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火の女  作者: 北川瑞山
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 筆者は晴行の所に出向いて、直接手を下すことにした。晴行に会いに行く前、筆者は、いや、ここからは筆者ではなく「私」と書かせてもらう。私だってもはや登場人物の一人なのである。私は晴行と会う前、会社のサーバーにアクセスして、社員の住所録から火の女の住所を手に入れてきた。といって何も不正アクセスをしたわけではない。何を隠そう、私は晴行と同じ会社に勤務している社員である。しかもサーバーへのアクセス権限を管理しているエンジニアでもある。従って社員の住所録を手に入れるくらいのことはやろうと思えばいつでもできるのだ。

 お前は物語の創造主では無かったのか?登場人物を創ったり動かしたりしていたじゃないか!それもそうだ。確かに私はこの物語の創造主でもある。だが同時にこの会社の社員でもあるのだ。まあそれがどういう事なのかはいずれ分かってくるだろう。

 ところで私は自分の名前は勿論、火の女の本名も伏せておくつもりである。そんなものはこの話の本筋に全く関係がないし、職務上会社の情報を漏洩させるわけにはいかないからだ。尤も晴行に火の女の住所を教えるのは個人情報を漏洩することに他ならず、職権濫用も甚だしいが、まあこれはいわば必要悪だろう。先ほど「強行策」と言ったのはそういうことだ。ここまできたら仕方がない。

 なお晴行を火の女の居所を教えることに関して、私には大した打算はなかった。ただ居所を教えてやることで火の女が自分と何も変わることのない人間的な人間であることを晴行が知るきっかけになればいいと思ったまでである。それ以上の何の仕掛けも用意してはいなかった。

 火の女だって所詮は人間である。であれば完全に人間性を免れた存在であるはずがないのだ。勿論晴行はそういう人間性をこそ求めていたに違いなかったが、非人間性のベールを剥いだ人間性など至極詰まらぬものである。非人間性の裏に透けて見えるからこそ魅力的だと錯覚するに過ぎない。晴行にはこれから火の女の生の人間性を目の当たりにしてもらおうと思う。晴行を現実に復帰させるには、火の女に対して彼が抱いているあらぬ妄想を断ち切ってもらうことが是非とも必要だからだ。第一、火の女等という呼び名からして馬鹿げている。妄想の産物だ。もし晴行が彼女のありふれた本名を知ったらどうなるだろう。さすがに火の女幻想も揺らぐのではないだろうか。まあ名前を教えてやるのは簡単だが、しかしそれだけでは晴行もさすがに諦めがつかないだろう。だから火の女の住処を教えることで、何らかの経過を辿ってそういう現実を知って貰えればいい、と私は考えたわけだ。

 因みに私の口から現実を知れなどと晴行に説教するようなことだけはあってはならない。それこそ北風と太陽だ。晴行自身にそれを悟ってもらうことが重要なのである。

 しかしここに来て気付いたが、私は自ら火の女を創り出しておきながらまた自らの手でそれを回収しようとしている。一体どうしてこんな滑稽な事になってしまったのか自分でもよく分からない。多分私は自分で思っているよりも迂闊な人間なのだろう。


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