第三話:禁呪
【ラヴィー】
魔力で五感を研ぎ澄ますことにより、気配や危険を鋭く察知することができる。
【ユニ】
魔力で知覚を操作し、人間の言語を理解することができる。
また、治癒能力があり、特に解毒を必要とする傷や病には有効に働く。
【ドール】
魔力がやたら高く、様々な形で魔法とし発動できる。
主に攻撃目的の魔法が多いのは個人的な性格によるものらしい。
本人達の話を元にまとめると、三人が人間の状態で発揮できる能力はこのようになっているようだ。
どうやら人間の持つ魔力を超えていたり性質的に適合しない魔法は、発動できない、もしくは弱まるらしく、ドールの飛行能力は身体的な特徴によるものなので不可能なようだった。同じ理由でラヴィーのハイジャンプ、ユニのすくい投げ、後足蹴りなども無理そうだ。
ちなみにユウヤの部屋の場所がドールにわかったのは、ユウヤの魔力を辿ったらしい。魔力の追跡は魔法の中でもそこそこ技術がいるので、あっさりと使えるあたり、人間になったとはいえさすがは元ドラゴンといったところか。加えて、彼女いわくユウヤの持つ魔力は独特でわかりやすいのだそうだ。
自分にも魔力があるのだという実感がないユウヤにはあまりピンとこない話だが、独特だというのはおそらくユウヤが元々この世界の住人ではないのが原因なのだろう。
なお、当然夜の間に何が起きたのかも尋ねてみたが、三人とも眠っている間の出来事で「朝目が覚めたら人間になっていた」ということだ。牧舎から出られるようになったので、興味の向くまま部屋や書庫を物色したり、主人を捜したりと、辺りをうろついていたらしい。
あれからユウヤはすぐさまヤン校長の下へと報告にゆき、事の顛末を話した。
校長は三人のたいして危機感のない様子には笑っていたが、原因の解明を急ぐようにとユウヤには少し厳しい顔をして見せた。
自室の壁、および女子寮の一室に関する被害状況ももちろん報告したが、幸いなことに特にお咎めは無かった。ただしドールが壊した壁の修理と、被害をこうむった女子生徒達への謝罪はきちんとするよう命じられた。
なお、三人が人間の姿をしている以上、牧舎の拘束条件から漏れるためそこに留めておくことはできないので、女子寮の部屋を一室借りられることになる。最低限の食事と生活必需品についても援助してもらえるらしいので、ユウヤの悩みが若干和らいだ。
共同生活をする先輩方には夕食の席に着く前に事情を話し、三人を紹介する。
兄弟子達は三人娘のみてくれの良さに絆されている者がほとんどで、その後の夕食時に誰が彼女らの隣に座るかで席の取り合いになっていた。コパをはじめとする原型を知っているはずの者までその調子だったのには若干呆れた。
しかし事前に頭を下げておいた姉弟子数名もまた歓迎ムードで、そこはほっとした。もちろんタダでというわけではなく、ドールの不法侵入によって壁に穴の開いた一室をそのまま三人にあてがうことと、簡単な条件を一つ、ユウヤがのむことで許しを得た。だとしても身につけてしまった三人分の衣服を快く譲り、クローゼットを荒らしたことについては笑って許してくれたのだから寛大だ。
そんなわけで一晩がたち、ユウヤは今、女子寮の先輩であるオルガ、アンジェリカの二名と、ラヴィー、ユニ、ドールの三人娘、計五名の女子と共に女性向けファッションを専門に取り扱う服飾・雑貨店にやってきていた。
本来なら今日はユウヤの日割上休日ではなかったのだが、状況が状況なだけにカリキュラムなどこなしようもない。どうせ時間が空くのなら、と買い物に駆り出されてみたものの、すでに両手は大量の袋を抱えている状態である。
「えーと……オルガさん、まだ買うんですか……?」
朝っぱらから起きたハプニングで、ユウヤの気分はすでに少々下降気味だ。というのも、女子寮にいるはずの三人娘が揃ってユウヤの部屋に忍び込んでいて、一人は懐に、一人は足元に、もう一人は枕元に……と、取り囲まれて目が覚めたからだ。どうりで寝苦しかったはずである。
できればこの買い物からもさっさと解放されたいところだが、約束を反故にするわけにはいかないので真面目に付き合う。
「あったりまえでしょー。まだラヴィーちゃんの靴とユニちゃんの眼鏡に、ドールさんの化粧品。ぜんぜん揃ってないじゃない」
「そうそう、ユーヤ。女には女にしかわからない色々がたくさんあるんだから、文句言わずに付いてきなー」
「お付き合い感謝いたしますわ、ご主人様」
「マスター! あたしも荷物持つ! です!」
「あっ、ねぇオルガ! ほらドールさん達も! 見て見てこれちょーかわいー!」
「ほんとだー!」
きゃあきゃあ。
「はぁ……」
ちなみにこの二人は『先輩』といってもユウヤより年下である。
若い女の子に囲まれてちょっとしたハーレム気分でも味わえればまだよかったのだが、いかんせんいつまでたっても一向に彼女達の買い物は終える気配を見せない。まさか自分が魔獣に使われる日がこようとは……と、ユウヤはガックリ肩を落とす。
そんな主の様子や、三人の首輪を訝しげにする店員の視線もまるで気に留めず、三人娘は人間の町の様子とショッピングをとても楽しんでいるようだった。
首輪については以前にも説明したが、一般的に魔法のかかった首輪が使用されるのは従魔と囚人くらいのものだ。辺境の地でならともかく、先進国ではとうに奴隷制度は撤廃されている現在、三人の姿は一般人からしてみるとかなり異様に映るだろう。
一行の買い物は店を転々としながらまだまだ続く。
「ねぇユーヤ、これどう? 似合う?」
「あっ、お客様……!」
「ドールさん! ここで脱いじゃだめです! 試着室はあっち!」
「ご主人様、これは一体なんでしょう? 真ん中に穴が開いているのですが、不良品ではございませんこと?」
「ユニちゃん、それ下着だから……!」
「マスターマスター! オジョウチャンパンツノイロハナニイロナノハァハァってどういう意味? ですか!」
「思いきり殴ってくれって意味だ」
そんな風に立ち寄る先々を賑やかしながらも、続くのだった。
それにしても人懐っこい性格のラヴィーはともかく、元来人には懐かないといわれるユニコーンのユニや、そもそも周囲に対し攻撃的な性格をしたドールまで、オルガ、アンジェリカの二人と打ち解けているように見える。人間になったことで何かしら心境の変化でもあったのだろうか。
「気安く触るな、人間風情が」
「わたくし、あなた方とお友達になったつもりは毛頭ございませんが、何か」
……そんなことはなかったらしい。
慌てて二人の頭をそれぞれ押さえつけ、きょとんとしている先輩二人にユウヤは頭を下げて謝る。オルガ嬢にアンジェリカ嬢はそれに対して、元々ドラゴンとユニコーンなのだからと気にしない様子で笑って頷く。
そんなこんなで長い長い買い物をようやく終えて、六人は町のカフェで少し遅めの昼食をとり、荷物持ち要員だったユウヤ以外は意気揚々と宿舎に帰る。かかった経費の九割ほどはヤン校長が持ってくれるとのことだが、女子の買い物に付き合うというのは中々の重労働だと思い知る。
先輩二人は手を振りながら午後のカリキュラムへと向かい、三人娘の部屋に荷物を運び込んだユウヤは、抱えていた荷物を置いてやっと一息吐くことができた。
「マスターお疲れ様!」
「お疲れ様でした」
「ああ、それじゃあ後はおまえ達で整理してくれ。俺は壁の修理があるから」
「うん? ちょっと待ってユーヤ、壁の修理って、穴の?」
壁の修理と聞き、不意にピクリと耳をそばだてたドールが聞き返してくる。
「そうだけど。俺の部屋とおまえ達の部屋、二箇所も大きいの開けただろ。ったく、器物破損は立派な罪だぞ。今回は許してもらえたけど二度とすんなよ」
ユウヤはそれに、少し厳しい口調でドールに言い聞かせる。ドールはみるみる、信じられない! といった表情を浮かべ、両手を頬にあてがう。
「ちょっと待ってよ。じゃあどうやって夜中にそっちの部屋に忍び込めばいいの!」
「……おい」
ラヴィーは少々怪しいが、ユニとドールは人間社会というものの形態を説明して、納得はせずとも解釈するだけの知能を持ち合わせている。にも関わらず、夜這いを全面的に禁止された三人から怒涛の抗議と非難を浴びることとなり、しかしそこは主として毅然とした態度で突っぱねる。
「一晩につき一人までだ」
無論、夜這いを許可したのではない。毎晩交代で一人ずつ、ユウヤと同じ部屋で寝られるということになった。それでようやく納得した三人に、我ながら甘いとは思いつつもやれやれと息を吐き、ユウヤはやっと壁の修理へと取り掛かるのだった。
黙々と作業を進め、大きく開いていた穴もだいぶ小さくなってきている。
一つ目の穴を塞ぎながら、暇そうに自分の作業を眺めている三人にユウヤはふと問いかけてみる。
「なあ、おまえ達その姿になって随分楽しそうにしてるけど、元に戻りたくはないのか?」
一見、三人とも悲観した様子はなく、現状を楽しんでいるかのように見える。人並みの倫理観は期待できそうにないが、ファッションを楽しむなどといった感性があったことに、ユウヤは内心驚いていた。
ベッドの上に伏せて爪にマニキュアを塗りながら、ドールが退屈そうな声で答える。
「そりゃ戻りたいけどさ、人間の体なんてドラゴンに比べたら虫けらみたいなモンだし」
「わたくしもお姉様と同意見ですわ。ご主人様と同じ目線で物事を見られるのは楽しいですけれど、汚らわしい人間の姿のままだなんて」
ドールの言葉にすかさずユニが追従する。どうやら二人ともそれなりにストレスを感じているようだ。魔獣だった頃にも増してやたらとユウヤに懐いてくるのは、もしかしたら不安の裏返しなのかもしれない。
「ラヴィーは? 何か不満や、困ったことはないのか?」
傍らにしゃがみこんで、大工仕事をするユウヤの手元をじっと眺めていたラヴィーは、くりっとした目を瞬かせて、思案するように小首を傾げた。
「あたしはマスターと一緒にいたい! です!」
ハイ、と満面の笑顔で頷くラヴィー。どこまで質問の意図を理解しているのか定かではないが、自分は魔獣使いで彼女は従魔だ。その関係こそ一番自然なのだろう。
ユウヤは穴を塞ぎ終えた壁の前に立ち、三人に「むやみにこの部屋から動かないように」と言いつけて、次は自室へと移動する。
たしかに、一時的にはいいとしても、いつまでもこの状況のままでいるわけにはいかない。現実はかなりシビアな状況だ。
彼女達はヤン校長にとっていわば『客人』扱いなのだ。労働力になるのならまだしも、本来の能力の大半を失った状態で、彼女達のたんなる『人間ごっこ』に周囲を付き合わせることはできない。そもそも彼女達は元の姿に戻れるのか、それすら不明だ。
どの道一時的にでも人間社会で生活していく以上、彼女達には今後きちんとした人間としての立ち居振る舞いを、多少なりとも覚えていってもらわなければならなくなる。それにはどれほどの手間がかかるだろうか。
大会もこの状態が続くのなら諦めなければならないだろうが、どの道、このままここに居座り続けることはできないだろうから、卒業自体諦めて独り立ちすることになるだろう。
魔獣使い免許を取得できないとなれば、別の働き口を探さなければならない。魔法らしい魔法は対話能力ぐらいのものだが、たとえば獣医師の助手のアルバイトなどどうだろうか。動物園の飼育員という手もある。実際今も学費や小遣い稼ぎにはそういった仕事もしているし、きっと何とかなる。
しかしはたしてそれで四人分の食いぶちを養っていけるかどうか……自分一人で本当に彼女達の面倒を見ていけるのか……やるしかないのだと自分に言い聞かせても、やはり不安は大きい。
ただ一つわかっているのは、彼女達が現状『魔獣』ではない限り、ここに居場所はないということだ。
「ほっほ、やっとるのぅ、ユウヤよ」
外に出て、外壁側からも穴に板を張り、釘を打ち付けながら思案していたユウヤは、かけられた声に一旦思考を中断し、顔を上げる。
「ヤン先生」
「ああ、よいよい。作業を続けながら聞いてくれ」
立ち上がり挨拶をしようとしたユウヤに、ヤン校長はそれを制して言葉を続ける。
「例のおぬしの従魔達のことだがの。少々記憶に引っかかったので調べてみたんじゃが、あれは恐らく呪いの一種じゃな」
さすがは校長、年の功ともいうべきか。ユウヤが事態に翻弄されている間にも、原因について目星をつけていたらしい。ユウヤは尊敬する師の言葉に耳を傾け、作業を続けながら相槌を打っていたが、『呪い』という言葉にふと手が止まる。
「呪いというと……禁呪の類でしょうか」
「うむ。元々は強大すぎるモンスターに対峙するため開発された変身魔法での。メタモルフォーゼと言えばわかりやすいか」
その昔、人を脅かす強大な悪が在った。
悪は魔王と呼ばれ、非道を尽くし、世を混沌に陥れていた。
世の魔道士達は集い、かの悪を滅ぼすために魔法を編み出す。
人と悪との死闘の末に、魔法にかかった魔王は姿を人へと変えた。
人となり力を封じられた魔王を滅ぼし、世は平和となる。
「話自体はほとんど伝承のようなものだがの。魔法自体は実在していた。メタモルフォーゼはやがて悪用、乱用され、人に変えられた魔獣達は奴隷として酷い扱いを受けた。やがて禁呪とされたものの、魔獣を卑しむ人間は多かった。ここから先は授業でもやったな?」
「はい。私達魔獣使いの発祥は、そうした不当に虐げられる魔獣達の救済措置だった、と」
ユウヤは内心気が遠くなる思いをしながら、表面上は取り繕って、再び釘を打つ。あれが呪いの類ならば、解呪しないかぎり元に戻るということはないだろう。
「その通り。さて、どうするかの。禁呪が相手となると、事は少なからず厄介じゃ」
「……仕方ありません。いつまでも先生や、ここのみんなに甘えるわけにはいきませんから、ここを出て働きながら呪いを解く手がかりを探したいと思います」
ヤン校長は腹を決めたように言うユウヤの言葉を聞いて、蓄えた顎ヒゲを撫でながら小さく笑う。
「ほっほ。殊勝な心がけじゃのう、ユウヤ。しかしわしとておぬしほどの逸材をここで投げ出してしまうのは忍びない。どうじゃ、新しい従魔を見つけてみるというのは。おぬしなら今から育てても充分皆に追いつけるじゃろうて」
その上三人については校長が働き手として雇ってもいい、とまで言ってくれた。
まさに渡りに船のような提案である。自分のためにそこまでしてもらえることに申し訳なさも感じるが、ユウヤ一人の力でどうこうするよりは堅実な方法だといえる。多少時間はかかるかもしれないが、確実に生活は安定するだろうし、まずは基盤を固めてから問題に取り組んでも遅くはないはずだ。
後はあの三人が納得するかどうかだが――。
「じょーだんじゃない! わたしは反対だ!」
「――ッつ!」
ふいに割り込んだ声に思わず手元がぶれて、カナヅチの先で親指を打ち付ける。
響く痛みに溜まらず目尻に涙を浮かべながら振り返ると、そこには部屋にいるよう言いつけたはずの三人が立っていた。
「わたくしもご主人様以外の人間に使われるのはちょっと……」
頬に片手を添えた憂いの表情で呟きながら、ユニがゆっくりとユウヤに近づく。怪我をしたユウヤの手を両手に取って、ブツブツと呪文の詠唱をした。白く、細く、柔らかな手の平に包まれた親指の先の痛みが、気のせいではなくすうっと引いてゆく。
「ありがとう」と呟くユウヤに「いいえ」とユニは穏やかに微笑むが、憂いを帯びた色は消えない。
ドールは眉を吊り上げ憮然とし、ラヴィーは眉と眉をめいっぱい真ん中に寄せて、こちらを見上げている。
一体いつからそこにいたのか、ユウヤは困ったように眉をハの字に下げ、ヤン校長はひょいと片眉を上げて、場を見守るようにまた顎ヒゲをひと撫でする。
「マスター、あたしもう役立たず? ですか? いらなくなっちゃう? ですか?」
ラヴィーが不安そうに見つめてくる。
ユウヤはそっと溜め息を吐いた。
ヤン校長の提案はたしかに最善の方法といえる。だが、それは彼女達の意思や感情を考慮しなければ、の話だ。
提案の通りにし、よしんば彼女達の呪いもうまく解けたとしよう。何も問題はないように思えるが、失念してはならないことがある。『信頼関係』だ。
ドールは非常にプライドが高い。主従関係を結ぶまでに、ユウヤが一番苦労した相手だ。その分、契約を結んでからはユウヤの従魔であることに高い誇りを持っている。自分が何かにつけて一番だという自信も常にある。それが、人間の姿を強いられ、従魔として役に立てず、その間に別の従魔がユウヤに仕える。きっとそれは彼女にとってこの上ない屈辱になるだろう。
ユニはユニコーンの特性上、元々人間に仕えるのが苦手な魔獣である。なぜユニコーンが人語を理解できるのか、理由はユニコーンにとって人間が天敵だからだ。ユニコーンの肉や角は高い薬になる。密猟者の仕掛けた罠にかかっていた彼女をユウヤが救ったのがきっかけで、二人は契約をするにいたったわけだが、ユウヤ以外の人間を信用できない彼女に「ユウヤ以外の人間に使われろ」というのはあまりに酷な話だ。
ラヴィーは従順でよく懐き、好奇心旺盛で、他種族に対して大変友好的なハネミミラビットだ。使役するに当たっての彼女の難点はただ一つ、酷く寂しがりやだということ。甘えん坊で、主人から離れず始終べったりと付きまとい、万が一主人の姿を見失うようなことでもあればとたんに悲しげな声で延々と鳴きだす。不慣れな人間としての生活を送る中、ユウヤが別の従魔を使い出したら、ますます自分の所在が不安になるのではないだろうか。
彼女達はあくまで、それでもなお、『魔獣』なのだ。その点を尊重すべきではないか。
すでに心に決めていたことである。
ユウヤは師へと向き直り、眉尻を下げたまま笑い、首を振った。
「お言葉はありがたいのですが……彼女達はたとえ姿は人になっても、変わらず私の大事な従魔です。それぞれに思い入れもあります。それに、本人達の意向に反してまで人間として生活することを強要はできません」
たとえ、最悪一生元に戻れなかったとしても。ユウヤは彼女達を見捨てはしないと、今、はっきりと口にした。
その返答に、ヤン校長はじつに愉快そうにうむうむと大きく頷いた。
「それでこそわしの弟子よの」
それでもとりあえず卒業はしろとヤン校長は言う。
従魔はどうするのかと問うと、校長の知り合いの魔獣調教師が短期契約用の従魔を派遣しているので、そこから一時的に借りれば良いと言われる。対話能力があるのだから、良い従魔さえ見つかればユウヤにも上位を狙えるチャンスは充分あるだろう、と。
当然、その妥協案にも一言物申されたのだが、契約は一時的なものであることと、彼女達にも従魔の選定、および大会に向けての訓練を手伝ってもらうという条件で、何とか納得してもらった。
ユウヤは涙の滲みそうになる目元を伏せて、ヤン校長に感謝の言葉を返し、ひたすら頭を下げた。
大会期日は五日後と迫る。