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ATMOSPHERE  作者: ANOIA
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第二幕:冒頭


「人は無限の可能性を持っている。ただ、生れ落ちた瞬間に、それが著しく制限される」



 言い聞かせる声に、奏は視線で返す。その人が椅子に座っていても、奏にはまだ見上げるほどその人が大きく見えた。


「分かるかい? 奏?」


「ええ、もちろんです御婆様」


 奏には、まだ七歳の奏には、その人の言葉はまだ早すぎた。だから理解なんて半分もできなかったし、それについて考えることもできなかった。

 ただ頷いて、その人の言葉に頷くだけだった。


「でもね、奏。貴方はその可能性という幅が広い。お母様よりも、そしてなにより私よりも『それ』に優れている。天才というのは才能や努力だけではなく、力を発揮できる道を用意できる、もしくは用意された存在のことを言うの。貴方は間違いなく天才なのです。歴史に名を残す魔女となりえる才覚と信念と、そして大魔女になれる道がある」


 大魔女は語る。自らの望みと家の希望を言葉にのせ、小さな魔女に向かって語りかけた。

 小さな魔女は少し考えた後、悲しそうな顔をして頭を下げた


「ごめんなさい御婆様。本当は、私御婆様の言っていることが分かりません。だけど」


 上げた顔は笑顔だった。


「御婆様は、私より出来損ないなのですね」


 彼女は、大魔女に向かってそう吐き捨てた。



   ―◇―



 夜、奏は異変に気が付いた。

 気が付いたというか、気づかされたというか、それはとても大きな力だったから奏に気づけないはずが無かった。

 だが、気づけなかった。

 奏が感じたものは、恐らく魔力爆発。強大な魔力が現れて消えて、また現れたと思ったら今度は完全に消えてしまった。そういう不可解な現象だ。

 数時間作業に没頭していたため、その大きな変動を知覚できなかった。

 奏は現場へと急いだ。琴月の名前を使って、車を回してもらってそれに乗り込んだ。

 場所はすぐに特定できた。管理者には土地の動きを知覚する、そういう魔術が代々受け継がれている。

 魔術管理者である奏は、この一体全ての土地の管理を任されている。

 勿論、土地といっても目に見える大地の管理をしているわけではない。奏が管理しているのは魔力だ。

 この世界にある魔力は、一時とはいえ有限だ。現実と『原初の世界』を巡る量は、人間からしてみれば無尽蔵に近い。

 だが、この現実に存在できる量は決まっており、それを人間が使える量も限られている。宇宙に出て土地を広げるのなら話は別だが、その領域には未だ到達できていない。

 無限のものなら使えるだけ使えばいいが、有限のものを無駄に使うことはできない。

 それ故、魔術管理者という存在がある。魔術管理者は、ある一定の土地の魔力を乱さないように管理しなければならない。

 一人の魔術師が魔力を独占しないように、それが原因で争いが起こらないように管理する。

 そのための管理者だ。


「はぁ、全く」


 ため息を付く奏の顔は、贔屓目に見ても元気とは言えそうになかった。当然だ、これは管理者にとって、失態以外のなにものでもない。

 一時的にでも魔力を増大させ、大消失を防げなかったという事態だ。

 管理者の責任を全うできなかったに等しい。これがばれたのなら、機関からどんなお咎めがあるかも分からない。

 憂鬱にもなる。自分が知らない間に事態は最悪の方向に向かい、その最悪の事態を尻拭いしなければならない。

 防ぐも何も、登録魔術師からは何の事前連絡も無かった。それに、他所の魔術師が無断でこちらの地域を使ったとしても、阻止できなかった奏に問題がある。

 そういう風に判断されてしまうのだ。


「勝手なことをして、どうなるか……想像くらいつくものでしょう」


 勿論、奏にも挽回する余地はある。それは、犯人を見つけ出して、魔機関でさらし者にすることだ。

 犯人を捕まえさえすれば、防げなかったとしても尻拭いはでき、再発を防げる。

 それすらできないとなると、それは奏の責任問題に発展する。そうなったら、琴月の名は落ちるところまで落ちてしまう。

 だが、並みの魔術師では魔術師を倒すことはできない。それは、魔術師が戦うようには出来ていないからだ。

 ある程度の『魔法使い』ならば、戦争をしてもまともに戦えるだろう。しかし、魔術師は出来て一対一の戦闘で勝利することだ。

 『魔法使い』ならば、魔法の行使で普通の人間とは違った戦闘が出来る。しかし、魔術師と呼ばれるレベルの人間は、一々魔術式を作るところから始めなければならない。

 奏は『普通の魔法使い』でも無かった。それに、奏は他の魔術師とは違っていた。


「お嬢さん、この辺りでいいかい?」


 今まで奏の言葉に答えることも無かった運転手が、初めて口を開く。

 奏は苛立ちに伏せていた瞼を持ち上げ、窓から外を眺めた。

 そこは異質な空間だった。

 魔力が無い。只管に魔力が無い異常空間。この地帯だけぽっかりと、魔力が抜け落ちている。

 ここが現場だったのだと、無くなった魔力が奏に教えていた。


「ええ、ここでいいわ」


 車から降りて、待機させておく。もう犯人はいないだろうから、残ったものから犯人を割り出そうとするだけだ。

 未だ魔術式が残っていることを信じて、奏は歩き出した。

 ここから先は車ではいけない。おざなりな石段で区切られ、寺と町とを区分けしているようだった。

 そこで、奏は呆れた。

 石段の脇にとめてあったのは自転車。こんなにも分かりやすい足跡を残す犯人なのかと、呆れ果てていた。

 本来ならまだ犯人がいるのだと喜ぶだろう。しかし、もうこの寺には誰もいないことが、奏には分かっていた。

 まだ新しい。吹き曝しで放置されているというようには見えなかった。

 犯人が止むを得ず残していったのか、最低限の手がかりだけは確保できたと安心していた。

 奏の足取りはそれでも軽くならず、踵を返すと重そうに石段を登り始めた。そして視界の端を侵し始める、その風景。


「何? これ」


 奏は自分が見たものに、驚愕するしかなかった。



   ―◇―



 呼び鈴を押す手は震えている。

 らしくなく、奏は緊張していた。何故自分が緊張しているのか、何故自分がこんなにも恐怖しているのか。

 幾ら考えても、奏の頭の中に答えが浮かぶことは無かった。

 しかし、押してしまえば緊張は一気に褪せていった。安堵するように指を下ろし、目の前の扉を見据える。

 扉は揺れることすらしない。インターホンが繋がることもないし、誰かが歩いてくる様子もない。

 留守なのだろうか、と思いもう一度呼び鈴を鳴らす。居ないと分かっているせいか、今度は緊張することはなかった。

 反応は同じだった。誰もいない、音は家の中にこだまするだけだろう。

 奏は嘘っぱちのため息をついて、踵を返す。

 奏の魔術を使えば、部屋の様子など手に取るように分かるし、鍵を開けることも容易い。

 恐らく、中にはあの大召喚に使ったものが多数残っているだろう。それを証拠とすれば、彼を問い詰めるのは簡単だ。

 だが、奏はそういったことをしなかった。

 堕ちたとはいえ、琴月の名に恥じるような真似はしない。今は堕ちた名家と呼ばれる琴月だが、それが泥棒じみた真似するなど奏は許せなかった。

 琴月は昔からある一族。それも、とびっきり才能にとんだ魔女の一族だ。その誇り高き魔女の末裔である自分が、盗みに家に入るなど自分を貶める以外の何物でもないのだろう。

 琴月の魔女は、自ら手段を捨てて真原の表札を後にした。真原の人と出会わないよう、足早にマンションの外へと出る。

 真原秋弥に会いに来たのに、心の底では会いたくないと思っている自分がいた。彼とは挨拶や雑談をする程度で、別段親しい訳でもない。

 だが、奏は彼を魔機関へと引っ張り出さなければならない。大召喚術により、辺り一帯の魔力を消失させた罪は、決して軽いとはいえない。

 良くて懲役。悪くて魔術、魔法を封じられる。最悪の場合死だろう。

 なまじ顔を知っているだけ、その胸にはやるせない想いがこだまする。

 軽くため息をついて、奏はここまで乗ってきた自転車を見る。最初に調べてみて分かったことだが、その自転車はマジックで名前が書かれていた。

 書いてあった名前はサネバラアキヤ。奏と同じ学校の生徒であり、同級生だ。


「自転車、ここに置いておいていいかな?」


 秋弥がたまに自転車登校するのを、奏は覚えていた。そして、おぼろげながらにその形、色を覚えていたのが、奏に確信をもたせた理由だ。

 あんな町外れに自転車だけ置いて帰るなど、よっぽどのことがなければしない。

 偶然ではないだろう。奏はすでに、真原秋弥が魔法使いであると確信していた。

 だが、彼女が管理している魔術師、魔法使いの中には、真原秋弥の文字はない。記録を見れば分かるが、真原秋弥がこの辺りに引っ越してきたのは大分前だ。

 14年も前となれば、他の場所で魔法を習い、奏のテリトリーで魔法を試したということはない。その親が魔法使い、もしくはそれらに関する知識や技術を持っていただけと推察した。

 つまり、師匠に魔術師として認めてもらえなかったのだ。

 魔術師や魔法使いとして認められたのなら、師匠が魔機関に登録するよう教えてくれるだろう。

 そうしなければいけないと、義務付けられているのだ。魔術師と魔法使いは、その存在から組織立たなければならない。

 自立するのも自由だ。しかし、その場合は異端審問課に何をされても、魔機関に頼ることはできない。

 魔機関は技術と知識を学ぶところであり、魔術と魔法を隠すものであり、対する組織から使い手を守るものだ。

 例え守るための組織でも、命令を聞かず規律を乱すものならば。

 その異物を排除するしかない。


「どうしよう、かしら」



   ―◇―



 琴月は古くから魔女として生きてきた。

 ただ、魔女として本質的な役割を持っているはずのその名前は、いまや異端の魔女として力なき名家として名を落としている。

 魔女とは本来、魔を以って信仰を成す職。旧社会に存在していた、いわゆるシャーマンや巫女と何の違いもない。

 旱魃があれば雨乞いし、怪我をすれば薬を出し、疫病が流行れば魔の力によって人を助ける、気高く美しい志をもつ者達だ。

 魔女はシャーマニズムよりも、優れた技術と確立された体系を既に持っていた。それは呪いやお祈りの形で今も残っているが、それの起源が魔女であったことは語られない。

 魔女といえどその力を使うのは人間、必ずしも善良的な奉仕にしか使わないとは限らない。魔女の術を自身の益にのみ使う輩が、この魔女という名詞を貶めた。

 何故なら、魔女とは邪悪なる魔を行使するものだと、世間に認識されているからだ。

 本来は魔に善悪を内包する要素はあっても、その指向性を決定するのは魔女だ。世間に広まった魔女術は、魔女を欲求に駆り立てた。

 天候予報術、薬術、医術、そして魔術と魔法。それらの術を悪法で使い、人間の保身、快楽を得る手段、他者を貶めることに利用され、魔女の名前は一気に堕ちた。

 昔の人類を支えた技術を発展させながらも、その活躍を一部のものによって蹴落とされた不幸の一族。

 キンゲツと呼ばれた一族の名。

 魔女と呼ばれ、多岐に渡り学問を研究し、同時に魔術で人類を進化させようとした誇り高い一族の末裔、キンゲツカナデ。


「……」


 眼下に落ちているミニチュアの町並み。夕焼けが差し込み、まるで夕日の中、箱庭でも眺めているような気持ちに駆られる。この辺りで一番大きなビルの屋上、そこで奏は町を見下ろしていた。

 そしてこれが奏の守っている世界。町行く人々は奏のことなど見向きもしないし、感謝もしない。ただ自分の目の前だけを見て、歩いていく。例え省みられなくても、奏は自分の行いが正しいと思っている。正しいのならば、進んだ道を振り返らなくてもいい。


「……全く、呆れるくらい貧乏籤だわ」


 彼女を突き動かすのは、欲でも気分でもない。確固たる意思があるそれは、誇りと呼ばれるものだ。

 唐突に、寒空の中待つ彼女の琴線に、触れるものがった。


「設置したフィラメントが壊されていく。撹乱するつもりね」


 奏の魔術で作られたいくつもの感覚器官フィラメント、町の中に張り巡らされたそれらが次々と破壊されていく。その感覚と神経をつなげている奏には、その様子が簡単に分かる。

 本来は魔術を破壊することなどできない。できるとするならば対魔の術か、それとも、卓越した魔術の使い手のどちらかだ。少なくとも、奏が知っている魔法使いで、フィラメントを破壊できる使い手は、この日本には存在しない。

 何故なら、そんな無駄な魔術を使う魔法使いが存在しないからだ。


「真原さん? まさか、私に気がついたとでも?」


 魔術師と魔法使いは違う生き物だ。魔術師は魔術を使うもの、魔法使いは魔術を使って魔法を呼び起こすもの。

 魔法使いは本来、魔術を使うことができない。さして魔術の訓練をしていない彼らは、魔術を応用することも、作り出すこともできない。ただ、作られた魔術を改竄し、目的の魔法を起こすだけの存在だ。

 彼らはただ、呼び出す魔法自体の研究をするだけで、魔術自体の研究は御座なりにしてしまう。しかし、特定のものを呼び出すことには長けているし、強大な力も行使できる。

 幻想の戦争から、果ては記録に新しい原爆でさえ再現してしまうものも存在するだろう。

 魔術師にはそんな派手なことはできないが、魔術は魔法を越えることができる。

 例えば、魔法使いが魔法を使おうとすると、卓越された魔術師はその間に魔法使いに干渉して、脳の血管を切って殺すこともできる。

 魔法使いに近い奏には、最悪の相手だ。

 だが相手が最悪だろうが、最低だろうが、悪を見逃すことは許されない。奏の誇りが許さない。


「まだ夕方ね。いいわ、フィラメントなんか全部くれてあげるわ」


 町の人に危害を加える魔術師ならば、奏はその被害を最小に食い止めなければいけない。これは本来、魔機関の魔術管理者の責任ではない。魔機関は、魔術と魔法が世間に露見しなければ、人間が絶滅しようが何も言わないだろう。

 しかしそれは許されない。琴月奏という存在が許さない。

 例え自分の魔術を犠牲にしても、辛酸を舐めようとも、どれだけ追い詰められたとしても、『琴月奏には、魔女を統べる王としての誇りがあった』。


「真原さん……ですか、貴方はこの私を敵にしました。もう惑いません、躊躇いも揺らぎもありません」


 奏の周りに魔力が溜まる。目に捉えられないはずのそれは、次第に極彩ともいえる幻想的な色合いを作り出していく。

 魔力の濃度が高まり、空気の中の容量を超える。すると空気という存在自体が揺らぎ、本来真っ直ぐ通すはずの光を曲げて通す。

 それは天然のレンズになり、正しく虹のような極彩を醸し出す。


「これから貴方の敵は、容赦も躊躇もしない琴月の魔女王です」


 虹は旋風となって奏の足元に溜まっていく。本来、一回の魔術師や魔法使いでは扱うことも、手に入れることもできない魔力量。

 それは奏の魔女としての力量と、管理者としての特権だ。


「最後の会話になるでしょうから、少し話しましょうか」


 町を見下ろす奏の後ろ、屋上の入り口のところに立つ人物に向かって、滑らかに唇を震わせる。


「……」


 真原秋弥は応えない。そして、答えない。

 長い髪を風に躍らせる奏を眺めながら、じっと待つように立っていた。それは、奏が真原秋弥に別れの言葉を告げるのを、待っているようにも思えた。


「私は、生まれたときからこの土地を管理する役割が用意されていました。魔術管理者という、魔機関の役職のひとつです」


 とつとつと語りだす姿は、今まで知り合い同士だった二人となんら変わらない。学生である琴月奏と真原秋弥だった。


「日本に渡ってからは代々、そうして力を保ちながら暮らしてきたのでしょう。その歴史の中でも、私の御婆様は大魔女と呼ばれる高名な魔女でした」


「……」


「私の御婆様は仰いました。人は無限の可能性を持っている、しかし生れ落ちたと同時にそれが著しく制限される……愚かな魔女でした。自身で自身に見切りをつけ、進化するということを放棄した御婆様を、私は出来損ないといいました」


 顔だけで振り返り微笑んでみせる奏に、秋弥は照れくさそうに視線を外す。


「可能性が制限されてどうするか。ならば新たな道を作り出すのが魔法を使うものであり、魔女としての義務です。あの魔女はそれを放棄した。だから、私は出来損ないといった。私は私として精一杯努力し、望む私になりました」


 視線を外した秋弥に体ごと振り返り。風で髪が大きく靡き、今日は三つに編んでいない美しい黒が夕日を跳ねた。

 逆光で彼女の顔は見えない。しかし、その表情を汲み取ることは容易すぎた。


「御婆様を反面教師とし、自分が持つ才覚、意志、力全てを使って現琴月家代表になりました。……ですが、貴方は折角生まれもった才能、努力でそんな風になりたかったのですか……真原秋弥さん?」


 悲しげな声色の中に、彼女の覚悟が見え隠れする。秋弥を殺してしまうことを、初めて人を殺すことを覚悟している。

 それが分かるのだろうか、秋弥も緩みそうになる頬を押さえ、一直線に奏を見据えた。

 奏の視線が何所へ向いていくのかは分からなかったが、秋弥は辺りの空気が重くなるのを感じていた。


「……ふふ、貴方も喋ってくださらないと、会話にはなりませんよ」


「まぁ、なんだ、俺は……これが最後だなんて思ってないからな」


「そうですか。私は、覚悟しているんですけど」


 光を歪ませるほど重い魔力の中、軽く交わされる言葉。初めて成立した会話は、まるで挨拶のように他愛ない反面、二人の顔つきに似合わなかった。


「さて、そろそろはじめましょうか」


 虹色だった旋風が、夕日に感化されたように黄色く染まっていく。輝きが流れているように、黄金色に落ち着いた風は光を返す。

 形を持たなかった魔力が、奏という存在に支配されていく。変えられた魔力は、敵意となって秋弥の前に立ちふさがる。圧倒的な質量を前に、秋弥は目を見開く。

 魔女がどういうものかは知らなかったが、秋弥は奏が自身よりも卓越された存在であることは理解できた。

 これを敵にしたら、生きていられないかもしれない。しかし彼には最強の幻想がついている。

 覚悟をした二人が恐れるものはない。何故なら、二人には自分の力に対する自信があった。

 一方は、剣を担う『最強の幻想』。一方は、平穏を律する誇り高き『魔女王』。


「容疑者、真原秋弥! 魔術管理者琴月奏として貴方を議に掛ける! 先日の大魔法無断使用及び無断召喚、並びに町の治安を乱し、私に対する攻撃、魔機関の管理者として見過ごすことはできません」


 金色の魔力が荒々しく跳ねる。踊る魔力は魔女王の足元へ、頭を垂れるように一気に凝縮される。地面へ張り付いた金色は、影絵のように何かの形を作り始めた。

 首筋の神経が毛羽立つような、忌々しい感覚。秋弥は一目見ただけで、それが何かを召喚しようとする魔術式であることを理解していた。その魔力の塊は奈落の底から這い上がるように、現世へと手を伸ばしかけている幻想だ。


「……潔く従うか、否か」


 その言葉は問いかけではなく命令だった。有無を言わさず、思考すら挟まず頷かせる力を持った言葉だ。

 剣を構えようともせず、秋弥はただ一心に奏を見つめる。


「これが、俺の答えだ」



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