと叩いてきた。
うるさいと注意され、二人は一旦黙る。
「で、何が言いたい?」
一度冷静になったところで、久遠が訊いた。
「だからな」とスイカは、何があったかを話し始めた。「俺は、現実の時間の流れに秒単位で完璧にリンクさせようと思ったのだ。だが、どうだ? 電話で時報まで聞いて正確な時に合わせようとしたのに、『決定』ボタンを押したら、『これでいいですか?』などとふざけたことをぬかしおった! おかげでずれてしまったではないか!」
久遠の怒りの理由は、本人以外からすれば、非常に些細なことであった。
しょうもないこと、と言い変えても差し支えない。
「後れをとった…」
悔しそうにスイカは呟いた。
しかし、スイカの怒りが静まったのはいいが、今度は久遠が怒りの炎を燃やしていた。
「てゆうか、人のゲーム勝手に使っといてふざけたことぬかすな!」そう言うと、久遠は、スイカの手からゲーム機を奪い取った。「やっぱり!」ゲーム画面を見て、久遠は更に怒りを燃やした。「テメェ、俺の数十時間の冒険を消しやがったな!」
「ふんっ!」反省した様子なく、スイカは鼻を鳴らす。「そもそも、記録できる冒険が一つなどという、このゲームの器の小ささに問題があるのだ!」
「開き直るな! あぁ~なんてことしやがる。俺の冒険の記録が…」久遠は、絶望感を覚えた。「悪魔だからって、やっていいことと悪いことの分別くらいつくだろ!」
責めるような口調の久遠に、「当たり前だ」とスイカは返す。
「だから、問題無いと判断して…」
「やっちゃダメだろ!悪魔かっ!」
この時、ゲームデータを消されて悲しみにくれる久遠の口からは、なんのひねりもない至極真っ当なツッコミしか出て来なかった。
「あ、言っておくがな」久遠の『悪魔かっ!』発言を受けて、ある事を思い出したスイカは、説明を始めた。「悪魔とは、魔物の種族の一つだ。人間の中の日本人、そんな感覚で魔物の中の悪魔」
「日本人は全員悪魔だよ…」
ツッコミ役をしなければならない久遠が機能しない為、話がグダグダになるが、進む。
「日本人が個性を主張するように、悪魔にも色々と差異があってな、『悪を具現化した様な魔物』や『悪意を司る魔物』という意味も悪魔もいるが、俺は違う。俺は、『悪戯っこな魔物』という意味合い魔物だ!」
スイカは、「イエーイ」とピースサインをした。
しかし、誰も見ていない。
寂しいスイカ。
周り、というか久遠との間に温度差がある気がする。
テンションが高いスイカが、「どうしたよ」と声を掛けると、ぼそぼそと力無い答えが返ってきた。
その声は、よく耳を澄ませば「どうでもいいわ」と言っている。
「えっ」スイカは、ちょっと驚く。「魔物と悪魔の違いとか、魔物にはどういう種類がいるのかとか、結構重要な話になるんじゃないの、これって」
「どーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーでぉぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい」
ゲームデータを消されたショックは、重要な説明がどうでも良くなる位に大きかった。
「重要な説明よりも、重要な晩飯のメニューについて」
気持ちが若干回復した久遠が言うと、「俺、カレー辛いヤツ」とスイカが手を上げた。
「んじゃ、とりあえず学食行くか」
スイカが悪いヤツじゃなきゃ何でもいいよ、学食への道中で、久遠は思っていた。
ゲームデータが消えたショックというのは、世界が滅んでもどうでもいいと思うくらいに大きいですよね。でも、いまどきセーブデータが一つだけしか作れないゲームなんて珍しいのかも…(ポ〇モンとか?)
時間設定に関する怒りは、幼き日の私の不満です。Aボタン押して決定したつもりが、「これでいいですか?」って確認されて、また面倒だと思いながら時間を合わせて一分少々待ったり、気付かずにAボタンを連打してずれたり。几帳面というか神経質な子だったのかも…。
一話目で魔物や悪魔がごっちゃに出たので、整理しておきたかったのです。
魔界には色んな魔物がいて、その中の種族として悪魔があり、悪魔と呼ばれる種の中にスイカもいるよ、と。自分の中での整理の意味合いも強く、番外編で「どうでもいい」と言われながらやっていることから、今度への影響は少ない設定なのだと思います。




