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火の女  作者: 北川瑞山
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 筆者はとりあえず晴行の朝寝坊を何とかしなければならないと思った。そこで上司の林田さんを使って晴行を何とか叩き起こし、遅刻、無断欠勤の類を強制的に阻止した。とまあここまでは概ね成功した訳である。

 晴行の社会人生活の存続だけを目標にするのであれば、取り立ててこれ以上の手を下す必要は無いだろう。会社に来れてさえいれば仕事は徐々にできるようになるだろう。だが筆者はこれではまだ満足できない。というのも、晴行がこのままでは到底実り多い人生を歩む事が出来ないであろうからである。晴行にとってみれば筆者の懸念は誠に要らぬお節介であるのだろうが、筆者はこの一筋の光も無い暗澹たる生活に埋没する若者に何とかして希望を持たせてやりたいのである。別に希望と言ったって、大それたものでなくても構わない。ほんのささやかな楽しみでも良い。他人に理解されなくたって本人さえ満足ならそれで良い。少なくとも煙草を吸ったり鶏肉を食ったりする以上に人間的な(決して小市民的なという意味ではなく)喜びを与えてやりたいのである。

 繰り返しになるようであるが、こういう根本的な目的を見据えればなお飴にも鞭にも大した効果がない。何に対しても馬耳東風の晴行に変化をもたらすには、如何なる説教や甘言を弄するよりもまず彼自身の内面に渇望を作り出すことから始めねばならぬ。北風にも太陽にも服を脱ぎたがらない晴行の服を脱がせるには、まず必要以上の服を着込ませることが得策だと筆者は考える。最初から丸裸の人間の服を脱がせよというお題目は無謀と言うよりは出題ミスである。まあ出題したのも筆者であるが…。

 そういうわけで、急がば回れの俗諺にあるとおり、一見目標から離れて見えるかも知れないが、晴行にはまず欲望という魔物を育ててもらうことにしよう。そこから魔物退治の為に晴行が一歩を踏み進めば、某かの希望が見えてくるだろうというわけである。

 しかるにその欲望をかき立てる役割を林田さん一人に押しつけるのはいくら何でも酷だろうから、筆者はここで新たに登場人物を作らなければならない。それも無気力な晴行を渇望にまで駆り立てるほどの蠱惑的な人物を…。


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