歩道橋 始まり
のっけからホラーです。
残業疲れは恐怖心をも押し退ける?
「あ~あ…また遅くなったな~」
春の気配を感じるとはいえ、まだまださむいこの時期。
すっかり人通りの絶えた夜道をとぼとぼと歩く。
必死で仕事の後片付けを済ませ、何とか終電に間に合った。
多少は上向きになったとはいえ、未だ厳しい業界では、毎日残業は当たり前。
休日出勤も珍しくない。
大声では言えないが、残業に至っては2時間以上はサービスだ。
さ・ら・に!
終電を逃せば自腹でタクシーにて帰宅(泣)
そんな訳で、納期に差し障りがなければ、区切りが悪くても仕事は強制終了。
何とか間に合った終電を降りて、冒頭の台詞にもどる。
現在私は踏切の前で遮断機が開くのを待っている。自宅は踏切を渡れば目の前だ。
実際家の窓から漏れる明かりが見えている程。
最寄駅は市のメイン駅の一つで、在来線に加え貨物路線まで通っているため、遅い時間の割にはかなり待たされる。
通称「開かずの踏切」
夜間でもなかなか開かない踏切には、歩道橋が渡されている。
しかし夜間に歩道橋を使う人はあまりいなかった。
理由は簡単。
暗いから
歩道橋に設置している明かりは電球が切れているため、車道脇の街灯以外頼る明かりは無い。
線路部分を渡り、車道上空へと辿り着くまでほぼ真っ暗だ。
もちろん都会の真ん中なので、欄干に沿って歩くぶんには問題無い。しかしその欄干によって、弱々しい周囲の明かりが遮られ、足元はほとんど見えない。
水溜まりがあっても穴があいていても、まるで判らないのだ。
(恐ろしい事に穴はあいている。誰かが砂を盛っているが、足を引っ掛けてよく人が転ぶ)
暗い所にちょっとした恐怖心を持つ私には、中々ハードルが高いルートだ。
しかし家の明かりを見ていると、いつまでも開かない遮断機にうんざりして来た。
寒いし腹は減っているし、連日の残業で疲れているし。
終電が終わってしばらくたつので、先刻より人通りは随分減っている。
通りから人影が消えるのも直ぐだろう。
そんな訳で、私は歩道橋を渡る事にした。
先程から見ていたが、やはり歩道橋には人影がない。
あちら側とこちら側の階段に(もちろん歩道橋の上にも)誰もいない事を確認する。
最近鉄パイプで殴りかかって金品を盗る強盗が出没している。
踏切待ちの人も何人か被害に遭っていた。
その記憶が歩道橋を渡るべきか迷っていた私の決断を促した。
気が変わらないうちにと階段へ向かう。
もう一度、歩道橋の上や向こう側に人影が無いかを確認すると、足速に階段を登り始める。
暗いの怖いです。