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火の女  作者: 北川瑞山
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 申し訳ないが、一寸ここで物語を中断しよう。筆者は先ほど晴行に欲望を育ててもらうと書いた。それを解決する事が希望を持って生きる事への第一歩だとも書いた。してみるとこの展開はあまりにも平凡である。どうせ晴行がこれを機にこの女に惹かれる様になって、それを励みに努力し、見事真っ当な社会人としての自立を果たす、という筋書きであろう事は見え透いている。見え透いた物語を書くことは誠に徒労だ。確かに、そんな徒労を冒しても、晴行にほんの一寸の活力さえ持ってもらえればそれで満足だという思いも、筆者にはある。だがここに来て、そちらの願望もどうやら叶えられそうにない気がしてきた。人間は馬とは違う。眼の前に人参をぶら下げればそれに向かって猛進するであろう等という考えはあまりにも人間の感情を陳腐に見ている。従ってどんなに晴行を惹き付ける餌を撒いたところで、それを機に晴行が活力を取り戻すなどという事は俄には言えないのである。

 人間を動かすのに必要なのは、動機ではなさそうだ。では一体人を動かすのに必要な要素とは何だろうか?筆者にはどうやらこれと言った答えが出せそうにも無いが、とは言えこれで諦めた訳ではない。晴行には虚無的な思考を捨て去り、無為の殻を破ってもらいたい。そして是が非でも実り多い人生を送ってもらいたい。その為に、次にどんな手を打つか、筆者はもう少しよく考えなければならない。そして誠に勝手ながら、少しその為の時間が欲しい。とは言え筆者が思索にふけっている間、時計の針をとめておく訳にはいかないので、既に舞台に上がってしまった人々には、暫しの間自由に泳いでいてもらうことにしよう。全く覆水盆に帰らずである。


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